「何よ、はじめちゃんのバカ・・・」  
美雪は一の出て行ったドアを見つめ、淋しげに呟いた。  
心なしか、瞳が潤んでいる。  
 
今日、美雪は一に誘われて豪華なホテルに泊まりに来ていた。  
一の話によると、剣持に宿泊券をもらったらしい。  
無駄にするのは勿体ないから、一緒に行かないか?と誘われたのだが・・・。  
一の下心が見え見えだったが、お互い別の部屋に泊まるという条件でOKした。  
けれど、美雪は少しだけ期待していた。  
もしかしたら、幼なじみの関係が変わるかもしれない。  
今の曖昧な関係を、変えることができるかもしれない・・・と。  
そう思っていたのに。  
 
「はじめちゃん・・・。また事件なの?」  
「ああ。どうやらそうみたいだな・・・。密室殺人か・・・」  
そう。お決まりのパターンで、また殺人事件が起きてしまったのだ。  
どうしていつもこうなるのよ。美雪は溜息をつく。  
そして一からの連絡を受け、警視庁から剣持と明智が駆けつけ  
泊まっていたホテルは、あっという間に物々しい雰囲気になってしまった。  
 
部屋に戻った一と美雪に、気まずい空気が流れる。  
「はじめちゃん、どこに行くの?まさか・・・事件現場を見に行くんじゃ・・・」  
「わりぃ、美雪・・・。オッサンだけじゃ不安だからな」  
「どうせ止めたって行くんでしょ・・・?はじめちゃんの好きにしたら?」  
「・・・わりぃ。せっかくの旅行だったのにな」  
一は済まなそうに呟くと、美雪の部屋から急ぎ足で出て行った。  
「何よ、はじめちゃんのバカ・・・」  
 
それが、今までの出来事だった。  
 
 
コンコン。しばらくするとドアをノックする音が聞こえる。  
「はじめちゃん?」  
美雪がドアに近づくと、思いがけない人物の声がした。  
「私です、七瀬さん。明智です」  
「明智さん・・?」  
美雪がドアを開けると、明智が微笑みながら立っていた。  
「すみません、突然お邪魔して。金田一くんのことですが、どこに行ったか知りませんか?」  
「はじめちゃんなら、剣持警部のところだと思いますけど・・・」  
「そうですか・・。わかりました」  
明智がドアから離れようとすると、美雪の瞳から涙が零れた。  
「・・・七瀬さん?どうかしましたか?」  
「い、いえ!な、何でもないんです・・・」  
「では、泣いているのはなぜです?せっかくの綺麗な顔が台無しですよ」  
明智が美雪の涙を指で拭う。美雪はその仕草にドキリとした。  
 
「はじめちゃんが、剣持警部のところに行ってしまって・・・。  
事件の方が大事だってわかってるのに・・・何だか悲しくなって・・・」  
「七瀬さん・・」  
「や、やだ・・・こんなこと突然言われても迷惑ですよね。ご、ごめんなさい」  
美雪が照れたように笑うと、ふわりと身体が包まれる。  
いつの間にか、明智に抱きしめられていた。  
「あ、明智さん?!」  
「いいんですよ、無理をしなくても」  
明智が美雪の髪を優しく撫でる。美雪はまた涙ぐみそうだった。  
明智は美雪から身体を離すと、端整な顔を近づけた。  
舌で、頬に零れた涙を舐め取る。  
「あっ・・・」  
美雪の身体がぴくりと震えた。明智の唇が、美雪の耳朶を甘く噛む。  
美雪が嫌がらないことを確かめると、明智は美雪の唇を塞いだ。  
クチュ・・クチュ・・・。  
「んっ・・はぁ・・・」  
ねっとりと、明智の舌が美雪の口腔を這う。  
美雪は恐る恐る舌を絡ませた。  
ぞくりと、今まで感じたことのない快感が美雪を襲う。  
互いの舌が絡み合い、明智は美雪の舌を吸い上げた。  
「初めて・・ですか?こういうキスは・・・」  
「わ、私・・キスなんて・・は、はじめて・・・」  
美雪はくらくらとした意識のまま、明智の背にしがみつく。  
「・・もっと良いことを教えましょうか」  
「い・・いいこと・・?」  
 

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