基地内に響かんばかりの大きな音を立て、ギロロはケロロの部屋の扉を開いた  
否、どちらかというと蹴り破ったと言った方が正しいか  
部屋の中ではケロロがタママと、さっき買ったガンプラを仮組みしているところだった  
団欒とした空間を劈いてギロロが現れたものだから、2人は思わず手にしていたガンプラを落としてしまった  
眉間に深い皺を刻みつつ、赤く燃えるギロロの視線はケロロへと注がれる  
また侵略か何かの話かと思い、ケロロはごく自然に応対した  
「ああギロロ、どったの?」  
「…ッ」  
しかし、ギロロの心情はそれどころではない  
風呂場で自慰に耽る想い人と、その少女の口から漏れた気になる言葉の数々…  
確かな事は解らずとも、ギロロは夏美の異変の原因がケロロにあることを、持ち前の動物的勘で察知していた  
ギロロはケロロにズンズンと詰め寄り、おもむろにその首根っこを掴む  
「貴様っ…夏美に何をしたァ!?」  
「ゲ…え、え??」  
こんな光景は小隊内でも日常茶飯事の筈だった  
だがギロロの様子はいつもの激昂時に見せる顔のそれとは明らかに違っている  
無論、この事に関してケロロは何も知らない  
全く噛みあわない両者の問答に、強引にタママが割って入った  
「ちょ、ちょっとギロロ先輩待って下さい!」  
「どけタママ!これは重要な問題だッ!」  
「えっと〜…ワガハイ何かしたっけ?」  
「き、貴様!!」  
身に覚えのない訴えに言葉が詰まるケロロだが、その行動がギロロをもっと刺激した  
横のタママを突き飛ばし、そのまま掴みかかるとケロロをその場へ押し倒す  
流石にここまでの行動に出られるとケロロも憤りを感じ、言葉を荒げた  
「ぎっ…何をするでありますか!!」  
「黙れ!そこまでしらばっくれるとは…見下げ果てたぞ!」  
「2人とも、ホントに止めて下さいですぅ!ギロロ先輩、どうしちゃったんですか!?」  
側のタママを完全に無視したギロロの顔は、怒りで真っ赤になっている  
血が滲むほどに拳を握り締め、その様子は尋常ではない  
「ギロ…ロ?」  
押さえつけられ、涙さえも瞳に浮かせている友の姿を見て、ケロロは喉を鳴らした  
幼い頃からいつも一緒だった赤ダルマ  
ちょっと融通が効かなくて、偏屈で、頑固で、だけどイイ奴  
子供の頃からの腐れ縁で、ケロロも彼を異性として意識した事が無いわけでもない  
何だかんだで頼りになるし、小隊内では一番頼りにしているつもりだった  
そんなギロロがこんな顔を見せ、しかも自分を拘束して怒りに震えている  
ケロロは、背中に嫌な寒気が走るのを感じた  
 
 
 
『Dreaming sergeant Part-03 "偶"』  
 
 
 
