バレる。  
誰にバレなくても羽山には絶対にバレる。  
頭の中は、あの番組を見たかもしれないクラスの皆や風花、  
それに羽山がどうリアクションをするかで一杯だった。  
直澄の住むマンションへと急ぎながら紗南は、トークの中で直澄の口から  
零れた言葉を必死に思い出そうとしていた。  
 
「僕はもうとっくにふられてますから。」  
「紗南ちゃんには別に好きな人がいるんですよ。」  
そんな感じだった。  
それに、  
普通の人で、同じ学校で、空手を習ってる。  
・・・・・・・って。  
 
直澄のバカ!バカバカバカー!!!!  
紗南は夜空に向かって拳を振り上げながら直澄を罵った。  
 
「やあいらっしゃい。」  
 
けれど、そんな紗南の焦りを思い遣る気配もなく、直澄は屈託なく  
彼女を出迎えた。  
もうシャワーも済ませたのか、さっぱりとした様子でおまけに  
バスローブまで着てのんびりと寛いでいる雰囲気なのが妙に癪に障る。  
「直澄君!あんた一体どういうつもりで・・・・・・!」  
いきなり勢い込んで相手を責めようとすると、直澄がすっと手を上げて  
紗南を制した。  
 
「・・・・・・・・何よ。」  
「ちょっと待って紗南ちゃん。ちゃんと・・・・・・・・ゆっくり  
話を聞くから。」  
そう言うと直澄はマネージャーに声をかけた。  
「ねえ。ちょっと紗南ちゃんと込み入った話があるんだけど。  
ほら・・・・・・僕達の生い立ちにも関わる話も出るかもしれないから。  
申し訳ないんだけど、少し席外して貰えないかな。」  
 
強面そうでいて実は気が優しい直澄のマネージャーは、勿論  
紗南と直澄が同じ孤児院の出身だという事を知っている。  
多くを尋ねる事なくに、直澄の要求をあっさりと呑んだ。  
「お、じゃあオレ、久しぶりにサウナでも行ってこようかな。  
紗南ちゃんも・・・・・・家じゃあんまり遠慮して出来ない話も  
直澄相手なら話し易いだろ。ゆっくりしていって。な?」  
そう言って笑顔で部屋を出て行く。  
 
「さて、と・・・・・・・。」  
たった今までニコニコ顔で手を振って、玄関を出て行くマネージャーを  
見送っていた直澄は、やおら向き直ると無表情のままリビングの  
アームチェアに腰掛けた。  
「で?話は何?」  
「何ってあんた・・・・・・・」  
紗南は、いきなり雰囲気が変わった直澄に正直面食らった。  
 
直澄は今自分を、まるで冷たいと言ってもいいような目付きで見ている、  
と紗南は思った。  
 
「だから・・・・・・・・テレビであんな事言って。私だってそりゃもう  
困ってんの。それに直澄君!あんな事言ったら直澄君のイメージダウン  
だって大変だよ!?何で!」  
「何でって。言いたくなっちゃったんだから仕方ないだろう。」  
「言いたくなっちゃったってアンタ・・・・・・・・・・・」  
紗南は言葉に詰まった。  
直澄にあんな事を全国に公開されて実際困っているのは自分なのに、  
どうして直澄は自分の方が傷ついたような顔をしているんだろう。  
 
「僕が・・・・・・・・」  
「え?」  
「僕が平気であんな事言ったとでも思うの?」  
「いやだって。言いたくなって言ったんなら平気・・・・・・・なんじゃないの?」  
何となく直澄の出方を伺うような聞き方になる。  
「平気なワケないじゃない。胸の奥が痛くてずっと血が流れてるみたいだ。」  
「ちょっと直澄君、アンタ・・・・・キャラ違わない?」  
笑ってみてもシリアスな反応しか帰って来ない。  
「そうかな。僕は元々こういう人間なんだよ。ほら、ここに大きな傷口が出来て  
さっきからずっと痛いんだ。」  
直澄は、紗南の手首を取るとそのまま手を引いて自分の左胸に紗南の手の平を  
押し当てさせた。  
「直澄君!ちょっ・・・・・!」  
 
まるで『シェー』のような大袈裟な反応を示しながら紗南が一メートル  
後ろへと飛びすさった。  
直澄が漸く少し笑うと立ち上がって紗南の近くへと寄る。  
「・・・・・・・・逃げないでよ。」  
「べべべべ別に逃げてなくってよー!?」  
おほほほと高笑いをしながらも、直澄の様子のあまりの不穏さに紗南の表情は  
引き攣っていた。  
「『・・・・・・なんてね。』とか言って笑って、くんないかなあ。」  
だって、こんなの何だか直澄君らしくないよ。」  
二人の間に横たわる今までに経験した事のない緊迫感に、紗南の口から  
弱々しく言葉が漏れた。  
「僕らしくない?」  
いやだから、その変な笑い方やめてちょーだいよ頼むよ。  
と紗南は思った。  
「そうだね。僕はずっといい子だったんだ。・・・・・・・いい子にして  
いなければ生きて来れなかったからね。僕はいい子で、誰にも嫌われないように  
精一杯頑張って来たんだけどね。」  
どことなく投げやりな言い方だった。  
「そして僕は誰よりも紗南ちゃんに嫌われたくなかった。僕がずっと・・・・・・  
どんな思いで君を見続けていたか、知ってる?」  
 
