――それからどれくらい経ったのだろうか。ようやく泣きはらし、目を紅く腫らしてもなお彼女は京介から離れなかった。しっかりと彼を抱きしめ、胸を枕としていた。京介の心地良い心音をバックに。 
 ――忙しくも賑やかな、日常。やり甲斐のある仕事に優しい人々。変わらず仲良くして貰っている中原小麦、秋葉恵、時逆琉奈といった桐原プロダクションの面々、よく仕事で一緒になる国分寺こより、巷で噂になっている二人の魔法少女のこと、世話になっているリチャード・ヴィンセント社長、そんな、いろいろと大変だけれど平和な人間界――口下手ながらも、彼にしては饒舌に語って聴かせてくれた。穏やかな深夜ラジオのお喋りのように、岬真夜は目を瞑って静かに耳を傾ける。安らかな表情は、果たして何に思いを馳せているのだろう。 「――というわけで、中原さん生き返ってくれて良かった。まったく一時はどうなることかと」 
 「あ、あははは……そ、そうね……」 
 と、時折非常にコメントに窮する話も交わりつつ。 
 
 ――それは、本来彼らが歩んできた、苛酷にして過酷な歴史とは違う、お伽噺のように華やかな、そして安らかな世界、千夢一夜。 
 僅かな歯車が狂いさえしなければ二人もそんな風に生きられたのかも知れないと儚い感傷を過ぎらせつつもまた、あの日あの時あの場所 で、何となく。 
 
 ――「何となく」か。 
 
 口元が、僅かに緩む。何を考えているの、真夜。 
  
 
 
 
 
 
 
 それじゃあそもそもあたしは生まれなかったはずじゃないか。自分こそ、歯車の狂いによって生じた存在の象徴たるものじゃないか。忌まわしき時代の生き残りーー違う。見苦しくも現世に蘇った死人じゃあないか。今や彼は彼が望んでいただろう、彼の生きたかっただろう輝ける世界に、完全なる白の側に居るというのに。本当は笑い合いたかった人たちと、そうでない人たちとも手を取り合って、本当は誰しも享受できただろう平和の中生きている。そう生きるべきだったのだ、彼は。それが叶っているというのに、なのに今さら私は何をやっているのか? 水を差してどうするというのか。こんな自分は、本当に彼に。彼と。そして彼を……――。 
 「岬さん?」 
 
 ――陽のあたる場所にいる彼を。あるべき居場所にいる人を。 
 
 「ううん。なんでもない。あっ……」 
 「嘘。岬さんの心臓の音が、不自然に速くなってる。何か不安なことでも、あるの?」 
 労るように、真夜の背中に手を回す。 
 
 ――京介くんの住んでいる世界が、あまりに眩しくて。 
 
 「あ……あたし……あたし……!」 
 「話して、岬さん。大丈夫だから。僕が……ついてるから」 
 流石に一寸恥ずかしかったので、それを紛らわすように腕をぎゅっと抱きしめさせる。その力強い温もりに、彼女も腕の中で紅潮しつつも小さく笑み、少しだけ悪戯っぽく言う。 
 「ふふ、やっぱり適わないな、京介くんには。あたしの心の中、ぜんぶお見通しって感じなのかな?」 
 「い、いや僕は――その…これ以上、あなたが」 
 
 
 
 「うん、解ってるよ――ごめんなさい、心配掛けて。あ、あたしね……ねえ、京介君」 
 「?」 
 「――今の世界、好き?」 
 「今の……せかい……」 
 漠然とした物言いだが、その意味する処は判る。笑顔が、違うのだ。つい今までの心から誰かに微笑み、思わず肩を引き寄せたくなる、風に消されることのない歓びを湛えた貌ではない。 
 「――ええ、好きですよ」 
 京介は答える。それこそ「躊躇」って漢字が辞書無く書けるぐらい淀みなく。 
 「みんな、凄くいい人達なんだ…………父さん――リチャード社長――――琉奈。血は繋がってないけど、僕らはやっていけてる。たぶん解り合えてる。背負った業や、宿命なんて無くなったからみんな本当はきっと今みたいに生きていたかったんじゃないかな…、って。恵さんや、明日香さんも、あの桐原夕映……さんだって。その、上手くは言えないけど、みんな本当は、誰とも争いたくなかったんだ、ちょっとだけボタンを掛け違っただけなんだ。特別なモノなんて何も望んでなんかなかったんだ。欲しかったのはほんの些細な――ただ、いろいろと“仕方なかった”んだって」 
 真夜は、何も言わない。ただ、聞き入る。彼の気持ちが流れ込んでくるのを感じたいから。 
 「だけど、それでも人間って見えない何か、消えない絆とか、『運命』みたいなもので誰もが強く繋がっているんじゃないかって。だってまた、中原さん達や、琉奈や、色んな人たちと逢えた、出逢えてしまった……そして、岬さん」 
 「あ、んっ――――!」 
 背中を支え、ゆっくりと起きあがる。月の光満ちるベッドの上で二人は向かい合い、感触を確かめるように手を頬にやる。 
 