「待たれよ!」  
小隊始まって以来と思われる一触即発の状況下に、一陣の風が吹いた  
次の瞬間、とんっ…とギロロの背に微弱な衝撃が起き、同時に彼の視界は暗転し、ケロロの上に倒れた  
「わぷ!?」  
「あ…ドロロ先輩」  
そこに、小隊の縁の下の力持ち、ドロロ兵長がいた  
彼は今にもケロロに殴りかからんとするギロロを止めるため、背中のなんたらかんたらというツボを刺激したらしい  
ギロロをどかして起き上がったケロロは、晴れ晴れするような笑顔でドロロに感謝の意を述べた  
「いやぁ〜ドロロ、ほんとに助かったでありますよ」  
「無事でなにより…と、言いたいところでござるが」  
ツボを付いたときに使った小太刀の鞘をなおすと、ドロロはケロロに本当に身に覚えがないのかと、今一度問いただしてみた  
事態は収拾したとはいえ、このギロロの過剰ともいえる行動や言動は無視できないものだったからだ  
「だ〜か〜ら〜、ギロロが勝手に言いがかりをつけてきたんでありますよぉ!」  
「僕たちはずっとここでガンプラを作ってたですぅ」  
「ふむ…」  
いまいち納得ができない流れだ  
ともかく、このままギロロを放置しているわけにはいかないので、ドロロがギロロを預かると進言した  
「ダイジョブで…ありますか?」  
「何があってこうなったかは存ぜぬが、また暴れだすとも限らんでござる」  
ぐったりとしたギロロを見つめ、とても複雑な心境のケロロとドロロ  
沈痛な面持の2人を前にして、タママも同じく嫌な気分になった  
…しばらく静寂が部屋の中を包んだ  
ドロロはギロロを水車小屋へと運び、タママは遅くなったので西澤家へと帰宅する準備を整えていた  
そろそろ飯時なので、ケロロも散乱してしまったガンプラを片付けている  
タママが持ち込んで食べ切れなかったお菓子をかたしている側で、こっそりケロロはあの薬を取り出す  
「…」  
この薬を手にしてから一ヶ月と少し…確かにこれは自分に大きな幸せを呼んだ  
しかし、この薬と今回のギロロ暴走とは無関係なはず――なら、何も問題は…  
…そういえば、薬を使い終わる時に自分はどうするのか?  
いっそ人間になってしまって冬樹と歩むか、それともケロン人に戻ってこの僅かな蜜月に終止符を打つのか?  
というか、使っているところを見られたりして、自分が女性だと周囲にバレたら?  
冬樹はもちろん、夏美や秋の反応は?  
いや、それよりも長年連れ添った小隊の皆に知れたらどうなる?  
今回の騒ぎどころではない、恐ろしい結果になってしまうのでは?  
最悪の展開の果てに待つバッドエンド  
連鎖的にケロロの頭を恐ろしい情景が巡った  
その途端、自分が手にしている薬が、今まで自分たちが手にしたどんな兵器よりも恐ろしいものだと思えて、ケロロはぞっとした  
「(けど…ずっとずっと、冬樹殿のことが…)」  
だが、もしかすると、逆にもっと良い結果が待っている可能性だってある  
皮肉にも悪い結果より良い結果を連想することが難しかったが、ネガティブな思考に翻弄されていてはどうにもならない  
ケロロはその大きな不安を、無理矢理自らの内へと封じた  
 
「ぐんそ〜さん♪」  
「…」  
「軍曹さん?」  
悩みで上の空のケロロに、タママの呼びかけは聞こえていない  
もう帰るから別れの挨拶ぐらいしたかったのだが、応答がないのでタママは残念に思った  
でも、ついさっきあんなことがあったのだから無理もないと察し、そっとタママは退こうとする  
「じゃ、帰りますね?」  
「…」  
「……ん?」  
名残惜しそうにタママが振り返る…すると、ケロロの側に赤い宝石のような何かが落ちていた  
それはあの大事な秘密の薬で、ギロロに押し倒されたときに落としてしまったものだ  
この薬、パッと見は綺麗なルビーのように見えるが、甘いものに眼のないタママには美味しそうな飴玉にそれが見えた  
「(危ない危ない、拾い忘れがあったです……っと)」  
ケロロの気分を害さないように、タママはそっと薬を手に取ると、持参したお菓子専用のリュックへと放り込んで立ち去っていった  
…タママは、小型UFO以外の移動手段として、最初のころはワープを使用していた  
時が経つにつれて円盤で移動するようになったが、たまに荷物の多い日などはワープを利用しており、今日のタママはワープでこちらに来ていた  
そのワープ中、タママはケロロといたとき食べ損なったお菓子を見つめ、重々しく溜息をつく  
「お菓子でもいいから…モモッチには元気になってほしいですぅ」  
みんなには話していなかったが、あのあと冬樹に会えなかった桃華はかなり落ち込んでいるらしい  
食べ物も喉を通らないようで、せめて何か口にしないと体に悪いと思い、後でタママはこのお菓子を桃華と食べようと思っていたのだ  
 
