ケロロは実は女である…今までそれを皆に秘密にしたまま、ずっと心のうちに隠し続けていた  
しかも冬樹に恋焦がれていたが、そのあまりにも人間と違う自分の姿に絶望していた  
なんとか冬樹とつりあう姿になりたいが為、クルルに作ってもらった薬でケロロは人間化する  
彼女は、さっそく人間の体を確かめるべく自慰行為に浸り始めていたが、そこに夏美が現れ…  
 
 
 
『Dreaming sergeant Part-02 "歪"』  
 
 
 
この姿を見られたら、今まで抱いてきた夢が水泡と化す…ケロロは、仕方なく薬に手を付けた  
元の姿に戻るときは逆に反動は軽く、逆に全身がスーっと冷めていく感じだ  
痛みもそれほどではないものの、ケロロは人間化するときは毎回この苦痛を味わなければならないと思うと、少しウンザリしてしまう気もした  
「ん……うう…」  
先程とまったく反対のプロセスを辿り、その肌色はツルツルの緑色に戻っていく  
服は大気中に溶け込んで消え、長い指や手足は縮まり背丈も低くなる  
そして3分と経たず、ケロロが気付いたときにはしっかり原型に戻っていた  
「ふぅ…あ、夏美殿?」  
扉の向こうで待たせている夏美のことを思い出し、ケロロは急いで戸を開くが、夏美の姿は見当たらなかった  
「あれ?」  
外を見回してもその姿を確認する事ができない  
理由はどうあれ危機は去ったので、ケロロは安心感から大きな溜息をついた  
ケロン体に戻ったとはいえ、未だに引きずる絶頂の気だるさは肉体に刻まれている  
ふと、そこにさっき自分の姿を捉えた鏡が目に入った  
―今写っているのはケロン人の自分―  
ケロロは無言で、その鏡を脇の棚に投げ込んだ  
 
果たして、夏美は自分の部屋に戻っていた  
その表情は真っ青で、ベッドのクッションを抱いて震えている  
まるで何かとんでもないものを見てしまったかのようだ  
夏美はドアを背にし、そのままズルズルとへこたれるように座った  
「そん…な」  
―そう、夏美は見てしまったのだ  
あの時夏美は部活のヘルプも無く、真っ直ぐに帰宅していた  
急いで帰宅したのは自分が家事の当番だったからだが、今日は仕事の量が多く、ケロロに手伝ってもらおうと考えていた  
これで何事も無ければ、2人で無事に家事が済むはずだったのだが  
「ボケガエルが女だったなんて…」  
ドアをノックしようとした瞬間にケロロの喘ぎ声が聞こえてきたので、夏美は思わず仰け反った  
恐る恐るドアを少しだけ開いてみると、そこには今まさにケロン人から人間へと姿を変えていくケロロの姿があった  
その後の彼女の独り言からから、ケロロが女性だと悟ったのだ  
ケロロが女であると知った動揺もあって、夏美は声をかけておきながらその場を立ち去ってしまったのが真相である  
「…そういえば、どうして今まで気が付かなかったんだろ?」  
冷静に考え直すと、今まで不自然な点も無かったわけではない  
自分の入浴中にズカズカと入ってきたり、やたら変装する姿に女装が多かったり、思い起こせばケロロを女性と裏付ける証拠はいくらでもあった  
「でも、まさか冬樹を…」  
夏美が一番動揺していた問題がこれだ  
気の知れた同居人とはいえ、こういう事情となってくると話も違う  
こんな事は絶対に納得できないし、ましてや相手は侵略者  
それ以前に、ずっと性別を偽っていたんだし…  
混乱の極みだった夏美は、同じような考えが頭の中でずっとリピートされていた  
「ひゃっ!?」  
突然夏美が背をもたれていたドアが開き、彼女はそのままうしろに倒れた  
驚いて受身を取れなかったが、もっと驚いたのは夏美の下敷きとなった男の方だ  
「痛たた…」  
「お、おい夏美…苦し…」  
「えっ?」  
自分の下から変な声が聞こえたので、慌てて体を起こすとギロロが倒れていた  
ギロロは、ついさっきまで定時の巡回に出向いてて、ちょうど帰ってきた時に夏美が家に入っていくのを見た  
だが、しばらくすると夏美が慌しい足音と共に走っていくのを目撃し、心配して様子を見に来たのだ  
「一体どうした?ペコポン有数のソルジャーであるお前が、そんなに慌てるなど…」  
「あ、ごめん…」  
「何かあったのか?」  
いつもの気丈さが無い夏美の様子に、ギロロは気付いた  
当の本人は気丈さ云々の話どころではなかったが、その不安定な精神状態が心の拠り所を必要としていたのは事実だ  
「言ってみろ。迷いをそのまま放置しておくと、戦場では後々命取りになる」  
しかし、この事実はギロロも知っているのだろうか?  
もし話してしまったら、何もかもが崩れそうな気がしてならない  
危惧した夏美は、言葉を曇らせた  
「…ううん、何でもない」  
「そうか?」  
納得のいかない顔をしつつ、ギロロは夏美の部屋を後にした  
同じように真実に納得のいかないまま、動揺している夏美を残して  
 
