「早かったね……」
咄嗟に毛布まで被り平気な顔でそう言うキーリに、ハーヴェイは射抜くような視線を向ける。
キーリの言葉にもまともな返答はせずに、つかつかとベッドに近寄って一言ぼそりと呟きを上げた。
「……淫乱」
聞こえるか聞こえないかぎりぎりといった声量のその言葉に、しかし如実に反応してキーリがびくんと身を硬くする。
表情を凍て付かせてしまった彼女の姿を、どこか嗜虐的な思いを抱きながらハーヴェイは見つめる。
おどおどとびくついた顔でこちらを見るキーリの表情に、苛立ちとともに奇妙な高揚が押し寄せた。
膨れ上がる何かが抑えきれず、欲望に任せてがたんと小さなベッドに飛び乗ると毛布越しにキーリの上へと馬乗りになった。
投げ捨てられた紙袋から買ってきたばかりの林檎が放り出されて床に落下し、ぐしゃりと潰れて甘い芳香を室内に漂わせた。
その甘ったるい匂いが部屋中に充満している色っぽい香りと混じり合って、ハーヴェイを誘惑する。
小声で「やだっ」と言ったキーリの台詞は聞かなかったことにして、眼前の彼女の顔面をぺろりと舌で舐め上げる
汗まみれの頬は塩辛くて、けれどそれがキーリの分泌したものの味なのだと思うとそれだけで上等の甘露のように思えた。
そして、たったそれだけのことで股間をはちきれそうにさせている自分は、やっぱり心底救いようのない変体なのだと確信した。
頬を執拗に舐めて汗を拭い取ると、そのまま唇を強引に割り行って口付けた。
女にキスするなんて何十年ぶりだろうと思いながら、キーリの小さな舌に自分のそれをきゅぅと絡めてちゅっちゅと小刻みに吸い上げる。
乱暴に舌を動かして、口腔を喉に達するほどの奥深くまで盛大に犯していく。
息が出来ないらしく苦しそうに顔を赤くするキーリを労わろうとはせずに、だくだくと自身の唾液を彼女の喉へ送り込んでいく。
閉ざさせた口を再び開かないよう手で蓋し無理やりそれを飲み込ませてやると、まるで精液でも飲ませたかのような昏い満足感があった。
長身で押さえつけられたうえ、そもそも熱のためまともに動くことの出来ないキーリは、ハーヴェイにそうされてもじっと身を横たえていた。
時折はあはあと苦しそうな声音で息を吐き、我慢しきれないといった風に身体を揺らす以外には何一つ動きを見せない。
拒絶の意思を見せない彼女に余計苛立ちが募って、ハーヴェイは心にもない台詞で彼女に口汚く言葉を浴びせかける。
「何で嫌がらないんだよ」
「ハー……ヴェイ?」
「それとも、もうとっくに誰かにやらせてるのか」
わけが分からないと言いたげに眉根を寄せるキーリの表情を、注視するハーヴェイは別の意味に受け取る。
『私の勝手でしょ!? 口出ししないでよ!』何故かこのときのハーヴェイには、キーリがそう言っているように思えた。
彼女はそんなこと微塵も言ってはいないのに、苛立ちが全身を支配していく。
「相手はヨアヒムか? ユーリか?」
身体中に点在していた嫉妬の澱がもくもくと浮かび上がって脳を埋め尽くし、そこから本能そのままの指令を出す。
キーリを自分のものにしてしまえと。嬲って犯して、他の男のことなど考えられないようにしてしまえと。
片手でばさりと乱雑に毛布を剥ぎ取って床に投げ落とし、そこに在る半裸のキーリを見据える。
パジャマの下は下着ごと足首まで引き摺り下ろされていて、粘液でねっとりと光るそこが明かりの元にしっかと晒された。
先ほどまでキーリの指を飲み込んでいたそこは、こうして間近で見ると更に嫌らしくぬめっているような気がした。
「やっ……見ないで……」
「起き上がれないほど熱出してんのに、こんなことする元気だけはあるんだ」
熱く火照った彼女の身体を視姦する。
上のシャツからちらりと覗く桃色の突起がまだ硬くしこっているのに気づき、吸い寄せられるように左手を伸ばした。
芯を持ったそれにそっと触れてやると、身体の下にいるキーリがぴくんと上半身を痙攣させるのが分かった。
その敏感さにまた、誰か他の男がこの身体に触れたのではないかと心が暗くなる。
指先で摘んで丁寧に転がすと、キーリはすぐさま甘い声を漏らした。
鈴を振り鳴らしたように高いその声は耳に心地よくて、もっと聞かせてほしくなる。
