大した相手ではないはずだった。
人ほどの大きさを持つイソギンチャク。
ドレインと呼ばれるその生物は、その名の通り排水口のように太い触手を持っていた。
地面に薄く広がったその本体はやたらタフで、小銃程度ではまず殺せない。
しかもこいつは獲物を求めて自在に動き回るのだ。
だがこいつには弱点があった。
短い時間動いたら、その倍近くは休まなくてはならない。
よって休んでいる間に逃げてしまえばいい。
しかもこいつは触手先端で血を吸うのだが、それにも難点があった。
獲物を締め上げ、皮膚を傷つけて舐める。
一見身の毛もよだつ行為に見えるが、獲物に大した傷を負わせるわけではない。
よって大抵は短時間の移動で折角獲物を捕まえても、振りほどかれて逃げられてしまう。
だがそれも十分健康な時なら、であった。
未だ塞がりきらない銃創を庇いながらヨタヨタ走る冴子は、この襲撃者から逃げ切れなかった。
いや、そもそも彼女が襲撃に気付いたのは、無数の触手が全身に喰らい付くのと同時だったのだ。
「っぎゃああぁっ!!」
彼女には派手な悲鳴を上げるくらいしかできなかった。
振りほどこうにも全身に力が入らず、逆にへたり込んでしまう。
そんな少女に無数の触手が絡みついていった。
「やめっ!この!」
虚しい叫びを上げる口を一本の触手が塞ぐ。
同時に彼女の衣服は無数の牙に次々と破り裂かれていった。
やがて露になった白い裸身に、更に多くの触手達が襲い掛かる。
既に彼女の周りには何体ものドレインが集まっていた。
ぞぶり、ぞぶりと牙が食い込むたびに白い体が小さく震える。
抵抗もできない獲物を嘲笑うかのように、無数の舌が傷口を舐め回した。
いや、傷口だけではない。
いつしか冴子の全身は触手先端からそれぞれ飛び出した舌の群に覆い尽くされていた。
それに合わせて口を塞いだ触手までもが舌を出し、少女にディープキスを強要した。
「んむっ、んぅぅっっ!!」
塞がれた口からくぐもった絶叫が漏れる。
訓練されているとはいえ、彼女がまだ幼さの残る年齢であることには変わりない。
まして彼女は別段グロテスクな怪物に舐られ、汚される訓練など受けてはいないのだ。
自然とその双眸から涙が零れ落ちる。
その流れる涙にさえ触手は口を寄せ、ぬちょぬちょと舐め上げていった。
「んぐううぅっ!!!」
一本の触手が未だ濡れてもいない膣を貫き、冴子は両目を見開いて絶叫した。
同時に体が宙に持ち上げられ、さらに多くの触手が群がってくる。
尻に、背中に、太腿に、次々と牙が突きたてられた。
それは膣に規則正しく加えられる激痛と共に痛みの渦を作り出し、気色悪ささえ消し飛ばしていく。
冴子の脳内は痛覚に埋め尽くされ、全身から脂汗がぽたぽたと零れ落ちた。
その汗さえもが舐め取られていく。
(痛い痛い痛いイタイイタイィッッ!!!)
心の中でどれだけ叫んでも痛みは緩和されなかった。
がくがくと痙攣する白い体は、尻穴を貫かれると更に大きく震えた。
ろくに声すら出せない少女に更に触手は襲い掛かる。
今度は両胸が標的だった。
小ぶりでも形の良い乳房に容赦なく牙がめり込み、先端の突起が血と共に舐め転がされる。
「んぐぅ!!んぐぅ!!んぐぅ!!」
(死ぬ!!死ぬ!!死ぬ!!)
