MilkyWayが解散してからもうずいぶんと経った。相変わらず、3人はアイドルとして大活躍だ。
しかし、ここ最近、巷では雪野のえると花咲こべにの話題が上ることが多くなっていた。
というのも、少し前に発売されたこべにの写真集が発端だった。
カメラマンがこべにの実母だということで前評判にはなっていたのだが、発売された内容を見て皆は驚いた。
内容の芸術性の高さだけでなく、普段の何倍も光り輝くような笑顔はこべにの魅力を余すところなく引き出していた。
そして、その中で一番注目の的は1枚だけあるヌードだった。
全裸の立ち姿を後から写したもので、揚げた両手を後で組んだ状態で、物憂げに振り返る瞬間が収められていた。
形のよいヒップは丸見えで、豊満なバストは片方のトップがくっきりと写っていた。
それは、こべにの新たな魅力の開花を感じさせるものだった。
それでいて、そこにあるエロチシズムは健全さを感じさせるものであり、アイドルのイメージを損なうものではなかった。
さすがに、娘の成長を喜ぶ母親にしか撮れないものであったろう。
発売後即完売となり、増刷が追いつかないほどだ。
今ではネットオークションで十倍以上の値段で取引されている。
マスコミの取材を受けて当の本人は、
「恥ずかしいですぅ〜。それ以上は聞かないでくださぁ〜い。」と相変わらずの調子だ。
この件で世間のこべにに対する評価は高まり、大人っぽいイメージの仕事のオファーが増えたのだった。
続いてそのことに刺激を受けたのはのえるだ。
負けん気が強い彼女は自分も写真集を出すと言い出した。
そして発売された写真集は、やはり世間の話題となった。
全体にスポーツマンらしさを出す雰囲気で、実にのえるらしい仕上がりとなっていた。
多くはスポーツの前後のカットが多く、はちきれんばかりの元気さと笑顔に溢れていた。
さすがにこべにと張り合ってヌード、というわけには行かなかったものの、
数多くのきわどいショットが収められていた。
上半身裸でスポーツタオルを首に巻いてバストトップを隠したカット、
バストトップの形の浮かんだタンクトップ姿、
ジッパーを降ろしたデニム短パンを、毛の生え際ぎりぎりまでずり降ろしたカット、
極限まで切れ込みの入ったハイレグ水着、
極めつけは、上半身サラシを巻いて、下半身はふんどし姿で太鼓を叩く姿だ。
どの表情も、その格好と対照的にどことなく艶っぽさを醸し出しており、
健全さの中にエロチシズムを感じさせるものとなっていた。
やや微妙なところはあったが、アイドルのイメージを損なうものではなかった。
これも発売後即完売となり、増刷が追いつかない状態だ。
マスコミの取材を受けて当の本人は、
「うちの魅力がいっぱい詰まった写真集、買ってくれよな。」と相変わらずの調子だ。
この件でのえるのチェレンジ精神は評価され、スポーツ番組やバラエティなどへの出演依頼が増えたのだった。
そして、彼女たちのよき友人であり、ライバルであり、目標である月島きらりの動向に注目が集まるのは当然の流れだった。
「きらりちゃん。こべにちゃんとのえるちゃんの写真集を見てどう思いました?」
「ええ、ふたりともとっても綺麗で素敵でした。」
「きらりちゃんもあんな写真集出したくないですか?」
「ええっと、今のところ考えてません。あたしはふたりほどスタイルが良くないので。」
「今のところというと?今後出す予定はあるんですね?」
「いえ、別にそういうわけでは・・。」
「ファンは君の写真集見たがってると思うよ。」
「ぜひ、ファンへの期待に応えてあげて欲しいね。」
「・・・。」
マスコミの関心は写真集のことばかり。きらりはいい加減うんざりしていた。
普段から、自分自身をありのまま出すことで活動してきて、今の自分がある。それ以上、何を求めようというのだろうか。
しかし、友人の彼女たちが出した写真集の素晴らしさ、評判の高さを見て、心は揺れ動いていた。
マスコミの関心はどうであれ、自分も新しいことに挑戦してみたいという気持ちは高まってきている。
それに、もしファンが新しい自分を求めるのであれば、それに応える義務があるのではないか?
