私が輝日南高校を去ってから、もうどのくらい経ったのだろう・・・?  
 
あの学園祭の夕方、私はあの場所で、彼に愛の告白をした。  
転校という、辛過ぎる運命。折角仲良くなれた彼との、悲しい別れ。  
(いつまでも、このまま、時間が止まっていて欲しい)  
私は本当に、そう思った。だが、時間は非情にも過ぎていき、いよいよ彼ともお別れ。  
私は嫌だった。本当に、好きになった彼なのに・・・運命は、無残にも愛し合う二人を引き離す。  
校舎裏や、プールなどで、幾度も愛の口づけを交わしたのも、この別れを惜しんでの行動だった。  
私たちには、時間が残されていなかったから、少し焦りもあったのかもしれない。  
 
そして・・・・・・彼との別れの時が、やってきた。  
「相原君・・・・・・」  
もう、私にはこれ以上言葉が出せない。ただ、涙だけが、ぽろぽろと溢れ出てくる。  
どうして、愛し合う二人が、引き離されなければならないの?・・・・・・こんなにも、彼のことが、大好きなのにっ!  
もう、涙が止まらない。私たちの儚い恋物語も、ここで終焉。  
大好きなのに・・・・・・愛してるのに・・・・・・こんなにも、無残な結末。  
私は思わず、彼の胸に顔を埋めて泣き出した。私は・・・・・・  
 
だが彼は・・・・・・私を優しく抱きとめて、こう囁いた。  
「星乃さん・・・・・・僕たちの物語は、これで終わりじゃない。ここからが、始まりなんだ。」  
「えっ・・・・・・?」  
私は驚いて彼を見る。彼の目は、嘘は言っていない。  
「大きな休みのときは、必ず逢いに行くから。」  
「そう・・・だよね!私たちの物語は、これでおしまいじゃないのよね!」  
私は思わず彼の首筋に抱きついた。彼は・・・ここからが、私たちの愛の物語の始まりだと言ってくれている。  
「星乃さん・・・いや、結美・・・愛してる・・・」  
彼は私を抱きとめてくれている。そんな彼の言葉に、私は頷いた。  
「うん・・・・・・うん・・・・・・」  
そう、ここからが、私たち二人の、物語の始まり。  
 
 
彼の言葉は、嘘ではなかった。  
彼は冬休み、春休み、GW、夏休みと、大きな休みごとに、私に逢いに来てくれた。  
それは、本気で私との愛を貫こうとする、彼の一途な姿勢だった。  
本音を言えば、少しだけ心配だった。  
あの学校には、可愛い女の子が多いから、私のことなんて忘れて、彼女たちの方に移ってしまうのではないかと。  
でも彼は、私にこう言った。  
「確かに、あの学校には可愛い子が多いけど、僕が好きになったのは、君だけなんだ。」  
そして、その澄んだ瞳で、私を見つめて言う。  
「浮気なんて、ありえないよ。」  
まだ、ちょっとだけ疑惑は残るけど、とりあえずは彼のことを信じることにする。  
 
そして、高校三年の夏休み。  
「おーい!結美ー!」  
浜辺の向こうから、彼が駆けて来る。私は砂浜にビニールシートを敷いて、その上に水着姿でいた。  
そして彼は私のところにやってくる。そして、いきなり缶ジュースを私の頬にピタッと当てた。  
「きゃっ!も、もうっ!熱いじゃない!!!」  
日焼けした私の頬に、熱い缶コーヒーの感触。でも・・・・・・ホット!?  
「熱いの飲むの?」  
「ははは、冗談だよ。はいっ!」  
そう言って彼は、後ろに隠し持っていた本当の冷たい缶ジュースを私に手渡した。  
「あー、びっくりした!」  
「ごめんごめん。結美をびっくりさせてやろうと思って。」  
そして彼は、自分の冷たい缶ジュースを持っている。  
「そのホットの缶コーヒー、どうするのよ?」  
「んー、そのうち飲むよ。ぬるくなったらね。」  
私の引っ越し先の近くの海水浴場。彼は今、夏休みを利用して、ここに来ていた。  
まさかうちに泊まるわけにもいかないので(別に私が反対しているのではなく、親や世間の関係で)、この近くに宿を借りてきているそうだ。  
今回は、2泊3日。そして、彼は、明日帰ってしまう。  
そんなことを考えていると、彼はじろじろと私を見ていた。  
「う〜ん、結美のビキニ姿、綺麗だなあ〜?」  
「も、もう、そんなにじろじろ見ないで!は、恥ずかしいから・・・」  
私は思わず起き上がり、身を屈めて身体を隠そうとする。すると彼は、私の真横に並んで座った。  
辺りは結構、人で混雑している。まあ、地元では結構人気の海水浴場だから、当然と言えば当然なのだが。  
しかし、ここでは、結構新しい学校での友達にも会う。  
「あ〜!結美ちゃんだ!男の人と一緒だ!ねえ、彼が噂の、光一くん?」  
「うふっ、そうなのー」  
「ねえ、私にも紹介してよー。いいなー、結美ちゃん、こんなに素敵な彼氏がいるんだもんなー」  
その子の視線が、何故か彼の水着の股間に集中しているのは、お約束。  
 