ケロロが例の薬を使ってから、特に何も変わらぬまま数日が過ぎた  
彼女はあの薬をどう使おうかで思慮していたが、唯一変わっている点があった…夏美だ  
「夏美殿、お風呂が沸いたであります!」  
「う、うん…さんきゅ」  
あれから、ケロロに対する夏美の態度は妙によそよそしくなった  
意図的にケロロを避けているような、あまり話しこんだりしないような…  
その変化に冬樹も秋も気付かなかったが、当のケロロは薄々違和感を感じ始めていた  
「まさか、夏美殿は我輩が――――――――またガンプラこっそり買ったのバレた!?」  
が、その足りない思考から、夏美が自分の性別について思い悩んでいると察するには至らなかった  
こちらも冬樹のことで頭がいっぱいだったため、他の物事にまで頭が回らなかった事も一因である  
そもそも、こうやって人間になれたからといって、すぐに冬樹と交際できるわけではない  
見ず知らずの女が「私はケロロだから付き合って」などと言っても、信用されないのは明白だ  
では、どうすればなるだけ不自然にならず、スムーズに親密になれるのか?  
それに関して、ケロロには考えがあった…彼女にしては結構な名案が…  
 
翌週の休日、ケロロは秋から貰った給料を握り締め、日向家の玄関に立ち尽くしている  
ずっと棒立ちのケロロに気付いた冬樹は、神妙な面持ちのケロロに声をかけた  
「どうしたの、軍曹?」  
「ふ…冬樹殿ぉ〜!!」  
すると突然冬樹の胸へと飛び込み、ワンワンと泣き出すケロロ  
いきなりの状況に面食らった冬樹だが、号泣するケロロの背中を擦って落ち着けようと努力した  
その騒ぎに秋と夏美も顔を出す  
「あらら、どうしたのケロちゃん?」  
「ボケ…ガエル?」  
「じ、実は、アンチバリヤとペコポン人スーツが故障してしまったのであります!」  
慌てふためきつつケロロは、今日が祭日キャンペーンで記念限定版ガンプラが発売される事、部下に買いに行ってもらう訳にもいかない事を仄めかした  
「それなら、また僕のリュックで一緒に行けばいいんじゃないの?」  
「ゴメンね冬樹…実はリュックサックお洗濯しちゃったの!」  
「えっ?」  
涙でグズグズのケロロは、サッと一枚の広告を冬樹に手渡した  
そこにはガンプラ●周年記念期間限定プレミアム版とかいう、興味のない冬樹には全くわからない文句とプラモデルの宣伝が並べられている  
「これ!この特別仕様アームパンチ稼動1/144ゾゴックと初立体化シャア専用ゾゴジュアッジュ!この日を逃せばオジャンなのでありますぅ〜!!」  
震える指で欲しいガンプラを指差し懇願するケロロに、夏美たちは半分呆れ顔だ  
対する冬樹は、親友が困っている姿を見過ごすような男ではなく、快く購入代行を承諾してくれた  
ついさっき秋から貰った給料を手渡し、ケロロは玄関から出発した冬樹を見送る  
「フ〜ユ〜キ〜ド〜ノ〜!頼んだでありますよ〜!!」  
一生懸命に手を振るケロロに冬樹も手を挙げて答えた  
2人の微笑ましい様子を、夏美と秋は静かに見守っている  
「ふふ、いつにも増して楽しそうね…あら、夏美」  
「なぁに、ママ?」  
「何だか最近、元気がないみたいよ?」  
図星を突かれた夏美はすぐに表情を取り繕ったが、秋の心配そうな顔は変わらない  
ママにだったらケロロの性別の話をしてもいいのでは…と夏美は一瞬だけ思った  
でもこんな話は、たとえ秋でも受け止められる事実なのかと、即座に疑問が生まれた  
またも夏美は言葉を飲み込み、足元を駆けていくケロロを見つめるのだった  
「…」  
一方、駆けていったケロロが向かったのは自分の部屋だ  
急いで部屋の鍵を閉め、手際よく戸締りを確認すると、あの薬を取り出した  
「ゲロゲロリ!これで第一段階は成功であります!」  
――ここまでくると分かるだろうが、これら一連の流れは全てケロロの仕組んだものだったのだ  
自分のアンチバリヤの電源を止め、ペコポン人スーツを全部クルルの所へメンテに出し、ちょうど開催されていたガンプラキャンペーンを利用したのである  
お出かけ用リュックサックを洗濯に出し、ギロロ達に手出しされないように仕事を配分するなど、常時のケロロからは考えられない程の完璧な用意周到さだ  
あとは擬人化して街中で偶然を装い出会えれば、スタートダッシュはコンプリートだった  
「んっ!んっ、ん………ッ!!!」  
変身も2度目となると、最初ほどの衝撃は感じなかった  
痛いのはしょうがないけど、これも冬樹を思えばこそだ  
以前と同じ具現化プロセスを歩み、以前の緑髪とヘソ出し軍服へと姿が変わっていく  
今度は気を失う事もなく、きちんと起立したまま変身する事ができた  
心配性なケロロは鏡でちゃんと変身できたか確認すると、一目散に特設した裏口を使って日向家から抜け出す  
こうして、意気揚々とプラモ屋へ先回りするケロロは、ここまで冬樹との初接触計画は完璧だった――と思っていた  
だが彼女は気付いていなかった…自分の後を尾行する、日向夏美のことを  
 