知ってる?  
と聞かれれば、知りながら見えない振りをしていた直澄からのたくさんの  
好意と愛情を、紗南はいくらでも思い出すことが出来た。  
「・・・・・・・・直澄君は、いつでも私の一番の味方だったよ。いつも親切で  
優しくて・・・・・・・・・。」  
「だけどさ、悪い子だった方が紗南ちゃんに気にして貰えて、優しくして貰えたんだよね。  
どうしてもっと早くそれに気付かなかったのかな。」  
 
羽山の事だ、と察しの悪い紗南にしては珍しくすぐに気が付いた。  
「・・・・・・羽山だって色々辛い事、たくさんあって・・・・・・!」  
「聞きたくない。」  
直澄の声は硬かった。  
「居場所があって、悪い子にしていても飢える事も寒い思いをする事もなくて、  
それで紗南ちゃんに心配して貰って、そんな場所のありがたさに気付きも  
しないような奴の話は今は聞きたくないんだ。」  
「・・・・・・・・直澄君・・・・・?」  
紗南が直澄の口からこんなにもはっきりと他人への好悪の感情を聞いたのは  
初めての事だった。  
「だから僕は賭けをしたんだ。今日の番組の放映後、もし紗南ちゃんが真っ直ぐ  
羽山君の家へ行ったら・・・・・・・そうしたら本当に君の事を諦めようって。  
だけど君は、まずここへ来たよね。もし君が先にここへ来たら、僕はもう  
いい子を演じるのを止めて、君に対して正直になろう、って。  
そう決めたんだよ。」  
「いやアンタ、いつでもアタシに対して正直だったじゃん。」  
うろたえるように言う紗南に、直澄が唇だけで笑った。  
「それがそうでもないんだよね。」  
 
「そうでもない?へ、へえええーーーーーー。」  
精一杯強がって見せる紗南に直澄は苦笑を零した。  
「別に取って食おうとしてるんじゃないから。そんなに硬くならないでよ。  
例えば・・・・・・・・そう。ねえ紗南ちゃん、僕とキスしてみない?」  
 
こいつはいきなり一体何を!  
 
と紗南の笑顔は硬直した。  
「キ。キキキキキ。キスってアンタ・・・・・・・・」  
歪んだ口元で笑い続けようとした紗南は、いきなり目の前が暗くなり  
その歪んだままの唇が何かに覆われた感触に愕然とした。  
直澄、アンタ一体何を!  
と叫ぼうとした言葉はそのまま飲み込まれた。  
直澄の腕が紗南の体に回って硬く抱き締められる。  
押し付けられた唇は自分がほんの数回触れただけの物よりも  
少し薄くて少し熱かった。  
 
やめて!  
・・・・・・・・・羽山・・・・・・・!  
 
不意に羽山の顔が脳裏に浮かんで、何とか身じろぎをしようとしたが  
その腕を振りほどく事が出来ない。  
そして、立ちすくむままの紗南の唇を輪って、今度は生暖かい物が入り込んで来た。  
「・・・・・・いやっ!」  
反射的に入り込んだ物を思い切り噛んでしまい、そのために  
緩んだ直澄の腕を振り払って、紗南は涙目で睨み付けた。  
「嫌だ!こんな直澄君、私嫌だ!」  
直澄は下を向いて口元に拳を軽く当てていた。  
見ると、その青白い手の甲の浅い溝に、唇から漏れた血が伝わっている。  
「あ・・・・・・・・ごめん。怪我、しちゃった・・・・・・?」  
誰かを傷つけることを本能的に厭う紗南は、自分の気持ちが傷つけられたよりも  
先に、直澄の怪我を憂いた。  
 
「・・・・・・・ひどいな、紗南ちゃん。この程度のキス、いつも  
羽山君としてるでしょ?」  
うつむいたまま目だけを上げて直澄が言った。  
「してないよ!」  
間髪を入れない紗南の答えに直澄が面白そうに目を見張った。  
「ふうん、なんだそうなの。じゃあ・・・・・・・僕もそんなに焦る事なかった  
のかもしれない。だけどね紗南ちゃん・・・・・・・・。」  
直澄が顔を上げた。  
「僕はもういい子でいるのはやめた、って。そう言ったよね。  
だから教えてあげるよ。舌は、噛まないでくれる?」  
「し!しししし舌とか言うな直澄!」  
紗南は玄関のある辺りを頭の後ろについた目で探ろうとした。  
 
