「もうちょっと胸があったらいいのに」  
 
思わず恋人背中にのばした手が止まる。  
 
「摩耶花、そんなこと言っちゃ駄目だよ。摩耶花はとても可愛いのにこれ以上何を望むんだい」  
「なによ、そんなに可愛いならどうして何年もほっといたのよ」  
「その言い方は酷いな。ちゃんと説明したじゃないか。本当に摩耶花のことが大事だから、僕でいいのか自身が無かったんだよ」  
「酷いのはそっちのほうよ」  
 
柔らかい頬をふくらませたり、唇をとがらせたりする摩耶花と居るのはたのしい。彼女は他の人にはこんな風には怒らない。人に怒るのはただすべき悪い点だと思っているから。彼女がこんな風に表情豊かに怒るのは僕に対してだけ。これはとっても素敵なことだ。  
 
ホータローにもたまに怒っていることがあるけど、あれはやっぱり気を許しているからかい?だとしたら僕としては複雑だな。はい、ばんざーい。  
 
「せめてちーちゃんくらいあればなぁ」  
 
そういって、ちょっと悲しそうに胸を隠す僕の恋人。その可愛い胸を隠さないでよ。僕だけには見せてくれる約束だろ。  
 
「胸がないからって、摩耶花の魅力がこれっぽっちも減ってるわけじゃないんだよ。心配するのはやめなよ。だいいち千反田さんだってそんなにないよ」  
「ちーちゃんのこと言わないで!」  
 
ええ?!そこで怒るの?  
 
「ベッドの上で他の女の子の話しないで!ちーちゃんと比べないで!」  
「千反田さんの話をしたのは摩耶花だよ」  
「知らないわよ」  
 
ぷいっと膨れて横を向いちゃった。ああ、かわいい。あんな風に本当に膨らます子は少ないし、そのうえ膨らましても可愛いなんて、摩耶花くらいだよ。  
 
「ねぇ、摩耶花。聞いてよ。分かってくれるまで何度でも言うよ。僕のことを本当に分かってくれる女の子は摩耶花だけさ。自分でも分かってる。とても嬉しいことだって思ってる。摩耶花が好きだよ。ずっと横に居て欲しい。  
だからさ、僕が他の子のことを考えているなんて言わないでよ。いくらなんでも傷ついちゃうよ」  
「なによ、そんなことふざけて言われても信じられない!」  
「ふざけて無いよ。僕はまじめだよ」  
 
「うそ!だったらどうして句読点の所で舐めたり吸ったりするのよ!」  
「あ、わかった?だって、変なところでキスすると話の切れ目がおかしくなるじゃないか」  
「だったら舐めなきゃいいじゃない!」  
「木石じゃあるまいし。こんな可愛い乳首を前に、そんなことはできないよ」  
「ふくちゃんのばか!」  
 
頭をはたかれる。  
 
摩耶花はかわいいなぁ。すごく自分にきびしくて、喜怒哀楽がはっきりしていて、でも、僕にだけ一番弱いところを見せてくれる。なにより、僕のことを理解してくれる。ホータロー。君には摩耶花がどんなにすばらしいかなんて、きっとわからないよ。  
摩耶花は僕が何も言わないのに、僕が大事に思っていること、僕がつらいと思っていることをちゃんと分かってくれてたよ。  
 
今だってほら、あんなに可愛い顔を涙でぬらしてくしゃくしゃにして、枕を振り回してる。可愛いなぁ。  
 
イテッ。  
 
(おわり)  
 

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