「旅行?」
「おう。今度捜査一課でな。まあ、社員旅行みたいなもんだ。
それで、お前らも来ないか?」
「行く行く行くっ!!お金はそっち持ちでしょ?」
「こらっ!はじめちゃんたら。・・・でも、剣持さん。
お邪魔じゃないんですか?あたし達が行って・・・。」
「ハハ!いいっていいって。
俺らみんな金田一の世話になってるんだからな。」
「そうですか?じゃあ・・・行こうか?はじめちゃん。」
ここは、不動高校近くにある喫茶店。一と美雪は剣持に呼び出され、
昼休みにここへ来たのだった。
いつも剣持の呼び出しといえば事件の捜査の手伝いなのだが、
今回はそのお礼を、との事のようである。
「・・・ところで、オッサン。あのイヤミ警視も来るの?」
「あん?いや、オフは一人で過ごしたいから行かんとよ。」
「マジ!?ラッキー♪」
美雪が明智の部屋に遊びに行ったらしき事実が判明して以来、
金田一の明智に対する態度は前にも増してひどくなった。
「はじめちゃん。今度会ったら前みたいに失礼な態度とらないでよ!」
美雪がそんなことを言うのでますます気に入らない。
(・・・おっし!旅行では、今度こそ今度こそ本当に幼なじみの一線を
越えてみせるぜ!ジッちゃんの名にかけて!!!)
「・・・何一人でぶつぶつ言ってんだ?金田一。」
「へ!?いや、な、なんでもないよ!えへへへ。」
「?変なはじめちゃん。」
−警視庁−
「正野くん。剣持君はどこに行ったんですか?」
「ああ。金田一君と美雪ちゃんに今度の旅行の話をしに行ってるんですよ。」
「旅行?」
「日頃のお礼もかねて、金田一君たちも誘うことにしたんです。
あ、警視は行かないんでしたね。」
「・・・そうですね・・・。」
−旅行当日−
「何であんたがいるんだよー!!」
「静かにしてくれませんか?金田一君。
旅行に行こうと行くまいと、私の勝手でしょう?」
「はじめちゃん!あれほど言ったのに!」
「いいんですよ、七瀬さん。
それより、以前七瀬さんが言っていたミステリーがみつかりましたよ。」
「え!本当ですか?ありがとうございます!」
(くっそ〜!このままじゃきっと・・・・)
はじめの予感は当たっていた。
それから行った観光先でも美雪はほとんど明智とともに行動していった。
連休中の観光名所だけあって、とにかく人が多かった。
美雪が階段の近くを歩いていると、
小学生くらいの男の子が美雪にぶつかってしまった。
「キャッ!」
「七瀬君!」
間一髪のところで明智が美雪の腕をつかみ、なんとか助かったのだが、
明智が美雪を抱きしめる形になってしまった。
「あ・・・あの、ありがとうございました。」
「いえ。人が多いので気をつけてくださいね。」
それを遠くから見ている男、金田一がいた。
(明智のヤロー!それに美雪もなに顔赤くしてんだよっ!!)
−その夜−
「ねえはじめちゃん!ここのホテルのラウンジからの景色、すっごいきれいなんだって!
行ってみよーよ!」
夕ごはんが終わったあと、美雪と明智が共に誘ってきた。
「・・・・俺はいいよ。食いすぎてもう動けねえ。」
本当は喜んで行きたいのに、ついこんなことを言ってしまった。
「え?そう・・・。」
「じゃあ・・・行きましょうか?七瀬君。」
「あ、はい・・・。」
そして、二人は去っていった。
(ケッ!何だよ美雪のやつ!どこでも勝手に明智と2人で行けばいいだろ!)
