「何よ馬鹿じゃないのあんた!」自分でもこんなに途切れず罵声が口をつくのが不思議だった。  
「人の話聞いてるの!何度同じ事言わせるのよ!」私は何度同じ事を彼女に言ったのだろう  
彼女は私の罵声にも表情を変えるわけでもない、ただ黙ってうつむくだけ  
「ねぇ、あんたも何か言いたいことあるんだったら言いなさいよ」  
「言いたい事なんてない、何も」  
彼女は私より2つ年下で、私の働く施療院で同じマッサージの仕事をしている。本来ならマ  
ッサージの仕事は視力にハンディキャップのある彼女のような人々の少ない働き口だったの  
だが、近頃はスポーツマッサージや癒しとか私達の様に目が見える人間の方が有利に仕事が  
出来る様になってきて、つまり私達はそういう人たちの生きる場を狭めながら生きているっ  
て負い目もあるし、彼女にも優しく接するつもりだったのに  
「あんた、お客にも、私達にも口も聞かないの」  
彼女は何も答えない。  
『私の事を馬鹿にしてるの』『どうして....』『どうして......』  
なんだか怒りが沸いてきた、それは確かに理不尽な物だ、が、  
許せなかった。  
『あんた、目が見えないから同情して貰えるって思ってるの』  
心の中の声が目の見えない少女を責め立てる。なにか言って欲しかった。自分の考えを、もし  
私達が悪いのなら言っても欲しかった。でも彼女は沈黙するだけ  
彼女はもしかしたら私の醜い部分を目の前に引き出すために、ただそれだけの為に沈黙を守っ  
ているのではないかと考える事もあった。  
私の醜い部分に火をつけ、それをこんな風に引き出す。  
『彼女を消してしまい。彼女をいじめる私達が悪いんじゃない、彼女が悪なのだ、彼女が原因  
なの、彼女は.......』  
私の怒りは頂点に達した。彼女の襟をつかんで、顔を引き起こす。  
目が見えない彼女は知らないだろう、自分の顔がどんなに美しいか、私がどんなに望んでも彼  
女の様に美しくはなれない。『壊してやろう』  
引き起こした顔に手を大きく振りかぶって彼女の頬を殴った。  
バシッという音とともに彼女が倒れる  
 
バタリと倒れた彼女を目で追う、両手を付きなんとか起きあがろうとする。私は彼女の耳に唇を寄せる。  
「あなたのせいで私の手が痛くなっちゃった。どうしてくれるの?」  
彼女は這って少しでも少しでも遠ざかろうとする。私は彼女の手に狙いをつけて思いっきり蹴る。  
ドウッと倒れて思わず呻き手を押さえる彼女の背中に馬乗りになる。  
「あーあ、足まで痛くなっちゃった。本当にあんたってどれだけ迷惑かけたら気が済むの?」  
彼女が私の下で苦しそうに呻いている。  
「ど、う、す、る、の?」私の声に彼女は微かに震える。  
「許して」震える小さな声でいう  
「あーーー聞こえない、それに人に物を頼むならもっと言葉使いを考えなさいよ」彼女の背で小さく飛び  
お尻で圧迫する「グハ」彼女が悲鳴を漏らす。「さぁ、どうするの?」  
「許して下さい。お願いします」彼女は悲鳴の様に一気に言う。「心がこもってないナーーもう一回」  
「許して下さい。お願いします」彼女の声に泣き声が混じっている様に聞こえる。「許して下さい。お願いし  
ます」彼女の声が私の望む声になる。そう私にも誰にも見せない感情が入った人間の物に,,,,  
「もう一度」「許して下さい。お願いします。助けて下さい」彼女の声はすすり泣きに変わっていった。  
「あーん素直にしてたら私だってこんなことしなかったのになぁ」また思い切り彼女の背で飛び彼女の胸  
をつぶす。彼女は俯せになりすすり泣きながら、目から流れる涙を拭っているのであろうか。私は彼女の  
表情を見てやろうと肩に手をかけ顔を引き起こす  
「さぁ、泣き顔を見せてみな........」  
私は凍り付いた。彼女は笑っていたのだ。見えぬ目で私を見据えながら「ウフフ.....フフ」彼女の美しい  
唇が私の唇に口づけしてこういった。「あなたの心くらい手に取る様に判るのよ、あなた女の子が欲し  
いんでしょう」  
彼女は私の首に手を回した。彼女の美しい悪魔の様な笑顔は一瞬で私を虜にした。  
「ウフフ.....フフ」  
 
 私は高校生の時同級生の女の子に告白をしたの  
それはもう胸がつぶれそうな思いだった、苦しくて苦しくて堪らなかったの。女の子に  
告白なんておかしいって心の中に閉じこめてたけどもう心を止められなかった。そし  
てついに告白したの。 でもね、あくる日から私はもう学校中から変態扱い。彼女が  
みんなに面白おかしく話したの、そしてみんな私を見て笑うのよ  
「あーあれか、レズの女って」  
それだけじゃない、クラスメートは私が触った物は「変態がうつる!あばないぞ!」  
って言い始めて終いには誰も私とは喋ってくれなくなった。  
 ただ、好きな人に思いを打ち明けただけなのに  
 ただ、私の心を知って欲しかっただけなのに  
 そしてもう、私は人を好きにならないって決めた.........もう、誰も愛さないって.........  
全てを忘れてこの町に来たの。誰にも私の本当の姿を知られない様に注意して暮ら  
してきたの。それなのに  
   
「私があなたの前にあらわれた」彼女の美しい唇が言葉を紡ぐ  
「そう、一目見て私はあなたに恋をしたの、もう二度としないと誓っていたのに」  
「私にも あなたの気持ちはすぐにわかったの」  
「じゃぁ、どうして、どうして私にこんな事させるの」  
彼女の腕を見る。私が蹴った跡が青く、くっきりと痣になっている。  
私は彼女の腕を取りその痣にキスをする。  
「どうして?」「どうして?」私の問いに彼女は答えない。私は彼女の腕へのキスを続け  
る。彼女の答えが欲しい。私をどう思っているの?  
「私にはあなたが必要なの。もうすぐある人が私を迎えに来るの。可哀想な少女を、不  
幸な少女を...その為に不幸な少女を虐げる、意地悪な同僚が必要なの」  
「そんな........」私は彼女にそんな風に利用されているいだけなんて  
「私に利用されるのは嫌?」彼女は私に問いかける。「嫌じゃない....けど、誰があなたを  
迎えに来るの?」彼女は笑う。「あなたは自分の役割だけ果たしてくれればいいの!」  
「そのかわり今は私を自由にしていいのよ.........」               
 
 
 

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