稲葉姫子がブラウスの胸元をはだけさすと、白磁のような滑らかな肌を際立たせる黒いブラジャーが覗いた。  
文研部部室には八重樫太一が一人いるだけで他の部員たちは姿を見せてはいなかった。  
つまり、今この部屋には太一と稲葉の二人きりということになり。  
「お、おい稲葉! なな何やってんだよ!?」  
そんな制止を気に留めることもなく、焦点の合わない目のままブラウスを肩脱ぐ。  
そして腕と腰にブラウスを巻きつけたまま、稲葉は机の上に左膝を突いて身を乗り出してきた。  
じっと稲葉が自分を見据えてくる。  
目を合わすことができずに視線を外すと、目の前に垂れる二つの膨らみが――。  
ってまずい、これは非常にまずいぞ。  
机の上に四つん這いになっている稲葉は差し詰め女豹だ。  
手を突いているから、必然胸が寄せられることになっていて……谷間が深く強調されていて目のやり場に困る。  
ただでさえ稲葉姫子という人間はセックスアピールを感じさせる風貌をしているのだ。  
「……お前も早く脱げよ」  
予想だにしなかった言葉が発せられて、いよいよ事態が尋常ならざる状況に嵌まり込んだのだと自覚する。  
太一があわあわと慌てていると、  
「脱がなきゃできないだろ?」  
女性にしては少々低めで芯の通った声が、この上なく艶っぽい雰囲気を醸し出した。  
どくん、と自分の心臓がこれ以上となく、胸を内側から強くノックした。  
 
「ほら……」  
頬を上気させてどこか陶然となっている稲葉が、太一の腕を掴んで自らの胸元に持っていく。  
その手が胸に触れるか触れないかの瞬間、太一ははっとなって咄嗟に腕を引いた。  
勢い余って太一は椅子ごと床に倒れかかる。  
腕を掴んだままの稲葉も、太一に引きずり落とされるように覆いかぶさってくる。  
太一は背面をしたたか打ち付け、その上に稲葉が遅れて落ちてきた。  
鳩尾のあたりに、柔らかな感触。  
衝撃に瞑っていた目を薄く開けると、稲葉がしな垂れかかる様に自分に乗っかっているのが見えた。  
いつもは丁寧にくしけずられている黒髪は、僅かにぼさっとなっていて妙に艶めかしい。  
上目遣いのまなざし、上気した頬、小さく輪を描いている唇――そして押し付けられている柔らかな感触。  
長い睫毛に縁どられた切れ長の目が、月夜の湖面のように揺らめいている。  
心臓が、一再ならず痛いくらいに鼓動した。  
 
どくどく、とビートを上げていく。  
稲葉が触れている箇所がどんどん熱を持ち、敏感になってより鮮明に感覚が過敏になる。  
太一の股間に重なっている稲葉の太ももを、下からぐいぐいと押し上げてしまい。  
 
【――――】  
 
その時、太一の頭の中で判然としない音が鳴った。  
まだ声になる前の、音。  
とたんに太一の意識が紗がかかったように、薄ぼんやりとなった。  
確かに意識はあるのに、その意識が体に働きかけてくれない。  
なんだ、今のは――?  
太一の情況を知りえない稲葉は、ゆったりとした動作で体を起こす。  
自分の胸に軽い体重がかかる。  
髪が頬に垂れ落ち、嫣然と微笑む稲葉はあだっぽい雰囲気をまとっていた。  
「……なんだ、脱げないのか? なら…………アタシが脱がせてやろうか?」  
言うや否や、稲葉は乱れた髪や服装を気にする風でもなしに太一のネクタイに手を掛けた。  
 
吃驚するほどいい手つきで、稲葉がネクタイを引き抜いた。  
休む間もなく、その手がワイシャツのボタンを一つずつ外しに掛かる。  
まずい、今すぐに稲葉を押し退けないと――。  
頭の中では強く思うのに、体は意に反してまったく動いてはくれない。  
ワイシャツがはだけられると、すうっと稲葉の手が太一の胸板に伸びてくる。  
ひんやりとした手の温度に、思わず口から声が漏れる。  
どうやらこの程度の自由は利くらしい。  
「ふふ…………女みたいな声だな」  
愉しむように、稲葉の手がさすってくる。  
その分だけ、太一の息が荒くなり鼓動が速まる。  
稲葉は太一の体表面を、まるで余す所をなくすように隈なく触れようとする。  
もどかしさやこそばゆさが、太一を徐々に昂ぶらせてゆく。  
おもむろに、稲葉が頭を傾かせて胸に耳をあてた。  
すぐ眼前に稲葉の小さなつむじが見え、熱っぽい息遣いを胸につぶさに感じた。  
 