 
 
 「僕も、また同じ『伊達京介』として生まれて来て、こうして僕たちは再会できたのに――そんな顔、しないで欲しい、僕は――」 
 真夜の愁いを帯びた貌に目鼻を近づけ。 
 「岬さんには、ずっと、笑ってて欲しい」 
 「京介くん……」 
 「住んでいる世界なんか関係ない。岬さんは、何も気にしなくていい。ただ僕は、こうしてあの時のように二人きりで居られる、この時間が何よりも、嬉しくて。僕はずっと……あなたが一度死んだ僕を助け出してくれたときから――!」 
 
 ――本当に、判ってしまうのね、京介くん。 
 
 「でも……あたしは死人よ。忘れた頃に墓場から這いだした――違う! 死人ですらない、朧気な無念を晴らしたくて彷徨ってる、いうなれば亡霊みたいなものよ――京介くんだって、死んだ人間は決して生き返ってはいけない。限りある命だからこそ人間は美しい。そう言ってた」 
 「…………」 
 「あたし、見てた。あたしが死んだ後もずっと京介くんのこと見てた。感じてた」 
 「識ってるよ」 
 「辛かった、でしょ? 総てを終わらせて、“答え”を見出すまで、あなたは悩み、傷つき過ぎた。誰よりも強かったからこそ、優しすぎたからこそ、もがいて、苦しんで――今あなたの住む処は光に満ちあふれてる。あの世界で生きる今の京介くんは、とても幸せそう。遠くから眺めるあなたはいつも眩しかった。あたしはいつも目を細めるしかなかった。本当はこのまずっと見届けるだけにするべきだったかもしれないのに……あ、あたしは……」 
 と、言葉を詰まらせる。そうであるべきだ。この状況はとても正しいことであるはずがない。 
 
 
 「あたしは――あなたが幸せなら、それで良かったのに」 
 またしても悔恨の念に囚われる。鉄格子が降りようとする。 
 だけど。 
 「それなら、岬さんも」 
 「え?」 
 「識っているはず。僕は、後悔なんかしてない。僕は満足だった。あの時、あの場合、あの頃は、いろんな哀しみの中で誰も彼もがそれが自分にとって一番正しいことと信じて、生きていたから誰も責められはしない。僕だって……」 
 と一端区切る。 
 「――僕は、強くなんか無い、もし強かったら もっと………!」 
 唇を固く結び、黙想する。それがどうにもいたたまれなくて、真夜は京介に手を伸ばそうとするが、躊躇われる。京介が、笑ったのだ。 「だけど……総てが終わって、今と同じくらい僕は幸せだった。僕に出来るだけのことは、したつもりだから」 
 真夜の目が、一瞬大きく見開かれ。 
 
  
  ――『岬さん、全てが終わったよ』――。 
 
 
 ――そうだ、帰ってきたんだね、京介くん……。 
 
 
 思い出した。遙か彼方に置き忘れてしまった、記憶と呼ぶにはあまりに儚い、柔らかな風の中で見届けた一欠片。だが、それは決して忘れてはならないものだった。本当に、本当に大切なことを忘れてたのは…………。  
 