そんな感じでわいわい遊んでいたら、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。  
西の空に、真っ赤な夕焼け。  
辺りには、誰もいない。私と、光一くんの、二人だけ。  
彼は今、私の隣に腰を下ろしている。そして私は、彼にそっと寄り添った。  
もう、明日には、彼は帰ってしまう。そして・・・・・・  
次に逢えるのは、冬まで待たねばならない。  
 
このまま、時が止まってしまえばいいのに。  
 
薄暗い中、一瞬彼の表情が夕焼けに照らされた。  
すごく、辛そうな表情。そう、彼も、別れが辛いのだ。  
あと、もう少しだけ・・・もう、ちょっとだけ・・・  
一分一秒でも、彼と一緒にいたい。  
いつしか、彼も私も、言葉を発しなくなっていた。  
ただ、ひたすらに、こうして彼の感触を、彼のぬくもりを、感じていたい。  
未練なのは、わかってはいるけれど、私は・・・・・・  
 
不意に、彼は私の顔に、顔を近づけた。  
「結美・・・・・・」  
私には、抵抗する気がない。彼の全てを、迎え入れてあげたい。  
そのまま、私と彼の唇が、一つに重なった。  
私の全ての想いと、彼の全ての想いが、ここに一つになる。  
その時、私はここに持ってきていた小さなポシェットから、小さな四角いものを取り出し、そっと彼の手のひらに握らせた。  
「結美?」  
一瞬、彼は驚いて唇を離す。そして、彼はその手のひらをゆっくりと広げてみた。  
「結美、こ、これ・・・・・・」  
その四角いセロハンのパッケージの中からは、丸い輪っかの形が浮き出ている。  
「光一くん・・・・・・」  
私は一瞬、彼から離れた。そして、彼の正面に、立ち上がる。  
そして・・・私は、背中のビキニの紐を、するすると解いた。  
「ゆ、結美・・・」  
彼が私を見上げている中、私のビキニのブラが、するりと落ちた。  
そして・・・私は、腰のサイドにある、ショーツの紐も、するすると解いた。  
はらり。私のショーツが、そのまま地面に落ちた。  
「光一くん・・・私・・・」  
彼はごくりと息を呑んだ。今、彼の目には、私はどのように映っているのだろう?  
今、私は、彼に全てを許す。  
だって、私は彼を、愛しているから。  
 
光一くんは、一瞬、私の手を引いた。  
「きゃっ・・・あ・・・」  
私の身体は、一瞬彼にもたれかかり、彼に抱きとめられた。  
「結美・・・・・・すごく・・・・・・綺麗だ・・・・・・」  
彼の言葉には、嘘はない。彼の目を見ればわかる。  
すると彼は、ビニールシートの上に私の身体を横たえた。私は、仰向けになる。  
「んっくくう・・・」  
彼の指が、私の陰部に触れた。私の・・・一番、恥ずかしい場所。でも、私は、彼に・・・全てを許した。  
これから、何が起ころうとも、私は決して後悔しない。  
私は、彼を信じている。  
 
一瞬。  
 
私の身体に、痺れるような衝撃が走った。目の前が、真っ白になる・・・そして、意識も・・・朦朧としている。  
そして、意識が遠のくような・・・不思議な感触。  
 
・・・・・・。  
 
何が起こったのか、わからない。  
気がつくと、そこはさっきの浜辺。先ほどよりも、かなり薄暗くなっていた。  
「結美、終わったよ。」  
彼は私の横で、私の顔を見つめていた。  
「あ・・・私・・・」  
私が裸のままであることはわかる。そして、彼もやはり裸だった。  
「見てごらん。」  
彼はそう言って、自分の指でつまんでいる物を見せてくれた。  
それは、彼の男根の形に拡がった、ゴム。その表面には、少しだけ、赤い液体が付着している。  
そして、その中には、彼の熱い濁液が溜まっている。  
「私・・・・・・あなたと・・・・・・しちゃったんだ・・・・・・」  
少しだけ、私はぼうっとしている。  
これが、私の初体験だった。  
 
私が家に着いたときは、もう夜も更けていた。  
まだ、別れたくない。でも、別れなければならない。辛いけど、私たちの物語は、まだまだ終わりではない。  
まだ、プロローグの前半なのだ。  
「光一くん・・・・・・」  
別れ際に、玄関前で私は彼に口づけする。  
「悲しそうな顔をしないで。また、逢えるんだから。」  
「そうだね。また、逢いに来るよ。」  
そんな彼の言葉を、私はそっと遮った。  
「ううん。今度は・・・・・・私が、逢いにいくから・・・・・・。」  
そう。私ばかり待っているのでは、私に誠意がないと思われるかもしれないから・・・  
今度は、私が彼に逢いに行く。  
「それじゃ、また逢いましょう。」  
「うん、それじゃあまた。」  
私はそのまま、玄関の中に入った。  
すると・・・そこには、お父さんが立っていた。  
「結美!こんな遅くまで、どこ行ってたんだー!しかも、あの男は誰だーっ!!!」  
「きゃあっ!ごめんなさーいっ!」  
 