…その後、ケロロはいつも通り夕飯のため、食卓へと足を運んだ  
だが、その席には夏美と秋の姿が無い  
秋は仕事の関係でいないが、夏美は風呂場でのぼせて気分が悪くなったとかで、もう眠っているらしい  
ギロロもドロロが連れて行ったので、今食卓を囲んでいるのは、冬樹とケロロだけである  
先の騒動を振り払うかのように、ケロロは楽しげに膳を取った  
「いやはや、ママ殿の作り置きがあったからカンタンにご飯ができたであります」  
「…ごめんね、軍曹」  
「ゲロ?」  
箸を取り、ご飯を突付こうとしたケロロに、申し訳なさそうな顔で冬樹が謝った  
何事かと思えば、例の頼まれたガンプラの一件のことだった  
「あんなに楽しみにしてたのに…今日ね、とても面白い女の人に会ったんだ」  
「ゲ……そ、それで?」  
「その人、なんだかどこかで見たような感じだったんだけど、話してるととても楽しくって、まるで軍曹みたいだったよ」  
「!」  
「もしかしたら、あの人も宇宙人かも…なんてね」  
冬樹にしてみればただの何気ない会話だったろうが、ケロロはそれを聞いただけで内心ドキドキであった  
人間になった自分がどう思われたのか、正体がばれていないか…  
だが、思いのほか冬樹が擬人化ケロロに感じた印象は、割と良いものだったようだ  
ケロロは、そこで思い切って、冬樹にもっと突っ込んだ質問をぶつけてみた  
「けど、その人が軍曹と同じガンプラを欲しがってて…それで譲っちゃったんだ。軍曹、ごめんね」  
「ふっ…冬樹殿」  
「ん?」  
「その女の人って…えっと、冬樹殿はまた会ってみたいでありますか?」  
かなりぶしつけなケロロの質問  
一瞬、冬樹の脳裏に帰り際の夏美の言葉がよぎる  
だが人を見る目が確かな冬樹は、迷わずこう言った  
「うん、会ってみたい…かな?」  
「…っ!!!」  
まるで心臓を鷲掴みにされたような衝撃が、ケロロの心に響いた  
嬉しい…ちゃんと、好意的な目で冬樹に見られていた  
それが解っただけでも、ケロロは天にも昇る気持ちだった  
今すぐにでもこの喜びを発散させたい衝動に駆られたが、取り敢えずはぐっと抑え、ニコニコ笑顔で冬樹に自分のおかずを分けるに止めた  
「軍曹、鳥の唐揚げいらないの?」  
「ふふん♪何でもないでありますよ、冬樹殿」  
「あははっ、変な軍曹」  
にこやかな談笑を交えながら、日向家の食卓は深けていった  
 
