「ありがとうございます!!」  
律子に光は深々とお辞儀をしていた。そんな様子に  
「おい。礼を言う相手を間違えてないか?」  
光にあきれたように声をかけてきたのはノッティーだった。  
「なによ」  
光がキッと睨むとノッティは  
「船を見上げてぼーっと突っ立ってたお前に声をかけたら、  
 『ノッティお願い私をこの船に乗せて』ってワーって泣き出されてあせったぜ。本当」  
そう、あの時船に乗り込む唱吾を見送るだけで、何も出来ずただ焦るだけの光に声を  
かけてきてくれたのはノッティだった。そしてわらにもすがる思いで助けを求めたのだ  
「感謝してるわよ」  
「あんまり、感謝している気持ちが伝わらねーけど.....」  
「まぁ、実際、手配に動いてくれたの律子さんだしね。それでもあなたがいてくれて助か  
 ったよ。ありがとう」  
「本当に、感謝されてないな」  
「してるわよ」  
「どうだか.....」  
落ち込んだように声を出すノッティに律子が笑いながら声をかける。  
「ホント、港の桟橋で泣いてる女の子に抱きつかれてるあなたを見たとき声をかけていいのか  
 迷ったのよ。大事な試験の前なのにって」  
「何だよ。それ」  
「律子さん。本当にありがとうございます」  
「だから俺にも感謝しろって」  
「あ. り. が .と .う」  
「ダーーーー」  
「アハッ」「ウフッ」  
そんなノッティをみて律子と光は声を出して笑いあった。  
 
「もう、いいよ。オレ試験会場に様子見に行ってくるわ」  
ノッティーは肩をすくめドアに向かう。そんなノッティに光は声をかける  
かつてはライバルでもあり厳しい試験をくぐり抜けてきた仲間であり大切な  
友達だった。そして今回も私に救いの手をさしのべてくれた。  
「ノッティー。本当にありがとう  
 ノッティが声をかけてくれなかったら私どうしていいか分からなかった」  
「水くさいこというなよ。  
 マザーもあの試験の時いってたぜ。お前が俺に惚れてるってな。  
 まぁ、そんな女の子を泣かせておく訳にはいかないしな」  
ノッテイーなりの照れ隠しと光を気遣った言葉に  
「はぁ?あんたやっぱり馬鹿だわ」  
光流に切り返す  
「なんだと!!」  
そういってノッテイは光を睨むがすぐにお互いの顔に笑顔が浮かぶ  
「試験、頑張ってね!優勝できる?」  
「たりめーだ。オレ以上のピアノが弾けるやつなんていない  
 オレは世界一だぜ」  
ノッティは振り返ると律子に微笑み、手を挙げ光に答えて部屋を出て行った。  
 
部屋には律子と二人きりになった。光に律子が声をかける  
「あんな弟のためにこんなに必死になってくれる女の子がいるなんてね  
 どこがいいの?あんなの」  
「え、どこだろ、アハ、ハ」  
「教えてくれないの?」  
「恥ずかしいですよ  
 そうだ私が教える代わりに、私にも一つ教えてください」  
「何を?」  
「律子さんは、律子さんはどうして試験を続けるんですか?」  
光には唱吾や譜三彦や水無月家の人が何故こんな試験を続けているのか  
理解できない部分もある。光はその答えが知りたかった。  
「そうね。あなたが今ここにいるのと同じ理由かもしれない」  
律子は遠くを見つめる目になる  
「私と一緒........?」  
「前に進むため.....かしら」  
「前に進むため?」  
それ以上は律子は何も言おうとしなかった。前に進むため、それを光と  
同じ理由といった律子の顔に迷いはなかった。  
律子も何かの重い決意を持ってこの試験に臨んでいるのだと、過去では  
なく未来のために戦っていこうとする決意を光は感じていた。  
 
「で、唱吾のどこが好きなのよ?」  
突然律子が話題を変える。光がまた話題を戻されて目を白黒させるのに  
「えー教えてよ。約束でしょ」  
「.............」  
「は や く」  
律子が強い口調で言うと、もうしょうがないなぁという感じで、でもどこか  
嬉しげに  
「一番は優しいところかな、私のことをとっても大切にしてくれるとことか  
 本当に本当に優しい人なんです」  
「そうなの」  
「私の守るために危険なとこにもとびこんできてくれたし」  
「唱吾が?」  
「そうなんですよ!!悪い奴らから私を助け出してくれたんですから  
 あのときのあの人むちゃくちゃカッコ良かったですよ!!  
 傷ついた私を優しく慰めてくれたし」  
「へーー唱吾がね」  
「あ....それに私が作った料理をとってもおいしいって食べてくれるんです  
 食べてる顔がとっても幸せそうで私うれしくなっちゃうんですよ  
 それに私が叱るとシュンとしちゃってでもその顔がまた可愛いし  
 それに」  
「待って!まだ続くの?」  
「えっ、もう聞いてくれないんですか?」  
きょとんとした顔の光に律子が笑顔で  
「もう勘弁してよ」  
「えー、まだまだあるんですけど」  
本当に嬉しげな様子でそう言う光の様子を見て律子も笑顔になる  
「ありがとう」  
「何がですか?」  
「弟を、唱吾をこんなに思ってくれて」  
律子は光の手を優しく握る。  
 