そして冬休み。  
私は約束どおり、彼のところにやってきた。  
本当は宿を取るつもりだったんだけれど、光一くんが家に泊まることを勧めたため、私は結局、彼の家に泊まった。  
そしてそれは、菜々ちゃんの勧めでもあったそうだ。  
そして、その2泊3日の滞在で、1ダース入りのコンドームを全部使い果たしてしまったことも、いい思い出。  
 
この後も、私と彼は、休みごとに逢いに行ったり来たりを繰り返した。  
私は、浮気は一切していない。今の私にとっては、彼が全て。  
それは、あの頃から、まったく変わらない。  
でも、彼は・・・どうだろう?  
「僕も、君が全てだ。」  
彼はそう言う。すると、その横から菜々ちゃんがしゃしゃり出てきた。  
「大丈夫ですよ先輩!私が、しっかり見張ってますから、ねっ?」  
「うふっ、そうね。じゃあ光一くん、浮気はダメよ?」  
「わ、わかってるってばっ!」  
 
 
あれから数年・・・  
 
休みごとに、私たちは逢瀬を繰り返していた。  
その間、私は両親に彼を紹介したり、彼の両親に私を紹介したり、私と彼の仲は、ほぼ公認になっていた。  
最初のうちは、私の親も気難しい顔をしていたけれども、今では少しづつ、その顔もほぐれている。  
『誠実』という彼の人柄を、ようやくわかってくれたのだ。  
 
そんな折、また大型連休がやってきた。  
そして、約束通り、彼はまたやって来た。  
しかし・・・・・・  
 
彼はいつになく、真剣な顔をしている。  
「どうしたの?」  
私が訊ねると、彼はすごく真剣な眼差しを、私に向けた。  
彼の姿も、今回は行楽というような感じではない。上下とも、スーツ姿で身を固めている。  
「結美、今日は、どうしても君に伝えたいことがあるんだ。」  
私は思わず息を呑む。こんなに真剣な彼の顔は、初めて見る。  
「な、何かな・・・?」  
私の表情も、思わず真剣になる。まるで、彼の表情がそのまま私に伝染ってしまったかのように。  
そして、彼は口を動かした。  
「あまり気の利いた言葉が思い浮かばなかったんだけど、結美・・・」  
「は、はい。」  
 
「僕と、結婚して欲しい。」  
 
夢にまで見た、その言葉。そして、私が恋い焦がれていた、その言葉。  
私は周囲の目も気にせず、彼に抱きついた。そして、彼の耳に、そっと囁いた。  
「不束者ですが、どうか末永くよろしくお願いいたします。」  
愛している。私も、そして、彼も。  
人目もはばからず、私は彼と唇を重ねた。  
 
彼はそのまま、私の家にやって来た。  
今、家には、父と母がいる。そして、彼らは、応接間のソファに、どっしりと座っていた。  
そして今、彼が私の父と、真剣に向き合っている。  
「お義父さん、結美さんを、僕に下さい!」  
彼は父の前で土下座した。それに対し、父の反応は、意外に穏やかなものだった。  
「光一くん、私はね、後悔しているのだ。私の仕事のためとはいえ、娘をあの地から引き離してしまったことをね。」  
「はい・・・・・・。」  
「大切なお友達もたくさんいただろうし、君のような誠実な男もいたのに。」  
「はい・・・・・・。」  
「だが、君は、娘との約束を守った。相当な苦労があっただろうに、君は、娘を傷つけないために、休みごとに娘に逢いに来てくれた。そして・・・」  
「・・・・・・。」  
「昨日、娘の向こうの友達の菜々って子から、電話があった。『相原光一は、浮気は一切していない』とね。」  
「・・・菜々が・・・」  
そして、父は彼の手を取った。そして、その両手をぐっと握った。  
「娘を、よろしく頼む。」  
「は、はいっ!結美さんは、一生、幸せにします!」  
すると父は、今度は私の方を向いた。  
「結美は、どうなのだ?」  
父の問いに、私は答えた。  
「私、彼と一緒に、幸せになります!」  
「うむ。それでよい。それでは二人とも、こちらへ来たまえ。」  
そう言って父は立ち上がり、私たちにも立つように促した。  
そして、部屋のドアを開けて外に出ると、私たちにも来るように促した。  
そして向かった先は、家の中の和室。  
そして父は、そのドアを開けた。  
和室の中には、一式の布団が敷いてある。そして、枕が二つ、並べられていた。  
「取りあえず、その布団の上に座りたまえ。」  
父は布団の外に腰を下ろした。そして、私と光一くんは、一緒に父の言うとおりに布団の上に腰を下ろした。  
「お、お父さん?これって・・・・・・?」  
私が疑問に思っているその横で、父はこう告げた。  
「さあ、二人とも、思う存分、愛し合いたまえ!」  
ええっ!?お、お父さん・・・・・・  
 