 
 ――だから、もう一度だけ逢いたかった。そう願ったのに。 
 
 「……あたし、あたし、京介く――あ…………?」 
 おもむろに真夜の首筋に手が回され。 
 「貴女が、僕を導いてくれた。あの時も。今この時も――いつだってこれが、『岬さん』が僕と共にあったから。だから、いつかあなたとまた逢えた時、返したかった」 
 そのもう一人の――もう一つの『岬真夜』もようやく、本当の持ち主へと帰る。それを見届け、彼は一つ頷く。 
 「やっぱりあなたには、これがよく似合ってる。岬さん何も変わってない。本当に……本当に、綺麗だ、岬さん」 
 「………………京介くん」 
 月光を弾いて胸の間で光り輝く十字架を見て京介は満足げに微笑む。つられるように真夜も微笑み返し、ロザリオのヘッドを両手で包むように握る。 
 愛おしげに、そっと。心の中にて、あたしの代わりに京介君を護ってくれてありがとう、と。 
 「感謝、したかった。あなたのことを忘れたようでも、やっぱり心の底ではずっとあなたが居てくれた。そうなんだ、『岬さんに再会するまでは絶対外しちゃいけなかったんだ』って……でもそれは、僕が、あなたを護ることが出来なかったことの、証…!」 
 「そんなッ……きゃっ!?」 
 二人、ベッドの上で緩やかに戯れていた時も奥底でくすぶっていた衝動をぶつけるように真夜のスレンダーな腰を抱き、押し倒しそうになる。が、勢いよすぎたか背後の壁に頭を打ち付けてしまう。彼は彼で必死なのかそれを取り繕う余裕などない。震えているのだ。 
 「けど、それがあったからこそ僕は、僕で居られたんだ――! ずっと、貴女を……岬さん、僕は、あなたが赦してくれるなら、あなたと、岬さんと、ずっと一緒にいたい……!」 
 三度目の告白。しかし一度目は、錯乱する真夜を立ち直らせるため、二度目は京介が京介でいるために、自己への確信という意味合いが強くいずれも咄嗟に漏らしてしまったものでしかない。本当の本当に思いをぶつけるという意味での『告白』は、今が。 
 
 「僕は、いつもあなたに迷惑掛けてばかりだ。何もしてあげるどころか、いつも空回りで……生まれ変わっても苦しい想いばかりさせて泣かせて……けど……僕はッ! 何が何でも、真夜さんが……大好きなんだ……!!」 
 それっきり、黙り込んでしまう。やっと、言えた。取り戻せる時があるのなら、取り戻せるものがあるのなら、やりなおしたい、ここをこうすれば良かった――――そういった諸々の想いが流れ星のように駆け抜ける。けど、それは少し違った。未来へ伝える熱いこの想い。未来へのささやかな希望だった。夢だった。 
 
 軽く押し退けられる。見れば真夜の手が肩に。そして、見つめられる。見つめてくれる。僕を見てくれる。眼に映るのは、僕だけの顔。母が泣く子供をあやすように、妹が落ち込む兄を励ますように、そして。 
 少しの沈黙の後二人は、やがてどちらかともなく、笑い合った。 
 
 ――そうだ。そうだったんだ。僕たちは、心が惹き合うんだから。ただ、ただちょっと…怖かったんだ。どうしても君が好きだってこと、分かってるから。 
  
 「ふふっ、京介くんったら、いまわたしのこと『真夜さん』って」 
 「あっ………」 
 
 京介の頬に赤みが差す。 
 ああ、そうだった。ついうっかりと。 
 「いいのよ、いつかそんな風に呼んでくれたらって思ってた。もっと早く、もっとずっと前から、いつも」 
 「す、すみませんみさきさ…てっ!」 
 「こ〜ら。『真夜さん』、でしょ。今度間違えたら赦さないんだからっ」 
 
 と、額を弾かれる。でこぴんだ。  
 ああ、そうだった。ついうっかりと。 
 「分かったよ、真夜さん」 
 「うん、良くできましたっ」 
 間髪入れずに背伸びするように身を乗り出してくる。そして、自ら彼の胸へと身を埋めるように、寄せ。また、目を瞑る。心地良い心音だけが彼女の確かな支柱となり、うっとりとする。母の中にいた頃を思い出すような、絶対的な安心感に猫みたく目を細める。 
 「京介くん、もっと、呼んで」 
 「…うん。真夜さん」 
 「もっと」 
 「真夜さん」 
 「もういっかい」 
 「真夜さん」 
 「幸せ……ねえ、京介くん。あたしだって……」 
 「え?」 
 「……いっぱい、迷惑掛けちゃうよ、これからも……それでも、いい?」 
 一瞬、頭が真っ白になる。何よりも純粋になる。長いトンネルを抜ける。闇から光へ。ゼロよりゼロから。 
 「それに、ふふ……お互い様……だね。赦して欲しいのは……あたしだってまだ……」 
 「真夜さん」 
 抱きしめる腕を更に強くする。 
 「怖がらなくていい」 
  また、埋まる。 
 真夜の身体が。京介の胸に。すっぽりと。隙間を、埋める。パズルの空白を埋め、額縁に填(はま)る。さあこれで完成だ。 
 
