うどん―――それは、日本人の食卓を彩る、最も簡素で、そして、最も奥が深い食品―――  
 
日本中のいたるところに、うどんの店は在る。駅そばでも、普通に出されるし、うどん専門店なども、多数にある。  
日本人にとっては、最もなじみ深い食品の一つ。  
小麦粉を練って作った太い麺に、出汁のよく効いた汁をかけて食べる、簡素な料理。その具も、様々な食材が使われる。  
きつね、天ぷら、ワカメ、山菜、その他にも、季節の食材などを付け合せて食する。  
だが、それらの具の食材には、一つの共通点がある。  
それは、『誰でも簡単に手に入る食材』であるということ。  
うどんは、ごく普通の庶民のための、庶民の食品。それゆえに、庶民には簡単に手に入らないような、高級食材を使うなどとは、もってのほか。  
うどん職人は、その安い食材に、己の技術の粋を込める。そして、己の魂を込める。  
その瞬間、安価な食材は、高級食材をも凌駕する、黄金の輝きを放つのだ。  
お互いの食材の味が、ほどよいハーモニーを奏で、それは至高の味わいを演出する。  
そして、最後の一滴を飲み干したお客さんが、微笑む。  
「ごちそうさま、おいしかったよ。」  
この瞬間こそが、うどん職人の幸せ。この、最高の技術と、最高の食材を使った、これまでの苦労が、この一言で、一気に癒される。  
 
この『里なか』の主人である、里仲軍平にとっても、それは例外ではない。  
己の最高の技術を使ったうどんを食べた後の、お客さんの満足な笑顔・・・・・・このために、軍平はうどん屋を続けているといっても過言ではない。  
そんな彼には、一つのこだわりがある。  
『絶対に、高価な食材は使わない』  
高価な食材を使えば、自ずと値段を上げざるをえなくなる。それは即ち、誰でも食べれるおいしいうどんが、一部の人にしか味わえないうどんになってしまうということ。  
そんなのは、軍平のポリシーに反する。俺の打ったうどんは、皆が食べられるものでなければならない。  
一部の人しか食べられないうどんなんて、そんなものは、もはやうどんではない。軍平は、頑なにそう思い続けている。  
だからこそ、軍平は、その安い食材に、己の魂を注ぐ。己の持てる能力の全てを、その食材に注ぎ込むのだ。  
この頑固なまでの職人魂・・・だがそれは、お客さんのことを思う、一途な心。  
『里なか』は、今日も大繁盛。だがそれは、味の良さだけではない。軍平の、そんな人柄が、お客さんを呼び寄せるのだ。  
 
そんな彼が溺愛する、たった一人の孫娘。  
 
名前は、なるみ。フルネームは、里仲なるみ。軍平の血を受け継ぐ、たった一人の人物。  
彼女は小さい頃から、軍平に見守られて成長してきた。その甲斐あって、彼女はすくすくと成長した。  
性格も、非常に素直で、いい子だ。祖父の欲目ということを差し引いても、本当に素直で、優しい子。  
そんな子だから、中学に入るときには、結構心配した。  
素直でいい子。だからこそ、悪い連中に、目を付けられるのではないか?  
『てめえみてーなぶりっ子、ムカツクんだよっ!!!』  
そんな風に、スケ番やヤンキーどもから、いじめられるのではないか?  
だが、それはまったくの杞憂だった。明るく、素直で、元気な彼女。そんな彼女に寄ってくるのは、やはり明るく、素直な、いい子ばかり。  
そんな子達が寄り添い合って、どんな悪者をも寄せ付けない、一つのセキュリティを構築している。  
格言に曰く、『類は、友を呼ぶ』。  
そんな明るくていい子な彼女。だから、友達も多い。それは高校生になってからも、変わらない。  
その友達の多さは、祖父である軍平も、把握しきれないほど。その中でも、特に話題に上る頻度が多いのが、『ななちゃん』、『まなちゃん』、『るっこちゃん』。  
そして、変わらないのは、友達の多さだけではない。  
おじいちゃんを大好きである。そのことも、変わらない。  
なるみは小さい頃からずっと、おじいちゃんの仕事ぶりを見て育ってきた。だから、おじいちゃんの仕事のやり方などを、彼女は結構盗んでいる。  
最近では、お店のお手伝いも、よくしてくれるようになった。そんな彼女は、軍平にこう言う。  
「私、大人になったら、おじいちゃんのお店を継ぐんだ〜♪」  
軍平は苦笑する。本当は、人並みに学校を出て、普通に就職、そして結婚して、幸せになってほしいのだ。  
だが、彼女のうどん作りの腕前は、軍平にはまだまだ及ばないものの、かなりいい。  
そんなうどんとおじいちゃんが大好きな、なるみ。  
おじいちゃんの職人としてのこだわりも、きちんと正確に理解していた。  
 