ぐりぐりと指の腹を使って押しつぶし、形の変わったそれを再び指でこね回して元の形へと戻す。
時たま気まぐれに爪を直角に押し当ててすぅっと横に引くと、立ち上がった乳首はひくひくと震えながら悦びを見せた。
「……やっ、めて…ハーヴェ……イぃ……」
言葉のうえだけの意味をなさない嫌がり方は、男の興奮を倍増させる媚薬だ。
事実ハーヴェイも、悶えながら『嫌だ』と叫び続けるキーリの姿に魅了されきっていた。
「嫌なら逃げろよ」
今の彼女の容態でそれが無理なのはよく分かっているのに、念のためキーリの肩をがっしりと押さえつける。
二人分の体重が強くかかって敷布へと深く沈みこんだキーリの身体を掬い上げるように抱き止めると、ハーヴェイは彼女の唇にもう一度キスをした。
傷ついた小鳥を真綿でくるむような、或いは綿菓子を口にするような、――それは優しいキスだった。
「ハーヴェイ……?」
ほっとキーリが少しだけ安堵したのも束の間、ハーヴェイはすぐに暗い色に瞳を戻し彼女のパジャマを無理やり引き裂いた。
その彼らしからぬ荒っぽい行為に、キーリが再び身を硬直させる。
何がなんだか分からなかった。
確かに、いつかハーヴェイと結ばれる日が来ればいいなと思っていた。
けれど望んでいたのはこんな、まるで強姦のような形でではないのに。
ハーヴェイはキーリの手首を掴んで虚空に持ち上げると、長い人差し指を口に含み丁寧に舌先で舐め始めた。
ねっとりとした粘膜に包まれているのを感じて、キーリの瞳が戸惑いに揺れる。
そんな彼女には構わず、ハーヴェイは奴隷のようにひたすら彼女の右手を口で愛撫し続けた。
単調なその行動に、しかしキーリの身体が次第に反応を見せるようになる。
手に触れられるくらい何ともないはずなのに、こうして長い時間をかけて延々と責められると感覚は鋭敏になっていくのだろうか。
指の股を擦り上げられ、指先をちゅくちゅくと吸い付かれるだけで恐ろしいほどに肌が粟立つのを実感する。
「……ハー……ヴェっ……! だ、めぇ……」
そう叫んで見るものの、けれどキーリの上に乗っかっているハーヴェイは微塵も動こうとしない。
ただ茫洋とした瞳でこちらを見つめながら、壊れた仕掛け玩具のように歪んだ笑いを見せるだけだ。
ぞくりとした。
快感とは違う感情が背中に鳥肌を立たせた。
目の前にいるのはハーヴェイで、だけれどハーヴェイでない別の人だった。
少なくともキーリには、そう思えた。
汗まみれの鎖骨の窪みを、ハーヴェイは丹念に愛撫していた。
指先の一本一本から脇腹、臍にいたるまで余すところなく舌を使って綺麗に舐め上げていく。
ハーヴェイの舌が前後する度に、キーリは声を上げてすすり泣きじたばたと全身を暴れさせた。
「ひ、あ……んっ……あぁっ……」
喉が枯れそうなほどに嬌声を上げ続けるキーリを尻目に、ハーヴェイは淡々と彼女の身体への責め苦を続行する。
彼は見えない誰かの痕跡を必死に消そうとしていた。
きっと、キーリにそんな相手などはなからいないのだろう。
理性ではそう分かっていても、頭のどこかが痺れたように命令して止まらない。
他の男が触れたかもしれない場所はすべて、上から自分の痕を付け匂いを被せて消してしまえと。
それかいっそ、彼女の全身に誰のものか分かるように淫らな印をつけてしまえと。
それに突き動かされるようにして、ハーヴェイは彼女の全身を消毒するように唾液で汚し、更にその上からキスマークを重ねていた。
胸元や下腹部はもちろん、服を着てさえ誰にでも見えてしまうような首筋の箇所にまで。
まるで吸血鬼にでもなった気分で彼女の柔肌に吸い付いて、幾度も幾度も性行為の印である鬱血した痕を残す。
数十分はかけて完成した赤い痕でいっぱいのほの白い皮膚は、ハーヴェイの征服欲を満たすのに十分なものだった。
それを満足そうに見つめるハーヴェイに、キーリは絶え絶えな息で問いかける。
「ど……して? どうして、こんな、こと……」
「……さあ」
答えどころか質問の意味すら分からないという顔でそれだけ言って、ハーヴェイはキーリの脚へと手を伸ばす。
必死に力を込めて閉ざしている太腿の間をこじ開けるようにして、彼はキーリのすべすべとしたそこに触れた。
自慰と先刻までの愛撫とで漏れ出た愛液は、脚を伝ってびっしょりと内股を濡らしている。