そう思った後、少し不安になってきた。
(・・・やっぱ行こうかな・・・。いや!でもなんかそれもカッコワリーし・・・)
「どうしたんだろ、金田一君。一人でぶつぶつ言ってるけど。なあ、住吉?」
「んな事より正野、警部の相手交代してくれよ!もう疲れた・・・。」
−ラウンジ−
「どうしたのかしらはじめちゃん。今日なんか様子がおかしいんです。」
「フッ、やきもち焼いているんじゃないですか?私と七瀬君に。」
「え!?そ、そんなわけないですよ!私達は唯の幼なじみで・・・。
それに、私と明智さんなんてありえっこないですよ!」
「なぜです?」
「なぜって・・・。歳も離れてるし・・・何より私じゃ明智さんに全然つりあわないです。
明智さんだって私のこと、そんな目で見ていないでしょう?」
「・・・私はいつもあなたのことを、そんな気持ちで見ていますが・・・。」
そう言い、明智は美雪にキスをした。
「・・・!」
明智は、さらにキスを続ける。美雪の唇が、かすかに開いた。
(・・・!)
その瞬間明智は、美雪の唇に自らの舌を入れた。
(!・・・え?ん・・・ん)
もう美雪は、何も考えることができなくなっていた。
「ったく。どこにいるんだよ。美雪のヤツ・・・。」
はじめは結局、心配で(というかただ2人きりにさせたくないので)美雪と明智を
探しに来ていた。
その時、反対側から来る女性2人組みの会話が耳に入ってきた。
「絶対キスしてたって!あの人たち!」
「え〜。どこにいた人?」
「あのラウンジにいた人!横顔しか見れなかったけど、男の人がメガネかけてて
すっごいかっこよかった〜?」
(!?え?ま、まさか・・・・。)
はじめは早足でラウンジまで行った。その光景を見ることに少し勇気がいるので、
はじめは声だけを聞くことにした。
「・・・あ、だ、ダメです!明智さん・・・。誰か来ちゃいますよ!」
「大丈夫。誰も来ませんよ。」
「でも・・・・あ!」
(明智のヤロー!待ってろ美雪!今助けて・・・)
「おい金田一!何してんだこんなトコで!」
「!・・お、オッサン・・・。い、いや別に・・・。」
「何してるんですか?お2人とも。大声を出しては他のお客さんに迷惑でしょう?」
(!明智!!)
「はじめちゃ・・!ず、ずっとここにいたの?」
「・・・いや。今来たばっかりだけど・・・。」
「あ、そうなんだ・・・。」
美雪は明らかにほっとしたような顔をした。
「・・・俺、部屋戻るわ。おやすみ。」
「え?おい、まだ8時だぞ?金田一??・・・何なんだアイツは。」
部屋に戻ったはじめはベッドに寝転がりながら、考えていた。
(よく考えたら俺・・・明智に怒る資格なんかないよな。美雪と付き合ってるわけじゃないし・・・。
それにもし美雪が明智のこと好きなんだったら・・・。)
状況が悪いときにはとことん悪いことしか考えられなくなる。
「あ〜!ウダウダなやんでもしょうがねえ!やっぱ告るっきゃないかな。・・・って、そーいやなんで俺の部屋
ベッド二つもあるんだろ?」
よく見ると、美雪の荷物も置いてある。その時、鍵が開いて美雪が入ってきた。
「!?美雪?なんで俺の部屋の鍵持ってるんだ?」
「え?あ、そっか。はじめちゃんホテルについてすぐ温泉行っちゃったから聞いてなかったんだよね。
なんか予約のミスであたしとはじめちゃん同じ部屋になったんだって。」
一と美雪が同じ部屋に泊まるのはこれが初めてではない。それまでに何もなかったのだから、
美雪も承諾したのだろう。
「お、同じ部屋?」
「うん。あ!言っとくけど、変なことしたらベッド横のライト投げるからね!」
美雪はそう言うが、はじめはまったく聞いていない。
(マジで!?オッシャ!神様、ありがとうございます!!!)