「…それで、冬樹君はどこなんですか、ポール?」  
『ハッ!冬樹殿は現在、某ホビーショップへと向かっております』  
「ホビー…ガンプラ?って事はコブつきかよ!」  
街中で酔っ払い中年のようなガラの悪い声が響いた  
しかしその発信源にいたのは1人のお嬢様…西澤桃華だ  
常日頃から冬樹と接触することに血眼になっている桃華は、今日はタママと一緒に町へ出てきていた  
ポールの報告内容によると、冬樹はガンプラを買いに出歩いてるようだ  
「わーい!軍曹さんに会えるですぅ!」  
「仕方ないですわ…タマちゃん、私が冬樹君と会ったらケロちゃんを引き離してくれませんこと?」  
「了解ですぅ!」  
利害の一致で手を組んだ二人は、さっそく冬樹(とケロロ)を探して歩き回った  
親衛隊のヘリで目的地へ行く事も可能だが、今回はあくまで"さりげなく"接触することが目標であり、表立った大きな行動はできなかった  
「そういえばモモッチ、今日は軍曹さんが待ちに待ってたガンプラのキャンペーンか何かがあるって言ってたですぅ」  
「ということは、目的地はキャンペーンを取り扱っているお店…おおかたの場所は絞り込めそうですわね」  
タママも何度かケロロと一緒にガンプラを買い求めて街を歩いた経験があったので、桃華にしてみても心強い味方だ  
だが、2人はいくつかのショップを歩いて回っても、冬樹らの姿を見つけることはできなかった  
次第に焦りの色を伺わせはじめた両人であるが、焦るあまりに通行人にぶつかってしまった  
「!」  
「きゃ!あ…すいません」  
「おぉ、これはタママ二等に桃華ど――オオっと!!」  
「へっ?」  
どこかで聞いた音域の声に気付いた桃華は、そこに自分より頭1つ高い緑髪の女性を見た  
もちろんそれはケロロで、つい条件反射で2人の名を漏らしてしまうところだった  
「(マズいであります…タママには別命あるまで自宅待機と言っておいたのに、桃華殿のことを忘れていたであります!)」  
桃華が冬樹のことを慕っているのはケロロも周知の事実であるが、ここまで恋敵ともいえるこの少女の存在を無視していたわけではない  
冬樹に告白をしたり接近しようとするとき、桃華は決まって最期の一歩がいいように邪魔されてしまう事が偶発的に多発していた  
それでケロロも自然に安心していたが、今の自分は桃華と同じ土俵に陣取っている…これは今までと全く違う状況だ  
ケロロは桃華が冬樹を探している事を察した…それは計画を頓挫するのを防ぐべく、先に冬樹を見つけなければならない事を同時に示唆していた  
「(ここは桃華殿にも悪いけど、ちょっとだけ離れさせてもらうでありますかな…)」  
「…」  
片や、桃華は初対面であるはずの女性に、とても不思議な感覚を受けていた  
正体がケロロだと知らずとも、やはり何か感じるものがあるのだろうか  
同じようにタママも不思議そうな顔でケロロを見つめている  
「えっと――ま、前を見て歩かないと危ないでありま…危ないですよ?」  
「ハイ、ごめんなさい…」  
「モモッチ、先を急ぐですぅ」  
先行を促された桃華は、ケロロに軽く会釈をすると歩きはじめた  
自分から桃華が遠ざかったのを見計らい、同時にケロロはあさっての方向へと走る  
冬樹がいる場所とは全く正反対の商店街入り口に辿り着くと、ケロロは大声で桃華たちへ向かって叫んだ  
「冬樹殿ぉ〜!早くしないとガンプラ売り切れちゃうでありますよぉ〜!!」  
「軍曹さん?!」  
コンマ1秒もかからず、光の速さで一足お先にタママが桃華を引きずって飛んで来た  
人ごみにまぎれて隠れたケロロの横を、ドタバタと2人は走り去っていく  
「ゴラァタマ公!!こっちは違うだろがぁ!!」  
「軍曹さんの声がしたです!僕が軍曹さんのあま〜いキューティーヴォイスを聞き間違うはずがないですぅ!!」  
そんな血眼の2人に、ケロロは申し訳無さそうにそっと敬礼をするのだった  
 