 「僕は、真夜さんの総てを赦せるよ。赦せるからッ! 僕は、あなたが欲しい! また、いきなり迷惑…かけるけど…………!」 
 
 ………トクン、トクントクン………。 
 
 儚げな心音が、京介の耳に届いて。ああ、僕の腕の中で、真夜さんが。それから何秒だろうか。それとも数刻だろうか。己の胸の裡(なか)から、その一言だけが。京介には見えないが、彼女は微かに、こくん、と。 
  
 「――いい、よ……」 
 
  
 ――とさっっ。 
 
 その華奢な躯に相応しい音が弾ける。一寸した軋みを立て、ベッドは岬真夜を受け止める。京介はそんな音まで、愛おしかった。音までも生きているから。 
 
 「真夜さん――――――綺麗だ」 
 
 「………………………………」 
 
 真夜は、焦れたように俯く。そこからでも頬を差す紅潮の彩(いろ)は隠しきれない。そんな真夜を、全身を――――シーツにはらりとなる髪の毛を、端整な貌を、緩やかな呼吸に上下する豊かな双丘を、折れそうな腰を、すらりとした手足を――――見つめる。眼に焼き付けるように、刻み込むように。いつでも投影できるように。 
 
 目ざとい京介はこの空間を取り巻く空気の差異に気付いていた。さっきまでとは、京介が京介を呼び起こす前までとは決定的に違うのだ。『仮面』を脱ぎ捨て、代わりに纏った張りつめた糸が断ち切られた果ての爆発。そういった類が一切合切無くなっていることに。 
 これは、とても大事なことだ。 
 
 「もう一度、言うよ。真夜さん、綺麗だ」 
 「もう、莫迦……………!」 
 
 真夜の今はきっと真っ白なのだ。彼と同じくらいに。何の縛りも澱みも霞みもないのだ。曇り一つ無い青天のように、何もかもが剥き出しなのだ。魂の在りようまで見透かすことが出来るような。 
 
 まるで、憑き物が落ちたような。 
 
 「いいよ、莫迦で。じゃあずっと言い続けてあげるよ。何とかの一つ覚えってよく言うじゃない」 
 と、いつのまにシャツに隠れてしまった柔らかな胸に手を伸ばす。こんなもの邪魔だと、薄皮を剥ぐようにめくりあげ、白い生乳を。 
 「――特にこの大きな胸なんか、僕をどうにかしたいとしか思えない」 
 実際、一度はどうにかされかかったわけなんだけれども――と京介は内心苦笑しながら考える。 
 ……だから、それまでの二人の立場と入れ替わってしまっているのだろうか。主導権はぶら下がり一転、僕の手元へ。 
 それは、これから直ぐにでも証されるだろう。 
 
 「そ、そんなの知らないっ………ひゃうぅッ!?」 
 「真夜さんっ?」 
 掌が右の胸に触れた瞬間、羞恥に軽く身をよじらせてしまう。京介の手の感触がどうこうではなく、ただシンプルに、そうされるのが。 「な、何でもッ! 何でもないのッ! 何でもないか、ら……京介くんの好きなように、して」 
 果たしてちっとも何でもなくはなかった。 
 
 …なに、今の……? いまさら。 
 
 
 「ん、んンーー!? はっ、うっ……」 
  
 ま、また……っ? なんで……! 
 
 我に返り、真夜は拒もうとする自分を御する。躯だけではない、心そのものも逃れようとしていることに気付き、慄然とする。 
 
 「真夜さんの胸も、やっぱり綺麗だ、それに、信じられないくらいに柔らかくて、これが――」 
 ふにふにした手つきで乳房を揉み込み、徐々に力を強めていく。 
 「んあッ! はぁっ、い、いきなり……あ――や、んッ――!」 
 下方から鷲づかむように握り込み、互い違いに揺り動かしてみる。その左右につきたての餅のような乳肉が蠢き、踊る様をより堪能するために京介は乳の間に顔を埋める。 
 「いきなりじゃ、駄目……?」 
 「だっ――駄目……駄目じゃないッ! はっ……う、ん……っ」 
 そうだ。嬉しいに決まってる。現に京介の手にゆだねれば、ほらこんなに気持ちいい。不器用な手つきで揉みし抱かれているだけなのに、二つの房からビリビリとした痺れが血流のように躯全体を循環していくのだ。 
 「ふぁあっ! んぁッは――! き、きょうすけくん……ぅ、ん! ん、あっ! はくっ」 
 「真夜さんは死人なんかじゃないッ…! この胸の暖かさは、手触りは、紛れもなく、生きている人の温もりだ。手から真夜さんの鼓動が沢山伝わってきて、だから、僕は」 
 握力を強め、乳房の感触をいっぱいに感じる。指の間から余った肉がはみ出し、芸術品を愛で撫でるようにゆっくりと動かしたかと思えば欲望のままに引っ張り、自分の顔を挟むように両手で擦りつけ、ぷにぷにと柔らかくて暖かな女の感触を味わう。そしてその間も、 
 
 ――ぴくんっ! 
 