(さりげなく美雪の側に行って…と)
はじめはよからぬことを企みつつ美雪が座っているソファの横に腰を下ろす。
そうとも知らず、バラエティ番組を見ながら無邪気に笑う美雪に向かってはじめの手が動いた。
(そーっと…そーっと…)
高鳴る胸の鼓動を抑え、美雪の肩を抱こうとゆっくり手を伸ばしてゆく。
「はじめちゃん、この芸人…」
瞬間、美雪がはじめに話しかけようと振り向いた。
突然のできごとに、あわてたはじめは伸ばした手を取り繕おうとしたが、運良く…いや、運悪く美雪の胸を鷲掴みにしてしまった。
「・・・・・・!!」
悲鳴をあげられては都合が悪い。一瞬の間にどうしようかと交錯するが、はじめは弁解することを選択した。
「待てっ!美雪!!コレは違うんだ。ワザトじゃ…」
言いかけてすばやく自分の手を引っ込めようとするが、今度はスリッパに足を滑らせ、美雪の上に覆いかぶさるように倒れこんでしまう。
結果、はじめの硬くなったモノが美雪のフトモモに押し付けられた。
「ちっ…ちが…」
今度ははじめの弁解は何の役にも立たなかった。はじめの言葉を遮るように切迫した悲鳴は容赦なく美雪の口から発せられる。
同時にはじめの頬に美雪の渾身の一撃が飛んできた。
(なんでい、さっきはイヤミ警視とよろしくやってたくせに、オレにはその態度かよ!不慮の事故だっていうのに…)
美雪がそのまま部屋から飛び出し、廊下を走っていると角から出てきた人物とぶつかった。
「あっ、ごめんなさい…」
顔を上げると先ほどまで一緒にいた明智が驚いた表情で美雪を見下ろす。
「何かあったのですか?今、こちらの方で悲鳴が聞こえたので来てみたのですが…」
自分の悲鳴が聞こえたのか、と美雪は恥ずかしくなり俯く。
「なんでもありませんから…」
美雪のおかしな態度に、明智の不安が募る。
「もしかして、金田一君と何かあったのですか?同じ部屋だと聞いていますが…」
今しがたのはじめの行動を明智に言えるわけもなく、首を俯いたまま首を横に振る。
美雪の態度を見て、女性に無神経なことを聞いてしまったな、と反省する。
が、同時に何があったのかがとても気になりいてもたってもいられなくなる。
右腕で美雪の肩をやさしく抱くと自分の部屋に案内した。
ルームサービスのコーヒーが運ばれてくると、美雪に勧めた。一息つくのを確認し、自分もコーヒーを口に運ぶ。
クラシックの流れる部屋の中の2人はまるで恋人同士のように親密に見える。
「七瀬さん、身の危険を感じるなら、部屋を変えてもらってはどうです?いくら幼なじみといっても男と女には変わりない。」
「でも、もう部屋は他に空いてないし、はじめちゃんを寝袋にでも入れて口を縛っておけば大丈夫ですよ。」
笑顔で答える美雪に、ため息混じりに視線を移しながら呟く。
「私が心配なんですよ。」
「え?」
言葉がよく聞き取れなくて、美雪が顔を近づけると丁度明智の鼻先を美雪の髪がかすめた。
いつもどおりに振舞っていても感情は高ぶってゆく。
美雪の前髪を掻きあげ、その手が捕らえると、ゆっくりと顔を近づけ、軽く唇を重ねた。唇を離し、美雪を見つめると彼女もまた扇情的な眼差しで明智を見つめている。
そのまっすぐな明智の瞳に心を奪われ、顔が火照っていくのを感じた。
そんな美雪を抱き寄せ耳元で囁く。
「先程の言葉は本気です。あなたが好きだ…」
熱い吐息と言葉が耳へ吐き出され、美雪は明智の胸の中で身震いをした。
「あなたが他の男と一緒の部屋で夜を明かすと考えただけで…どうにかなりそうです。」美雪を抱きしめる腕に一層力がこもる。
いつもの明智からは想像できないような情熱に流され、明智の背に腕を回した。
その行動に自分を受け入れてくれたのだと、もう一度美雪にキスをすると、深く舌を絡めてゆく。
美雪の口から吐息が漏れ、いつしか美雪の方からも明智を求めていた。
ゆっくり唇を離すと、1本の線が名残惜しげに2人の間を保ち、切れた。
「ラウンジでは邪魔されましたが、続きをしてもいいですか?」
明智の言葉に美雪は小さく頷いた。