「相原、また実験に協力して」  
その長い黒髪をなびかせて、二見瑛理子は廊下を歩いて去っていった。  
二見に話しかけられた男、相原光一はどこにでもいる普通の男子高校生である。  
少年らしく女の子に興味を持ち、夏休みに足りなかった自分を反省して、自分から積極的になろうと誓った。  
実験。  
二人の間柄にとって、この言葉のフレーズは重い。とくに光一の方にプレッシャーを感じていた。  
それは、放課後の理科準備室でふたりっきりになり、どうやったらうまくキスができるかを研究することだった。  
 
放課後の学校。生徒たちは下校するか、部活動にいくかでちりぢりになる。  
ただでさえ人気のない理科室は、足音一つ聞こえない空間となる。  
そこに足を運ぶ相原は、準備室の扉を叩いて入室した。  
「来たわね、相原。コーヒーでも飲まない?」  
ビーカーとフラスコで沸かしたコーヒーを始めは遠慮しつつ、少しだけいただいた。  
「二見さん、今日はどうすればいいのかな?」  
「うん。今日はね、あなたにとってもいい話だと思うわ」  
隣同士で座りながら、光一は本題を振ってみた。  
「それじゃぁ、下を脱いでくれる?」  
下の服を脱ぐよう依頼されて、光一は混乱した。なぜなら、今までの実験では、キス以外のことはなかったからだ。  
「……え、あの、それって?」  
「今日はね、あなたに気持ちよくなってもらいたいの。私は男のペニスに興味があるわ」  
そういう風に言いながら、目が輝きだすのは、実験前の二見の感情の高ぶりを表していた。  
「ほ、本気なの?二見さん」  
「なに恥ずかしがっているの?減るものでもないでしょ」  
光一は顔を真っ赤にして否定した。  
「は、恥ずかしいよ。二見さんがいるじゃないか」  
「私は別にかまわないわよ。どうするの?実験、する?しない?」  
髪をかき上げ、二見は挑発的な目をして光一に選択をせまった。  
光一は正直なところ、戸惑っていた。この目つきで責められると、いつも断れなかったからだ。  
「イイよ……。でも、ちょっと待ってもらえるかな」  
言葉では拒否感が感じられても、内心はこれから何をされるのかまったく予測できない称揚感に、鼓動を激しくさせていった。  
 
 
制服をぬぎ、さらにトランクスも脱いだ光一は、両手で股間を押えながら二見の方を向いた。  
「それじゃぁ見えないじゃない。手をどけて。ほら」  
二見は光一の手をむりやりはがした。光一は弱い悲鳴を上げて、なすがままにされた。  
二見ははじめてみる男の象徴を、食い入るように見つめていた。  
「少し小さいかもしれないけど……」  
「大きさは関係ないわ。うん、はじめて視たから説得力もなくなるけど。でも、思ってたとおり、素敵なものね」  
「ほんと?」  
光一は言われて本当にうれしかった。なぜなら、光一にとって一番見せたくなかったのは、二見だったからだ。  
もし自分の想い人に自身を否定されれば、男はたちまちすべてを失う。  
「こうすればいいのかしら?……あ、硬くなってきた」  
二見が指で光一をこするたびに、その硬さと大きさは増していった。  
「唖然としちゃった。倍以上に膨らむのね」  
一方で、光一は自分自身とたたかっていた。目をつむり、体が熱くなるたびに、押しよせる波を抑えようと懸命に食いしばっていた。  
やがて、一定のリズムの上下運動に我慢できなくなり、思わず声をあげた。  
「ふ、二見さん、どいて!」  
「えっ?」  
光一は二見をかばいながら、準備室の壁に向かって精を放出した。  
「大丈夫だった?制服にかかってない?」  
光一は少し息を荒くしながら、二見のことを心配した。  
「……うん。大丈夫。でも、すごく生臭いのね」  
光一の部分の先から糸を引いている感触をたしかめつつ、二見は感想を言った。  
 
  了  
 

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