確かリビングの・・・・・・ベランダと反対側に玄関があって・・・・・・  
だけどその前にキッチンのカウンターにぶつからないように気をつけて・・・・・・・  
「・・・・・・・・逃がさないよ。」  
直澄が紗南の背後、玄関ドアへと通じる廊下の前に立った。  
「直澄!頼む!!もう勘弁してくれ!私が悪かったならいくらでも謝るから!」  
この期に及んでも何とかお笑いで済ませてしまいたい紗南は必死だった。  
「謝ってくれなくていいよ。キス、してくれれば。」  
腕を掴まれた。  
「噛まないでね。」  
耳元を息が掠めるように囁かれた言葉に、何故か紗南の体が震えた。  
直澄の髪は細くて柔らかくて、紗南の頬をそっと撫でるように動いて  
そしてもう一度紗南の唇が塞がれた。  
 
「んっ・・・・・・・・!」  
掴まれたままの腕を動かして直澄の胸を何度も叩いても、相手はびくともしなかった。  
入り込んで来た舌は、先程のような衝撃はもたらさなかったものの、今度は  
直澄の血の味がして、何だか不思議な感覚を紗南に与えた。  
 
まるで、直澄君の心の痛みみたいな味だ・・・・・・・・・・  
 
どうしてそんなふうに思ったのだろうか。  
直澄の舌はまるで生き物のように動いて紗南の理性を奪って行った。  
やめてよ直澄君・・・・・・・・  
私、羽山に会わなきゃ・・・・・・・・  
明日、学校で会ったら何て言ったらいいのか考えなきゃ・・・・・・・・  
私、羽山の事が好・・・・・・・・・・  
 
 
 
「・・・・・・・・紗南ちゃん?」  
 
いつの間に直澄の唇が自分から離れていたのだろうか。  
ぼうっとなってしまっていた自分に気付いて紗南は真っ赤になった。  
「そんなに上手?僕のキス。」  
だから。  
いやお上手お上手!さすがキスさせたら天下一品!  
とか何とか。  
そんなふうに言わなくちゃ。  
言わなくちゃいけないのに・・・・・・・・・  
 
紗南の口からいつものような言葉は出て来なかった。  
「・・・・・・・・ひどいよ、直澄君。」  
直澄は次の言葉を楽しむかのように首を傾げている。  
「私が・・・・・・・羽山のこと好きだって・・・・・・・知ってるくせに。」  
「ひどいのは誰だよ。僕は紗南ちゃんの気持ちを知ってるから、理解して協力して  
・・・・・・・君のためになるなら僕は何だってやってきたし、これからだって出来る。  
だけど・・・・・・・だけど羽山君は紗南ちゃんのこと、全然大切にしてないじゃないか!」  
「だってそれは風花が・・・・・・・・・!」  
 
自分達が映画のロケーションで長い留守にしていた間に、羽山と風花の間に  
何があったのか、実際の所紗南は詳しくは知らない。  
けれど、今二人が付き合っていて幸せでいるのならば、何も自分が  
割り込んで行って波風を立てる必要もないと紗南は思っていた。  
「あんたまさか、羽山が困る所を見たくて・・・・・・・それであんな事言ったの!?」  
「違うよ。」  
直澄はあっさりと言った。  
「自分が手に入れられる筈だった宝物をみすみす見逃して、その辺の誰かで  
間に合わせている羽山君が、がっかりする所を見たい気持ちは少しはあったけどね。  
だけど本当は・・・・・・多分・・・・・・・そうだね。僕はもう、僕自身の  
気持ちに正直になりたかったんだよ。  
紗南ちゃんの事が好きだって。誰にも渡したくないって。そう言えるチャンスを  
作りたかったのかもしれない。」  
「直澄く・・・・・・・」  
「ねえ紗南ちゃん。」  
いきなり雰囲気を変えるかのように直澄が言った。  
「僕が、今までにもう数え切れないほどキスした事あるって言ったら、信じる?」  
「え!?えーー!!マジですか?」  
唐突な問い掛けに紗南は面食らった。  
「じゃあさ、数え切れないほど女の人と寝た事あるって言ったら、それも信じる?」  
さすがにそれはないだろうと思って紗南は笑った。  
「嫌だなー。急に何言い出すかと思ったら。」  
 