だが、自分にはいったいどんなものが作れるのか、作ればいいのか、見出せないでいた。
そんなある日、きらりは村西社長からカメラマンを紹介された。
「初めまして、月島きらりです。」
「初めまして、阿那亜紀子です。」
紹介されたのは、年の頃は40前くらいの女性カメラマン。写真の腕前は凄いらしい。
通称、アナーキーと呼ばれてて、斬新な写真を撮るのに定評がある人だそうだ。
「いやー。きらりちゃんも写真集を作りたくなってきたんじゃないかと思ってね。」
「社長さん・・・。ありがとうございます。」
さすが社長さんだ。あたしが悩んでたのがわかってたんだ。
「どんな写真集にするか二人に任せるから、しっかりやってね。」
「はいっ。頑張りますっ。」
「よろしくお願いします。」
あたしは写真集は過去に3冊出していた。それぞれ、スイーツ、花、宝石をテーマにしたものだった。
アナーキーさんが言うには、どれもアイドルらしいアイドル路線で可愛いいけど、インパクトに欠けるとのこと。
3冊目のは、セクシー系の写真がたくさんあって、結構人気だったんだけどな。
今回は路線転換が必須だそうだ。
方向性が決まるまで、あたしに密着していろいろな姿を撮りまくりたいそうだ。ヌードを含めて。
「ヌードなんて、あたしには早いよ。」と、抵抗はしたものの押し切られた・・・。この人すごく押しが強い。
そして、仕事中や家での普段の姿を激写されまくる日々が続いた。もう、何百枚ではきかないくらい撮られてるはず。
で、今日やってきたのは人里離れた温泉宿。
宿の女将さんや仲居さん以外に客の姿は見えない。貸切状態だ。
さらに言うと、なーさんも雲井さんも居ない。アナーキーさんの希望で二人きりだ。
やっぱり、こんなとこへ連れて来たのは、ついにヌードの撮影だよね。
とりあえず撮ってみるだけ、気に入らなければ破棄すればいいんだから、と言われたけど・・・緊張する。
着いてさっそく露天風呂へ。
脱衣場で服を脱ぐところも激写されまくり。うううっ。下着を脱げないよ。
「さぁ、さぁ。いつまで突っ立ってるつもり?さっさと覚悟なさい。」
やっぱ、恥ずかしいよ。
「いいわよ。その恥ずかしそうな表情。」
「でもね。いい加減覚悟決めたら?」
そう、脱いでも脱がなくても激写されまくりだ。
埒があかないので、覚悟を決めてブラジャーをはずして、籠に入れた。
パシャパシャとシャッターを切る音が止まない。
「さ、こっち向いて。」
ムネを手で隠して振り向いた。カメラがシャッターを切る。
「手をどけて。」
仕方なく手を下ろした。カメラがシャッターを切りまくる。あたしの丸見えのムネを撮ってる。
「じゃ、パンツも脱いじゃって。」
後を向いて、するりとパンツを脱ぐ。
パシャパシャとシャッター音がする。おしり撮られてる。
とっさにバスタオルを巻いて、振り向いた。
「タオルが邪魔ねえ。」
そんなこと言っても、さすがに真正面からは恥ずかしいよ。
「あらあら、仕方ないわね。ま、いいわ。」
露天に出てバスタオルを岩の湯船にかけて、お湯につかる。
背後から、シャッターの音が。お湯につかるまで何コマも撮られている。
普通、ここでほっと一息つくのだろうけど、どうも落ち着かない。
「うーん。表情が堅いぞ。」
服を着た姿はいくら撮られても慣れてるので大丈夫だけど、さすがにヌードはちょっと。
「仕方ないなあ。」
「じゃあ、今は撮るのを止めるから、ゆっくりお風呂に入ってなさい。」
と言い残しアナーキーさんは去っていった。ようやくひと息つくことができる。