 
一方、ここは西澤邸・中央食堂  
いつも数十人のスタッフが配備され、常に一流ホテル顔負けの料理ともてなしができる設備が整っていた  
しかし、今ここを利用する人はおらず、非常に寒々としている  
その食堂に現れたのは、さっきケロロと別れて帰ってきたタママだ  
大きいテーブルには最高のコース料理とオードブルが置かれていたが、どれも全然手が付けられていない  
ちょうどそこに屋敷内の警備をしていた吉岡平が通りかかったので、タママは話を聞いた  
「桃華お嬢様ですか?…残念ながら、まだお食事には手をつけていらっしゃらないご様子です」  
「そっか…やっぱり…」  
吉岡平が言うには、桃華は自分の部屋にまだ閉じこもっているという  
タママはそこへ向かい、大きな扉をノックした  
「…モモッチ、起きてるですか?」  
…反応は無い  
桃華のこういう行動はたまにあった  
大規模な予算を賭けたラブラブ作戦が失敗したときとかは、よく塞ぎこんでいたものだ  
いつもだと、しばらくしたらまた気を取り直していたが、今日はちょっと長いので心配だった  
「モモッチ…入っちゃうですよ…」  
タママは、極力音を立てないように、そっと扉を押し開いた  
部屋に入ると、タママは桃華を探し始めた  
勉強机、トイレや洗面所、広大な庭を一望できるテラスと探したが、そのどこにも桃華の姿は無い  
西澤財閥のご令嬢というだけあって、自分の部屋だけでも日向家とほぼ同じぐらいあるのだ  
なかなか桃華が見つからず、困っていたタママは、まだ探していない場所があることに気付いた  
「も、モモッチ〜…?」  
そこは寝室だった  
桃華とタママは仲良しだが、さすがに部屋は別々にある  
ことプライベートな場所なので、あまりタママもこの部屋自体に入った事はない  
そして、有事以外はポールでさえも入れないのが、この寝室だった  
うら若き乙女の寝床なのだから、触れられたくないこともあるのだろう  
タママが桃華の寝室に入ったのは、かつて地球を去ろうとした時に訪れた時以来、初めてだった(詳しくはアニメ一年目最終回参照)  
寝室は明かりが点いておらず、薄暗い中でタママは眼を凝らして桃華を探す  
すると、ベッドでうつ伏せになっている姿を見つけた  
「…」  
「モモッチ、大丈夫ですぅ?」  
「…ほっとけよ」  
不機嫌なのか、今は裏モードらしい  
「モモッチ、ご飯食べないと身体に良くないですぅ…もしダメだったら、僕のお菓子でもいいから食べて欲しいですぅ」  
「いらねぇよ…」  
言葉遣いは確かに裏モードのものだが、覇気が無い  
毎度の事とはいえ、冬樹と会えもしなかったのは余程応えたと見える  
それでもタママは引き下がらず、持っていた袋からお菓子を取り出した  
「これ、前にモモッチがくれたお菓子の…ホラ、おいしいですよっ」  
「お前のだろ…食べろよ」  
「んもぉ…モモッチ!」  
桃華は横にあったクッションを被り、自らタママの声を遮断した  
そこまで意固地にされると、流石にタママもちょっとムッとして、ボリボリとお菓子を食べ始めた  
「ふん!あとで欲しいって言っても、モモッチにはひとつもあげないですぅ!」  
「…」  
互いに険悪なムードのふたり  
桃華を元気にさせるどころか、更に事態をこじれさせてしまったことを残念に想いつつ、タママはお菓子を口に運んだ  
 
と、その時だった  
何かガリッと硬いものを噛み締めたので、タママは思わずそれを吐き出した  
それは、さっきケロロの部屋で拾った、あの薬だった  
「(…そういえば、こんなの僕食べてたっけ?)」  
不審に思いながらも、再びタママはそれを口にする  
だがコロコロと舌で転がしてみても、薬なのでまったく味がしなかった  
耐えかねたタママはそれをガムの余った包み紙に包み、菓子の空袋の中に放りこんだ  
「…タマちゃん」  
ふと、桃華の表の声がしたので、タママは菓子を探る手を止めた  
まだクッションを頭に乗せたままの姿勢で、桃華は呟く  
「もしかして、私は冬樹くんに…嫌われているんでしょうか」  
「…そ、そんなことっ」  
「だって、私は今までずっと冬樹くんを振り向かせようと、色々手を尽くしてきましたわ…でも…」  
クッションを枕元に置き、桃華は起き上がった  
その顔は目元が腫れ、彼女がさっきまで泣いていたことを物語っている  
そして、再び桃華の瞳がうるうると揺らいだ  
「でも…結局それが報われないのなら、私は…」  
「…ッ」  
桃華の悲しそうな表情に、タママは心が痛んだ  
思えば自分も似た境遇だが、相手にさらりと自分の好意を伝えられるタママと、繊細で言い出せない桃華とでは立場が違った  
そんな真逆な自分が、どう桃華をフォローできようか  
だがそれでも、タママは桃華のもとに駆け寄った  
「モモッチ、もしフッキーがダメだったら…僕がモモッチのお嫁さんになるですぅ!」  
「…タマちゃん」  
「だからモモッチ…お願いだから、元気を出して欲しいですぅ……」  
うっすらと涙を浮かべたタママの顔を見て、桃華の心は次第に落ち着きを取り戻した  
やはり似たもの同士ということか、この2人はとても相性がいいのだろう  
桃華はタママの気持ちを飲むと、ぐいっと涙を拭き、立ち上がった  
「ありがとう…タマちゃん」  
「モモッチが元気になってくれたら、僕はそれだけで嬉しいですぅ」  
心配で曇っていたタママの顔も、晴れやかないつもの可愛らしいものへと戻っていた  
…が、タママの顔がやけに赤い  
成り行きとはいえ桃華に対して告白したようなものだから、動揺していたのだ  
「ところでタマちゃん、タマちゃんが私と結婚するなら、タマちゃんは"お婿さん"ですわよ?」  
「え?あ、ああっ!!…ハズかしいですぅ………」  
「そういえば、ケロン人と人間では、結婚ってできるの?」  
「うえっ!?モモッチまさか…??」  
「勘違いするんじゃねぇ!興味本位だっつーの!」  
裏の桃華が出てきた…ということは、もう桃華は大丈夫だ  
タママは怯えて頭を抱えながらも、どこかホッとしていた  
「ええと、異種族間の結婚はそんなに珍しい事じゃないですぅ。でもペコポンじゃあまりそういうのは認識されてないから、今のとこはムリっぽいです」  
「ふぅん…それで?」  
「たまに我慢しきれないバカがアブダクションしてゴーカンすることもあるけど―――」  
「って止めろよオイ!」  
「ほんぎぇい!!」  
「うわ…聞くんじゃなかった」  
裏の桃華が出てきた…ということは、また口に気をつけないと  
タママは桃華に蹴り飛ばされながらも、どこかウンザリしていた  
…お互いに軽口を叩きつつ、遅い晩餐へと足を運ぶ2人  
だが、その胎動は着々と進んでいたのであった  
 