直澄は紗南の胸が痛くなるような笑顔でほほえんだ。  
「紗南ちゃんは・・・・・・・・実生活でも芸能界でも・・・・・本当に  
愛されて生きて来たんだね。」  
「直澄君・・・・・・・?」  
「さすがにマネージャーが自分の首かけて社長に談判してくれてね、僕は幸い若い女性相手  
だけだったけれど。よくある話だよ、こんな事。それにほら、僕は毛色がちょっと  
変わってるからね。可愛がられるらしいんだ。」  
まるで他人事のように淡々と語る直澄に、紗南はかける言葉がなかった。  
「だからさ、今が生まれて初めてなんだ。・・・・・・・・本当に好きな子とキスしたの。」  
こいつ、エロ仕掛けの次は泣き落としかよ!  
紗南はそう思った。  
思ったけれど、何故か足は動かなかった。  
「紗南ちゃんを抱き締められて・・・・・・僕は本当に嬉しいんだ。」  
 
帰らなきゃいけない。  
ここで直澄君の腕を振り切って自分は家に帰らなければ。  
そう頭の中のアラームは鳴り続けているのに、紗南の足は動かなかった。  
 
直澄の手が紗南の腕を掴んだ。  
「紗南ちゃん、僕の部屋へ来て。」  
へへへへ部屋で何すんですかー!  
と、泣き笑いのような表情を作りながら、紗南は直澄に腕を引かれるまま一つのドアの前に立った。  
「どうぞ。」  
直澄がドアを開けて部屋の中へと腕を差し出し紗南を促した。  
「え・・・・・・・ここ・・・・・・?ここが直澄君の部屋なの・・・・・?」  
開いたドアから一瞥しただけで見て取れる、あまりにも殺風景な部屋が紗南の眼前にあった。  
まるでビジネスホテルの一室のような、無機質で温かみのない空間に、紗南は眩暈を起こしそうになった。  
 
だって・・・・・・羽山の部屋にだって恐竜のオモチャくらいあったのに・・・・・・・  
 
あの、家族から愛されていないとヒネて、周囲の全てを拒絶していたような頃の羽山の部屋にも思い出の品が置いてあった。そして、羽山がどんどん変わっていくに連れて、あの部屋にも物が増えて、今では汗臭い空手着が転がっていて・・・・・・  
 
「・・・・・・・直澄君・・・・・・・・。」  
 
「・・・・・・・そんな顔しないでよ。別に、寝に帰るだけの部屋だから不自由はしていないんだ。片付いている方が好きだしね。」  
 
一歩部屋の中へ入って周囲を見渡した紗南の背中で、静かにドアが閉まった。  
きちんと整えられた机の上、何一つ落ちていない床。棚の中にも本棚にも、あるべき物がきちんと置かれているだけで、そこには直澄の思い出も興味の対象も、何も飾られてはいなかった。  
 
「僕には、紗南ちゃんだけだったんだ。もうずっと昔から。」  
 
ふいに背後から声が聞こえたので振り向くと、ベッドボードに一枚だけ置いてあった写真を直澄が手に取って眺めている所だった。  
写真を収めている綺麗な額は、部屋の中で唯一異質な物だった。  
ナニナニ、と覗くと、そこには赤ん坊だった頃の二人の写真が入っていた。  
 
「・・・・・・・アンタまさかその写真をオカズに・・・・・・・・」  
何だか胸を突かれたような切ない気持ちになって、つい紗南は口走る。  
「・・・・・・・まだ同じ所にホクロがあるのかな、とかって?・・・・・・違うよ。」  
 
直澄が苦笑しながら写真を元の場所に戻した。  
 
「紗南ちゃんが・・・・・・・・赤ん坊のままで、こんなに綺麗になんてならなければよかったのに、って思ってた。いつも。」  
「直澄く・・・・・・!」  
再び紗南を抱き締めた直澄は、そのままベッドへと倒れこんで紗南を上から押さえつけた。  
「君が・・・・・・・誰からも好かれる綺麗な子になって、僕だけの紗南ちゃんじゃなくなって・・・・・・・それから、誰か他の奴を好きになって・・・・・・・って。そいつも紗南ちゃんの事が好きでって。いつも気が狂いそうになるくらい考えてた。」  
「待て!直澄!話せば判る!!!」  
 
自分と同じような細い男の子だと思っていたのに、いつの間に直澄はこんなに力が強くなっていたのだろうか。  
紗南の腕は直澄に押さえられ、びくともしなかった。  
 
「判らない。判りたくないしね。」  
 
ちょっと待て。  
これは何?  
ひょっとしてあたし、今、押し倒されてるー!?  
 