その頃冬樹は、ケロロが指定した小さなショップに来ていた  
入荷数自体が少なく、何年も前から熱烈なマニアが所望していた品とあって、こんな場末の小さな店にも行列ができている  
ふと、店の中を覗いてみると、みるみるうちに商品が無くなっていくではないか  
様子を見た冬樹は、慌てて列に加わった  
「まだ在庫はあるみたいだけど、大丈夫かな?」  
ケロロから渡された広告には、ケロロがほしがっていたもの意外にもいくつか魅力的なラインナップが並んでいた  
初の公式立体化となるシャア専用アッガイ、限定復刻となった旧金型成型版RX78ガンダムなど、素人の冬樹にしてみれば何がなにやらさっぱりだ  
しかし、一緒に並んでいる人々から発せられる熱気はただ事ではなく、正直バンビーは居辛い環境である  
行列はそんなに長くないが店が狭いので流れは遅く、最後尾の冬樹は時間を持て余し、携帯でもいじくって時間を潰していた  
「……わっ!?」  
ところが、不意を突かれる形で冬樹の後頭部に何か柔らかいものが押し当てられた  
驚いて振り返ると、それが豊満な胸と知って冬樹は赤面する  
その押し当ててしまった背後の女性は、ついさっき桃華を撹乱して無事に到着したケロロだった  
彼女は冬樹を見つけ、急いで後に回ろうとしてバランスを崩してしまったのだ  
本当は後からさりげなく話しかける予定だったが、結果的に不自然でない話のきっかけができた  
「あっ、すまなんだでありま…じゃなくて、ごめんね?」  
「は…はい」  
たわわな胸を押し付けられておいて、いくら鈍感な冬樹でも動揺しないはずがない  
頭に当たった柔らかな感触に、彼の動悸も加速する  
そこを刺激するように、ケロロはワザと"年上のお姉さん"らしく艶っぽい口調で話した  
「今度の発売は限定だから、ちょっと我輩も焦っていたのよ」  
「我輩…?」  
「あ〜…イヤイヤ!ただの口癖であります」  
「あります…?」  
「ぐぐっ!!」  
ケロロ自身も緊張しているのか、いきなり初対面からボロ出しまくりである  
だが冬樹はミスター鈍感、そんなことでは気付かない  
さらに服装が軍服っぽい格好だったこともあり、不自然な口調も冬樹は納得していた  
「実は、僕の友達も同じ口癖なんです」  
「そうなんで、ありますか…」  
なんとかバレなかったので、ケロロは大きい溜息を吐く――第二段階の初接触はこれで成功だ  
あとはそこから親密になれば今日の目的は完遂されるので、ケロロは積極的に冬樹にコンタクトを取る  
「僕、名前はなんていうでありますか?」  
「日向冬樹です…お姉さんは?」  
「え…えっと、我輩は…」  
言葉に詰まったケロロは、ここで自分が詐称する偽名を用意してこなかった事に気付いた  
やっぱりこういうとこで抜けているとこがケロロらしいが、切羽詰っているので冗談では済まされない  
苦し紛れに、ケロロは頭に浮かんだ名前を構わず出した  
「民子…枠辺 民子であります」  
この名前は渡辺久美子のアナグラムだが、それにしてもダサい偽名だ  
若干苦しい気もするが、咄嗟のケロロにしてはこれが精一杯と思われる  
だが冬樹はミスター鈍感、そんなことでは気付かない  
次の瞬間には何の疑いも無く、彼女の名を呼んでいた  
「(ふ、冬樹殿がニブくてよかったぁ…)」  
 