どうやら心臓の音を聞いているようだが、何のためにそんなことをしているのかは太一には見当もつかない。  
稲葉はたっぷり時間を使ってから首をもたげ、吸い付くように太一の胸に口づけをした。  
きつく吸われ、時折空気が破裂するように、ぢゅうぅっ、という音が立った。  
口が離れると、そこにはいわゆるキスマークがくっきりと赤紫色に付いていた。  
「……お前は、アタシのもんだ」  
勝ち誇ったような笑い方はいかにも稲葉らしいのに、この時ばかりは背筋に冷たいものを覚えた。  
四つ足のまま稲葉は顔を太一の鼻先に近づける。  
「一度してるんなら、二度だって同じこと、だよな」  
答える間もなく、唇が合わさった。  
稲葉の唇が自分のものを挟み、甘く食まれている。  
やがて、ねっとりとしたものが唇を濡らしていく。  
稲葉の舌が唇を舐め回し、掻き分け、歯を割っては口腔に侵入してくる。  
 
生ぬるく肉厚な感触が、自分の持つものと触れ合った。  
その先から、稲葉の舌が激しく動いて太一を絡め取っていく。  
舐められ、吸われ、甘く噛まれ――。  
太一は肯定も否定もできず、ただ人形のようにされるがままに横たわっていた。  
自分を遥か上空から俯瞰しているような、それでいて意識だけは緊密にリンクしているような不思議な感覚だった。  
長い長い、深い深い接吻が終わると、稲葉は唾液を糸のように引かせながら、勿体つけるように口を離した。  
太一の口元は、稲葉の唾液でかすかに濡れていた。  
すっとさっきまでの熱さが潮のように引いて、冷たい波が寄ってくる。  
「……そんなに緊張するなよ。アタシが、きちんと手取り足取り教えてやるから」  
のろのろとした動作で稲葉が後ずさる。  
自分の胸を水平線に見ると、稲葉の頭がほとんど沈んでいく。  
 
自分の胸を水平線に見ると、稲葉の頭がほとんど沈んでいく。  
カチャカチャとベルトの金具を外す音が聞こえて、太一は声を大にして制止の言葉を叫びたい衝動に駆られた。  
だのに、衝動が喉に到達する前に、霞のように手触りがなくなって散り散りになって消え去る。  
やめろ……稲葉…………やめろ。  
心の声はむなしく、果然、稲葉には届かない。  
ベルトが外されると、稲葉はぎこちない手つきでスラックスのボタンを外してチャックを下げ、カクカクとした動作で脱がしていく。  
外気に太一のボクサーパンツが晒され、得も言われぬ羞恥心と稲葉に対する猜疑心が渦を巻いた。  
一体、何を……?  
――いや、心の奥では分かっているんだろう?  
なん……。  
――期待すらしているんだろう?  
そ、んな……こと。  
【声】は頓に明瞭になり、耳障りの悪い調子で太一にささやきかける。  
 
だしぬけに、股間に何かが当たる感触に襲われ、僅かな意識がすべてそちらに向いてしまう。  
男の性……。  
「……触れてもいないのに、もうこんなになってるのか」  
どこか冷やかしからかうような口調が、普段の稲葉っぽくて倒錯的だ。  
稲葉の手が太一のそそり立つモノを触診するように動く。  
太一はと言えば、見えない分、余計に鋭敏になっているので、触れられただけでとっけもない劣情に身が震える。  
「アタシが、腰砕けになっちまうくらいに、お前を惚れこませてやるよ……」  
挑発するような言葉選びと言葉遣い。  
常よりも湿ったような声に、否応なしに太一の体がそれを、無意識に待っている――。  
稲葉がボクサーパンツの淵を掴み、一気に膝までずり下げた。  
自分のモノが、恥ずかしいくらいに屹立し、天を向いているのがわかる。  
遣る場のない羞恥が、太一を身悶えさせる。  
 
