「ねー、ななちゃん」
「んー、なにー?」
退屈な日曜の午後、二人並んで漫画を読んでいたが不意になるみが口を開く。
「あのね……キスの練習、しない?」
「…………へ?」
暫しの沈黙の後、状況が把握できないといった風に間の抜けた声を漏らす菜々。
しかしなるみは少し恥ずかしげな様子でもう一度繰り返す。
「だから、キスの練習……だめかな?」
「そんなこと言われても困るよぉ……」
ふと菜々が隣を覗き込むとハイティーン向け少女漫画の中では恋人同士が
裸になってするような類の交流をはかっているシーンが描かれていて、
それにそそのかされたであろう事は容易に想像が出来たが、興味はあっても
免疫のあまり無い菜々は思わず真っ赤になって顔を伏せてしまう。
そこへ畳み掛けるようになるみが懇願する。
「わたしだっていつかは先輩とこんなことしたいし、その時に
上手く出来なくて先輩に嫌われちゃったりしたら嫌だもん。
こんなことななちゃん以外にはとてもお願いなんか出来ないし……ね?」
「で、でも……私だってキスしたこと無いし……」
「ななちゃん、お願い。女の子同士ならきっとノーカウントだから、ね?ね?」
「そうかなぁ……」
無茶苦茶な理屈で強引に押し捲るなるみ。そして……
「わかった、なるちゃん。じゃあ一回だけだよ」
「それじゃあ、するよ?」
「う、うん」
お互い神妙な顔つきで向い合って座ると、なるみはゆっくりと顔を寄せ
軽く唇を合わせる。
「ん……」
「……むー、なんか良くわかんないね。」
「何か違うのかな?ななちゃん、ちょっとまってね。」
もう一度漫画を手に取るとぱらぱらとページをめくり、うんうんと
頷くなるみ。不安げに見つめる菜々の視線に気付いてか気付かずか
自信満々の笑みで振り返る。
「よし、今度は大丈夫。ななちゃんも私がするのと同じようにしてね。」
「いいけど……大丈夫かなぁ」
「それじゃ、いくよ?」
そう言って再び唇を重ねるなるみ。そして菜々の唇に不意にぬらりとした
感触が走る。
「んんっ?んーっ!!」
なるみの唇の隙間から差し出された可愛らしい舌がゆっくりと菜々の
唇を撫でていく。驚きと表現のしようが無い不思議な感触に菜々は思わず
喉を鳴らすが、なるみは離れようとはせず愛しげにその行為を繰り返す。
「んふ……んん……む……」
「んーーっ!んんーー!」
そんな遣り取りがしばらく続き、徐々に舌の動きは誘うようなゆっくりとした
動きへと変わっていく。それを感じ取ると菜々も恐る恐る唇の隙間から
舌を差し出す。そして今まで自分がされていたようになるみの唇を舐めようと
舌を伸ばすと、それは唇よりももっと弾力のある、熱を持った物体に絡めとられる。
「んんん!んーーーー!」
菜々は驚いて激しく喉を鳴らすが、頭の中で先ほど読んだ漫画の内容を
反芻しながらその行為を繰り返すなるみには全く届かない。
なるみは更なる段階へと進もうと絡めとった舌をゆっくりと擦るようにしながら
菜々の口内へと侵入を開始する。
くちゅり、と湿った音を立て菜々の中へと進入した舌は迷いながらも
確実に本の内容を実践する。
「んっ……ぢゅ……ちゅ……む……」
「ふ……んむ……んん……」
菜々も既に驚きの声は無く、お互いの口の端から漏れる声は喘ぎ声の
様にも聞こえる。親友の女の子とキスをしているという倒錯した状況が
二人の脳を焼き、より繋がりを深めていく。
くちゅくちゅと唾液と舌が絡み合う音が部屋に響き始めもう何分が
経っただろうか。幼い顔には似つかわしくない惚けたような、快楽に
身を任せたような淫靡な表情となり、お互いの唇は固く結びついたまま
必死に快楽を貪っている。息は随分と前から既に荒くお互いの興奮の度合いを
示している。しかし延々と続くかと思われた宴は不意に終わりを告げる。
「んんんんっ!?」「んぅっ!!!」
二人は同時に身体を小さく震わせると抱き合うようにしながらへたり込んだ。
しばらく抱き合うようにしながら呼吸を整えると、菜々が問い掛ける。
「なるちゃん……今の……なに?」
「よくわかんない……けど……すごかったね。」
「うん……すごかった……」
暫しの沈黙。そして、頬を赤らめ再び菜々が口を開く。
「なるちゃん、また練習しようね」
なるみも同じように頬を染め答える。
「うん、もっともっと練習しなきゃね」
そして、二人顔を見合わせ微笑みあうのだった。