放送終了後の展開を予想  
 
唱吾の裁判が結審して8ヶ月が過ぎた。刑務所に収監され、独居房から雑居房に移され慣れぬ生活を強いられている。  
就寝前の自由時間はわずかな時間に、皆思い思いにくつろいでいる  
唱吾も一人静かに過ごしている  
「しかし、見事なものだな」思わずつぶやく。  
水無月家の報復はまさに見事なものだった。  
唱吾の築いた隠し資産も、背任行為をたてにほとんど全てを取り返された。  
実の母親片岡久枝も数々の犯罪の賠償金を支払う為に、もはや一文無しの状態になっている。  
こうなっては弁護人は私選をつけられず、やる気のない国選弁護人に頼るしかなかった。そして選択の余地はなく判決  
に従う他なくなった。  
また水無月家の顧問弁護士からも、家名を汚すから水無月の名も捨てる様に迫られ片岡の姓になった。  
そして受けた判決は懲役二十年、人を手にかけ、育ての母さえも手にかけようとした身勝手な犯行。  
それは確かに軽い刑であるのかもしれない、でも、失ったものの大きさとこれからすり潰されていく自分の未来に心も  
重くなってしまうのも仕方がないのかもしれない。  
 
「点呼」刑務官の号令が響く。「1,2,3,..」同室の仲間に合わせて正座して  
「6」と返事をする。東都音楽大学の金の流れを一手に引き受け、水無月家の全てを狙っていた男は消え、2204番と  
いう番号で呼ばれる囚人がそこにいた。  
 
秋になり、風も冷たくなってきた。  
「2204番、手紙だ」  
「ありがとうございます。先生」刑務官にお辞儀して受け取る  
森歌乃からであった。彼女は唱吾が逮捕されたときにも、真っ先に面会に訪れてくれた事を思い出す。  
「どう、元気?」彼女は相変わらず、元気一杯で美しい  
「うん」唱吾はつぶやく様に答えた。  
彼女はいろいろ出来事を話してくれる。身近な出来事、とりとめのない話も時間が止まってしまった唱吾には本当に救いになった。  
「私じゃなくておじさんがここに入るだなんてね」歌乃は昔を思い出していた。  
スリを重ね警察の世話になることもあった。そんな歌乃をどんな形にしろ、救い上げてくれたのは唱吾であったから。  
「私ね、この面会の時にね。どんな関係ですかって聞かれたから、婚約者ですって答えたの」  
「え......」  
「その方が、色々手続きも楽なんだもん」歌乃はペロッと舌を出す  
「おじさんも、そういうことにしといてね」  
彼女はそう言い残すと面会室を出て行った。唱吾はあまりのことにあっけにとられた。  
そんな、歌乃からの手紙であった。  
相も変わらず、近況報告に始まり、話題は最近始めた仕事のこと「葉音の様な目が見えない人々の手助けをしたい」って盲導犬の  
訓練士の見習いを始めたこと、その熱意と頑張りは唱吾にもよくわかる。思わず笑みがこぼれる。歌乃の幸せは唱吾にも嬉しかった  
そして手紙の最後に「私はあなたが刑を終え出てくるのを待ってます。いつまでも」と書かれてあった。  
唱吾はそれをありがたいと思った。  
 
れから何回の夏が過ぎただろう、歌乃は変わらず折りにつけ手紙を送ってくれる、服役して  
1年が過ぎてからは面会にもたびたび訪れて、唱吾をはげましてくれている。  
「何故、君は僕を気にかけてくれるんだ」唱吾はずっと気になっていたことを聞いてみた。  
歌乃は少女だったあの時から日を追う毎に美しい大人の女性になっていた  
「私、救急車の中であなたに手を握ってもらって話してくれたこと本当に嬉しかった。  
 あの時から私、あなたのことを愛しているの。  
 あなたは私を利用したいただけかもしれない、  
 でも私はあの時初めて私は地獄からすくいあげてもらったのよ」  
唱吾は顔を伏せた。こんなに惨めな自分にこんなにも暖かい言葉を書けてくれる人がいる。  
それだけで、生きていける、そう思う。  
唱吾の頬に涙が流れる。  
 
