───好きな人に尽くしたい。それは彼女の夢であり願いだった。
しかし、叶わないからこそそのような夢を見たのかもしれない。
厳格な家柄に生まれ、将来を定められた彼女に恋愛の自由があるはずもなく、
ましてや心寄せる人と結ばれる事など、到底ありえない話であった。
別れの日、初めて想いを通じた人と交わした最初で最後の口づけ。
彼に捧げた唯一の愛の証であり、二人が恋人でいられた僅かな、だが、確かな思い出。
その時の記憶は鮮明に彼女の脳裏に焼き付き、今の境遇においてますます強く浮かび上がる。
愛する人と裂かれ、彼女が花嫁として送られた場所───そこは彼女の人生において
全く理解し難い、おぞましい淫靡と背徳に満ちた狂気の世界だった。
ガチャン!
鉄格子の開く音が深月を現実に引き戻す。
「くふふ、深月ちゃん、ここの寝心地はどうだった?よく眠れたかい?」
背広姿の男を認めるやいなや、深月は即座に背を向け、恥部や秘所を隠すように全裸の体を固く丸めた。
「おやおや、いまさら隠すことないじゃないか。昨日はみんなに体中奥の奥まで見てもらったんだからさぁ」
「嫌……嫌……あんな…あんな事……どうして……」
「わかってないなぁ、深月ちゃんはボクのお嫁さんなんだよ?
お嫁さんがボクや家族に奉仕するのは当たり前じゃないか」
「で、でも……だからといってあんな……」
応える深月の表情に、恐怖と恥辱の色がありありと浮かぶ。
思い出したくない。だが、まごうことなき現実。
「そんなこと気にしてたの?いいかい、深月ちゃんはこの家に買われたんだよ?
もし深月ちゃんがボクらに逆らったらその時は───」
男の言葉に深月の眼が見開き、体がビクッと震えた。
「あ…ああ……」
「さあ、わかったら立つんだ。もちろん大事な所は隠さないでね」
「………」
「あれ、返事は?」
「は……はい……」
うつむき、悲壮な表情を宿した深月が震えながら応える。
いくばくかの涙で床を濡らした後、一糸まとわぬ身体がゆっくりと立ち上がろうとしていた。