ねっとりと糸を引くそれを指に絡めて遊べば、キーリがますます脚を閉じようとする力を強くした。
片腕を荒々しく動かして、かたくなに拒絶を続けるキーリの左足をがばりと横に広げる。
眼前に露になったそこは既にとろとろと液を溢れ返していて、ハーヴェイはごくりと喉を鳴らした。
まるで一輪の花のような光景に目を奪われながら、ハーヴェイは密に惹かれた虫の如くその花弁にふらふらと指を這わせる。
摘んでくしゃくしゃと乱暴に引っ張っると、顔を逸らしていたキーリが「あっ」と息を呑んだ。
その初心な反応に気をよくして、ハーヴェイはキーリのそこを指で蹂躙する。
二本の指で挟んで擦り立て、同時にもう片方の手で乳首を弄りまわす。
胸を弄ぶ義肢の冷たい感触に身悶えしつつも脚の間を蕩けさせるキーリに、ハーヴェイは苛々と吐き捨てる。
「無理やりされてんのにこんなになんのかよ。……キーリ、お前男好きなんだな」
自分で言ってから、ああそうだったのかと得心する。
1+1の答えを3だと言い張られて、絶対に違うはずなのに何故か反論できず納得してしまう。そんな気分だった。
「ああ、そっか……それで、こんなお尋ね物の不死人といたのか。やっと分かった」
「なに……いってるの」
「そうだよな。お前みたいな普通の人間が俺なんかと一緒にいたんだ。理由があるに決まってるか……」
ぶつぶつと呟くハーヴェイの目の中に、最早キーリは映っていないようだった。
その姿を見てキーリは、ハーヴェイの心のうちのどこか大事な部分がひび割れてしまったのだと思った。
――その証拠に、ハーヴェイの目には一筋の涙が伝っていた。
髪とお揃いの色をした赤銅色の瞳は涙滴で溢れていて、憔悴しきったような表情をしていた。
その姿に触発されるようにして、キーリは何故か初めて会った日の彼を思い出した。
「ハーヴェイ……」
「悪かったな、キーリ。今まで期待に沿ってやらなくて。ははっ、すぐに抱いてやるよ」
名を呼ぶキーリを綺麗に無視して、ハーヴェイはキーリの両足を力任せに左右に割り開く。
「いやっ、やだっ!」
キーリは自由になる首を振り乱してそう唱えるものの、当のハーヴェイはどこ吹く風といった様子だ。
ぬらぬらと粘液の滴るそこを愉快気に見ながら、口唇を僅かに冷笑の色で歪めた。
赤い果実のように熟れたその中央に、ろくな前戯もせずにずっぽりと中指を突き立てる。
襞が絡まるようにして吸い付いてくる感触を愉しみながら上下にずぶずぶと律動させれば、キーリが激しく息を吐いた。
「痛い、いたいよっ、や……だ、あ、嫌だぁっ!!」
絶叫するキーリに構わず、ハーヴェイは指を動かし続ける。
久しぶりに感じる女の感触に、そしてそれが最愛の相手であるという事実に、ハーヴェイの興奮は静まり止まなかった。
貪るように無我夢中で、彼女の中を蹂躙していく。
多少は気を使うつもりがあったのか優しく軽い動かし方だったのも初めだけで、ハーヴェイの愛撫はすぐさま辛辣なものへと形を異にする。
犯すような激しさで突き上げて内壁を爪で擦り上げると、キーリの身体が波立つようにシーツの上を跳ねた。
「あ……やぁっ、やだぁ!!」
室内全体をこだまするほどに大きな声で嫌がられて、ハーヴェイがぽつりと不平を洩らす。
「……うるさい」
嘆息して、指を勢いよく内奥から引き抜く。
愛液でぬったりと汚れた自身の指をべろりと舌で綺麗に舐めとると、その指を今度はキーリの敏感な女芯へと向けた。
硬いそこを指先でくりくりと弄ると、キーリの苦しげだった声が徐々に甘い嬌声へと音を変えていく。
「……ん、あ……くっ、ぁあっ」
最も敏感なそこを嬲られる快感は耐え難いものがあるらしく、キーリはとろんと目を潤ませたまま喘ぎを上げた。
ぷっくりと丸く勃った肉の粒は、ハーヴェイの手の中で彼の好きなように弄ばれていた。
指の腹で擦られ、ぴんぴんと弾かれ、時たま気まぐれにきりきりと爪を立てられる。
その動作の全てが怖いほどの快感をキーリの神経に与えてきて、彼女は泣き出しそうになりながら快感を叫んだ。
「……っあ……ん、ぁっ、ぁあっ!」
キーリが快楽に溺れかかっている隙に、ハーヴェイは再び彼女の中へと指を押し入れる。
