「祇条さん、今いいかな?」
「あ、ご主人様……ええ、構いませんよ」
深月は一瞬だけ辺りを見回して、渡り廊下に誰もいないのを確かめると、それ以上は何
も訊かずにスッと壁際に寄って死角を増やす。
光一はそれに寄り添うようにして肩を優しく抱くと、静かに唇を重ねた。
「ちゅ……う、れろ、るろれる、る、むちゅ……」
「ん……あ、むぁ、むちゅ……れろる、れろ、れろ、ろる……」
初めから互いに舌を激しく絡め合い、唾液が零れるのも構わず淫らな音を立てまくった。
ここが校舎の中だという事など、眼中に無いとでも言うように遠慮の無い、派手なキス。
光一の舌が深月の歯茎の裏をこそぐように舐めあげれば、深月の舌が光一の舌の裏筋を
ぞろりとなぞり上げる。
「ちゅっ、ぢゅ――ん、んくっ、んくっ、んくっ」
光一が頬の裏側に溜めていた唾液を流し込むと、深月はそれをさも旨そうに恍惚とした
表情で口中に溜めていく。
「あ、お兄ちゃんだ」
「わぁ、せんぱいだ」
背後から掛けられた声に、一拍遅れて振り返る光一。その制服の袖にはかすかに唾液を
ふき取った跡があったが、二人がそれに気づく心配はしていない。
「どうした、二人とも。そろそろ授業の時間だろ」
「移動教室から戻るところだよ。お兄ちゃんこそ、こんなトコでのんびりお話なんかして
ていいのかな~?」
光一の背後には、いつものように落ち着いた佇まいで、柔らかく微笑んでいる深月がい
る。
「うるさいな。すぐに行くよ」
「祇条センパイも、お兄ちゃんなんかに付き合って遅刻したりしないでくださいね」
「大きなお世話だぞ、コラ」
拳を振り上げる真似をすると、二人は黄色い声を上げて笑いながら駆けていった。
小さくため息を吐く光一と、手を小さく振ってそれを見送る深月。
「いいよ」
光一が振り向きもせずにそう言うと、深月はそっとまぶたを閉じてその細い頤を上へ向
け、含んだままの光一の唾液を残らず呑み干した。
「ふぁ……あ……」
瞳をきゅっと可愛らしく閉じたまま、深月は感極まったようにぶるりと腰を震わせた。
それだけを横目で見て、満足そうに微笑むと、
「じゃあ、後は放課後にね」
「はい……ご主人様……」
静かに去っていく光一の背中へと、深月の潤んだ声がその後を追っていた。
(了)
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