時刻は既に午後の10時を回っていた  
不貞腐れていたときはあまり何も感じなかった桃華だが、今は空腹を自覚して腹を痛めている  
お嬢様である桃華の一日は規則正しく、普段なら夕飯もきっかり8時ぐらいに終わっているはずだ  
桃華とタママがすっかり冷えてしまった料理をポールに温めてもらう間、ずっと腹が鳴っていたのは仕方が無かった  
「お嬢様、お元気になられて何よりでございます」  
「こちらこそ、心配をかけましたねポール」  
「あぅ〜おなかすいたですぅ」  
「タマちゃんはさっきお菓子を食べてたんじゃあ…」  
「お菓子は別腹だからおなかはすっからかんなんですぅ」  
5分と経たない内に、料理は一時前の暖かなものへと戻っていた  
桃華とタママは仲良く手を合わせ、静かに腹を満たした  
ところが、一人だけ様子がおかしい者がいた…タママだ  
「うう…なんかハシが進まないですぅ」  
「タママ殿、間食は健康に悪いでございます」  
「違うですぅ!ホントはちゃんと食べられるのに…なんかおなかがつっかえてるって言うか、えっと〜…」  
「無理しないほうがいいですわ、タマちゃん」  
結局、タママは料理に手をつけぬのをよそに、桃華は腹を満たした  
時間も遅いため、桃華はすぐにお風呂へと進んだ  
タママもタママでもう寝ようかと、まっすぐ自分の部屋へと向かった  
「ハァ…なんだか今日はいろんなコトがあったですぅ」  
大好きな軍曹さんとガンプラ組んだり、いきなり怒髪天なギロロ先輩が怒鳴り込んできたり、モモッチを励ましたり…  
廊下を進みながら、タママは今日あった事を思い出していた  
だが若者の興味はすぐに変わってしまうもので、もうタママは次の日のことに考えが移っていた  
また軍曹さんといっしょにあんなことや、こんなこと…♪  
「!」  
考え事をしていたせいか、突如タママはつまづいてしまった  
何も無いところでつまづくなどらしくないと思いつつ、タママは立ち上がろうとした  
だが、妙な事に身体に力が入らない  
そればかりか、だんだん全身を激痛が伝い始めたのだ  
心臓の鼓動が早くなり、体が熱くなる…  
実はさっき桃華の部屋にいたときに嘗めた、あの薬が発動していたのだ  
ただ嘗めただけなので効果は薄く、ケロロの時ほど痛みは無い  
しかし、何も知らないタママにしてみれば、十分なほどの苦しみだった  
「ぐ…あぁ…ッ!!痛っ!いぐっ…っ……!」  
――何が何だか解らない  
――とにかく、桃華のところへ行かなければ  
ぐらつく意識の中、本能的な意志が働いたのか、タママは変化する身体を引きずりながら、ゆっくりと歩き始めた  
 