「お、お父さん・・・・・・」  
私は呆然としている。父は、私たちに・・・・・・父の見ている前で愛し合えと言っているのだ。  
「え、えーっと、愛し合えって・・・?」  
もちろん、意味はわかっている。でも、その意味を、最後まで信じたくはないのだ。だから、父に対して、こういう風に聞き返してしまう。  
そして、父の返答も、予想通りであった。  
「もちろん、言葉通りの意味だ。まさかその年で、知らんとは言わないだろうな?」  
高校生のときから、数年が経過している。だから、私は当然、20歳を越えている。だから、愛し合うという行為の意味を、知らないはずがない。  
『今ここで、相原光一とセックスをしろ』  
そういう意味なのだ。  
「え、ええと・・・お義父さん・・・」  
光一くんも、呆然としている。まったく予想だにしていなかった展開。それはそうだ。普通の親ならば、まずありえない発言。  
「お父さん・・・・・・どうして?」  
「何だ結美、光一くんとやるのは嫌か?」  
「そ、そうじゃないけど・・・どうして今ここで?」  
父はじっと私たち二人を見ている。そして、しばらくの沈黙の後、こう告げた。  
「結美よ。これは・・・私の試練なのだ。娘を持つ父親の、避けて通ることのできない、な。」  
「試練・・・・・・?」  
「本当は、可愛い愛娘を、ずっと手元に置いておきたい。だが、それでは、娘のためにならない。お前だって、一人の人格を持つ人間だ。  
そんなお前をいつまでも私の元に置いておいたら、お前はいつまでも大人になれない。だから、今私は、断腸の思いではあるが、  
お前の最も愛する人に、お前の全てを託すのだ。」  
「お父さん・・・・・・」  
父の想い。手塩にかけた愛娘を、自分という巣から旅立たせるという、辛いけど、娘を持つ親なら、誰もが通る試練。  
今、父は、その試練に、真っ向から立ち向かおうとしているのだ。  
見て見ぬふりとか、『俺の知らないところでやってくれ』とか、妥協案を提示したりするほうが簡単。でも、自分にも他人にも厳しい父だから、敢えてこの試練に正面から立ち向かう。  
そんな父の薫陶を受けたからこそ、私も何でも率先してやるようになったのかもしれない。  
「お父さん・・・・・・わかったわ。」  
今、私は、父の想いを受け取った。そして、光一くんの手をぎゅっと握る。  
「結美・・・・・・」  
光一くんは、驚いて私を見ている。まだ、現状を把握しきれていないのかもしれない。  
「光一くん、お願い・・・父の願いを聞いてあげて。」  
彼はごくっと喉を鳴らした。そして、首を縦に振り、頷いた。  
「お義父さん、本当に・・・・・・いいのですね?」  
「今更そういうことを聞かないでくれたまえ。」  
父の返答に、光一くんはこくりと頷いた。そして、私の方を向くと、そのまま私の顔に己の顔を近づける。  
 
キスから始まる、私たちの物語。  
 
 
その時、部屋のドアが開いた。  
入ってきたのは母。そして母は、父のすぐそばにやって来た。  
「あなた、その前に、やらなければならないことがあるのではないかしら?」  
母は父にそう告げた。やらなければならないこと、それって・・・何だろう?  
「おおっ!すっかり忘れていたな!」  
父は手をポンっと叩くと、立ち上がり、部屋の隅にあったテレビをこっちに近づけた。あまり大きくないテレビなので、運ぶのは簡単。  
そして、近くにあるビデオにコードを繋ぎ、さらに母が持っていたハンディカムにもコードを接続した。  
「光一くん、今から君に、見せたいものがある。」  
父はそう言って、テレビとビデオの電源を入れた。  
そして・・・父がビデオを再生すると、そこには・・・・・・よちよち、はいはいする、赤ん坊が映っていた。  
「お義父さん・・・・・・これは?」  
光一くんが質問する。だが、私は過去に、この映像を何度も見ているから、当然知っている。  
「これは・・・・・・結美の、赤ん坊のときの映像だ。可愛いだろう?」  
「そうですね。すごく可愛いです。」  
「そうだろうそうだろう。何たって、結美なのだから。」  
「もう、お父さんったら!」  
そして最初のビデオは、幼稚園時代の映像で幕を下ろした。  
「次はこれだ。」  
父はテープを抜き取り、新たなテープをセットする。それは、小学校時代の私の映像。  
そして、私のビデオは、中学、高校へと続いた。中学編・第3巻。高校編・第4巻。・・・・・・  
こんな感じで、私の映像を収めたビデオは続く。  
「可愛いですね。」  
光一くんの、率直な感想。  
「そりゃそうだ。私の自慢の、愛娘なのだからな。はっはっはっ!」  
父は高笑いする。しかし、次の瞬間、急に真剣な顔になった。  
「だが・・・・・・結美にも見せてはいないのだが、これには、序章として、第0巻があるのだ。」  
「第・・・・・・0巻!?」  
私は思わず声を上げた。今まで何度もこのビデオは見せてもらったけど、そんな話は聞いたことない。もちろん、その存在など、知るはずもない。  
「お父さん・・・・・・0巻って?」  
「結美・・・・・・これは、お前の全ての原点だ。見てみるか?」  
原点?それって・・・・・・何かしら?  
見てみないことにはわからないので、取りあえず見てみることにする。  
「見て・・・・・・みようかしら。」  
「よし!では今から見せてやる。結美の成長記録・第0巻、結美の人生の始まりをな。」  
 