紗南の頭の中は軽くパニックを起こしかけていた。  
直澄が自分に何をするのか、判るようでいて全然判らない。  
目の前の、こんなに綺麗な顔をした男の子が、一体自分に何を出来るというのだろう。  
 
・・・・・・・綺麗な顔・・・・・・・・  
 
自分で考えながら、紗南の思考はそこで一瞬止まってしまった。  
よく考えてみれば、他人の顔をこんな至近距離でまじまじと見るのは初めてだった。  
直澄の髪や瞳は、こんなに薄い色でこんなに綺麗だったっけ・・・・・と思う。  
 
・・・・・・・こんなに綺麗で優しくて、日本中の人気者なのに、直澄君はどうして私の事なんかが好きなんだろう・・・・・・・  
 
ひょっとすると、風花に告白された時の羽山もこんな気持ちだったのだろうか、と紗南は思う。  
別に、嫌いじゃないから、って。  
そう言ってた。  
そんなんで誰かと付き合えてしまったら、本当にラクで楽しいかもしれない・・・・・・・  
 
直澄の顔が迫って来た時も、紗南はまじまじとその表情を見詰めてしまった。  
 
「・・・・・・・紗南ちゃん・・・・・・・あの・・・・・・タイミングを見て目を閉じて貰わないと・・・・・・」  
押しが強いのか弱いのかよく判らない直澄のリアクションに紗南がくすりと笑うと、  
直澄がむっとしたようにいきなり唇を押し付けて来た。びっくりした拍子に目を剥いてもごもごと唇を動かすと、  
直澄が束の間離れた。  
精一杯強がって叫ぶ。  
「息!息が出来ないだろうが!直澄!」  
「目は閉じて。舌は噛まないで。息は・・・・・・・鼻でするんだよ。」  
先程と同じ台詞を囁かれ、紗南の背中が再び粟立った。  
直澄はもう笑ってはいなかった。  
淡々と言いながら紗南の首筋を指で辿り、それからもう一度唇を重ねる。  
二度目とはいえ、他人の舌が口の中に入って来る感触に紗南はぎゅっと目を瞑り、体を硬くした。  
「力、抜いて。まだキスしただけじゃない。」  
直澄の唇が、先程指でなぞった場所に移り、首筋を辿ると紗南の鎖骨の辺りでさまよい始めた。  
それと同時に、右手が器用に動いて紗南の服のボタンを外して行く。  
 
まずい。  
完全にムードに流されてるぞ、私。  
 
 
キスでぼうっとしてしまう自分を持て余し、うろたえていた紗南も、胸元にすっと風が入り込んで我に帰った。  
けれど、え、え、え、ちょっと待て何を、と口を挟む余裕も与えずに直澄の手が着ている物を剥ぎ取って行くので、紗南は直澄の下で何とか腕を動かし、自分の体を彼の視線の前から隠す事に必死になってしまった。  
 
「・・・・・・・見せてよ。紗南ちゃんのお尻のホクロ、まだあるかどうか。」  
「直澄君!お願い!」  
けれど、止めてよ、と頬を真っ赤にさせ、瞳が潤んでいる自分の表情が、直澄の手を更に性急にさせているのだと紗南は気付かない。  
 
「・・・・・・・止められると思ってたんだ。」  
直澄の声も真剣だった。  
「こんなふうに自分を抑えられなくなるなんて考えてもいなかったんだけど。」  
直澄の手が紗南の腕を軽々とどかすと、まだ硬い乳房に触れた。  
 
 
「多分、僕には今しかチャンスがない。」  
 
直澄の唇がもう一つの乳房の頂を摘んだ。  
「嫌っ!」  
びくんと紗南の体が跳ねる。  
直澄の手の平と舌先でで転がされる硬い実が、そこからじんじんと熱を持って体の中におかしな感覚を伝え始めるようだった。  
 
「紗南、僕がいつも君の側にいた事を思い出してよ。」  
 
切羽詰ったような表情で名前を呼ばれた。  
それは、燃え盛る炎の中で、崩れそうな映画のセットの廊下で蹲り、  
動けないでいる自分に届いた声の持ち主の、同じ呼び方だった。  
直澄が、今まで何度も自分を救ってくれていた事を紗南は思い出した。  
 
羽山に呼び捨てにされた時は、あんなに頭に来たのに・・・・・・  
 
しばらくぶりに学校へ行って、ドキドキしながら羽山と話ししたのに、いきなり  
呼び捨てにされた。「風花がそう呼んでるからなんとなく・・・」と言われて  
カチンと来た。  
 
泣いて怒って、バカみたいだったな、私・・・・・・  
 
嫌いじゃないからって風花と付き合ってるっていう羽山に振り回されてる間も  
直澄君はずっと私の事だけ好きでいてくれたんだよね。  
何だか・・・・・頭の中がカラッポになるみたいな気がする・・・・・  
 
そんな事を考えている間も、直澄の手は休みなく動いていた。  
けれど、紗南の抵抗が気持ち緩んだ事にも直澄も気付いていた。  
余裕のありそうな言葉とは裏腹に、直澄の頭の中もまた真っ白だった。  
紗南に語った話は誇張ではない。  
半分は仕事のような気分で誰かとベッドを共にした事も何度もある。  
けれど、名前も覚えていないようなその誰かと、自分が本当に好きな相手との間に  
こんなにも差があるとは思わなかった。  
キスをしただけで、触れただけでいちいち反応を返してくる紗南を見ていると  
嬉しくてドキドキして、自分を抑えきれなくなりそうだった。  
紗南の白い胸を見ただけで心臓が飛び出しそうになった。  
紗南の初心な反応を見れば答えは明らかなのに、「誰かに触れられた事、ある?」  
と聞きたくなる自分を押さえつけるのに必死だった。  
喉を食い破るように紗南に襲い掛かりたいと切望しながらも、その反対に  
ずっとこうしてこの時間を過ごしていたいという気持ちもあって、頭の中が  
ごちゃごちゃになっていた。  
ただ、紗南の抵抗が緩んだ事が直澄に一抹の余裕をもたらした。  
 