 「ン……ふぅっ……はぅ、うっ――!」 
 執拗な柔肉遊戯を止めることはない。今までと比べると明らかに乱暴なものとなり、胸から伝わる痛みにも似た刺激が真夜を断続的に貫く。ぐにゅぐにゅと音ならぬ音を立てそうなほどに、京介は恋人のこれ見よがしなバストが自分の手に指に従順なのをいいことに好き勝手に弄くる。未だ汗と己の残滓が拭い切れてないがそんなこと、構うものか。路傍の石ころのように些末なこと。 
 
 「あ…はぁっ…! あぁっ、んぅっ、くぁっ――は……っ!」 
  
 ど、どうして……どうして胸だけで、こんな! か、身体が、びくびくって――! 
  
 人差し指が乳肉から離れ、その頂にある突起をさすると、それだけで。 
 「ひあっっ!」 
 視界が白くなる。それを合図に。 
 「凄いな。真夜さんの乳首……こんな固くなってて。ちょっと、びっくりだ」 
 ギュッと、両乳首をドアノブを捻るようにつまみ上げ、引っ張り上げてみる。 
 
 「ひっ、は…あっあっ!!」 
 無論痛みもあるがそれ以上の甘く心地良い痺れが駆けめぐり、ぞくぞくさせる。 
 「だ、だめ……そんな、ひ、引っ張ったら! ひぅんッ――うくっ!」 
 
 
 
 
 
 京介の貌が谷間に押し入り、そのまま握りつぶし、滅茶苦茶に両乳をこね回す。こんな魅力的な塊が、自分の手でグニャグニャに何処までも淫らに歪んで、握り潰せて、そんなことで心にゾクッと来るぐらいにあの独特の、鼻にかかる小悪魔ハスキーボイスで艶めいてくれるのが狂おしく、たまらないのだ。神経という神経が、総毛立って、昂(たか)ぶる。 
 
 ――にゅむ、ぐにゅッ! にゅむっ……。 
 
 「――こ、んなーーむ、胸ばっかり……あっ! ん、ぅくうっっ!おねがい、もっと、もっと優しくっ――うぁ! あ……ふ……っ!」 
 
 あまりに烈しく揉み回すものだから、胸の間にあるロザリオのチェーンがバブルスライムのように不定型に歪めく乳肉に弾かれ、流され、メタリックにざわめく。ぬるぬるとするがそれ以上にゴムのような弾力感と人肌ならではの暖かさ、なのに固く張った指の間の乳首の感触に思わず夢中だ。 
 「……真夜さんのムネ、最高だ……僕の手に、ぴったりと吸い付いて、張りついて、こんなので挟まれたら、そりゃ……」 
 京介の吐息も不安定となる。余剰した昂奮が放熱されているのを真夜は見逃さなかった。 
 
 は、恥ずかしい……! ――『恥ずかしい』? 恥ずかしいなんて思ったの、私……ッ! 
 
 違う! そんなわけ、あるものか! 
 
 あたしは! 
  
 京介の両手を強引に押しとどめ、見つめ返す。そして、焦りと羞恥から、目つきはとろんと妖しく色めいて。けど。 
  
 「え、真夜さん……?」 
  
 ふふっ――そっか、京介くんも――――!  
  
 「くすっ……やっぱり京介くんって…おっぱい好きだったんだね……もう、そんなに赤ちゃんみたいにがっついて! いつもの京介君らしく、ないよ……?」 
 あたしが、京介くんを気持ちよくするんだから……あたしが……! あたしが、いつだって『王子様』を……。 
 
 挑発の言葉も震えて、もはや虚勢ですらないことは明らかだったけど、彼は容易く肯定してしまった。 
 「うん、そうかも」 
 京介の貌が再び沈み込み、乳首を軽く噛んでみる。こりっとした歯触りが心地良い。 
 「えっ――んはあぁっっ!!」 
 途端にコレまでとは比較にならないほどの電流が迸り、四肢をのたうたせてしまう。立場は、依然として逆転したまま回復の兆しは見えないままに。 
  
