虚ろな時間。無意味な毎日。
私はずっと、他人とのかかわりを避けてきた。どういうわけか、人は皆、奇妙な目で私を見る。
まるで腫れ物に触れるかのような目で、皆は私を見る。疫病神か、それとも死神か。
皆にとって、私は厄介な代物であるらしい。
なぜだろう?私の理解者など、誰もいない。皆、私の前評判などを気にしているのか、私を避けている。
もっとも、私はそれでも構わないが。他人に囲まれるなど、疲れる。
一人のほうが、心が安らぐ。学校でも、休み時間にこの理科準備室に籠っている時間以外は、苦痛の時間だ。
つまらない。どうしてだろうか?
誰も、私とまともに話そうとはしない。皆、私のIQ190という数値を気にしてか、私を避けて通る。
でも、それで構わない。やはり、一人のほうが、心が休まる。
複雑な人間関係など、厄介なだけだ。
ふう・・・・・・
今日も、空しい一日が過ぎた。
つまらない授業。そして、私を避けて通る人たち。
もう、これ以上学校にいても意味はない。帰ろう。
まだクラスには、何人かの生徒が残っている。私が立ち上がると、まるで異世界の魔物でも見るような目で、私を見る。
私が一体、彼らに何をしたのだろう?私にはまるで記憶にない。
たまに、嫌がらせを受けることもある。私は別に、彼らに害を与えるつもりはない。いわば、彼らにとっても、無害な人間。
そんな無害な人間に害を加えて、何が楽しいのだろうか?こんなときに、私は思うのだ。
『人間とは、最も利口な、そして、最も愚かな生き物』
私という人間を理解しようともせず、ただ外面だけで判断しようとする人々・・・愚かだ。
もっとも、私はそれで一向に構わない。
今更、他人との交流を望んではいないし、いっそこのまま―――朽ち果ててもいい。
人は皆、最期は独りなのだから。
そして、私は玄関で靴を履いて、外に出た。
夕焼け空が赤い。もう9月なので、日が落ちる時間が早くなっている。
後はもう、帰るだけ。ようやく、一日分の退屈というこの苦痛から解放される。
その時、私の額の部分に、何かが落ちてきた。
「あら?何かしら?」
私は指で、額の部分を拭ってみた。見ると、なぜか、その部分が濡れている。
「雨!?」
私は天を見上げた。夕焼けで赤いが、上空には、雲一つない。雨など、降る理由はない。
その見上げた私の顔に、また数滴の雫が、落ちてきた。
やはり・・・雨とは違う。その証拠に、生温かい。そして、何だか生臭い。
「何なのかしら?」
雨でなければ・・・どこから落ちてくるのだろうか?真上の教室か、それとも屋上か。
私は直感的に、屋上だと思う。
私は何となく好奇心に駆られて、校舎内に戻り、屋上へと向かった。
「・・・・・・?」
屋上を見渡しても、誰もいない。
どういうことなのだろう?すると、先ほどと同じ雫が、屋上のさらに上から落ちてくる。
あっ!
それは奇妙な光景だった。屋上のはしごを登った、そのてっぺんに、男子生徒が一人、立っている。
そして、その男子生徒は、ズボンのチャックを開けて、中から陽根を取り出して、一心不乱に扱いている。
「あっ!!!」
一瞬、白い飛沫が飛んだ。そしてそれは、下の地面へと飛んでいく。
「あなた・・・何してるの?」
私は思わず彼に話しかけた。
「ん・・・・・・君は?」
「とりあえず、降りてきなさいよ。」
私が催促すると、彼は降りてきた。
「何か?」
彼は飄々としている。どこか、あのつまらない周囲の人々とは、違う雰囲気。
ともかく、私は、彼にどんどん話しかけた。
「まさか、死のうとしてたの?」
「どうして?」
「だって、あんなに高いところに・・・」
「ははは。それこそまさかだよ。僕が死ぬなんて、あるわけないじゃないか。」
彼を見ると、普通の男子の制服姿。だが、ズボンのチャックが開いて、陽根は飛び出たまんま。
しかし・・・見たこともないような大きさ。南米アマゾンに生息する、アナコンダじゃないわよね?
「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は相原光一。」
「知ってるわ。ペニスのサイズが25cmなんでしょ?」
「ほう、僕も有名だな。まあ、仕方ないか。だって、アソコが僕より大きい人になんて、出会ったことないから。」
そして彼は私に近づいた。
「あっ、顔にかかっちゃったんだね。ごめんごめん。」
そう言って、彼はハンカチで私の顔を拭く。ふと思ったんだけど、まさか使用済みではないわよね?
「ありがとう。私は・・・」
「知ってるよ。二見瑛理子だろう?IQ190以上の天才とか。」
「あら、よく知ってるのね。でも、仕方ないわ。だって、私より頭のいい人に出会ったことないもの。」
そして彼は私から遠ざかる。
「さよなら、二見さん。」
私は、このさよならに、嫌な予感がした。もう二度と逢えない気がして・・・。
冗談ではない。こんな奇妙な人間・・・IQ190の私でも、到底理解不能な人間に、もう二度と逢えないのは、とても淋しい気がする。
その思いが、つい口を出て言葉になった。
「またね、相原。」
そう、彼に、また逢いたい。
思えば、これが運命だったのかもしれない。
おしまい