ざぁぁ・・・・・・  
「結構降るなぁ・・・・・・」  
窓を叩く雨粒の音を聞きながら、佐木はぽつりと呟いた。  
分厚い雨雲のせいで、まだ昼間だというのに辺りは薄暗い。  
ちょうど大掃除の時期なので留守にしている間にすっかり埃が溜まってしまった部屋を掃除しようと思ったのだが、換気がままならないこの空模様では本格的な掃除は明日になりそうだ。  
ビデオ機材や生活に最低限必要な品以外、あまり物の無い部屋なので特に困る事は無いが。  
雨粒で滲んだ外の景色を見ながら、佐木は首筋に触れた。  
くっきりと青黒く残っていた跡は既に消えているが、縄の感触が未だに生々しく残っている。  
口封じに殺されかけるなんてそう簡単に体験できるものではないだろうが、それがいい経験かと問われれば答えは絶対に否だ。  
無論、あのミステリーナイトに同行したのは自分の責任なのだけれど。  
 
佐木が首から手を離して溜息をついたその時、ドアのチャイムが安っぽい音を立てた。  
1Kのお世辞にも広いとは言えない部屋を慌てて横切り、ドアの魚眼レンズを覗いてから、佐木はドアを開けた。  
ツインテールの髪を雨に濡らした少女が、俯いて立っている。  
「・・・・・・フミちゃん?」  
全身ずぶ濡れになっているのでよく分からないが、彼女は静かに泣いているようだった。  
その小さな体が、いつも以上に弱々しく見える。  
「えっと・・・・・・早く入ったら? 風邪引いちゃうから」  
無言で頷き、フミは靴を脱いで部屋に上がった。滴り落ちた雨粒が、ポタリポタリと床に落ちる。  
その様子を見ながら、佐木は僅かに首を傾げた。  
金田一家の居候で佐木達とも仲の良いフミは勿論この部屋に来た事も何度もあるが、この雨の中、しかも休日に理由もなくわざわざここまで来る事などありえない。  
「・・・・・・お風呂沸いてるけど、入るよね?」  
色々と訊きたい気持ちを抑えて佐木が言うと、フミはまたも無言でこくりと頷いた。  
濡れた足跡を残して部屋を横切ると、バスルームのドアの前まで来た所でちらりと振り向く。  
『・・・・・・覗いたり、しませんよね?』  
まるでそう言っているような視線に、佐木はむしろ救われたような気がした。  
 

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