「……知識としては知ってはいるが…………こんなにとは、な」  
さしもの稲葉も、初めて見る男性器にはいささかの戸惑いが隠せないらしい。  
が、そんなことも束の間、稲葉はぎゅっと太一の剛直を握ってきた。  
ほのひんやりとした稲葉に握られ、どうしようもなく反応してしまう。  
びく、びく、と何度か脈打ってしまうほどに。  
「……なにか、出てきたな」  
稲葉がそれを凝視しているのが、手に取るように感じられる。  
手が、一物を、上下にしごき始めた。  
リズミカルに上下する手のひらに、太一はうめき声を上げることもできずにただ耐えるばかりだ。  
先走りが多量に吐き出されて、稲葉の手が液汁を巻き込んで卑猥な音を立てる。  
「気持ち、いいか…………?」  
太一は何も答えられない。  
「…………これじゃ、ダメなのか………………」  
 
消え入りそうな声で稲葉が言うと、一物の先端が一瞬、ぬるりとしたものに襲われた。  
おそらく、太一は今までで一番顕著な反応を見せてしまったに違いなかった。  
見えない行為は脳内で補完され、ときにその一歩先を妄想してしまう。  
稲葉は弱点を見つけた獣のように、獲物の弱い部分を重点的に責め立てる。  
濡れっぽい稲葉の息遣いが、敏感な部分で感じ取れる。  
舌は先端や裏筋を丹念に舐め上げ、唇で挟まれたりしながら慰撫される。  
稲葉の口唇奉仕に、太一の中で激甚な欲が逆巻いて【声】となって降りかかってくる――。  
 
【やってしまえ】  
 
決して抗えないような、強い、酷い、思い【声】――。  
意識の中に漂っていた霧が晴れ、フェードインするように見当識がクリアーになってゆく。  
 
そうやって太一の中でむくむくと膨れ上がっていくのは、あまりにも原始的な欲求だった。  
お預けを喰らった獣が、よしの合図とともに駆け出して獲物に食らいつくような、衝動的で動物的な命令だった。  
太一はやりたくないと思っているのに、今度は体だけが意に反して動き出す。  
上半身を起こし、目線を下げる。  
股座では、稲葉が犬のような恰好で自分のモノを舐めていた。  
こちらに視線を上げた稲葉と、ばっちり目があった。  
黒目勝ちの眼が潤み、懸命に舌を伸ばして動かしている。  
そんな稲葉姫子の従順で健気な行為を目の当たりにして――太一の自恃の砦が決壊する。  
太一は稲葉を床に押し付けて、その胸に顔をうずめた。  
自分ではBと言っていた稲葉の胸は、とても下から二番目の大きさとは思えない大きさと柔らかさを兼ね備えていた。  
 
稲葉は少し吃驚した様子だったが、暴れるでも拒絶するでもなく、太一の頭をぎゅっと胸に抱え込んだ。  
稲葉は慈愛をベースとしたふるまいを見せているのに対し、太一のは原始的で烈しい独占欲を滾らせていた。  
滅茶苦茶にしてやりたい……。  
そんな非道な思考が、今や太一のすべてを支配していた。  
ホックを外そうともせず、太一は稲葉の黒いブラジャーを引っ張る様に押し上げた。  
形のいい膨らみが、速く上下していることに太一は言及することもない。  
太一は先端を口に含み、空いた方の手でもう一方の乳房を弄ぶ。  
舌で転がし、唇で吸い付き、歯で甘噛みする。  
手で円を描くように揉み、乳首を抓んでは捻り、指先で突く。  
汗の中にかすかな甘さを感じ、ますます太一は高まっていく。  
逆にされるがままになった稲葉は、感じたことのない刺激に目を瞑って眉間にしわを寄せていた。  
 
