戦場からも、人里からも遠く離れた山中。木々の間から岩々が覗く一角に、
巨岩が組み合わさって出来た洞穴が口を開けていた。
山猿に憑いた古き鬼の一族、膿泥児達のねぐらになっている場所だ。
その奥から、湿り気を帯びた音が響いてくる。
ぐちゅっ、ちゅぷっ、ちゅぱ、ぬちゃっ
「んっ、むぐぅ、ん〜〜〜!」
中では、年端も行かぬ少女が苦しげに呻き声をあげていた。
少女は、背格好からして十、十一といった所だろうか。
その小さな口には、彼女のそれにはおよそ不似合いな、どす黒い膿泥児の一物がくわえられていた。
少女の名は繭。戦に追われた人々が山間に作り上げた村、鱗谷村に膿泥児達が強要した、これで四人目の生け贄である。
生け贄と言っても、ただ単にとって食われてる訳では無い。
彼女(彼)等はまず、指を落とさる、耳鼻を削がれる、両の目をくり抜かれる等、ありとあらゆる苦痛を与えられる。
それでもなお助けを呼び、生きたいと願い、しかし叶わず、極限の恐怖に苛まれた魂が、
極上の摩奈ー万物に宿り、鬼達が他者のそれを喰らい存在を維持する霊質ーを形成するからだ。
不意に己の一物をしゃぶらせていた膿泥児は、繭のつややかな黒髪を乱暴に掴むと、グイと引っ張り寄せた。
「オラオラ!モットシッカリクワエヤガレ!」
「ひぐうっ!」
悲鳴とともに、繭の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「オイオイ兄弟、アトガツカエテンダカラ、ハヤク済マセテクレヨ」
「アァワカッテルサ兄弟、スグニ済マセルサ」
周りを見回すと、成る程、確かに「後」が控えていた。
彼等の縄張りである、この山間部一帯の見回りに行っていた膿泥児達が戻って来たのだ。数は四、五匹程。そのいずれもが雄であった。
それは、これから彼女の身に更なる惨劇が降り掛かる事を意味していた…。