「♪♪♪」  
一方、こちらは桃華の部屋の浴室である  
心地よいシャワーを浴びながら鼻歌を歌ったりと、女の子だけのプライベートなひと時を堪能していた  
以前に幼児体型と呼ばれた彼女の身体だが、しかしそれはそれで魅力的な、なだらかな線を描いている  
名前のように桃色に染まった肌は、湯水の流れにまったりとした心地よさを感じていた  
だが、不意に何かの気配を感じた桃華は、ちらりと後を振り向いた  
「…?」  
さっき、そこで何かが倒れるような音がしたような…?  
空耳だろうと思い、桃華はギリシャ産最上級のシャンプーを手に取った  
ノズルから香りの良いジェルを出し、それを頭につけようとしたところ…また何かの気配を感じて、桃華は聞き耳を立てた  
ちなみに、ここにムクジャンはいないはずである  
「どなた…ですか?」  
応答は無い  
しかし、何かが部屋の扉の前にいる事だけは確かだ  
桃華は手のジェルを落とし、タオルで紙や身体を拭くと、バスローブを着て浴室から顔を出した  
浴室ではシャワーの音が邪魔していたが、外に出ると何かの呼吸する音が聞こえる  
ポールならこんな真似はしないし、親衛隊の人などもっての他  
メイドたちのイタズラでもないだろうし、タママはもう寝てるはず…  
桃華の背筋に悪寒が走った  
「まさか…お、オバ…ケ?」  
「モモッチ…」  
「!」  
ちょっと元気が無いようだが、あの声はまさしくタママのものだ  
大きく溜息をついた桃華は、どうしたのかと扉の向こうのタママに問いかけた  
「どうしたんですの?怖い夢でも…」  
「…」  
「タマちゃん?」  
何か様子がおかしい事に気付いた桃華は、浴室から出ると内鍵を外して扉を開いた  
それと同時に、扉の前にいるタママが姿を現す…かと思われた  
だが桃華の前に現れたのは、見ず知らずの少年だった  
少年は少し長めの黒髪にボーイスカウトのような服と短パンを着用していて、その衣装は黒を基調にしている  
歳は桃華と同じか少し上みたいだが、背丈は若干少年のほうが上のようだ  
呆気に取られた桃華は、ろくなリアクションもできずに少年を傍観していた  
「へ…?」  
「モモッチ、僕です…」  
「た…タマちゃん?タマちゃんなの!?」  
いきなり人間になって現れたタママに思いっきり驚く桃華  
しかも続けてタママが倒れたので、桃華は更に驚いてしまった  
「タマちゃん、一体何があったんですの!?」  
「…ぐ…う」  
「え?何と……?」  
「おなか…すいたですぅ」  
そう言ったとたん、タママはがくりと意識を失った  
説得しにきたときに置いていった菓子がまだ転がっていたので、桃華はそれを強引にタママの口へと突っ込む  
「どーいうことなんだタマ公!おら起きて説明しやがれ!!」  
「グゴゴゴ…ってホントに死んじゃうですぅ!!」  
一体何が起こったのか?  
桃華とタママは、とりあえず寝室で状況の整理に勤めることにした  
 