苦しい名乗りをケロロがしてから10分ほどした頃、周囲の状況が変化しはじめた  
行列は前の人らが少なくなり、逆に後の人たちは早々と帰っていくのだ  
もう商品が残り少なく、手に入らないとして潔く見限ったのだろう  
ケロロたちも店内を見てみると、みるみるうちに詰みプラが消えていく  
「…もう残り少ないですね」  
「ぐぐぐ、我輩の目当てであるゾゴックとゾゴジュアッジュが無くなっては大変であります!」  
「あれ?民子さんは僕と同じのを買いにきてるんですね」  
「ま、まあそんなカンジであります…」  
ついポロリと本音が出てしまったケロロ…一体今までいくつ墓穴を掘ったことか  
しばらくすると、ようやく2人が入店できる番となった  
「お2人さん、もうこれしか残っとりゃせんよ」  
奥から店主と思われるお爺さんが顔を出した  
既に入手したい商品がないと悟った人々は去り、店に残っているのは冬樹とケロロだけだ  
残っているガンプラは2つしかないが、なんとそれはゾゴックとゾゴジュアッジュだった  
2人がほしいのもゾゴックとゾゴジュアッジュ…これは気まずい状況である  
あくまで冬樹との接触が目的だったので、ケロロは自分から購入する意思は無かったが…  
ケロロは大人しく引き下がり、今日はここまでで切り上げようとした  
「え〜…じゃあ冬樹ど」  
「――いいですよ、民子さん」  
「ゲロ?」  
が、先に持ちかけてきたのは冬樹のほうだった  
次々に降りかかる想定外の事態に焦燥していたケロロは、思わず焦った口調で冬樹をまくし立てた  
「そっ、それはダメであります!冬樹くんには、それを心待ちにしている友達がいるんでありましょうに!」  
「うん…でも、これは民子さんに譲らなきゃいけない――そんな気がするんです」  
さっきの桃華もそうだったが、やはり見た目は変わってもケロロはケロロだと自然に分かるのだろうか?  
一方のケロロも、そこまで冬樹が言うのならと、結局は自分の財布から金を取り出すこととなった  
誤算とはいえ、いたたまれない気持ちになったケロロは、自分に譲ってくれた冬樹に頭を下げる  
「えっと…すまなんだであります、冬樹殿」  
「ううん、軍曹もきっと納得してくれると思いますし」  
「軍曹?」  
「あ、いえ…」  
ケロロに続き、今度は冬樹が言葉を誤った  
まるでケロロそっくりな女性を前にして、冬樹もまたケロロと会話していると錯覚してしまったようだ  
自分と同じように自らの失言に焦る冬樹を見て、ケロロは何だか少し安心した気がしたという  
 