紗南ちゃん、僕はもう自分を抑えられないけれど、  
だけど、なるべく君を辛い目には合わせないようにするから。  
 
 
直澄の指が紗南の下腹部にそっと伸びた。  
「待って!そこはちょっと!!!」  
直澄が、自分でも触れた事のないような場所に伸びて、信じられないような  
事を始めようとしている。  
さすがの紗南も思わず叫んで体を引く。  
ぱたんとシーツの上に力なく投げ出してしまっていた両腕が  
反射的に持ち上がって直澄の肩を押そうとした。  
その拍子に、殆ど脱げ掛かっていたバスローブが肩から落ちて  
直澄の上半身が目の前に晒された。  
 
肩の上にも、まだ生々しい火傷の痕が残っている。  
 
「・・・・・・・直澄君・・・・・・まだ、痛い?」  
一瞬何の事を言われているのか気付かずに直澄が紗南の目を覗き込んだ。  
「・・・・ああ、肩や背中?・・・・・・ううん。もうぜんぜん。  
それより、こんな怪我を紗南ちゃんがしなくて本当に良かった。」  
穏やかに言われて紗南の力が緩んだ。  
 
 
「紗南ちゃん、ちょっとごめんね。」  
その隙をつくように、いきなり直澄の指が紗南の体の中に入り込んだ。  
「・・・・・・・何!?直澄君!今、何した?」  
痛みで腰を引こうとしても、直澄はしっかりと紗南を押さえつけている。  
「紗南ちゃんは・・・・・・・どこもまだ、固いから・・・・・」  
直澄の長い指が、紗南の未だ何も受け入れた事のない場所を慎重に進んでいった。  
丁寧に紗南の緊張をほぐしていったつもりだったが、それでも  
時々くすぐったいと言って身を捩り、一つ一つの愛撫にもどう反応したらいいのか  
判らないような紗南の体の奥は、まだ直澄を受け入れる状態には程遠かった。  
直澄の指が、その硬い場所を探りながらゆっくりと動く。  
時々引き攣るような痛みに腰を捻る紗南の髪を漉きながら直澄は何度もキスをした。  
 
 
ようやく、その奥の秘かな場所に生まれつつある、暖かい潤いを感じて、  
直澄はその場所から丹念に指を動かす場所を広げていった。  
「直澄君!やめ・・・・・・・・・!」  
直澄の指が体の中を進んだり戻ったりしながらも徐々にそのストライドを  
伸ばしていくうちに、紗南は自分の体が直澄の指が動き易いように  
どんどん変わって行く事に気付いた。  
 
そして、最初に直澄が探り当てた場所から、今まで感じた事のない  
疼くようなおかしな感覚が生まれて来る事に戸惑った。  
「・・・・・止めない。」  
紗南の体内の様子を感じながら、直澄が指を二本に増やした。  
「・・・・・・やめ・・・・・て・・・・・よ。何だか・・・・・・  
そんな事、しないでよ・・・・・・・」  
紗南の目に涙が浮かんで、直澄はそっとその雫を舌で舐め取った。  
抽送を続けると、指を包んでいる粘膜が小さく痙攣し始める。  
きゅっと締め付けられるような感覚に紗南を見ると  
頬が紅潮し、両手で顔を隠しながら紗南も震えていた。  
 
直澄は紗南の顔を覆う両手にキスをしながらサイドテーブルの引き出しに用意してあった  
避妊具を取り出す。  
例え後でどんなに紗南から「用意周到すぎる」と笑われようと、ムードが  
台無しになろうと、自分達が責任の取れる年齢になるまでは  
紗南に辛い思いをさせる事も、自分達と同じような子供をこの世に生み出すことも  
決してしない、と直澄は心に決めていた。  
 