「あと、すこしですべてが終わる  
 私は自分自身の手で決着をつけるわ」  
「律子さん」  
律子の顔に強い決意を光は読み取った。  
「これがすべて片づいたら唱吾とあなたと一緒に食事でもしましょうよ  
 うれしいな、こんな可愛い妹が出来るなんて」  
「妹???」  
「そうなるかもしれないでしょ?」  
『妹ってことは私,,,あれ』今までそんなこと考えたことなかったんだけど。  
光は自分で顔が赤く耳が熱くなってきているのがわかる。  
「わかりやすいわね。あなた」  
「そ、そんなこと」  
誰かにも言われたな。『私ってそんなにわかりやすい??みたいよね』  
自分でもそう思う。特に唱吾のことでは自分でも不思議なくらい正直に  
なってしまう自分がいる。  
「もうすぐ試験だわ。行きましょうか」  
「はい、律子さん」  
律子はおかしそうに  
「もう、お義姉さんって呼んでくれてもいいのよ」  
「な、何を言ってるんですか!!」  
二人の間に笑顔が浮かぶ。初めて出会ったときはあんなにも衝突しあった二  
人なのに今笑いあえている。  
光にはこのような時間がいつまでも続けばいいと願わずにはいられなかった  
 
客船のホールはオーケストラが3人のピアニストを待ちかまえていた。  
そして中央に3台のピアノ。  
そこにつながる音響機器はある種の禍々しささえもっている。そしてそれら  
はこの試験の真の審判者につながっている。  
ANGEL,DEVIL,GOD、決戦の幕が切って落とされようとしていた。  
 
すでにノッティと幸子はホールへ向かい、そして今ワルツと葉音が  
ホールに向かっている。  
とワルツが小さく鳴き声をあげる。  
「誰?」  
目が見えない葉音はワルツが吠えた方に顔を向ける  
「もう、ワルツたら」  
小さく『メッ』とワルツ笑いながら言うと、しゃがみ込む  
「光?」  
「久しぶりだね。  
 うーん、でもあの試験からそうはたってないか?」  
光がワルツを撫でると嬉しそうにワルツは吠える。  
「葉音、どうかしたの?体、具合悪い?」  
光は静かに試験に臨む友を見守るつもりだったが、ワルツに見つかって  
いや、葉音の様子に声をかけずにいられなかった。  
「なんでもないよ、大丈夫」  
葉音はそう光に答えながらも自分を不安にさせるついさっき芯也とのや  
りとりを思い出す。  
『もうすぐ君のそばから....』と言う芯也に  
『試験が終わってもずっと一緒にいて  
 もう一度約束して』  
芯也と交わした指切りを  
それでも不安が葉音を突き動かす。芯也がいない世界を。一人ぼっちで  
取り残される不安を。隠しようのない不安が葉音を押しつぶされそうだった  
でもそれを口に出し説明することも出来ない  
それは誰にもわかってもらえない孤独だから  
 
「なんでもない。大丈夫」  
「葉音、ワルツが心配してるよ」  
「ワルツが?」  
「そうだよ。だからワルツは私のことよんだの」  
ワルツと葉音の強い結びつきは光には感じられた。ワルツは葉音のただならぬ  
様子を心配して、それで私に助けを呼んだのだと光は感じた  
「ごめんね。ワルツ」  
葉音もしゃがみワルツの頭を撫でる  
「そうだよ。ワルツにあんまり心配かけないで  
 それに心配してるのはワルツだけじゃないよ  
 葉音の今みたいな顔見たら私だって心配だよ」  
「光......」  
「葉音は一人じゃないよ  
 私は葉音を応援してる。一番に」  
「私には二つしかないから?  
 ピアノと芯也さんへの思い、だから」  
「違う、あのとき確かにそう思った。  
 でもね。今は違うよ  
 葉音は自分で掴もうとしている。未来を、自分の夢を」  
それなのに葉音の顔には強い不安が浮かんでいる  
それが光には心配だった  
「光」  
「葉音は一人じゃないよ」  
光は葉音の手を力を込めて握る  
「頼りないかもしれないけど、私も力になるからね」  
「ありがとう」  
葉音もまた光の手を握り返す  
 
「私、そろそろ試験会場にいかなきゃ.........」  
「そうだね。がんばって」  
「うん」  
立ち上がりワルツに声をかけ行こうとする葉音に光は  
「葉音、一つお願いがあるの  
 幸子に,DEVILには絶対勝ってね」  
「どうして」  
「それは、あの......その  
 唱吾さんにこの試験から降りてもらいたいの  
 終わりにしてもらいたいの」  
「唱吾さんに?」  
「まぁ、説明すると長くなるからさ」  
光は恥ずかしそうに鼻の頭をかく  
「好きだから?」  
「え」  
どうして葉音はこうも人の心が読めるのだろう。そう思っていると  
葉音は微笑みながら  
「光、今顔が赤くなってるでしょう?」  
「どうして」  
光はさっとほほに手をやる  
目の見えない葉音が何故わかるのだろう  
「だって、声の調子が変わったもの」  
葉音は本当に鋭い。怖いくらいに  
でも葉音はポツリと  
「私、幸子さんには勝つことも出来るかもしれない  
 でもDEVILには勝てないかも」  
「どういうこと」  
葉音は光に答えようとはせず廊下を試験会場に向かって行く  
光には大きな何かをを抱えたまま廊下を行く葉音がとても痛々しく見えた  
 
