茅のオトコ嫌いは有名だ。  
刑事というにはあまりに魅力的で妖しい美貌を持ち、  
出世のエリートコースに乗る敏腕としても知られる彼女は  
その気高さゆえにオトコを近づけない、というのが警視庁内の定説である。  
あるいは一説にはレズである、ともいわれる。  
しかし、そのいずれでもない。  
 
癖というか職業病というか一は気になることがあると眠れない。  
茅の箱を見て以来だ。  
寝返りをうつばかりで悶々としている。  
ガバッと起き出すなり、ホテルのロビーへと向かう。  
(一杯飲んで寝るか…)  
 
乗りのいいモダンジャズが流れるロビーは数組のカップルがグラスを傾けている。  
足を組んだ姿勢で、真紅のワインが満ちたグラスを艶かしい唇に近づける女性がいた。  
「茅さん…」  
茅は声のした方に視線を向けた。  
茅は微笑しながら誘惑するかのように首を少し傾けて一に着席するように  
目で促した。  
一は三度も首を振ってうなづき、茅と向かい合って座る。  
茅の膝の上にそれはある。  
 
言え、言っちまえ!それができたら苦労はない。  
その箱の中身はなんですか?と。  
足のラインは美しく、つま先をわずかに揺り動かしている。  
視線を合わせる。  
わずかな笑みを浮かべて、一を眺めている。  
茅は唇をわずかにすぼめた。  
まるでキスを送るかのように。  
はじかれたように一は声を出した。  
「そ、その箱何が入ってるんですか!?」  
いっちまった、言ってしまった…。  
箱とともに身を翻して椅子からたった。  
シトラスの香りが一の鼻腔をくすぐる。  
「知りたければついていらっしゃい、ボウヤ…」  
席を立つその刹那、茅は笑ってウインクしたように見えた、からかうように。  
あるいは気のせいかもしれない。  
もつれる足取りで、茅の後をついていく一はいまや夢見心地だ。  
柱の影の涙を浮かべた美雪に気づくはずもない。  
 
「やっぱまずいっすよ茅さん、俺帰ります」  
茅が自室の鍵を開けている途中だ。  
茅は振り向いて一に視線を合わせた。  
一は茅からの誘いに対して当初喜びで胸を膨らませていたが、  
エレベーターに乗り、歩いていくにしたがって罪悪感が湧いてきたのだ。  
美雪に対しての。  
一は視線を合わせようとしない。  
(どうもこの人に見つめられていると…)  
「あの、俺…」  
そういいかけた一を遮るように、箱は振動を始めた。  
茅は優しく微笑みながら扉を開けた。  
(箱の中身を確かめるだけだ、そう、それだけだ…)  
一は先ほどの言葉に反して、そう自分に苦しい言い訳をして  
茅の部屋に入る。  
茅は部屋に入る直前に、廊下に並ぶ観葉樹に視線を投げて呟いた。  
「アラ、子猫ちゃんがいるみたいね」  
一はその言葉が何を意味するかわからなかった。  
 
レースの肩掛けを脱いでノースリーブになった茅の腕は細く白い。  
鏡の前のウィスキーのビンを手に取る仕草に思わず見とれる。  
その一と、鏡のなかの妖しい微笑を見せる茅の視線が合った。  
見とれていたのを悟られた気恥ずかしさで、  
一は「ハッ」と息を吐くなり、赤面して顔を伏せた。  
「金田一君もビールでも飲む?」  
「は、はいっ!」(何、声裏返ってるんだ俺は…)  
冷蔵庫に向かう茅とすれ違うとき、一は大げさに体を避けた。  
下半身の反応を茅に悟られないためだ。  
茅が一時的にいなくなったすきに一は思考を凝縮した。  
(生き物…?じゃないな、動きが規則的過ぎる、モノだ、モノ、振動するモノ)  
 

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