「紗南ちゃん・・・・・・・・大好きだよ。」  
 
手をどかされてキスされた。  
次に体を襲った激痛と圧迫感に紗南の視界が真っ白になる。  
 
「痛い!痛いってば!バカ!直澄のバカー!!!!」  
胸を叩いて拒否しても直澄は行為を中断しようとはしなかった。  
ゆっくり、慎重に紗南の中に自分を埋め込んで行く。  
「・・・・って、いてーっつうの!」  
それでもその緩慢な動きは、先程の指先と同じで次第に紗南の中におかしな  
感覚を生み出そうとしている。  
直澄の侵入が止まった。  
目をあけてそっと前を見ると、相変わらず綺麗な顔をしたままの直澄が  
ほんの少し照れ臭さそうな顔をして自分を見ていた。  
「あ・・・・・れ・・・・・・・・?」  
直澄が動いていなければもう痛くはない。  
痛くはないけれど、自分は確かに何だか直澄と繋がっている気がする。  
「ひ・・・・・ひえっ・・・・・・・・!」  
思わず腰の辺りに目をやって、紗南は恥ずかしさに悶絶しそうになった。  
 
これって・・・・・・エッチしちゃった・・・・って事だよね・・・・・・  
 
恥ずかしいのと好奇心と、自分が今ある異常な状態に紗南は更に  
ハイテンションになった。  
「直澄君と・・・・・・エッチしちゃった?私?」  
直澄がぎょっとしたような表情で答える。  
「いやあの・・・・・・・これで『エッチしちゃった』って言われると  
僕も大変ツライというか・・・・・・あの・・・・・・・もう少し  
続けてもいいかな。」  
 
「えっ!?これだけじゃないの?」  
びっくりしながらもその生真面目な直澄の様子に何だか可笑しくなって  
思わず笑いそうになると、直澄が何かをこらえるような苦悶の表情を浮かべた。  
「・・・・・・・笑わないで、紗南ちゃん・・・・・」  
え?何で何で、と思っていると、直澄が倒れこむようにして紗南の上に覆い被さった。  
「力抜いててね。少し動くから。」  
今まで何度も聞いてきた、直澄の優しい囁き声が今では普通に聞こえなくなって  
紗南の心臓がドクンと音を立てた。  
「動く、って・・・・・・・あっ・・・・・!」  
紗南は再び自分の口を両手で押さえる。  
 
先程知ったばかりの場所から生まれる感覚が、今度はもっと大きなうねりの  
ようになって、自分を占領しようとする。  
先程の侵入で生まれかけて、熾火のように残っていた炎は、あっという間に  
紗南の中に広がっていった。  
「直澄君・・・・・・・!やだ・・・・・!だから・・・・・・ねえ!」  
紗南の抵抗が、自分の中に生まれつつある快感への恥じらいなのだと  
直澄には判った。  
 
深いキスを繰り返しながら紗南の中に何度も自分を打ちつける。  
指先に感じた甘い煽動と収縮を自分自身が感じ始めて、直澄も爆発寸前になった。  
 
「紗南・・・・・・・・」  
 
もう一度名前を呼ばれて、紗南の中の甘酸っぱい疼きが頂点に達した。  
 
「直澄君・・・・・・・・」  
 
紗南の両手がかさぶたの残る直澄の背中に回されて、ぎゅっとその体を抱き締める。  
二人はお互いの腕の中で同時に果てた。  
 
 
 
 
「・・・・・・泊まってく?」  
どのくらい二人でそうしていただろうか。  
直澄の狭いベッドの中でうとうととし始めた紗南に直澄が言った。  
「泊まる!?まさか!・・・・・・・って玲君!!」  
紗南はいきなり現実に戻ると、自分をここまで送ってくれた  
マネージャーの事を思い出す。  
 
「・・・・・・相模さんなら大丈夫。僕のマネージャーから『話しが長くなりそうだから』  
って伝えて貰ってある。今頃君の家で待機してると思うよ。」  
しれっと口にする直澄に紗南は開いた口が塞がらなかった。  
「・・・・・・周到過ぎる。一体いつの間に。アンタ・・・・・・  
今日は始めっからこのつもりで・・・・・・!」  
「そうだよ。」  
今度も何でもないといった表情で直澄は続けた。  
「テレビであんな事言った時から。もう僕は決心していたんだ。」  
 
直澄、アンタ・・・・・・・  
 
と思いながらも、今の紗南にはそれを責める言葉は浮かんでは来なかった。  
「もしよければ、君の家までタクシーで送らせてくれる?」  
・・・・・・確かにここで玲君を待って、直澄君と別れる場所を見られるのは  
とてつもなく気まずい、と紗南は思った。  
けれど、タクシーで一緒に家まで来られるのも何となく気恥ずかしい。  
「いいよ!ちょっと歩けばすぐタクシー拾えるから。それに・・・・・  
私も少し頭冷やしたいってか・・・・・・・なあ・・・・・・  
色々・・・・・・・・ちょっとさ・・・・・・・・」  
顔を赤くして口篭る紗南に、直澄が笑ってバスローブを着せ掛けた。  
「もし使いたかったら・・・・・・バスルームはこの部屋の向かいにあるから。」  
そう言って立ち上がると、手早く紗南の服を纏める。  
ベッドの中で散々見たはずの直澄の後姿に紗南はもう一度顔を赤くすると  
「人のパンツ触んなー!」  
と怒鳴ってそれを取り上げ、バスルームへと消えた。  
 