逮捕されて刑に服してから十数年が過ぎようとしている。  
そして唱吾にも仮出所の機会が訪れた。嬉しさと、怖さが入り交じっている自分に戸惑いがある。十数年は決して罪を償うの  
に十分な時間ではないと判っている、その罪の大きさと償いを考えると決して手放しで喜べるものでもない。  
でも、それでも刑務所から出られるそれだけでこみ上げてくる喜びもある。  
唱吾はまず、歌乃に仮出所出来そうだと手紙を書いた。  
今の正直な気持ちを、恐れも期待もありのままに。  
 
歌乃からの返事はすぐに来たが、その返事に歌乃は唱吾を混乱させるものであった。  
「仮出所ほんとうによかったね。あなたが真面目に刑を償う態度が評価されたのでしょう。  
 本当に、本当におめでとう。  
 実は、私はあなたに謝らなくてはいけないことがあるんです。  
 あなたに伝えなくてはならないことが  
 ずっと、ずっと伝えたかったのに、言えなかった  
 あなたに会いたい。あって話したい、私はあなたが刑を終え出てくるのを待ってます」  
歌乃が唱吾に言えない事が、唱吾には想像できない。  
一体どういう事なんだろう。唱吾が歌乃に謝やまらならなければいけない事はあっても逆はないはずだ。  
あの事件のことだろうか?それとも歌乃自身のことだろうか?  
不安になった。  
 
唱吾の仮出所したのはそれからすぐのことだった。保護司の元に出向き今後の生活について話をした。「正業に就くこと、2週間に  
1度は保護司に出頭すること」もちろんその他にも細かい決まり事はある。「酒を飲んではいけない」もし一滴でも飲めばそのまま  
刑務所へ逆戻り、もちろん車を運転をして違反をして捕まっても刑務所へ逆戻りである。  
そう、あくまでも仮出所は「仮」出所なのである。  
保護司がこれからのどうするつもりかと尋ねた。  
「これから、鍼灸師の学校に通い、夜はアルバイトでやっていくつもりです」  
「そうかい、でも勉強しながら働くのはとても大変なことだよ」  
「判っています。頑張ります」そう答えるのがやっとだった。  
 
仕事を終え、疲れ切った体を引きずる様に暗いアパートに帰ってくると、ドアの前に人影があった。  
「どうして、私の所に来てくれないの?」歌乃であった。  
「もう、仮釈放になってから、何ヶ月が過ぎてるって思ってるの」彼女はあの頃と変わらない、いや、  
確かに大人の女性にはなった。でもあの頃の元気一杯で美しい歌乃の雰囲気は何も変わっていない。  
唱吾は歌乃を自分の部屋に招いた。本当に何もない部屋だった。生活する暖かみを唱吾自身が拒否  
している様にさえ感じられる。  
 
唱吾は答えた  
「君が、手紙で僕に謝らなきゃいけないって、書いてきただろう  
 それが何なのか、想像すらできなかった  
 あの事件のことなのか  
それとも、君自身のことなのか?  
 もしそれを聞くと君に二度と会えない様なる気がして怖かったんだ」  
 
本当に怖かったのだ。この世の中で一人になることが、孤独になることが。  
 
「ごめんなさい。私があなたを苦しめているなんて  
 私、あなたに秘密していることがあるの  
 言えばあなたに負担をかけるだけだと思ったから言えなかった  
 あなたを苦しめるつもりはなかったの」  
ふーっと深く息を吸い  
 