だが・・・・・・  
 
なるみには、たった一つだけ、やってみたい我儘があった。  
それは、『先輩のためだけに、高級食材を使った、ゴージャスなうどんを作ってみたい』。  
もちろんこれは、おじいちゃんのポリシーに反する。だから、これは、たった一回だけの、なるみの我儘だった。  
ただ、そのために、おじいちゃんやお店に迷惑をかけるわけにはいかない。  
だからなるみは、お小遣いをもらっても、使うのをひたすら我慢した。欲しいお洋服や、おいしそうなお菓子。それらをずっと  
我慢して、お小遣いを溜め込んだ。  
それは、大好きな先輩のために他ならない。年頃の女の子である。欲しいものはいっぱいあるし、それに、流行の移り変わりも早い。  
そんな年頃の女の子に、ここまでさせてしまう。その先輩は、なるみにとって、それほどの存在なのだ。  
ちなみに、その先輩は、お友達『ななちゃん』の実兄。一つ年上の、素敵な先輩。但し、なるみビジョン。  
ただ、結構ライバルもいるところを見ると、それなりにいい男なのかもしれない。  
そして・・・十分なお小遣いが溜まった。いよいよ、高級食材の買い出しに出かける。  
 
なるみは今、市場にいた。ここなら、高級な食材でも割と安く手に入る。一般の八百屋や魚屋みたいに、流通を通さないので、その分経費がかからないからだ。  
「うわ・・・すごい・・・」  
なるみは思わず、目を回しそうになる。いつもの食材に比べて、0の数が一つ多い。物によっては、二つ以上多い。  
「う〜ん・・・」  
高い食材を奮発して買う。だが、やはり高級食材である。無計画に買ったら、後で後悔する。だから、必要最小限の食材を買わなければならない。  
なるみは悩んだ挙句、二つの食材を選んだ。  
そして、今度は普通の買い物を少しだけして、なるみは帰った。  
 
そして・・・  
 
 
里仲なるみのDELI×DELIクッキング  
 
先輩!来て下さったんですね!なるみ、すッごく嬉しいです!  
今日は、先輩のためだけに、私のとっておきのうどんを用意したので、お楽しみくださいね?  
名づけて『なるみと先輩のLOVELOVEうどん』です?  
 
材料  
・うどん―1玉 ・つゆ―一人分 ・鮑(小型)―一つ ・松茸―一本 ・練乳―少々 ・わかめ―お好みで ・爪楊枝―2本 ・小さな白紙―2枚  
 
まず、うどんと汁は、普通の作り方で作りますので、ここでは割愛します。  
で、まずは具の下ごしらえからです。まず、鮑ですが、鮑には幾つかの品種があって、大きい鮑と小さな鮑があるので、ここでは小さい鮑を使います。  
大きい鮑だと、うどんのどんぶりに乗らなくはないけど、他の食材が乗せられないですし、それに、小型の鮑のほうが、私のイメージにピッタリでしょ?  
鮑は貝殻を取り、油を敷いた中華なべで一気に強火で炒めます。このとき、オイスターソースを加えて、味を整えます。  
そしたら炒めた鮑を皿に取り出し、少し冷まします。  
次に、松茸の表面の汚れを取って、まるまる一本、直火で炙ります。う〜ん、いい香り♪  
そしたら、鮑の中央部を、包丁で切ります。真っ二つにするんじゃなくて、包丁で真ん中に穴を開けるような感じで。  
そしたら、その切れ込みに、松茸の傘の方から差し込んでいきます。  
そして、鮑と松茸の合体している部分に、練乳を少量垂らして、それをうどんの上に乗せます。  
あとは、松茸の根元辺りに、茹でたわかめをお好みで。  
爪楊枝2本は、取っ手の部分に、小さな白紙を1枚ずつ貼り付けて、旗を2本作っておきましょう。  
そしたら、一本に『なるみ?』、もう一本に『せんぱい?』と書いておきます。  
そして、『なるみ?』のほうを鮑に、『せんぱい?』のほうを松茸にそれぞれ突き刺します。  
 
出来ました!これで、『なるみと先輩のLOVELOVEうどん』の完成です?  
 
さあ、先輩、どうぞ召し上がれ♪  
 
相原(先輩):な、なるみちゃん・・・すごく卑猥な形なんだけど・・・これってもしかして・・・  
 
うふふ。せ・ん・ぱ・い?  
 
相原:・・・・・・い、いただきます。  
 
このあと、相原がうどんの後になるみちゃん自身をもいただいてしまったことは、言うまでもない。  
 
おしまい  
 

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