「ホータローは、弁当を食べる時、一番おいしいおかずから食べるほうかい?」
「そうだな、俺は一番うまいものから食べるぞ」
福部里志に聞かれて、俺はそう答える。またぞろ変な調査でも始めたのか。
「実は今日、クラスで話題になっていたのさ。男の子は大体おいしいものから食べるよね」
「女子は違うのか」
「確かな調査結果じゃないけどね、いろいろな資料によると、女子は一番おいしいものを最後まで取っておくらしいよ」
「腹が減っているときのほうが、うまく感じるだろう。一番うまいものを最初に食ったほうがいいと思うぞ」
「そうだね僕もそう思うよ。おいしいものを取っておくのは合理性に欠けるよ」
そう言って里志は少し廊下の気配を探るような表情をした。今日は伊原は図書委員、千反田は職員室に
用があるとかで俺たち二人しかいない。大日向は?知らん。
「ところでホータローは女の子の胸を愛してあげるとき、乳首に最初にさわるタイプかい?最後に取っておくタイプかい?」
「俺は最後だな」
そう答えて、迂闊な自分に汗をかく。ちょっと遠くを見ているような里志にあわてて釘を打つ。
「おい、何をいきなり言わせるんだ。千反田で妙な事を想像するのはよせ」
「うん?大丈夫だよホータロー。君も千反田さんも大事な友達だよ。へんな想像のネタにはしないよ。
ついでといっちゃ何だけど、まじめな想像のネタにもしてないから安心していいよ」
「そうか」
いつもへらへら笑っているが、その辺はまぁ、信用してもいい奴だ。
「だからホータローも摩耶花で変な想像しないでほしいな。ちなみに僕も乳首は最後にとって置く口だよ」
「心配するな」
伊原が俺の妄想に出てきたことなぞ、一度もない。というか、想像するなと言っておいて、続けて乳首の話をするな。
俺の返事になど興味がないのか、しばらく外を見ていた里志だったが、やがて俺に振り向いた。
「ねぇ、ホータロー。弁当のおかずって、一番おいしいものを最後までとって置くのもありだと思わないかい?」
「なぜとは言わんが、ありだという気がしてきた」
「そうだね」
そうして俺たちは二人して窓の外を眺めた。里志が何を考えているかは知らないが、俺は千反田のことを…
「あ、折木さん、福部さん、こんにちは。すっかり遅くなってしまいました」
扉から聞こえた涼やかな声に二人して振り向く。千反田が入口できれいなお辞儀をした。
「用は終わったのか」
「はい。すぐそこで摩耶花さんとお会いしたので一緒にきました」
そう言って二人して入ってくる。
「摩耶花、今日は図書委員じゃないのかい?」
「そうなんだけど、早引けよ」
「図書委員に早引けがあるのか」
これは余計な一言だった。
「うるさいわね。折木には関係ないでしょう。三年生は好きな時間に帰っていいのよ」
さいですか。
「そういえば、折木さん福部さん」
場の空気を読んだのか千反田が微笑みながら助け船を出してくれる。
「伊原さんともお話ししたのですが、今日、クラスでお弁当の話題が出たのです」
ほう。奇遇だな。
「それでお聞きしたいのですが、お二人はお弁当のおかずは一番好きなものから食べる方ですか?」
「俺は一番好きなものから食べる口だが、最後に食べるのもありじゃないかと思うようになった」
「ふくちゃんは?」
「僕もホータローと同じだよ。一番好きなものから食べるけど、最後に食べるのもありな気がしてきた」
俺達の返事を聞くと、千反田と伊原は顔を見合わせた。そうして二人とも顔を赤らめると俺たちを恨めしそうに見て、胸のあたりを腕でかばうようにした。
(おわり)