ひとしきり胸を堪能したのち、太一はすかさずに稲葉のスカートに手を掛け、無理矢理に引き摺り下ろした。  
上と同じ、シンプルで飾り気はあまり見られない、しかしだからこそ映える黒いパンツがまぶしいコントラストを醸し出していた。  
稲葉は紅潮した顔を隠すように手で蔽った。  
太一は稲葉の太ももを割り、秘部に顔を近づけた。  
「…………太一」  
切なげに、稲葉が声を漏らした。  
それが呼び水になったのか、太一の行動がより激しいものになっていく。  
まず、太一は下着の上から噛むようにして稲葉を刺激する。  
つんと鼻を衝く濃密で凝縮された稲葉の香りが、太一をくらませる。  
稲葉の股間と太ももの内側は、はっきりとわかるくらいに熱を持っていた。  
太一は離れるのももどかしいといった様子で、顔を外さずにそのまま下着を力任せに脱がしにかかる。  
尻から抜け、右足を下着から抜く。  
 
左の太ももと膝の中間あたりに、捩じれて丸まったパンツが引っかかっている。  
むわっというほどに、稲葉の恥部は湿っていた。  
恐る恐る太一が指先で触れると、濡れ光る糸になってたゆんだ。  
ピチャピチャと淫らな水音に、稲葉の顔にもみじが散る。  
いやいやと首を振っているのに気付かない太一は、さっき稲葉がしたように舌で茂みを掻き分けた。  
「――ッ!!」  
稲葉の悲鳴にならない悲鳴が、太一を余計に煽る。  
舌はぷっくりと膨らんだ、乳首のような箇所を的確に捉えた。  
執拗にそこを責めると、稲葉が面白いくらいに反応を見せる。  
足先から震えがのぼり、太もも、腰、そして全身に伝播する。  
稲葉は指を噛んだり、エビ反りになったり丸まったりと体勢を変えながら必死に堪える。  
太一は膨らみの下――液体が滴っている割れ目に唇を当て、思い切り吸った。  
 
じゅるじゅるという音が響き、稲葉の太ももが反射的に閉じようとする。  
太一は頭を両側から挟まれながらも、割れ目を舌で舐めていく。  
たっぷりと舌で刺激し、顔を離して稲葉を見れば、ぐったりとした様子で大きく喘いでいた。  
その姿を見て、太一はもっともっとしてやりたい衝動に駆られる。  
太一は濡れそぼった部分に指をあてると、ゆっくりと中に入れていった。  
「……ッあ!」  
一本指が入っただけで、稲葉はじっと体を横たえて打ち震えている。  
中に入った指を折り曲げると、怖いくらいに稲葉の体がびくんと動いた。  
その反応を見て、太一はもう止まることを放棄した。  
二本目の指を入れると、なけなしの息を吐き切ったかのように、稲葉が喘いだ。  
声にならない声が喉からひゅうひゅうと伸び出して、浅い呼吸を何度も繰り返す。  
太一は欲望の赴くままに指で稲葉を蹂躙した。  
 
深くまで指を突っ込み、そこで折り曲げると絶大な反応が返ってくることがわかると、太一は馬鹿の一つ覚えのようにそこばかりを刺激した。  
ゴム風船を指で押しているような感じが、稲葉を見たことのない世界に導く。  
「ぁっ……ああっ、んっうううっぁ」  
普段の怜悧でいなせな稲葉の態度からは考えられない、甘く性的な声が響き渡る。  
ひとしお強く指で中を押し上げると、  
「――――ッッッ!!」  
大きく痙攣し、長く尾を引いて稲葉を胴震いさせた。  
太一は指を引き抜くと、濡れに濡れた指を口に含んで味わった。  
欲望はとどまるところを知らない。  
優しさや相手のことを慮ることよりも、ただただ本能に任せて稲葉姫子という女を嬲りたかった。  
太一は立ち上がると、横たわっている稲葉を膝立ちにさせた。  
稲葉の眼前は、先走りを垂らして濡れている性器が突きつけられる。  
 
一瞬、こちらを見上げて、稲葉は意を得たというように舌を伸ばして先走りを舐めとった。  
一物全体を隈なく、稲葉の舌が這っていく。  
伏せられた目が、ちろちろと動く舌が、荒い息遣いが、太一を惑わしていく――。  
太一は稲葉の頭を掴むと、小さく空いた口に自らのモノを捩じ込んだ。  
「――ん、むうっ!?」  
そしてそのまま、稲葉のことなどお構いなしに腰を打ち付ける。  
「んっ、んぶっ、んむうううっ!!」  
稲葉が太一の太ももを強く掴む。  
息を求めて喘ぐ。  
懇願するように首を振る。  
それでも――八重樫太一の欲望は収まらない。  
何回か腰を動かした後、太一が腰を引くと稲葉が盛大に噎せ返った。  
「ごほっげほっ――ッおえっごほッ!」  
嚥下できなかった唾液が、稲葉の口元や首元をべとべとに塗っている。  
閉まりなく開けられた口で、浅く早く呼吸している。  
 