父は、そのビデオをセットする。すると、自動的に再生になった。  
そして、そこに映し出された画面・・・その光景に、私は思わず絶句した。  
私に瓜二つの女性が、裸で布団の上に寝ている。そして・・・その隣に、光一くんではない男性が寄り添うように寝ているのだ。  
「ゆ、結美!」  
「わ、私、身に覚えないわよっ!!!」  
私にはまったく身に覚えがない。第一、光一くん以外の男性なんて、知らないし。  
「二人とも、早とちりするな。日付を見たまえ。」  
父の言葉に、私は画面を見た。すると、画面の下の端の方に、日付が記載されている。  
『1989,3,5.』  
私の誕生日は、1990年1月12日。だから、これは私の産まれる前の映像。もちろん、光一くんもまだ産まれてない。  
「この女は、私よ。」  
横から母が口を挟んだ。よく見れば、母にも似ている。もっとも、今の母よりも、ずっと若い。  
そして、一緒に寝ている男性・・・・・・これも、よく見れば父だ。もちろん、ずっと若いが。  
やがて、映像の中の父が動き出す。  
「!!!」  
いきなり父と母の顔がアップになり、唇が重なった。父と母の物語も、やはりキスから始まったのだろうか。  
「んんっ、ふうう・・・」  
画面越しに、母のうなり声が聞こえる。まるでその鼓動がじかに感じられるかのような、生々しい動き。  
やがて、母の首筋がすらりと伸び、そこに父が口づけした。  
「はああん!」  
母の悲鳴。その映像を見て、今この部屋にいる母も、思わず悲鳴を上げた。  
「やん?恥ずかしいわ。」  
そう言って母は思わず赤くなる。でも、お母さん、よく映像に残すのを許可したわよね?  
映像に父も映っていることから、撮影しているのは父でも母でもないことがわかる。  
「ねえお父さん、誰が撮影したの?」  
「お父さんの父だ。」  
おじいちゃん・・・・・・あなたって人は・・・・・・  
 
やがてカメラは、母の身体の次第に下へと視点を変えていく。  
そしてそれに沿って、父は母の身体に舌を這わせる。  
母は悦楽の表情をしていた。もしかしたら、母にそっくりな私も、Hのときはこんな表情をしているのかもしれない。  
そう思うと、何だか恥ずかしくなってくる。  
私は思わず立とうとした。しかし、父が怒る。  
「結美!最後まで見なさい!」  
そ、そんな・・・・・・恥ずかしいのに・・・・・・  
 
そして、画面が一気にアップになる。  
「!!!」  
私は思わず絶句してしまった。今目の前にドアップで映っているのは、お母さんの・・・生々しいモノ。  
その赤い秘肉と、赤いひだは、愛液に濡れていた。そこに、父の舌が伸びて・・・・・・  
「あはっ!はああん!あふううああっ!!!」  
画面の向こうの母の、ものすごい叫び。私は思わず、自分の股間を押さえた。まるで、自分がそうされているかのような感じがして。  
無理もない。画面の向こうの女の人は、私にそっくりな、まだ若い母なのだから。  
しかし・・・・・・これって、どこのレンタルビデオ店にもないほど、すごい映像よね。  
 
ここだけの話、私は何度か、その手のビデオを借りたことがある。  
意外に思われるかもしれないけど、私だって、一人の女。性欲だって、もちろんある。  
彼と一緒に見て、そのままHに移行・・・ってのもあるし、菜々ちゃんと一緒に見て、祭になったこともある。  
しかし、この映像は、どのアダルトビデオよりも、生々しく、そしてHだ。  
もちろん、モザイクが入っていないと言うこともあるけれど、それ以外の部分でも、私ははっきりと感じる。  
 
