週末の休日。天気はあいにく、夕方から雨になるらしい。
光一は自宅でひとり落ち着かない様子だった。
両親はでかけてしまい、妹は友人たちと映画を観に行った。
誘われていてもお金がないと渋っていたが、兄貴がめずらしくお小遣いを奮発してくれたので、夜まで遊びに出かけることができた。
そして、二見が家にやってきた。
「二見さん、私服だとなんだか雰囲気がかわるなぁ」
今日の服は、夏を意識した黒のシャツではなく、秋をイメージした白のワンピース、デニムのスカートだった。
「ネットのオークションでね、買ったものなの。今日はじめて着るのよ」
光一は、そんな二見を見て、いくぶんか女の子らしさを見いだしていた。
今日の目的は、実験、ではなく、今回で何度目となる勉強会だった。
自室に招いて、テーブルの上で二人参考書を開いて、思い思いの勉強を始める。
ただ、光一は、きっかけをつかむことができないでいた。もちろん、今日の光一の本当の目的、のである。
時々、二見の顔をチラチラ見ても、別にこれといって光一を意識せずに勉強を続けている。
時間がたち、予報どおりに雨が降ってきた。
「降ってきちゃったわね」
「うん……」
「私、本降りになる前に帰るわ」
夏休みのころの光一なら、ここで外まで見送って二見を帰していた。
しかし、今の光一は、逆境でも何度も勇気をふりしぼり、大胆と思われるほど行動的な勇者に成長している。
帰り支度が済んで扉に向かった二見を、光一は後ろから抱きしめた。
「……実験がしたいなら言えばいいのに」
「いや、ちがう。……これは実験なんかじゃないよ」
二見は光一の手をおさえ、次の言葉を待ち続けた。
「ふ、ふ、二見さんの……ことが好きだから」
光一は髪やうなじに口付けしながら、二見の服のボタンをはずしにかかった。
二見は上着を脱がされ、下着を取られても、光一にさせるがままに身をまかせていた。
小ぶりだが、はっきりとふくらみのわかる胸。
「あ」
陶器をなでるように、大事にやさしくさわった。
顔を押しつけて軟らかさをはかると、そっと頭を抱きしめてくれた。
「二見さん……」
「もうそんな硬い呼び方はやめて」
「じゃぁ、なんて呼べばいいの?」
「あなたがいつも心の中でおもっている呼び方で私を呼んで」
光一は目をじっとみた。
「え、えりりん」
「クス、そういう風に呼んでいたんだ?」
「やっぱり、だめかな?」
瑛理子は首を振って否定した。
「うれしいわ。光一」
二人はキスをした。
光一は、この時のキスは、今までした中で一番気持ちの良いキスだと思った。舌と舌がからめあい、相手が押してきたら、奥で受け止めてあげる。そして同じことを相手にもしてあげる。最初の実験のような、口を塞ぐだけだったところが大きく違っていた。
瑛理子をカーペットの上に寝かせると、光一は足の方へ移動し、瑛理子も自然に股を開いてくれた。
そして男を女の中に挿れようとした。
「光一、本当はこわい」
「えりりん、僕を信じて。僕にまかせて」
瑛理子は目をつむり、光一の肩にしがみついた。
「痛い、痛い、いたいよう……」
二人には紙を突き破ったような感触を感じた。光一は力を込めず、体重をのせて挿れていき、瑛理子の体の上に乗った。
まだ光一は動かない。瑛理子が少しでも痛みが和らぐように、耳や首に唇をあてておまじないをした。
「いいわ。していいよ」
瑛理子に覚悟が生まれた。光一はゆっくりと動き出した。中で壁のようなものにあたる感じがした。
「うん、うん、うん、うん」
光一は上から瑛理子の顔を眺め、だいぶ怖さから慣れてきたことを確認した。
そして、下の方から吹き飛ばされそうな波がこっちに向かってきた。
「えりりん、僕、もう」
「いい。射して。中にだしていい」
二人で叫びながら高みに登った。
射精の後、光一も瑛理子も指一本動かせず、そのまましばらく固まったように抱き合っていた。
光一の頬にポタリと落ちたものがあった。
「どうしたの?」
「わからない」
赤くなった目を見せないように顔を少し上に向けた。
「今日まで、いつ消えてなくなってもいいって思ってた」
「……」
「でも、今はあなたに寄り添っていると、あなたの鼓動を感じる」
「僕もだよ」
「あなたの息吹を感じる」
「僕もだよ」
「そう思うと、なんだか『これが生きている』っていう感じなのかなぁって」
この日をきっかけに、えりりんは変わっていったと思う。
理科準備室の実験は相変わらず付き合わされるけど、前みたいにこもりっきりにならなくなった。
そして、なによりも「消えてなくなってもいい」なんて言わなくなった。
終