あー、気持ちいいっ。手足を伸ばして仰向けに顎までお湯につかる。
空を見上げると青空が。まだ夕方まで時間がある。
こんなふうに空を見上げてほっとできる時間って、最近なかったなあ。
それにこんなに広いお風呂でひとりっきりなんて。
泳いじゃえ。猫かきで泳いだり、おしりを出して潜水艦とか、誰も見ていないのをいいことに、好き放題だ。
そういえば、昔はこんなふうにお兄ちゃんとお風呂で遊んだっけ。
疲れたら湯船の上にあがって、セクシーポーズで決めてみる。カメラさえなければこっちのものよ。おほほほ。
すぐ戻っても激写が待ってて落ち着かないこともあるけど、やっぱりヌードを撮るのが怖いのかな。
湯船に座ってぼーっと景色を見たり、お湯につかったりを繰り返して時間を潰した。
いけない。いつの間にか、日が暮れかけている。そろそろ夕飯の時間だ。
いそいで脱衣場に戻り浴衣に着替えた。
部屋に戻ると、案の定アナーキーさんの激写が待っていた。
「いいわあー。お風呂上りのきらりちゃん。とってもセクシーよ。」
そうかな。えへへ。
そういえば、ファッション誌で浴衣姿は撮ったことあるけど、こんな温泉宿の薄い浴衣で撮るのは初めてだ。
おだてられ言われるままに、ポーズを決める。
そのうちに、浴衣がはだけてきた。直さないと。
「ちょっとまって、直さないでそのまま。」
わ。そのアングルムネが丸見え。
「じゃ、下半身ももっとはだけさせましょう!」
ひ〜。もうやだ!
と、そこへ食事の準備が出来たとのことで女将さんがやってきた。
ここぞとばかりに浴衣を直した。
「ちいっ。」
お腹すいた〜。食事美味しい〜。いつもどおりモリモリと食べるあたし。
アナーキーさんは、写真を撮るのに夢中だ。食事くらい撮影されても平気だもんね。
「わたしは、あまり食べないから、わたしの分もどうぞ。」
「えへっ。じゃあ、遠慮なく。」
「あなた、ほんっとに美味しそうに食べるわね。」
普段は人前で大食いしないように注意されてるけど、もうヌードだって撮られてるし、今日は遠慮しないよ。
「ふふっ。」
アナーキーさんも笑顔で撮影している。やっぱ、他人の笑顔見てるとこっちも笑顔になっちゃう。
ふーっ、満足満足っ。ここの食事美味しかった。
「じゃ、今日撮った写真見てみる?」
「はいっ。見せて見せて。」
デジカメからケーブルをTVに接続して、画面を映し出す。
今日、来る途中の車の中で撮られたものから始まってる。
あちゃー、よだれ垂らして寝てるとこまで。もう、こんなの撮って。
あ、脱衣場での写真だ。
ムネがしっかり写ったカット。やっぱりムネが薄いなあ、もっと大きければ・・。
やだ、おしり丸見えだよ。恥ずかしい。
「そんなに、恥ずかしがる必要ないわよ。素敵よ。」
「そうですかぁ?あたしあまりスタイル良くないし。」
「ううん。若さと可愛さと恥じらいが溢れてるわよ。こんなのを残せるのは今だけよ。」
そうか、そんな考え方もあるかな。
入浴シーン。
「やっぱり、表情が堅いわね。」
確かにそうだ。こんなのじゃ人に見せることなどできない。
でも、さすがだ。どれもくっきりと鮮やかに撮れてる。
こうして客観的に自分の裸って見たことなかったな。どれも衣装を着た姿ばかりだったし。
「やっぱこっちよね。」
「え?これって?」
潜っておしりだけ突き出した姿やら、猫かき姿やら、恥ずかしい姿が。
極めつけは、湯船でひとりとったセクシーポーズ。アンダーヘア丸見え、しかも、あそこも丸写し!