 「さっきの、僕のが真夜さんの胸に挟まれた時のあの柔らかさが忘れなくて――それで……あんなに、頭の中が真っ白になるくらい気持ちいいなんて思わなかったから、真夜さんに言われて、ああ、そうなんだって――その、正直新しい自分にめざめたっていうか」 
 砂時計はひっくり返されたまま、砂は静かに流れ落ちるまま。 
 ……そのまま、口に含ませ、吸う。 
 「んんぅッッ! あぁ……あたしの、せい、なの……?」 
 「うん、真夜さんのせい。真夜さんのおかげ」 
 更に強く吸引する。口をすぼませ、音を立てるくらいにきつく。 
 「ふうっっん!! ひっ、ん……く…す、吸っちゃ……あ、あぁッ!! だ、ダメっ、舌で、転がしたりしちゃ、あぁッ……!!」 
  
 「だけどこれって真夜さんの胸限定なのかも――だって、こんなに大きいし、形も綺麗だし……なにより、」 
 もう片方の乳を寄せ、くびりあげ、文字通り二つの筒が天を向くようにし、指でしっかりと支えられ平行にツンと上向いた両乳首を交互に今度は舌で転がす。歯で軽く摘み、引っ張るのも織り交ぜ、時には真ん中に引っ張って両方一気に口に含み、吸い上げる。 
 
 「ひぅうっ! あ、あんッ! んぁ……はッ! うあぁ、き、きょうすけくん、も、もう、あ、あ、ああたし、だめになっちゃ、赦してーー!! ん、んんッ! ひぁッ! はぁ、くは、んあぁあぁっっ!!」 
 
 こ、このままじゃ、あたしまたむ、胸だけで、い、いぃ、イッ――!!  
 「なによりも、大好きな真夜さんの一部というだけで、僕は――」 しかし舌の舞台は彼女を絶頂寸前まで導いた偏執的な乳愛撫から、 「んぁ……あぁ、はー、はーっ……き、京介くん……?」 
 おもむろにYシャツをどうにか止めていた一つだけのボタンが外され、乱れた呼吸に上下する真っ白なお腹が、真夜のへそが露わになり、すかさず舌が這う。 
 「ひゃ――!? はぅっ、んっっ!? そ、そんな、とこ……!」 
 「お返しだよ、真夜さん」 
 つ〜ッと舌がきめ細やかな肌を伝い滑り、ぬめり舞い、独特のぞくぞくする泡立ちが背中から腰にかけて迸り、手足が引きつってしまう。ぶるぶるとした腰の痙攣までも舌に伝わってくる。 
 
 「お、お返しって……ぅんっんッ――!? く、くすぐった――! くぅ、う、ん、んん〜〜……っっ!」   
 ささやかなへその穴までも舌が侵入し、なだらかな、細身ながら適度な脂ののったお腹から、そのまま、下へ下へ。目指すところ真夜の一点に向かって。その意味を、彼女はとてもよく識っていた。 
 「――あ! だ、だめ、そ、そこはぁっ……!?」 
 
 先走って脚を閉じるけども。 
 「却下」 
 「きゃっ――」 
 すべすべしっとり太股に手がかかり、こじ開け、付け根の其処へと到着する。さて、この立派な脚線美の張りの溢れる手触りを愉しむのも悪くはないが。そんな今や、いわば『真夜さんフェチ』と化してしまった京介のお目当ては。 
  
 「あ……あ……あぁ……!」 
 
 視線と、唾と空気を嚥下する微かな音が響き、厭でも見られていると自覚させられ、背筋は震えるは、声にならない声が肺腔の空気と一緒にだだ漏れだわで大変だ。それは、少し前までは一刻も早く待ち遠しかったのに、大変なことなど無かったのに。 
 「初めてまともに見たけど――ここも綺麗。うん、思った通りだ――真夜さんのココ、もうこんなにとろとろになってて、僕を欲しがってる」 
 「や、やあ……そんな風に言わない、で……!」 
 
 も、もう駄目……こんなのは、恥ずかしすぎるよ……! あ、あたし、本当にどうしてしまったの――? 
 
 思わず、顔を両手で覆ってしまう。ピンクに煌めく濡れた秘唇を隠すかのように。そんなことをしても見られっぱなしなのに。 
 「いやあ……あぁっ!」 
 
 それに耐えられなくて、身体が後じさってしまう。だけど、京介は蛇のように執拗で、ねちっこくどこまでも。 
 「大丈夫だよ、此処も、可愛がってあげるから」 
 
 ――ぬちゅっ! 
 