お菓子を食って元気を取り戻したタママは、自分が人間になってしまったことに、改めて驚いていた  
当のタママもどうしてこんな事になったのか、まるで原因がわからないという  
「確かに声や行動はタマちゃんですわね…でも一体、何があったんでしょう?」  
「いきなり体が痛くなったと思ったら、突然こうなっちゃったんですぅ」  
よもや飴玉と思って口に含んだものが原因だとは、流石に気付いていない  
それよりも、人間になったことでタママは幾つも障害を抱えていた  
まず、ケロン人よりも高い視線なので、まるで竹馬に乗っているような変な感覚であるという事  
そして、さっきから体のある部分がおかしいという事だった  
「ある部分?」  
「それは……」  
タママはなぜか恥ずかしがって、話を進めようとしない  
そんな不可解な状況でイライラが溜まったのか、裏の桃華が出てきて強引に問い詰めた  
嫌がるタママが抵抗したので、桃華は力で屈服させようとする  
「いいからどこなのか言えよ!頭か?」  
「やっ…ダメですぅ!」  
「人が気遣ってんのに無碍にする気か?ちょっと見せてみ…ろ……」  
「…っ」  
先程から桃華は、自分があられもない格好だという事をすっかり忘れていた  
そんな扇情的な場面を年頃の男の子が見たらどうなるか…反応はひとつだった  
「うわ…コレ……」  
厚手の短パンの上からでも解るぐらい、タママの雄が勃ち上がっていた  
男が興奮するとこうなることはだいたい解っていた桃華だが、直にこういう光景を見るのは当然初めてだった  
そのため拒絶する事もなく、じっとそれを凝視している  
しかし男の象徴を異性に見られるのは気分がいい事ではない  
どうにか桃華をふりほどこうと、タママは隙を見て桃華の襟首を掴み、組み敷かれた状態から脱出しようとした  
「うわぁっ!」  
…が、変な体勢で暴れたせいか、2人はバランスを崩し、そのままベッドへと倒れこんでしまった  
しかも倒れる際に思いっきり頭をぶつけたので、しばらく動けないまま悶えた  
「〜〜〜〜ッ」  
「…ッ、んのバカ野郎!痛ぇじゃねえか!」  
「モモッチだって、いきなり僕の…を見ようとするからっ!…はれ?」  
「あ…」  
その時、2人の表情が固まった  
今のいざこざのせいで桃華のバスローブが解け、胸や腿が大胆な形で露出していたのだ  
しかも倒れた格好が桃華を押し倒すような姿勢になっている  
桃華とタママは顔を真っ赤にして、しばらく互いを見つめ合った  
そのうち桃華が乱れた部分を直そうと、そっと自分の胸元に手を伸ばした  
だが、その手をタママが掴む  
「た…タマちゃん?」  
「シャンプーの…いい匂い」  
「あっ!!」  
まだ若く思春期真っ盛りな少年でもあるタママが、この状況を甘受することなど出来るはずもなかった  
己を見失ったタママは桃華の手を取ると、彼女の首筋に口を付けた  
そこを甘噛みされ、桃華はちいさな悲鳴を上げる  
「大丈夫だから…」  
「やっ!タマちゃ…そこ、ああっ!!」  
タママは桃華の両腕を片手で拘束すると、空いたほうの手でバスローブを強引に脱がし始めた  
当然バスローブの下は裸身である…シャワーで濡れ、ほんのり火照った身体が、タママの目に晒されていく  
桃華はなんとかタママを振りほどこうとしたが、人間になってもタママの馬鹿力は相変わらずで、ビクともしなかった  
 