「なんでぇ〜!?」
「うふふっ。私を誰だと思ってるの?私は芸術のためなら手段を選ばない女よ!」
「ここの露天風呂の撮影ポイントはしっかり押さえてあるのよ〜!」
ガーン!名前のとおりアナーキーだ。この人。
「でも、でも、盗撮なんて酷いです!」
「そう。確かにそうかもね。でもね、被写体が輝いてる姿を見ると、もう堪らないのよね。」
だめだ。芸術家モードに入ったこの人には何を言っても無駄だ。
「ごらんなさい。この気持ちよさそうな顔。楽しそうな笑顔。」
「このセクシーショットなんか、若さの極みね。素晴らしいわ。」
「普段のあなたなら絶対に見せない、若さと美貌に自惚れ自信に満ちた表情。」
はっ。確かにそうだ。あたし、写真撮影でこんな表情作ったこと無い。
「それに、こんなポーズをとってみるなんて、やっぱりヌードに興味あるんでしょ?」
うっ!図星かも?
「あなたは美しいんだから、もっと自信を持って。」
さらに映像が続いて、風呂上りの浴衣姿のあたし。
色っぽい・・・。自分で見ててこれ誰だろうと思うくらい。
「人はいつまでも若いままじゃないんだから・・・。」
「さっきも言ったけど、こんなのを残せるのは今のうちよ。」
「あなたのすべてを見せてちょうだい。」
彼女はあたしの耳元で甘くささやいた。
あたし、なんでこんなことしてるの?なんで?
頭の中の冷静なあたしが驚いて戸惑ってる。
布団を敷いた部屋のアナーキーさんが持ち込んだ照明装置に照らされた空間。
その中心にあたしは居た。
さっき、耳元でささやかれてから、頭がぽーっとのぼせてる。
まるで魔法にかかったかのように逆らえない。
何も着てない。なにもはいてないのに、言われるままポーズをとってる。
こんなにおしり突き出してはしたない!そんなに股広げちゃって!
ああっ。この角度じゃ全部見えちゃうよ!あそこもおしりの穴も!
頭の中の冷静なあたしが必死に止めようとしてる。
でも、別のあたしが楽しんでる。
裸で撮影されることが、自分を裏切ることが、こんなに気持ちいいなんて。
自分で自分が止められない。
横の壁にある姿見があたしの全てを映してる。
あたしじゃないみたい。
あなただれ?
もちろんあたしよ。
綺麗でしょ?恋しちゃっていいのよ。
あたし酔ってる?
そうよ。
いったい、何に?
それはあたし自身。
あたしは深い深い自己陶酔の海で溺れていた。
「いいわ〜。最高よ。綺麗よ。」
カメラのシャッター音が止まない。
おだてられればおだてられるほど、酔いが深まっていく。
もっと綺麗なあたしが見たい。もっと気持ちよくなりたい。
ムネの先端がピンピンに勃起してる。
感じてる。自分で自分に感じるなんて。
「バストの形がいい感じになってきたんじゃない。」
ほんとだ。あたしのムネこんなに形良かったんだ。
だめ。変な気分になってきた。ドキドキする。
あたしの股間に手が伸びてきて、指が割れ目の上をスーッと撫でた。
あっ、いったい何を?
「うふっ。いい感じに濡れてきてる。」
そうなんだ。どうりであそこが熱いはずだ。
指に付いたものを、彼女は舌で舐めとるとシャッターを切った。
濡れたあそこもアップで撮られてる・・・。
・・・いいや。抵抗する気も起きない。気持ちいい。
「じゃ横になって。」
布団の上に横になった。
言われるまま、膝を立てた状態で脚を大きく広げた。
「ねえ。きらりちゃん。ハメ撮りって知ってる?」
知らない・・・。首を横に振った。
「男性カメラマンが被写体の女の子の魅力を引き出すためにとる方法なんだけど。」
「もっと、綺麗なあなたに会いたくない?」
会いたい・・・。首を縦に肯いた。
「そう、よかった。」
「道具さえ使えば、男でなくても女でもきちゃうのよね!」
あれは?
