「あのさあ、折木」
伊原が呟くような小さな声で言った。
「なんだ藪から棒に」
俺が聞き返すと伊原はあたりを見回した後一呼吸置いてから話し出した。
「福ちゃんと・・・」
突然言葉が途切れた。
「ん、里志がどうしたんだ?」
伊原はもう一呼吸置き、口をひらいた
「こういうことは折木ぐらいにしか言えないんだけど・・・・」
伊原はいつになく真剣な顔つきになった。
そのロリータフェイスに似合わない睨みつけるような鋭い目に思わず苦笑してしまいそうになる
「福ちゃん・・・・ううん、里、里志とやっちゃった」
伊原は、言い終わるとすぐにため息をついた。
「やっちゃったって何を?」
「あーあ、折木に相談して損した」
伊原はそういうと、漫研にもたまには顔を出さないとといい部室を出た。
俺はというと、不意に千反田が座っていた席を眺め、その机に残る大日向の
「センパイ、アタックです」
という文字を目で追いかけていたのだった。
小説を読み終えるとやはりすることがないので部室に部屋を出た。
部室に鍵をかける。
千反田と出会った時のことを思い出す。
なんでもない推理だったが千反田は、とてつもない賞賛を俺に向けてきた。
初対面の俺は、豪農と呼ばれる一族のお嬢様という千反田に、おそらくここまで深くかかわることになるとは思っていなかっただろう。
里志は言った、俺は変わったと。千反田と出会い変わったと。
確かにそうかもしれない。
小説の続きを見つけるなんてこともましては、大日向の件なんて・・・・
以前までの俺なら、絶対あそこまで真剣になって探していなかっただろう。
俺は鍵をかけ終わると、さっさと帰るために廊下を歩き始めた。
運動部生の大きな声が聞こえる。ここにはもう用はないだろう。
途中、甘い香りがすれちがった。
振り返ると、少し背の高い、楚々で清楚な美少女が、ほほを染めて立っていた。
「折木さん、部室はまだ使えますか。」