 直後の水音も、よもや自分から発せられたなんて気づけないほど。そして、強くかき回されて、初めて。 
 「んぁっ! ん、はっ……! あ……!! あ! ぁん、き、京介く、ぅんんんンっっ!!」 
 人差し指が、まるで違う生き物のように膣内で暴れ回る。ちゅくちゅくとした水音を立て、そのたびに、 
 「……いっぱい、掻きだされてるね、真夜さんのが。僕を、その唇や胸で気持ちよくしてくれてた時から、これだけいっぱい濡らして、なのにきゅうきゅうに指に吸い付いてきて、囓られてるみたいだ。イヤなんて拒んでおきながら、ココはちっとも僕の指を離そうともしないね」 
 「い、いやぁ……! 京介くんのっ、い、意地悪っ……!」 
 そんな言葉も今はそよ風のようにすがすがしく。思わず、本当に意地悪なんかしたくなってくるものだ。そんなわけで、膣奥への指を増やしてみる。理科の実験のようにどんな反応示すか興味深いから。 
 
 ――にちゅ、くちゅくちゅ、ちゅくっ………。 
 
 「ふ、あ! ひ、んんッうっ! んぁあ、あひっ! あぁあぁ!! そ、そんな、いっぱい、あ、はぁ、んぁう、ゆび、ふ、増やさないでっっーーー! ふ、ふや、ふやさなぁあぁ、あ、あぁぁぁあぁぁっっ!?」 
 中指、薬指……と、探求心のままに増やしていく。一本一本突っ込む毎に腰や背筋がぶるるるッッ! とバイブのスイッチ切り替えのように振動し、嬌声がこだましていく。 
 「ぁんっ! んんんッッ……ひっぐ――! き、京介く、ん、や、やめっ! おねがい、も、もぉやめ――!? あ、あたし、いぃ――!!」 
 「真夜さん、もしかして、怖いの? さっきはあんなに僕のことを、烈しく求めていたのに」 
 言葉は冷静ながらも、指が休まる気配はない。寧ろ指だけが不気味に躍動し、真夜の中を乱れ踊る。 
 
 
 「だ、だって……だってだって――!! んあっ、き、京介くんから、……なんて! くふぅっ! 京介くんに求められてるって!! お、思っただけでふぁあ!? あ、あたし、あたしはぁあッッ!!」 
 
 ――やっぱり、そうだ。 
 
 京介は唇の端だけで笑む。同時に、右手の指にスパートを掛ける。  
 「あッ…!! ひあっあぁ、ああぁぁ!? あふ、きょ、京介くん、京介くんッッ!! きょうすけぇッ――――だ、ダメぇッッッ!!」 
 
 恐怖に耐えきれなくて京介を脚で押し退かしてしまう。 
  
 「あっ、えっ……え?」 
 
 自分は今、何をしてしまったのかとあっけに囚われ、思わず手が口元に。うって変わって沈黙のさざ波が寄せては返し、饒舌なのは手の震えだけ。 
 
 「や、やだ……あたし……」 
 「真夜さん」 
 
 腰を浮かせた京介の身体が、自分から離れようとした。真夜には、そう見えた、から。 
 
 「わっ」 
 シャツの裾がめくり上がるほどの勢いで真夜は、ガバッ! と京介にしがみつく。蜘蛛の糸に縋りつく亡者のように、烈しくその腕は彼の襟を掴んで離さない。 
 
 
 
 「ごめん、なさい……! ごめんなさい……あ、謝るから、行かないで、京介くん……何処にも行かないで……何処にも――――」 
 胸板の中で、彼女はようやくそれだけを口にする。 
 
 ………震えてる。 
 
 『可愛い』。実に恥ずべき事だが、こんな真夜でさえも可愛いと感じてしまった。でも…。 
 
 「……ごめんなさい……だけど、だけどあたし、もう解らないのーーこんなに京介くんを――憎もうとしても憎みきれなくって――――“好き”という感情しか、見つからなかったのに――そもそもあたしが万に一つも京介くんを憎めるはずもなかったのに、呪縛に掛けられたようにか――身体が言うこと聞かなくて……うぅっ、くっ……京介くん、教えて、あたしよりあたしのこと理解ってる京介くんなら識ってるでしょ、ねえッ? あ、あたし、どうした、ら……」 
 「真夜さんは真夜さんのままでいいんだよ」 
 真夜を力強く抱きしめ、今の言葉を反芻する。 
 そうだ。これが、これが本当の。 
 「僕の方から真夜さんを求めるのは、初めてだったね」 
 「……………………」 
 