そんなことを考えているうちに、母のアソコの映像は次第に遠ざかってゆく。そして母と父の全身が映ると、今度はまた、母の顔がアップになった。  
「ええっ!?お、お母さん・・・」  
彼女の口元に、お父さんの・・・・・・亀頭の先が見える。すると母は・・・・・・舌を出して、それをぺろぺろと舐め始めたのだ。  
そして時折亀頭全体を口に含んで、口内で舌を転がしている。  
だが、それはすぐに終わった。父は、母の口から亀頭を抜き取った。そして、その亀頭の先が、また母の下半身へと移行していく。  
やがて、再び母のアソコがアップになった。そして、それに寄り添うように、父の陰茎が映っている。  
そして画面の向こうの父は私に叫んだ。  
「我が子よ!見ているがいい!これが、お前の・・・全ての原点だ!」  
ええっ!?わ、私の原点・・・・・・  
考えてみれば、そうかもしれない。少なくとも、この行為がなければ、私は産まれることはなかったのだから。  
でも、その画面の向こうの現実は、あまりにも生々しくて、そして、あまりにも卑猥で・・・・・・  
(あ・・・!)  
一瞬、股間を押さえている私の手が、うっすらと湿り気を感じた。  
私の身体が、反応している。その、あまりにも卑猥な、画面の映像に。  
そして、その映像は、父の亀頭が、母のアソコに今まさに入ろうとしている場面になっていた。  
『もう少し、力を抜いてごらん』  
『はい・・・』  
そんな会話の中、父の亀頭は、徐々に母のアソコに沈みこんでいく。  
「あっ!!!」  
私は思わず叫んだ。一瞬、母のアソコから、血が吹き出た。  
「お母さん、このとき、まだバージンだったの?」  
私が母に聞くと、母は恥ずかしそうにこくっと頷いた。  
 
「はあああっ!!!」  
悦楽とも悲鳴ともつかぬ画面の向こうの母の叫び声。母にとっては初めての、男の感触。  
だが、そんな母をよそに、父の陰茎は、その母の内部を激しく掻き回す。  
ぐちゃっ、ぬちゅっ、すちゅっ・・・・・・  
思わず耳を塞ぎたくなるような、激しい陰音。  
「ね、ねえ・・・光一くん。」  
私は彼に聞いてみた。  
「あなたも、こんな音・・・聞いたことある?」  
もちろん、あるに決まっている。私たちは、経験済みなのだから。でも、画面の向こうの音は、あまりにも卑猥で、自分もああいう音を立てているとは、信じたくないのだ。  
「もちろん。」  
彼の返答に、私も顔を真っ赤にする。やっぱり、あんな音を、私も立てているんだ・・・  
次第に私の身体も、熱くなっていく。どうしよう・・・すごく、興奮している。  
もう、今すぐにでも、彼に抱かれたいぐらいに。私の膣で、彼のモノを包み込んでしまいたいぐらいに。  
 
その時、いきなり画面の映像が止まった。  
いや、正確には、映像が止まったのではない。父と母の動きが止まったのだ。  
そして、そのまま父の陰茎は引き抜かれた。  
「ああっ!」  
私は思わず叫んだ。父の陰茎から、白い粘液が、糸を引いている。そして、母のアソコから、白い粘液が溢れている。  
「これのちょうど10ヵ月後に、お前は産まれたのだ。」  
父の言葉に、私は思わず目を剥いた。そう、笑ったり、泣いたり、怒ったりする、今の私。その全ての原点は、この映像にある。  
ちょうどこのときに、母は私を身籠ったのだ。  
 
この映像が、私の源なのだ。  
 
 
映像は、すべて終わった。  
「どうかね、結美。お前を作った映像は?」  
何て言えばいいのかわからない。正直、言葉が出てこないのだ。  
「・・・・・・。」  
そして父は、私と光一くんの前に腰を下ろした。  
「結美、このお前の成長記録だけどな、一番最後の巻は、お前が愛する人と結ばれる映像をもって、完成としたい。」  
「お父さん、それって・・・・・・」  
「そうだ。今から、お前たちの行為も、映像に残すのだ。」  
「ちょ、ちょっと待ってお父さん!愛する人と結ばれるって・・・それなら、結婚式でもいいじゃない!」  
「もちろん、結婚式の映像も撮るつもりだ。」  
「ならどうして・・・?」  
「結美、これは同時に、お前の子供の成長記録のプロローグにもなるんだぞ。」  
「そ、そんなの・・・子供に見せたくないよ・・・」  
「何を言う!お前だって、私たちの映像を見たではないか。」  
「そ、それはお父さんが・・・」  
「しかも、お前はそれを見て、感じてしまったではないか!」  
うっ・・・どうしてそれを・・・?  
確かに、今の私のアソコは、濡れている。でも、それは・・・画面の向こうの父と母が、あまりにも卑猥だったせいで・・・  
その時、父は私の肩をポンッと叩いた。  
「安心しろ。綺麗に撮ってやるから。」  
私は・・・・・・  
 