浴衣を脱いだ彼女の股間に、黒い棒のようなものが立ってる。
「さっ。覚悟なさいな。」
ええっ!そんなものでいったい何をするつもり!
冷静なあたしが頭の中で叫んでる。
あたしの開いた両脚の間に、彼女の下半身が割り込んでくる。
やだ!いやだよ!絶対に!
声が出ない。身体が動かない。もうひとりのあたしがいうことを聞かない。
彼女は黒い棒を掴むと、あたしのあそこ位置を合わせた。
やだ!お願い!助けて!
冷たい黒いものが、あたしの中に潜り込もうとしてる。
あ!あ!あ!やだあーーー!
!!!痛い!!!
耐え難い激痛が全身を駆け巡り、あたしは声にならない悲鳴を上げた。
痛いよ!助けて!宙人くん!
大切に守ってきたものを、メリメリと壊しながら、侵入してくる。
あたしの目から涙がこぼれた。
「やだあっ!!」
突然、身体が動いて声が出た。
あたしは、彼女を思い切り突き飛ばしていた。
「はあっ。はあっ。はあっ。」
ようやく魔法が解けた。
陶酔の深い海から這い出したあたしは、ほっとすると同時に今までのことをすべて思い出した。
「あたしいったいなんてことを。」
身体が震えだして、大粒の涙がたくさん流れ落ちた。
「うわぁぁーん!」
まるで赤ちゃんみたいに泣き続けるあたしに、驚いたのはアナーキーさんだった。
「ごめんなさい。」「許してちょうだい。」「調子に乗りすぎでした。」
謝り続ける彼女をよそに、涙が止まらない。
アナーキーさんは泣き止まないあたしをやさしく抱き寄せた。
「悪かったわ。本当にごめんなさい。」
「処女だなんて知らなかった・・・。」
「いえ、うそ。あなたみたいな純粋な子。一目見て分かってたのに。」
「あなたの若さと可愛さと綺麗さの全てが羨ましかった。」
「そんなあなたを汚したらどうなるのか、見てみたかった・・・。」
「あたし、あなたに恋してしまってたのね。きっと。」
「ひどい女ね。あたし。」
違う。アナーキーさんが悪いんじゃない。
すっごく驚いた。あたしがあたしに裏切られるなんて。
ちがう。あたしがあたしを裏切ったんだ。
すべてはあたしのせい。あたしが選んだこと。
「痛かったのね。」
そう。痛かった。
これは、背伸びをして、大人の真似事をしようとした罰。
でも痛いのはそれだけじゃなかった。
心が痛い。
大切な人のために大切に守っていたものをあっさり捨てちゃうなんて。
「お願い。泣き止んで。いい女が台無しだから。」
そう。姿見に映し出されたあたしの顔。
甘美な大人の魔法が解けたあとに残ったものは、
涙でぐしゃぐしゃになった不細工な顔、
そして、布団に染み付いた血と涙という現実だった。
気が付くと朝になっていた。
泣き疲れて眠ってしまったらしい。
あたしはアナーキーさんの胸の中にいた。
お互いに裸のまま、布団の中で抱き合って寝ていたらしい。
ゆうべのことを思い出した。
この人、寝てる間になにもしなかったでしょうね。
起きて洗面所で顔を洗った。
泣いたせいか瞼が腫れてる。
髪がボサボサ寝癖だらけ。
はあーぁ。なんかもう最悪だ。
「おはよう!いい朝ね。」
「・・・・・・・。」
なんか調子狂うなあ、この人。
「おはようございます。」
「昨日はごめんなさいね。」
「いいえええ、別に気にしてませんから。あははははは・・・。」
なんかもう、ゆうべのことは引っぱりたくない。作り笑いで誤魔化した。
「そう良かった!」
おもむろにパシャパシャと写真を取り出す。
もう、こんな顔撮らないで。
あ、でも昨日使ってたカメラと違うコンパクトカメラだ。