「つまりね.......こういうこと」歌乃は携帯電話を取り出し誰かに電話をする  
 
「私よ、すぐにここに来て」  
 
誰に引き合わそうと言うのだろか?判らない。  
 
ドアがノックされ開けられた。そこには一人の少女が立っている。  
唱吾は少女の顔を見て驚いた。そうそこにはもう一人の歌乃がいるのだ、しかも、はじめて二人が警察署の前で  
出会った頃の歌乃そのものの少女が立っていたのである。  
「ど、ど、どういうこと」歌乃が二人いる。な、何で  
「おかあさん、ひどいよ、子供を一人こんな夜中に.....  
 んで、この人が?」その少女は歌乃に文句をつけている姿も昔の歌乃にうり二つであった  
「もしかして、歌乃君の娘さんかな?」唱吾はおそるおそる歌乃に聞く  
「そうよ  
 私の若い頃に似てる?」  
秘密とはそういうことだったのか。  
そうか、歌乃は幸せに結婚してこんなに可愛い娘さんまでもてたんだな。『良かったな』心底そう思える。  
塀の中でも歌乃の幸せを祈っていたから。  
僕にそんな気を遣わなくてもいいのに..........そう思う唱吾に  
「唱吾さんと私の名前から一文字ずつとって、唱乃って言うのよ」  
「何故、僕の名前から.....?」  
どうしてなんだ。『え』  
「おかあさん、話が違うじゃない。お父さんは、すごく格好いいて言わなかった!  
 タバコを吸う姿も超格好いい!  
 ダンディを絵に描いた様だって  
 さんざん、私に自慢してたよね」そこまでいうと、唱乃は唱吾の顔をまじまじと見て  
「趣味悪すぎ!」と断言する  
「え、格好いいじゃない。昔と全然変わってないわよ」歌乃は唱吾の顔をこれまたまじまじと見ながら言う  
唱吾はだんだんと居心地が悪くなってきた  
『どういうことなんだ。これは  
 この会話の流れは、つまり.......』恐る恐る歌乃に尋ねる。  
「歌乃君、唱乃ちゃんの父親って、まさか?」唱吾は自分の顔を指さす。  
「そう」歌乃が微笑む。  
 
「え.......」  
唱吾は絶句する。2回目のピアノ試験後、病院で治療を受けさせて、歌乃をマンションへ送り届けたとき  
1回だけ歌乃と関係を持ったことがある。あとにもさきにもあのとき、1回だけ...........  
「え.....?.」  
あのとき歌乃は安全日だからって、大丈夫だって言っていたはずだ。唱吾のそんな思いを読み取ったのか歌乃は  
「計算間違えちゃった........みたい」  
ペロッと舌を出す歌乃は昔のままの茶目っ気たっぷりの元気で、美しい歌乃であった。  
「ごめんね。黙っていて.....あなたに心配かけたくなかったから  
 子供が出来たとき本当に、本当に嬉しくって....  
 でも、あなたが刑務所に入って私も不安になちゃうし  
 何度も、何度もあなたにこのことを言おうと思ったの  
 でも、もしあなたに反対されたらどうしようって怖くなって、言えなくなっちゃった  
 本当に、ごめんなさい」  
歌乃は頭を下げる  
「許してくれる?」  
歌乃はあのころからずっと一人で、唱乃を育ててきたのだ。  
誰にも頼ることもなく、唱吾にさえ打ち明けることなく  
それが、どれほど大変で、つらかったことか  
「許すも、許さないもないよ、僕が全て悪かったんだ、本当にありがとう」唱吾は歌乃の優しく手を握る  
その言葉を聞いて歌乃の目から涙がこぼれる  
「やっと、親子3人がそろったんだもの、  
家族そろって、暮らせるのね」歌乃が言ってくれる。  
家族で暮らす?それは唱吾にとっては夢みたいなことだ。でも殺人犯で仮出所中の自分が彼女たちの傍  
にいたらそれだけで迷惑をかけてしまう。それだけは出来ないから  
 
「僕みたいな、人間が君達と一緒じゃ迷惑をかける事に.......  
 僕はこれまで通り一人でいいよ  
 君達の、自分たちの幸せを一番に考えてくれ」  
唱乃言葉に歌乃は首を振る  
「私はあなたと唱乃と3人で暮らすことが夢だったのよ  
 それが一番の幸せなの」  
「僕はまだ仮出所中の身だ  
 酒だって飲めない、もし一滴でも飲めばそのまま刑務所へ逆戻りになる、  
 車を運転をして捕まっても刑務所へ逆戻りになる  
 そんな男が君達の傍にいたら迷惑だけかけてしまう」  
つらかった、本当は二人と一緒に暮らしたい。でも、二人に迷惑をかけることは  
 絶対に出来ない。そんな唱吾に歌乃は  
「お酒なんて、私が絶対に飲ませない  
 車の運転だったら  
 私凄くうまいんだから、私がやればいい  
 家族がやっと揃ったんだもん  
 一緒に暮らそうよ、ね....一緒に暮らそう」  
歌乃の目に涙が溢れる。唱吾の手に歌乃の柔らかで暖かい手が重なる  
「お父さん、私達をもう悲しませないで!  
 私もお父さんと一緒に暮らしたい  
 ね、お父さん」  
唱吾は声を上げて泣いた。本当に嬉しくて、涙が止まらなかった。  
 
 
 

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