私は・・・・・・  
 
・・・・・・。  
 
 
結局、私の着ていた衣服は、全て綺麗に折りたたまれて私の脇に置かれている。  
もちろん、下着の類も全て。しかも、それは誰かに脱がされたわけではない。自分で脱いだのだ。  
「光一くん・・・・・・来て・・・・・・」  
私は仰向けに寝た。そして彼を誘うように、彼を見た。  
「結美・・・・・・。」  
彼もついに観念したようだ。服を全部脱いで、私の横に寄り添う。  
「お父さん・・・綺麗に撮ってね。」  
「わかっているさ。お前の、最も美しい映像なんだから。」  
私の人生で、最も美しくなる時期・・・それが今だと、父は言う。  
そう、最も愛する人と交わる、この瞬間。  
「結美、いくよ・・・・・・」  
彼の陰茎が、私の膣に狙いを定める。しかし私は、両手で膣を塞いだ。  
「どうしたんだ結美?」  
父が私に言うと、私は光一くんにこう言った。  
「ねえ光一くん、私たちの物語は、キスから始まるのよね?」  
「そうだったね。」  
そう、私たちの物語は、キスが一番最初。それが、私たちのセオリー。  
「ん・・・」  
私たちの唇が重なる・・・もちろん、その隣では、父のビデオカメラが動いている。  
そして、テレビには、私たちの映像が、リアルタイムで映っている。  
「結美、綺麗だよ・・・」  
光一くんと父の言葉が、ほぼ同時に重なった。すごく、嬉しい。  
この言葉を聞いただけで、私は、彼を愛してよかったと、そして父の娘に生まれてよかったと、本気で思う。  
そして、彼は私の顔や胸を存分に堪能する。映像にするのを躊躇っていた光一くんも、今では結構乗り気だ。  
「さあ、子供たち、今からパパが、おっぱいの吸い方を見せてあげるからね〜」  
そんな風にカメラに向かって言いながら、彼は私の乳首を吸う。  
「あ、あん・・・・・・」  
あ、あのねえ光一くん、赤ちゃんはそんなことぐらい、本能で知ってるし、そもそも赤ちゃんに見せるビデオじゃないでしょ?  
そしてビデオカメラは、徐々に私の下半身へと移っていき・・・  
「!!!」  
私は思わず絶句した。今、目の前のテレビに、私の女性が、はっきりと映っている。  
「あああっ!」  
そして彼の舌が、私の女性を、前後左右に舐め回す。  
「んんんっ!ひいいっ!」  
目の前の私の痴態と、実際に感じている彼の舌の感触に、私は正気でいられるはずもない。  
「ああああああっ!!!」  
私の女性が、愛液を周囲に撒き散らした。その瞬間も、もちろんビデオカメラは回っている。  
す、すごい・・・・・・私のアソコが、あんなにもヒクヒクと動いている・・・・・・  
 
「それじゃ、そろそろ挿入しようか。」  
光一くんがそう言うと、私は首を左右に振った。  
「待って。」  
「結美?」  
私は身体を起こして、光一くんの下半身に取り付いた。そして・・・・・・  
テレビに、私が光一くんのモノをしゃぶる映像が映し出された。  
「ゆ、結美・・・・・・」  
父がビデオカメラを回しながら、泣いている。やはり、娘の痴態は、父には酷く映るのだろうか?  
でも、この痴態が、嘘偽りのない、私の本当の姿。隠すことなど、今更できない。  
そして、画面は再び、私の女性を映し出した。そこからは卑猥な愛液が滴り落ちている。  
「結美・・・もういいよね?」  
光一くんのペニスが、私の口から引き抜かれ、それはそのまま私の女性へと到る。  
そして、彼の亀頭が、徐々に私の膣に沈み込んでいった・・・・・・  
 
「ああああああっ!!!」  
テレビの画面と、実際の私の膣で、私は彼の男根を感じている。その時、父が怒りをこめて光一くんに言った。  
「光一くん、どうして・・・娘は処女じゃないのかね?」  
明らかに怒っている。そう、私の処女はすでに、高校3年の夏休みに、彼に捧げられている。  
「ちょ、ちょっと待ってくださいお義父さん!」  
詰め寄る父に、彼はこう答えた。  
「いいですかお義父さん。よく考えてみてください。こんなにも素敵な女の人が、自分のことを好きと言ってくれているんです。お義父さんがこの立場なら、我慢できますか?」  
「無理だな。」  
「でしょう。」  
そんな簡単に納得しないでよ、お父さん・・・・・・  
ともあれ、私の膣は、根元まで彼の男根をくわえ込んでいる。今、光一くんと私は、一つに結ばれた。  
しかし、よく考えてみれば、コンドームなしでの挿入は、これが初めてだ。だから、もし彼が膣内に射精すれば、妊娠してしまう可能性が高い。  
「じゃあ、動かすよ。」  
「うん・・・来て?」  
そして、彼の陰茎が、私の中でスライドする・・・  
 
