この頃からだの様子がおかしい。なんとなく胸がもやもやするし、意味も無く鳴きだしたくなる。その正体が分からなくて、ここ数日紅葉は元気が無い。  
元気いっぱいの普段との落差がはげしく、詩月や四季少女、アグニエシカも心配していた。  
「紅葉ちゃん、大丈夫?この頃元気が無いみたいだけど…」  
と、詩月。  
「紅葉〜、どうしたんだい?」  
と、春香。  
「紅葉、どしたの?」  
と、夏輝。  
「紅葉、大丈夫?」  
と、秋菜。  
「紅葉ちゃん、元気ないよ?」  
と、冬美。  
「あんた、どうかしたの?」  
と、アグニ。  
その度に紅葉はあいまいな笑みを浮かべるしか出来ない。なにしろ原因が自分でも分からないのだから。  
“どうしちゃったのかな”  
考えるが、特に変なものを食べたとか怪我をしたとか言うことも思いつかない。体も動かしているから、運動不足でもない。  
“昨日も、優樹といっぱい遊んだのに…”  
その優樹のことを思い浮かべるたびに、紅葉のもやもやは大きくなる。それをどうにももてあましたまま、紅葉はふらふらと校舎の中を歩き回る。  
 
ふと視線を上げると、保健室の前だった。普段は薬のにおいが苦手であまり近寄らないのだが、今は別だ。  
“そうだ、小竹乃に聞いてみよう”  
 体のことに詳しい保健医なら、何か知っているかもしれない。そう思い、保健室の扉を開けた。  
 午後のやわらかい光に照らされた保健室の中には、校医の本町小竹乃と、ネレイドの二人がいた。  
「あら、紅葉ちゃん。珍しいですね」  
「うん」  
ちょこんと椅子に腰掛ける。ふわふわの尻尾がゆらゆら揺れる。  
「それで、今日はどうしました?」  
「うん…あのね、この頃胸がもやもやするの。それに…」  
「それに?」  
言いにくそうにする紅葉に、小竹乃は優しくうながす。  
「…脚の間がむずむずするの…」  
さすがに恥ずかしいらしく、紅葉は俯いてしまった。狐の耳もうなだれる。  
そのおでこに手を伸ばし、体温を確かめる。元が狐の紅葉の体温は人間のものより高いが、今日はそれよりも少し高いようだ。  
微熱と、体の変調。  
“これは…あれですかね”  
あたりをつけながら、確認のためネレイドを呼ぶ。  
「ネレイドさん」  
「はい」  
椅子に座って静かに本を読んでいたネレイドが本を閉じ、やってくる。  
 
そのネレイドに、小声で何事かつぶやいた。ネレイドは承諾するように顎を引き、紅葉の手をとった。  
「?」  
すぐに手を離し、ネレイドは小竹乃に向き直る。  
「…確認しました」  
「そうですか、ありがとう」  
さらに小声で二言三言。小竹乃の推測と、ネレイドの知識を付き合わせる。結論はすぐに出た。  
そして、小竹乃は紅葉に顔を向けた。  
「紅葉ちゃん、少しお話しましょうか」  
「?うん」  
「あなたのそれは、別に病気や怪我ではありませんよ」  
「そうなの?」  
「ええ。だからまず安心してください」  
「でも…」  
「それは、あなたの体が子供を作る準備をしているんです」  
「え?」  
「あなたの言う症状、それにネレイドさんの検査の結果、それしかありえません」  
「え、え?」  
軽いパニックに陥る紅葉。  
“子供を作るって…”  
これまで漠然としか想像したことが無いため、具体的なイメージが浮かばない。  
「というわけで、これから少しそれについてお話したいと思います。これは女の子として知っておかなければいけない、大切な事なんです」  
ガラガラ、という音と共に、ネレイドが何枚もの大きな図版を束ねたものを持ってくる。  
そして、小竹乃はネレイドと共に、紅葉に性教育を始めた。  
 