「昨日使ってたカメラはどうしたんですか?」
「ああ、あれ。壊れちゃった。」
「メモリーカードもパー。昨日撮ったの全部消えちゃったのよね。グスン。」
「えええっ!?」
「わたしがひどいことした罰が当たったのね。」
「せっかく頑張って脱いでくれたのに、本当ごめんなさいね。」
聞くと、あたしが突き飛ばしたはずみでカメラの打ち所が悪くてご臨終だったそうだ。
いったいどんな風に撮れてたんだろ。
見たかったような、見れなくてよかったような。
朝食の時間だ。
ゆうべあんなことがあっても、食欲だけはなくならない。
ゆうべのことは気にならないわけじゃないけど、犬に噛まれたと思って諦めよう。
前向きなのがあたしの取り柄だから。
アナーキーさんはというと、食事に手をつけず、コンパクトカメラをTVに接続し始めた。
「ねえ、見て見て。きらりちゃん。」
淡いピンク色の花のようなものが、TV画面に大写しになってる。
「何ですかこれ?」
画像を縮小して全体像を見せた。
「きらりちゃんの処・女・膜。」
「!!!」
思わず、味噌汁を噴き出してしまった。
「ほんの先っちょが入っただけで、押し込んでないし。」
「ちょっとサイズが大きかったから、このへんが少ーし切れちゃってるけど。綺麗なものよ。」
「大丈夫。こんなの処女を失ったうちに入らないから。」
彼女はひとりでペラペラと力説していた。
寝てる間に撮られたらしい。ついでに傷薬も塗ってくれたそうだ。
あたしは、彼女のデリカシーの無さに苦笑しながらも、話を聞くしかなかった。
でも、これが彼女なりのあたしへの気遣いなのだろう。
ほんと、とんでもない人だ。
そんなこんなで、アナーキーさんによる写真撮影は終了した。
あれから1ヶ月、事務所に写真集の完成版が届いた。
内容については、アナーキーさんと調整済みだ。社長さんの許可も取ってある。
あたしが事務所についたとき、みんながそれを見ながらあれこれ話をしていた。
「なんでえ。いつものきらりじゃねえか。」
「うん。そうだね。いつものきらりちゃんだ。」
「うーん。普通だなー月島。」
「そうですー。100%きらりちゃんですー。」
そう、普段着姿やら、寝起き、食事中、通学中など、飾ってないあたしばっかりの内容だ。
最後の一枚は、あの泣き明かした後の顔も入ってる。
普段のあたしを見慣れてる事務所のみんなには普通だけど、
あたしの表面しか知らない世間の人には、かなりのインパクトだろう。
「ヌードで張り合うかと思ったが、こうきたか。」
「ま、おまえのヌードを見たいなんて奴はいないだろうがな。」
宙人くんてば、またそんな憎まれ口を叩いて。
見てなさい。そのうちもっといい女になって、見返してやるんだから。
結局、ヌードは見送った。あたしにはやはりまだ早かった。
将来、あたしが本当の女になったとき、再び撮ってもらうことをアナーキーさんと約束してある。
今はまだ眠ってて大人のあたし。
「でも、その、なんだ、おまえらしくていいと思うぜ。」
「ありがとう。宙人くん。」
手渡された写真集の表装は、全面に淡いピンク色の花のようなものを背景にあしらってある。
大写しになりすぎて、全体像はつかめないけども。
どこかで・・・見た・・・?
「ああああああっ!!」
「どうしたんだよ!急に大きな声だして。」
「どうしたの?顔真っ赤だよ。」
「はて?はてー?」
「いやぁぁぁ、なんでもない、なんでもない。あははははは・・・。」
こんなの誰にも言えるはずないじゃない!
やられた。ほんと、あの人はとんでもない人だ。最後の最後まで。
【おわり】