太一は稲葉の髪を手で梳きながら、またしても性器を近づける。  
稲葉は目を伏せて、舌を伸ばして太一を慰撫する。  
自発的に一物を咥え込み、稲葉は舌と唇を使って全体を刺激する。  
頭が前後に動いて、快感が昇りつめてくる。  
太一は稲葉の頭の後頭部に手を添え、ゆるやかに頭を寄せる。  
深く咥え込まれる感覚に、太一の膝がガクガクと震える。  
強く、速く、深く太一は突き入れる。  
そのたびに稲葉は噎せ、涎を垂らし、決死の形相で耐え忍ぶ。  
一物を引き抜くと、稲葉はその場にくずおれてげほげほと急き込んだ。  
床には大量の唾液が落ち、二目とない様相を呈していた。  
太一は稲葉の背後にまわり、その細っこい腰を掴んだ。  
稲葉がのろのろと肩越しにこちらを振り返る。  
眉尻が下がり、困惑を隠せないでいる。  
太一は有無を言わさず、稲葉の膣に一物を宛がい、ゆっくりと沈めていった。  
 
稲葉は砂をかむように、床に顔をくっつけたまま身を震わせた。  
声にならない悲鳴が、振動になって太一に伝わる。  
腕と腰で着ているブラウスが、左足に引っかかっている下着が、あられもなさを際立たせていた。  
全て入ると、稲葉は大きく痙攣した。  
太一はそろそろと腰を引き、ゆったりと打ち付ける。  
「――ああッ!!」  
稲葉は休む間もなく、喉を酷使している。  
太一がリズムに乗ってきたとばかりに、腰をテンポよく動かしていく。  
そのたびに、形を変えて稲葉は声を上げ、身を捩り、反射的に太一から逃れようとする。  
太一はそれを力で押さえつけて、犯すように稲葉と重なっている。  
稲葉の腕を掴んで、状態を仰け反らせる。  
すると、今まで当たってないところに当たったのか、稲葉の震顫の質が変わったように思えた。  
 
さっきまでは平行に突いていた腰を、僅かに上向かせ、天を衝くように突き上げてみる。  
案の定、明らかに反応が異なっていた。  
太一は胡坐をかくように地面に座り、稲葉の体ごと揺すって一物を刺激させる。  
稲葉は首が据わっていないように、頭をふらふらと、太一の動くままに任せていた。  
深く抱き込むように稲葉の肩に体重をかけてみると、大きく太ももが震えて口から声が漏れた。  
絶頂に達したようだ。  
太一は稲葉をこちらに向かせた。  
稲葉の顔は涙に濡れていた。  
火照った顔がみだりがわしくて、太一は口づけをした。  
稲葉が太一に抱きつくように手を首に回し、脚はぐっと腰を捕らえた。  
二人はそのまま絡み合うように体をゆすり、快感を貪っていく。  
太一の欲望が背中から走り抜け、胴震いを起こさせる。  
無意識のもっと奥で――抜かなければという強い自制が働く。  
 
絶頂に達する寸前で、太一は突き飛ばすように稲葉から離れた。  
そうでもしなければ、足と手で抱きつく稲葉から抜け出せなかったのだ。  
床に放り出された稲葉に、獣の欲望が否応なく降り注がれる。  
太一から迸った精液は、尋常な量ではなかった。  
それは稲葉を顔から腹まで、夥しいほどに凄惨に汚していった。  
己の欲望を吐き出しても、まだ太一は止まらない。  
太一は震える脚を鼓舞しながら、稲葉の唇に汚れた一物を持っていく。  
稲葉は半ば放心状態で、それを口に含む。  
最初に比べると洗練された舌遣いで、僅かに垂れる精液をも掬い取っていく。  
 
もう、戻れない。  
二人は非日常と非現実の網にからめ捕られ、ばらばらに壊れていく。  
稲葉が、口に僅かに入り込んだ太一の欲望を、嫌な顔せずごくりと嚥下した。  
 
 

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