 
人間ののみならず動物の発情まで交えた説明が終わる頃には、すっかり夕方になってしまっていた。  
からからと音をたて、紅葉は退出していく。その足取りは、どこかふわふわしているように見えた。  
その紅葉を見送ってから、小竹乃が言う。  
「ネレイドさん」  
「はい」  
「すいませんが、優樹くんを呼んできてもらえますか?」  
「…はい」  
ネレイドも保健室を出て行く。一人になった保健室で、小竹乃は何をいうべきか考え始めた。  
 程なく、ネレイドが優樹を伴って帰ってきた。  
「本町先生、僕に用事ってなんですか?」  
「ええ。紅葉ちゃんのことです。彼女の様子がおかしいことは知っていますよね?」  
「はい。なんか元気が無いですね」  
「その理由が分かりました」  
「え?」  
「他に良い言葉が見当たらないのでこの言葉を使いますが。あの子は今、発情期に入っているようなんです」  
優樹が絶句する。  
「ああ、これは真面目な話です。よく聞いてください」  
動揺しながらも優樹は首を縦に振った。  
「あの子の中には動物としての性質と人間としての性質が混在しています」  
「え、ええ、そうですね」  
「そして今回の場合、動物としての性質が強く出ているようなんです」  
「?どういうことですか?」  
「簡単な問診をしたんですが、人間の生理に相当するようなことは無いらしいんです」  
だから、どちらかというと動物の発情期に引きずられているのではないか、と小竹乃は告げた。  
 
 「でも、なんで僕に?春香さん達…はともかくとして、詩月やアグニには言っても…」  
 「あなたが一番あの子と良く一緒にいますし、それに唯一の男性ですからね」  
 「動物の発情期というのは、期間が限定されているために非常に強い衝動に襲われるものなんですよ」  
 「そうなんですか?」  
 「ええ。大きな声で鳴いている犬や猫を見たことはありませんか?いつもはそんなことは無いでしょう?そうしなければどうしようもないくらい、欲求は強いんですよ」  
 「なるほど…」  
 「だから、気をつけてあげてくださいね」  
 「わかりました。とはいっても、何に気をつけたらいいのか分からないですけど」  
 苦笑して頭をかく。  
 「ええ、だから知っておいてもらえだけでもいいんです。話はこれだけです、呼び出してしまって悪かったですね」  
 「いえ、大切なことを教えてくれて、ありがとうございます」  
 では、と優樹は保健室を辞そうとした。  
 「本町先生、私も失礼します」  
 するとネレイドも鞄を持って立ち上がる。  
 「ネレイドさんもお疲れ様です。では二人とも気をつけて」  
 
帰宅、というかなんと言うか、そんな帰り道。優樹は珍しくネレイドと歩いていた。小竹乃の手伝いをしているネレイドとは、いつもは一緒にならないのだ。  
「ユウキ」  
「何、ネレイド?」  
「モミジを、よろしくお願いします」  
「え?」  
正直に言って、意外だった。ネレイドが紅葉の事を気にかけていたとは。  
「私とモミジは似ています」  
疑念を感じ取ったのか、ネレイドが言う。  
「ああ、なるほど」  
納得する。生まれが人間で無いのに、人間になろうとする二人は、その在り方が良く似ている。  
「そういえば、ネレイドが始めて話しかけたのが僕と紅葉だっけ?」  
「はい。そしてモミジは、私が自分のあり方を意識するきっかけを作ってくれました。だから、モミジは私の恩人です」  
本当に珍しく、ネレイドの言葉に分かりやすい感情がにじむ。そんなネレイドに優樹は思わず微笑む。性格は正反対だが、あり方の似ている二人はこれで仲が良いのだ。  
「友達が心配なんだ?」  
「友達…」  
 ふとネレイドは考えこむ。しかし、やがてゆっくり、  
「…はい」  
 と呟くように、言った。  
 