光も葉音の後をついてホールへ向かう  
ホールの端で光は葉音やノッティをそして幸子を見る。  
準備はすでに整えられているようだった。  
学長の声が響く。今回の試験は「祈り」  
「奇跡を起こしたまえ」  
水無月奏太郎が告げ、オーケストラの音が響く。  
『チャイコフスキー、白鳥の湖か』  
ANGEL,DEVIL,GODの決戦には相応しいのかもしれない  
光は3人のピアノに神経を集中していく  
3人がそれぞれ美しい旋律を刻む。  
光も動かぬ指をおして3人の旋律を追う。  
確かに3人の音は変わった。単に技量が上がっただけではない。  
何か、本質の部分で。  
『もう、追いつけないかな』  
それは光には淋しい現実だった。  
オーケストラとピアノが旋律が光の中に染み込んでくる。  
しかし、それは何か違和感を光に覚えさせる。  
『何?』  
3人の音は、そしてその奥にあるもの、それは光の予想を裏切る  
そして強い衝撃を光に与える。  
それはノッティが崇高で残酷なGODだったからでも、葉音が  
暗い絶望を抱えたDEVILだったからでもない。  
幸子が人を希望を支えるANGELだったから  
 
それは唱吾が裏切ったと思っていたANGELを結局は選び取って  
いたから、単に歌乃から幸子に移っただけで、決してANGELを  
裏切ってなどいなかった。  
 
光の膝から力が抜け、座り込んでしまう  
唱吾の本当にANGELを求めている  
そしてもし唱吾の前に再び歌乃が現れたら......?  
唱吾は決してANGELを裏切れない  
私はそのとき.....  
唱吾の選択はきっと  
 
光は気分が沈んでいく。その心の孤独に葉音の旋律が沈み込んでくる  
葉音の孤独が、暗き不安が染み込んでくる。  
光は頭を振り耳を押さえ音を防ごうとするが、それでもあとからあと  
から音は押し寄せる。  
よろよろと立ち上がり、何とかホールから出て扉を閉める。  
光の頬に涙が流れる。  
葉音が光に突きつけたもの、それを自分は受け止められるだろうか  
不安が心の中をうずめいていた。  
 
光は船のデッキに上がり透き通るような青い空を見上げる。  
まばゆいばかりの太陽の陽がさんさんと降り注ぐ。  
ここまではオーケストラの音もピアノの音も届かない。  
海のきらめきと優しい潮風は光の心に何とか落ち着きを取り戻さ  
せてくれる。  
 
あれからどれくらいこうしているだろう。今頃はたぶん決着はついている。  
たぶん、「奇跡」を起こす幸子はこの試験には残れないだろう  
あのピアノを聞いてわかった。  
この試験の意味が、学長のねらいが  
あのピアノを聞いてわかった  
葉音は言った言葉の意味がやっと分かった。  
『DEVILには勝てないかも』  
葉音自身がDEVILであったから  
その言葉の意味が、重みが、そして痛みが伝わってきた。  
『私はなにを葉音にいったんだろう』  
抜けるような青空の下ますます気分は沈んでいく  
 
「どうしたよ」  
光に声がする方に顔が向けるとノッティがたっていた。  
「あんたは?  
 早すぎるんじゃない?こんな所にいるには」  
「律子さんにピアノの前から引きずりおろされた」  
「そう」  
「そうって、それだけかよ、感想は」  
「うん」  
「あーあ、どうしちまったかな。  
 オレはただ世界一になりたいだけなんだけどな  
ややこしすぎるな。なにもかも」  
「そうね」  
本当にそうだ。どこでこんなにこんがらがってしまったのだろう  
「今日は無事におわりそうね  
 律子さんに挨拶して私も帰るわ」  
「そっか」  
ノッティと光は律子の部屋の前までやってくる  
光がノックするが答えがない  
「あれ、とっくに戻ってるはずだけどな」  
不思議そうにいうとドアのノブを回すとスッとドアが開く  
ノッティが部屋の中へ入っていく。それにつずいて光も入  
っていくと突然立ち止まってしまったノッティにぶつかる  
「なによ。もう」  
文句を言うがただノッティは呆然と立ちすくんでいる  
光はノッティの向けている視線の先にあわせる  
するとすごい悲鳴が聞こえる  
どこから?誰が?  
それが自分の上げた悲鳴だと気づくのにこんなにも時間がかかるなんて  
思いもしなかった。  
洗面所の流れ出す水の中に真っ白のドレスを着て顔をうずめて動かない  
律子を見たからだった  
 
 

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