もっとも、今度は生身の手ではなく金属義手の方を挿れたため、こちらにはあまり感覚が伝わってこないのだが。
「やだ……嫌、変、やあっ、んんっ……」
身を捩じらせるキーリの姿に嗜虐心を奮い起こされて、ハーヴェイは二本目の指を挿入する。
こちらの指も食い千切られそうなほどにきついそこを目一杯拡張して、無理やり作った隙間に更に三本目をぎちぎちと押し込める。
先刻までは一本入れるだけでも窮屈だった内部に三本もの太い金属の指を突き込まれて、キーリは苦痛に目を見開いた。
苦しすぎて息もまともに吸えないのか呼吸音がおかしくなっている彼女の耳元に、ハーヴェイが唇を寄せて忠告する。
「ちゃんと息しろ。じゃないと死ぬから」
「だっ……て……、いた、い……」
腹の内側を小さな怪物に食い破られている様な気色の悪さに、キーリが泣き出しそうになりながら答える。
それを悲しげな瞳で見やりつつも、『やめてやる』なんていう善良な選択肢は最早どこにもない。
ハーヴェイはどこか済まなそうな顔をしたまま、それでも中を犯す指の動きを開始した。
三本の指をそれぞれ別方向に向けてばらばらに動かされると、狭い内奥はその全てを侵入者の手で埋め尽くされてしまう。
自分で慰めるのとは百八十度違うその感触に、キーリはただ泣き喚くほか何も出来はしなかった。
中を無理にがしがしと嬲られて、キーリは声を限りに絶叫し続ける。
瞳に滲んだ涙がぽたりと皺まみれのシーツに落下して、そこに小さな水溜りを作った。
「……ちょっ、へいちょ、たすけっ……」
頼りがいのあるラジオは、今は電源が切られた状態で隣の部屋に置いてある。
名前を呼んでも助けに来てくれるはずなどないのだけれど、藁にもすがる思いのキーリはひたすらにその名を連呼した。
「兵長は来ないよ。ここには、俺とお前しかいないから」
頭の悪い生徒に諭すようにして、ハーヴェイは分かりきった内容をキーリへ言い含める。
そうしながら、勢いを増した指の動きで丹念に中をほぐしていく。
ぐちゅぐちゅと嫌らしい音が鳴り響くほどにそこを弄られて、痛みと快楽の狭間にキーリが悶え狂う。
「やっ、嫌ぁっ……ん、はぁっ!」
細身の身体をベッドいっぱいにくねらせる少女の卑猥な姿に、ハーヴェイの抑圧が限界点を突破した。
痛いほどに張り詰めた自身の性器をはやりながら取り出して、押し込めていた三本の指をずぷっと引き抜く。
むわりと女の匂いが立ち上る指先を美味しそうな顔でぺろりと舐めてから、濡れた女の園に狙いを定めた。
猛った性器を入り口に押し当てて、力ずくで一息にキーリの身体を貫く。
「キーリ……ごめん」
入れる瞬間、ハーヴェイは無表情のままでそう漏らした。
その言葉に対するキーリの答えは、まるで絹を裂くような高く鋭い悲鳴だ。
「あぁぁーっっ!!」
痛々しい声を故意に無視して、ハーヴェイは己の腰を突き動かす。
きゅうきゅうと圧迫してくる中の感触はひどく気持ちがよくて、入れただけで達してしまいそうな程だった。
すぐにでも射精してしまいそうなのを我慢して、がくがくと腰部を打ち揺らす。
指の束よりもなお太い熱の塊で内部をめちゃくちゃに掻きまわされて、キーリがとうとうふっと意識を失いかける。
けれどその度に中を犯される痛みに刺激されて目が覚め、完全に闇に落ちていくことすら出来ない。
深く沈めた腰を獣のように律動させ、奥のざらりとした感触を楽しむハーヴェイに、キーリが叫び掛ける。
「……っ、あ……ハーヴェイ……!」
その名に反応したように、ハーヴェイはキーリの頬を片手でそうっと包み込んだ。
その暖かな触り方にキーリが普段の彼を思い浮かべた刹那、ハーヴェイは彼女に声を掛けた。
「…………ごめん、な」
何かが内側で弾け、流し込まれていく。それがハーヴェイの快感の証なのだと気づいて、キーリは再度涙を零した。
ぐったりとした顔で精を吐出したハーヴェイの雄は、しかしキーリの内部を抉ったまま熱を保っている。
それがすぐにまた硬くなっていく感覚に恐怖を覚えながら、キーリは涙に濡れた瞳でぼんやりと横に顔を向ける。
丁度目の高さにある小さな覗き窓から外の闇を見れば、月は今しがた東の空に上ったところで星はたった幾つかが空に瞬いているのみで。
――詰まる所、まだ今夜は始まってすらいないのだった――。