 
紅葉は寮の自分の部屋に戻っていた。畳の上で丸くなっている。  
「ふう、ふう…」  
息は荒く、体は微熱にうかされる。そして脚の付け根は強くうずく。  
身体の変調に、紅葉の我慢は限界を迎えていた。  
「小竹乃は、こうするといいって言ってたよね…」  
どうしても我慢できなくなった場合の対処法を、小竹乃は伝えていた。  
「ふうっ、んんっ」  
両手で制服に包まれた胸を揉む。すると、未知の感覚が胸に走った。  
「ふわっ?」  
驚いて手を離してしまう。しかし、その感覚は気持ち良いような感じがした。  
恐る恐る再び手を伸ばす。小さなカップを揉むと、それだけでじんわりした感覚が胸から全身に広がっていく。  
「ふあっ、ふんっ、ふうっ」  
耐性の無い紅葉は、たちまちその感覚の虜になってしまう。胸を揉む手つきが、徐々にせわしなくなっていく。  
「ひうっ?」  
その指が偶然胸の頂点に触れ、そこを生地で擦った。その鋭い感覚に、紅葉は声を上げる。しかし手は止まらない。  
「あふっ、ひっ、んんっ、あっ」  
“気持ち良い…”  
快感を覚えた紅葉は、貪欲にそれを求める。  
生地の上からではもどかしく、制服のボタンを外し、下着をつけていない胸をあらわにする。  
そして、じかに胸に手を触れた。自分のとは思えないくらい熱い。  
 「あうっ、んん、ふあっ」  
指での刺激を再開する。まだ未熟な紅葉は、頂点の突起よりもカップ全体をもむ方が気持ちがいいようだ。  
 
しばらく胸を揉んでいると、股の間にかすかな違和感。片手を伸ばし、スカートの中に手を入れる。紅葉も、さすがにこちらは下着をつけていた。その中央部にそっと触れる。  
「あ…濡れてる…」  
小竹乃の言ったとおり、そこはかすかに湿っていた。  
「ここに、男の人のを入れてもらうと、子供が出来るんだよね…」  
楓をこの世に生みなおしたいという願いを持つ紅葉。自分が子供を生めるようになりつつあることを喜びと共に実感する。  
「ここも、触るといいって言ってたよね…」  
恐る恐る下着の上から筋に沿って指で撫でる。それだけで、ジワリとした快感が全身に波及した。  
「ん、ん、ん」  
ゆっくりと筋を何度も撫でる。胸も揉むと、二つのポイントから快感が全身に広がっていく。快感は相乗しあい、紅葉の胸のもやもやを少しずつ溶かしていくようだ。  
「ふあっ、あっ、んんっ」  
紅葉の声にも少しずつ艶が混じってくる。  
「んあっ、気持ち良いよぅ、優樹ぃ…」  
体を慰めながら優樹の名前を呼ぶ。楓と同じく、人とそれ以外を分け隔てなく扱ってくれる、優しい人。紅葉の、いとしい人。  
その顔を思い浮かべ、その手で撫でられ、その腕で抱かれたことを思い出すと、全身をかける快感が増していく。  
「んんっ、優樹、優樹ぃ…紅葉に、さわってぇ」  
紅葉の口は、素直に自分の願いをつむいだ。  
いつしか手は、上下の敏感な突起を刺激していた。  
胸の頂上のつぼみ。先ほどは痛いくらいだったのに、今ではそれも快感だ。  
筋上の突起。下着の上からでも、指をこすりつけると背筋を震えさせるほどの快感を呼び起こした。  
 
ちゅっちゅっちゅっ…  
静かな室内に、控えめな水音が響く。  
そして。  
「ふあっ、あれっ、何か変だよぅ…」  
積みあがった快感が、紅葉を感じたことのない高みへと押し上げていく。その感覚に戸惑いながらも、結局は快感を求める気持ちが勝った。そのまま手を動かす。  
そして。  
「あっ、あ、あうっ、ふあああっ」  
快感で頭が白く染まり、背中が反る。紅葉は、初めての絶頂を迎えたのだ。  
紅葉は体を弛緩させ、荒く熱い吐息を吐く。  
「気持ち、良かったな…」  
小竹乃の言った通りだった。胸のもやもやも薄れている。  
しかし同時に、  
「好きな人にしてもらうと、もっと気持ちいいって言ってたっけ」  
もう一つの小竹乃の言葉も思い出す。その言葉に、興味をひかれた。快感を覚えたばかりの紅葉は、その好奇心の虜になっていたのだ。  
「優樹に、してもらったら…」  
優樹に全身を撫でられる様子を想像する。それだけで、一度は治まった脚の付け根の疼きが再燃し始める。  
「でも…」  
小竹乃は身体が出来上がっていない紅葉がそれを行うことは危険だとも言っていた。ネレイドもそれに同意していた。  
好奇心と、禁止。その二つの間で紅葉は板挟みになる。  
逡巡はしばし。しかし、結局は快感を求める好奇心が勝った。  
「ちょっとだけなら、大丈夫だよ、ね」  
自分に言い聞かせるように呟いて、紅葉は立ち上がった。  
 
 

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