くぐもった悲鳴をBGMに触手達は少女を蹂躙し続けた。
股間の痛みに翻弄されていると双丘がコルクのように捻られる。
両胸の痛みに身を焼かれていると今度は子宮口に牙が立てられる。
双方の痛みが飽和しかけると今度は両手足に牙が食い込み、千切れかけた指がれろれろと舐めしゃぶられる。
そうやって引き締まった体を滅茶苦茶に壊し嬲られ、目の前が段々暗くなってくる。
銃創に触手が踊りこんでくるとそれはいよいよ顕著になった。
腹の中が擂り鉢のようにぐちゃぐちゃとかき回され、その度に全身が壊れたように痙攣する。
内臓に直接牙が立てられ、同時に少女に喰いついた全ての触手たちが今までに倍加する力で傷口を吸い上げた。
「ぐごおおおおぉぉぉっっっ!!!!」
口からは泡を、膣からは小便を垂れ流し、白目を剥いて冴子は絶叫した。
(いたいいたいいたいいたいょぉ)
(まだ死ねない・・・まだ死ねないのに・・・)
(くらい・・・さ・・・む、い・・・まこ、ひめ・・・の・・・ご、め・・・)
思いと裏腹に急激に彼女の体は熱を失っていく。
薄れ行く意識の中で最後に感じたのは、舌に喰い込む牙の異様な冷たさであった。
「――あがああああぁぁっっ!!!」
絶叫と共に冴子が飛び起きる。
起きる、といっても寝ていたわけではない。
確かに彼女の生命活動は止まったはずなのだ。
(わ、私・・・まだ生きてる・・・)
一瞬心に浮かんだ疑問符も、直後の痛みに塗り潰された。
「ぃぎいいいいぃぃっっ!!!」
再び襲ってきた激痛は、主に膣の奥から発せられていた。
子宮口に喰い付いた触手が、そのままそれを引きずり出そうとしているのだ。
いや、同様のことは全身で起きていた。
太腿が、背中が、腹筋が力任せに引っ張られ、異様な形に引き伸ばされている。
胸を襲っていた触手は標的をピンポイントにその先端に変え、幾つも切れ目の入った乳首を舌で弄んでいた。
銃創から入った触手は未だ内臓を啜り続けていて、肛門から侵入した個体もそれに加わっていた。
ずずっ、ずずっと音が響くたびに回復していた体温がまた下がっていくのが分かる。
「いたい、いたい、いだいぃ・・・」
悲鳴はもう泣き声に変わっていた。
口内の触手は既に外に出て、他の個体と共に少女の端正な顔を嘗め回していた。
涙が、涎が、鼻水が幾つもの醜い舌に舐めとられていく。
ぬちゃり、ぬちゃりというその音は、少しずつ冴子の中の何かを蝕んでいった。
「やめて・・・これ以上、もう・・・」
痛みと狂気に支配され、口からは弱気な台詞しかでてこない。
苦しそうに顔をしかめるその姿からは、普段の冷静な彼女は想像もできなかった。
そんな彼女に鞭を打つように触手達は引っ張る力を強めていく。
全身の筋肉が限界まで変形し、冴子は喉もかれんばかりに叫び続けた。
全身が全方向に引き伸ばされる。
腹の中を二本の舌が動き回る。
体が好き放題に壊されていく。
意識がまた冷たく、遠くなっていく・・・。
そして子宮口が千切れるぶつり、という音を最後に、冴子の意識は再び深淵へと落ちていった――。
「・・・あ・・・ぁ・・・」
再び彼女が目を開いた時、その意識は半分近く混濁していた。
(わたし・・・そぅだ・・・眞子と姫乃を、たすけなぃと・・・)
使命感に駆られ、四肢を動かそうとする。
だがそれらは何かに拘束され、ぴくりとも動かなかった。
それどころか、手足の先の感覚は消失している。
――その瞬間、記憶が戻った。
つまり自分の置かれている状況を思い出す。
同時に彼女の中枢を凄まじい痛みが駆け抜けていった。
「うぎゃあああああぁぁっっ!!!!」