 ――『岬真夜』なんだ。 
 
 混じりっけのない、身も心も生まれたまま。この部屋で――違う。庭園でーー違う。あの岩山での時か――いや、それも。 
 「初めてあの部屋で、出逢った時から――――」 
 彼女は彼を求めてばかりで、彼を満たそうとばかり考えていた。愛そう、愛そうとするばかりで、逆にそれが彼女を曇らせていたと。けど今はそんな殻は木っ端微塵で、鎧(よろ)うものなど何もありはしない。何も。 
 
 「いつも、真夜さんの方からだったから――僕にずっと、縋りつくしかなかったから………そうだ、真夜さん。今度は僕に、今だけでもいいから任せてくれないかな? もう僕を求めなくていい。僕が求めるから安心して欲しいんだ――だって真夜さんは、僕の、僕だけの『お姫様』なんだから」 
 
 真夜は一瞬だけ目を大きく見開く。 
 「それとも、こんな僕じゃあ不安かな、やっぱり」 
  
 腕の中で、真夜は京介を見上げ、首を横に振り、黙って目を瞑る。 ……そうだった。 
 
 そうよ。だって京介くんは私の『王子様』。いつだって、あたしを護ってくれる。 
 
 思えば、自分が一番安心できる場所は、いつでも此処だった。この腕の中だった。あの時――二人の魔法少女によって地球が救われ、気がついた京介に抱きかかえて貰った時から、そんな、自分も。 
 
 京介くんにとって『お姫様』なんだ。 
  
 「京介くん」 
 「なに?」 
 
 「此処が、あたしの居場所なんだね……ねえ、あたし、もっと、もっと京介くんに相応しいお姫様になれるよう、頑張るから、これからも、あたしの隣にいつまでも、ずっと、このまま……!」 
  また真夜の身体はベッドに沈んだと思う間もなく、京介はただ、キスで答えるしか術はなかった。 
 「んッ――!? むっ……! んんっ、ン――」 
 
 
  久しぶりに味わう唇の感触。たった数時間前のことなのに、何年も空いたように感じられて、不意のキスでも彼女は悦んで積極的に舌を絡ませる。心が通じあってするキスは何と美味なことか。およそこの世に存在するどんな果実よりも甘美で、甘露だ。舌の触り心地ですら、まるで水飴のようで、後を引く美味しさなのだ。 
 
 「ぁん――くちっ、ちゅく、ちゅぷ……あふっ、うん、ン――♪ にゅふ、あ、ふぁぅ、あむぁっ、京介くんっ、京介くんっ! ――ちぷ、ふぅっ、くちゅくちゅ、ぁむ、ちゅぷ、はぷぁっ―――」 
 円舞のように互いの舌が舞い踊り、コンチェルトのように重なり合い、唾液が混ざり合う。程なくして、二つの唇は硝子の橋を繋ぐ。 
 「……ふぁっ……きょうすけくん――はぁ、はぁあ……もっと、もっと……ぉ、京介くんの唇の感触、おいしいから、すき………♪」 
 「真夜さん」 
 名残惜しむように絶え絶えな息が飛び交い、 
 「そろそろ……いくよ……ぼくのお姫様」 
 真夜にのしかかり、すっかり滾った自身を秘唇へとあてがう。はやる気持ちを抑え、確認を求める。 
 
 ――あ……京介くんが、あたしを見て……るの。 
 
 あたしを、見てくれてる。あたし――――だけを。 
 
 恋するとろけるキスの余韻にぼやかされていた真夜は、視線に炙られ、一呼吸置いて現状を識る。凛としながらも、自分を強く欲してくれる熱い息遣いを間近に感じる。さっきまではそれに恐怖すら抱いたが、実はこんなにも心地良い物だったのかと彼が教えてくれたから――見つめられると胸が高鳴り、躯全体が熱くなって、ベッドという皿に盛られた今宵の彼女はとてもとても無防備だ。 
 後はただ、ゆっくり食べられるのを待つだけとなったお姫様は。  
 
 「いいか、な……?」 
 
 「は――はい…………!」 
 
 ――もっと、いっぱいキスしてたかったけど。 
 
 ――うっとりと、いとしの王子様に身を任せるしかなかった。コクリと頷き、手を胸の前で組み、おのが鼓動を確かめてから、 
 
 「……来て――いっぱい私を満たして……私の王子様……!」

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