 
「・・・・・じゃあ、私、帰るね。」  
 
冷たいシャワーを浴びてリビングに戻ると、直澄はさっぱりとしたシャツと  
ジーンズに着替えて本を読んでいた。  
顔を上げて立ち上がる。  
「せめてタクシーに乗る所まで、見送らせて。」  
穏やかに笑う表情はいつも通りで、先刻の激情が嘘のようだった。  
けれど、じゃあ、と言って紗南の側に来た彼は、もう一度そっと紗南を抱き締めた。  
それは確かに、昨日までの直澄ではなかった。  
「ほんとはもう、どこにも行かせたくないんだけど。  
服を着た紗南ちゃんだって誰にも見せたくない。」  
「バカ!先に行くから!もう!!!!」  
顔を赤くして怒ってエレベーターホールに向かいながらも、自分ももう先程までの自分ではない、  
と紗南は思った。  
直澄のことが愛しいと思った。  
こんなにも自分を必要としていてくれる人がいてくれて嬉しい、と  
素直に思えた。  
 
 
 
 
 
星が出ていた。  
 
 
 
「紗南ちゃん、こっち。」  
 
そう言って直澄が差し出した手を、紗南はためらう事なく取った。  
二人で大通りまで歩き始めるとすぐに、周囲の人々が自分達に気付いて  
指をさしたり遠巻きにじっと眺めている事に気付く。  
何の断りもなく携帯電話のレンズが二人に向けられ、遠慮のないシャッター音が何回も聞こえた。  
 
直澄君は平気なのかな・・・・・・・  
 
テレビ番組の中で「自分はもうとっくにふられている。」と発言をしたその日のうちに、  
こうやって手を繋いで歩く事に、直澄は何の抵抗も感じていないようだった。  
そして、あの番組を自宅で見ていた事が、なんだかもう何年も昔の事だったような気がする。  
 
 
そうか・・・・・・  
私、明日学校で羽山に会っても、もう何も悩む事なんてないんだ・・・・・・  
 
例え羽山に今日の直澄の発言を聞きとがめられたとしても、もう紗南にはそれを肯定する事は出来ない。  
自分の好きな相手が羽山だと、今の自分は胸を張って言える立場ではないのだ。  
「あれは直澄君のジョークだよ。まあ、もう少し待ってみなって。そのうち私達の熱愛が発覚するからさ!  
もうラブラブで大変なんだから。  
それにしても直澄も何であそこであんなウソつくかね。私達が出来てるって、  
すぐにバレバレになるって判ってるくせに。」  
・・・・・・・平気な顔をしてそんな事を言うだろう自分を想像すると、ほんの少し胸が痛んだ。  
 
大丈夫。  
笑って言える。  
だって、ここには直澄君がいるんだもん。  
 
 
そっと自分の手を握って歩く直澄の手が暖かかった。  
 
紗南は、一瞬直澄の横顔を見詰めると、その肩にことんと頭を預けた。  
直澄が驚いたように紗南を見た時、人だかりの中から一際明るい  
フラッシュの光が二人を照らした。  
直澄はきっと前を見据えると、握っていた手を離すとそのまま腕を上げ、  
硬く引き寄せるようにして紗南の肩を抱いた。  
 
「タクシーが見つからなければいい。このまま、紗南ちゃんと  
ずっと歩き続けていられたらいいのに。」  
 
歩調を緩めず、肩に回した腕も緩めずに、直澄は光り続けるフラッシュも  
携帯の撮影音も無視した。  
 
 
 
 
 
直澄君・・・・・・・  
また、ウワサになっちゃうよ・・・・・・・  
週刊誌に何書かれるか判んないよ・・・・・・・?  
 
でも、この場所はとても心地がいい。  
こうやって何もかも直澄君に任せてしまえるのは、  
何て楽で居心地がいいんだろう・・・・・・・  
「ごめんね。」  
何が?と言って微笑んだ直澄はいつも通りの優しくて穏やかな表情をしていた。  
「私が・・・・・・・直澄君に甘えてるのかもしれない。私の方こそ、  
直澄君を都合のいい時だけ利用しているのかもしれない。」  
 
 
 
 
 
だけど、それが今はとても心地いいんだよ・・・・・・・  
「今はそれで十分だよ。」  
直澄はそう言って紗南の髪に一つキスを落とした。  
周囲からどよめきが漏れる。  
 
 
もう少しだけ、直澄君に甘えていたい。  
もう少しだけこのまま、こうやって歩いていたい。  
 
もう、羽山の事で悩んだり風花の心配したりしなくていいって思っていたい。  
 
神様、もう少しだけこのままでいてもいいでしょうか。  
 
 
 
 
 
 
紗南は直澄の腕の中でそう思った。  
 
 
 
  終  
 
 

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