全ての痛みを思い出し、少女の奇麗な顔は凄まじい形相へと変わった。
そんな彼女の事情など構わずに、触手達が冴子を嬲り尽くす。
既に全身の筋肉は何箇所も食い千切られ、穿たれた穴を無数の舌がしゃぶり回している。
腹腔内からは未だ何かを啜る音が聞こえている。
膣を抉る触手の動きは、邪魔するものがなくなったために子宮底にまで到達していた。
「あ、あ、あ・・・・・!!!」
一通り叫ぶと少女は大人しくなった。
痛みで思考が飽和し、それ以上の声すら出せずに全身を硬直させるのみとなったのだ。
細かく痙攣する体に更なる触手が襲い掛かる。
いつしか彼女を囲む個体は更にその数を増していた。
陰核に牙が食い込み、硬直した全身が大きく跳ねる。
突き出された舌を一本の触手が口に咥え、深々と牙を突き立てる。
体中を穿たれ、吸われ、貫かれる。
その過程の中で不死の少女は何度も気絶し、絶命し、そして甦った。
貪欲な磯巾着に吸い喰われ、冴子の体が徐々に軽くなっていく。
だが悪いことに、彼女の体は何度でも元の大きさまで再生した。
その過程で彼女の細胞たちは周りの地面と共に幾つかのドレインを取り込んでもいるのだが、再生が早いのは相手も同じだった。
・・・いや、痛覚が殆ど無い分相手のほうが有利とも言えただろう。
(眞子、姫乃、眞子、姫乃・・・)
精神が削り落とされていく中、冴子は心の中で必死に大切な者たちの名を呼び続けた。
もはや彼女にとって、それだけが正気を保つ唯一の方法であった。
「・・・・・・・。」
甦り、目覚めた少女の視線を一本の触手が出迎えた。
死と再生は、これで20回を超えたであろうか。
既に冴子の焦点は定まらず、その瞳はどんよりと暗く濁っていた。
彼女の心は絶望感に覆われていた。
どんなに痛くても、死ねない。
こんなに苦しいのに、生きなければならない。
だからといって状況を打開する術も無い。
抵抗もできないまま全身を穿たれ、犯されながらこの怪物を喜ばせ続けねばならない。
「うぐぅぅ!!!ぐぅっ!!ふくぅっっ!!!」
舌を牙に穿たれて無理矢理引っ張り出され、冴子は悲痛な声を上げた。
その舌に触手の舌が何本も螺旋状に絡み付いて締め上げ、奇妙なモニュメントが形作られる。
そのまま鼻穴や耳穴も舌に占領され、気色悪さに胃液が血と共に逆流してくる。
涙を流して餌付く少女を追い立てるように体内に侵入した触手達が暴れまわり、締まった腹を内側から醜く膨らませる。
特に尻穴に突き刺さった触手は既に腸管をも超え、胃にまで到達していた。
「ぎぃ!うげえぇっ!!!ひっ!げぇ・・・・・ごおおおぉぉっっ!!!!」
嘔吐を繰り返していた冴子の口から、突如ゲロ以外の何かが飛び出してきた。
血とそれ以外の何かでてらてらと光るそれは、紛れも無く一本の触手であった。
尻穴から口腔まで一本の触手に貫かれ、消化器系をズタズタに裂かれ、意識がまた遠くなってくる。
それは仮初めの死が近付いてきている兆候だった。
(でも・・・ワたしハ・・・死ねそゥに、なイ。)
(死ンで、生き返ッて、何モできズに・・・タダ犯サレルンダ・・・・・)
もはや心の中でさえまともに喋ることができない。
知性も感情も、そして大切な人への思いさえ、全てが血と共に流れ出していく。
それはまるで、魂を吸い取られているかのようであった。
(眞コ、姫・・・乃・・・眞・・・・・子・・・ヒメ・・・・・)
縋る名前さえも混沌に飲まれながら、不死者はしばしの眠りにつく。
いつしか一面を埋め尽くすほどに増えたドレイン達を、視界の端に収めながら――。