「ダメ…ですわ……タマちゃん」  
親以外に初めて裸を見られ、桃華は顔から火が出るほど恥ずかしがった  
しかしそんな桃華の様子などに構う事もなく、タママは彼女の胸へ顔を寄せる  
そして小さな膨らみを嘗めると、桃華の身体はびくりと跳ねた  
お世辞にも豊かとは言えない桃華の乳房は、アブノーマルな感覚を感じ、乳首を勃起させていた  
「ひッ…!ん、はぁっ!あくッ!」  
「ん…ちゅ…」  
「や…はぁっ!!あぐうっ!」  
ただ嘗められているだけだが、湯上りで敏感になっていた桃華の肢体には十分すぎる攻めだ  
彼女の柔肌にはタママによって刻まれたキスの痕がいくつも残り、唾液によって艶かしく光っている  
タママの口は次第にトップへと移り、まるで乳飲み子のように彼女の乳頭を啜っていく  
「か…はぁ…ぁ……!!」  
もうタママによる拘束は解かれていたが、快感でギリギリだった桃華は抵抗すら忘れていた  
仰け反りながら、四肢を巡る快楽の波を必死に受け止める桃華  
その体は、玉のような汗ですっかり濡れきっている  
無論、それは女の最も大事な部分でも同じ状態だった  
「…」  
「っ!」  
股の辺りに違和感を感じた桃華は、ハッとして体を起こした  
既に桃華の秘所はぬるぬるに濡れている  
そこをタママの勃起したものが、短パン越しにグリグリと押し付けていたのだ  
挿入こそされていないが、膣口を突き上げられ、本番さながらの快楽が桃華を襲った  
「モモッチ…おいし……」  
「ふうぅっ!!」  
「んく…んん…」  
タママの攻めは力で畳み掛ける単調なものだったが、幼い桃華にとってはあまりにも大きい衝撃だった  
突き上げられるたびに肩が震え、口からは切ない吐息が漏れる  
快楽は増長し、2人は一気に限界まで登りつめた  
「…ッ、ふあぁっ!ひあああああぁぁッッ!!!」  
1、2度ほど桃華の体が激しく跳ね回った刹那、半端に繋がった部分から潮が吹き上がる  
亀頭を締め付けられ、同時にタママも弾けた  
服越しに感じる生暖かさに、桃華の意識はまどろんだ  
タママも絶頂の反動で気を失い、かくりと桃華の上へと倒れた  
「はぁ゙っ…!はぁ゙っ……たま…ちゃ……ん」  
「………」  
余韻でぐらつく頭をもたげ、桃華はタママを抱き起こした  
ところが、そこにいたのはあの見慣れた黒い宇宙人であった  
 
これには桃華もきょとんとして、しばらく状況が飲み込めずにいた  
…実は、この時タママが服用した薬の効果が、ちょうど切れたのである  
確かにタママはあの薬を口にしたが、ただ嘗めただけだったので、その効果は1時間もしないで切れてしまったのだ  
「夢…?いえ、私はタマちゃんと…っ」  
次第に冷静さを取り戻していった桃華は、今しがた自分がしてしまった事を自覚し、ひどく赤面した  
しかし桃華はそこにすやすやと寝息を立てるタママを、ただ静かに見つめているだけだった  
いつもの彼女であれば、烈火のごとく怒ったはずである  
ましてや、乙女の体を悪戯に弄ばれたのだ…怒らないとすれば泣いていてもおかしくない  
だが、彼女は頬を染め、汗に濡れた体でタママを見つめているだけだった  
…考えてみれば、桃華は異性から面と向かって告白された事など、今まで一度も無かった  
財閥のお嬢様ということで学校では冬樹と出会うまで浮いていたし、彼女自身も冬樹一筋で進んでいたから、別の男性を意識する事も無かった  
そんな桃華の心に、さっきタママが投げかけた言葉が、思いのほか深く響いたと思われる  
「ん…」  
「あっ、タマちゃん…」  
ようやくタママが目を覚ましたときには、もう桃華はパジャマに着替えていた  
タママは何があったのかよく解らなかったようだが、さっきまで自分が何をしていたのかを思い出し、顔を真っ青にした  
「あ…わ…わああっ!!モモッチ…ごめんなさぁい!!」  
「まぁまぁ…タマちゃん、私はそんなに気にしていませんわ」  
「…ほえ?」  
「今日は、いっしょに寝ませんこと?」  
「えっ?」  
理解不能なシチュエーション続きだったが、タママはこれに甘んじた  
またシャワーを浴びなおしたのか、桃華の髪がよく香る  
時間は、夜の2時を過ぎている所だった  
 
 
同刻、こちらはケロロの部屋  
冬樹との時間を満喫したケロロは、ある算段を立てていた  
すなわちデートの第2弾である  
今度はどうやって冬樹と出会おうか…ケロロは終始ニコニコ顔だ  
まだ薬が一個減っているのには気付いていないようだが…  
「ふぅ…」  
もう夜も遅い  
大きく背伸びをすると、ケロロはどさりとベッドに体を委ねた  
「冬樹殿…」  
次のデートも予定はバッチリだ  
そう確信しているケロロだが、彼女はまだ何も知らなかった  
あの薬に、大きな欠陥があることなど―――――  
 
 
 
【to be Continued】  
(薬の数…残り5錠)  
 

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