沈黙の中、ページを繰る音と、小雨の雨音だけが聞こえる。  
「…………」  
 眠たくなってきた。雨が止んだら、早々に帰ろう。  
 と、ぱたん、と本が閉じられる音がした。それに続いて、背中を向けたままの  
千反田がぽつりと言う。  
「不毛です」  
 こちらを見てこそいないが、それは明らかに独り言ではなく、俺への語りかけ  
だった。だが俺はその唐突なコメントに何を言えばいいかわからかったので、  
取り敢えず訊いてみた。  
「はえてないやつか?」  
「それは無毛です」  
 打てば響くように答えつつ、千反田は振り向く。  
「意図的に剃っている場合ぱいぱんと呼ばれます。わたしとか」  
「綺麗好きだな」  
「褒めて頂くほどのことでは……」  
 雨音、そして沈黙。  
「いえ、そうじゃなくてですね」  
「不毛なのか」  
「そうです。不毛です。ちなみに、剃る時はちょっと気持ちいいです」  
 千反田はじっと俺を見て、それから右手でスカートを押さえてみせた。  
「……見ますか?」  
 

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