あっ・・・・・・  
 
彼の生の陰茎の、熱い感触。やはり、コンドームのあるとなしとでは、ぜんぜん違う。  
じかに彼の鼓動が伝わる・・・その熱い鼓動は、いまだかつて私が経験したことのないものだった。  
「結美・・・僕も、溶けちゃいそうだ・・・!」  
彼も今、コンドームなしで私の感触を味わっている。それにしても・・・すごい。  
男って、こんなにも・・・気持ちいいものなの!?  
実際にこの身体で味わってみて、私は思う。  
遥か昔から、数多の人間が、この行為を繰り返してきた。  
ほぼ無限に近い回数のこの行為が、歴史の中に刻まれている。私には、今初めてわかった。  
人はなぜ、この行為を繰り返すかの、その答えが。  
父はビデオカメラを回しながら、泣いている。  
「結美・・・本当に・・・本当に、綺麗になった・・・」  
お父さん、私は・・・・・・あなたの娘に生まれたことを、感謝しています。  
そりゃ、一時は転校の件で、あなたを恨んだこともあったけど、思えば、あのおかげで、相原光一という、世界一素敵な男性と、こうして結ばれることができたのだから。  
「お父さん・・・ありがとう・・・」  
めまぐるしく私の身体を貪る絶頂の嵐の中で、私はそっとお父さんに感謝の言葉を述べた。  
「結美!・・・うう・・・」  
遂に父は、ビデオカメラを放り出して泣き出してしまった。その父の背中を、母がなだめるようにさすっている。  
そして、そのビデオカメラは、光一くんが回収して持っている。もちろんそのカメラは。私たちの結合部に向けられていた。  
ええっ!?今の私たちって、も、もしかして、ハメ撮り!?  
厳密に言えば、今までのもハメ撮りなのだが、今の私たちは、自分で撮影しているのだ。  
その間も、彼の陰茎は、私の中で暴れている。  
ぐちゃっ、ぬちゅっ、すちゅっ・・・・・・  
あの父と母の映像の中で、激しく鳴っていたあの卑猥な音が、今度は私の股間で、はっきりと聞こえる。  
「いや・・・あああ・・・あふう・・・」  
恥ずかしさと、気持ちよさからか、私の身体は、一気に熱くなった。  
私の身体が、彼の精子を求めている。  
「光一くん・・・・・・来て!!!」  
その私の膣が、彼に射精を促す。  
「中で・・・・・・出していいよ。」  
「うん、わかってる。だってこれは・・・僕らの子供の、始まり。そして・・・原点なのだから。」  
そう、私たちの子供の、原点になる。それには、確実に妊娠しなければならない。  
「出すよっ!」  
「出してっ!」  
その直後、彼の身体から、熱い濁流が、私の胎内に溢れ出る。  
 
「はあ、はあ、はあ・・・」  
私たちは、肩で荒い息をしている。今、彼の精子が、私の胎内に撃ち込まれた。  
まだ、妊娠したかどうかはわからない。でも、きっと大丈夫。  
 
その夜、私は家族みんなで、団欒を過ごした。  
もちろん、光一くんも一緒。そして、その団欒のメインは、さっき撮ったビデオの鑑賞会。  
すごく恥ずかしいけれど、とても綺麗に取れてて、何だか嬉しい。  
そして、父は光一君の手を取り、こう言った。  
「光一くん、ありがとう。私の代わりに、最後まで撮ってくれて。」  
「いや、お義父さんの気持ちが、すごく伝わってきたので。」  
やはり、父と娘婿とはいえ、二人とも男性なんだなあ。共感する部分が多いのも、事実なのだろう。どうやら、二人は忽ち意気投合したようだ。  
「光一くん、これからも末永くよろしく。」  
「はい、お義父さん!」  
 
 
 
二人の物語(エピローグ)  
 
それから間もなく、私たちは青空の教会の元、結婚式を挙げた。  
世界で一番愛する人との、最高の舞台。  
バージンロードの途中まで、私は父と腕を組んで歩き出す。  
そして、そのロードの真ん中に、彼がいる。  
そして私たちは、彼の元へと歩いていく。そして・・・  
 
私は父から離れ、彼と腕を組んだ。  
その瞬間、父の顔が急に崩れた。そして私たちが背を向けると、父は泣き出した。  
「結美・・・あんなに可愛かった結美が・・・よくぞ、こんなに立派に・・・うう・・・」  
お父さん、今までありがとう。私は彼に、永遠の愛を誓います。  
 
それから披露宴まで、父はずっと泣き通しだった。  
今まで育ててきた娘の、生涯最高の晴れ姿に、感極まっているのだ。  
そのため、ビデオ撮影ができないので、父の代わりに菜々ちゃんが、その役を引き受けてくれている。  
「うふふ。先輩、すっごく幸せそうです♪」  
「いいなあ。私たちも、こんなに幸せな結婚式を挙げてみたいよね〜。ねえ、菜々ちゃん。」  
「そうだね、なるちゃん。」  
輝日南高校時代のお友達も、そして転校先でのお友達も、今日は大勢駆けつけてくれている。  
そして、その中には、川田先生もいる。  
先生はちょっと悔しそうだった。だって、教え子のほうが、先に結婚してしまうのだから。  
「先生、ごめんなさい。」  
「何でそこで謝るのよ、ぷんぷん!・・・な〜んてね。星乃さん、相原君、おめでとう。これからも、末永くお幸せにね。」  
「はい、先生!」  
 
こうして、ようやく私たち二人の物語は、プロローグを終え、いよいよ本編が始まる。  
私と、相原光一の、永い愛の物語。  
そして・・・・・・  
 
私のお腹に宿った、新しい命の物語。  
 
おしまい  
 

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