店頭にいた冬樹とケロロは、そのまま成り行きで近場のカフェへと足を運んだ  
あの場で別れても良かったが、日頃冬樹にくっついて外出している事で、自然に同一の行動を取ってしまったらしい  
しかし今度は気まずくはならないで、普通に会話を楽しむことができそうだ  
冬樹も初対面の女性を相手にしている気にならないので、ケロロにとっても好都合である  
思わぬ誤算が積み重なり、ケロロと冬樹の初デート?は和やかに進む  
「ふ〜ん、そんなことがあったでありますか」  
「はい、それでその時姉ちゃんが…」  
一方、その2人の微笑ましい光景を鋭い視線で見つめている影があった  
その影はケロロが出かけたときからずっと背後に付き従い、今もこうして監視を続けている  
もちろんそれは、気になって尾行をしていた日向夏美だ  
今までこっそりと一部始終を見ていた夏美は、ケロロの目的を大体理解していた  
「(ボケガエルにしては考えたみたいだけど…でも、納得いかないわよ)」  
夏美はとにかく、この2人の邂逅を今すぐにでも止めたい気持ちにあった  
だが、ここで突然出ていくのは不自然すぎるし、手を拱いている訳にもいかず、歯痒い気分で2人の様子を見つめている  
でも、こうしていても埒が明かないのも事実…思い切って夏美は、2人の間に割って入った  
「冬樹!」  
気の立った声を聞き、冬樹は姉の姿を見つけた  
ケロロは予想外な夏美の登場に冷や汗を流したが、擬人化しているので正体はバレていない筈だと、心を落ち着かせる  
「帰りが遅いから来てみたら…さ、帰るわよ」  
ピリピリした雰囲気の姉に違和感を感じつつも、冬樹は夏美に大人しく手を引かれて帰っていく  
まだそんなに遅い時間じゃないのに…と思ったケロロであるが、ここは無難に口出ししないでおこうと引き下がった  
すると、冬樹を引っ張っていた夏美が踵をかえし、ケロロのほうへと来た  
ギョッとしたケロロに、夏美は睨みをきかせる  
「"あなたが誰だか知らないけれど"…冬樹には二度と近づかないで頂戴」  
「ゲ…りょ、了解したであります」  
言いしれぬ威圧感に気圧され、思わず敬礼ポーズでケロロは返答する  
―別人のふりをして冬樹を誑しこもうとしているのは明白だ  
―絶対にこんな事を許してたまるか  
夏美の頭の中には、こんな思いが渦巻いていた  
 
…不本意に打ち切られた蜜月に、釈然としないままケロロは帰路についていた  
手には不本意に買ってしまったガンプラのいくつかと、不本意に使ってしまって軽くなった財布が残っている  
途中までは良い展開だったのに、あそこで夏美殿が出てこなければ…しかし、今更悔いていても仕方が無い  
冬樹たちより先に日向家に帰っておかないと不味いので、ケロロは足早に家路を急いだ  
裏口を介して自分の部屋に戻ると、ケロロは早く元に戻るために薬を取り出そうとした  
「えっと〜、一錠飲んで元に…………ん?」  
ところが、慌てて薬を口に運ぼうとその瞬間、ケロロの身体に異変が生じた  
体中から湯気のようなものが立ち上り、どんどん力が抜けていく…  
「あ……え…?こ、これってまさか、伊藤潤●のアレでありますか!!?」  
しかし、立ち上る湯気は伊藤潤●のアレとは違い、死臭でもなんでもない無臭のものだ  
実は、既に薬のタイムリミットである5時間が経過していたのである  
これは空気中へと装飾が帰し、急激な細胞の変化に伴ったもので、別に異常でもなんでもなかった  
以前薬を使って戻ったときは半強制的な作用だったのでああなったまでで、実際はこれが当然の反応であったのだ  
元に戻っていく身体の様子に、ケロロもようやくそれに気が付いたらしい  
「そういえば、元に戻る事をすっかり忘れてたであります…イヤハヤ」  
焦った自分が馬鹿馬鹿しく、自嘲しながらケロロは元に戻っていくのを静かに待った  
「―――冬樹、いつも言ってるでしょ?知らない人に付いてっちゃいけないって」  
「でも…」  
同じ頃、帰宅した冬樹と夏美は、未だに今日のことで話を続けていた  
頑なに擬人化したケロロを遠ざけようとしている夏美とは対照的に、特に悪い印象を抱かなかった冬樹は反論をし、話は平行線を辿っている  
冬樹は別に擬人化したケロロに固執していたわけではなかったが、あまりにも夏美が捲くし立てるので引くに引き下がれなくなっていた  
「とにかく、あの人は姉ちゃんが思っているような悪い人じゃなかったし…」  
「ただでさえボケガエル関係だけでも面倒ごとが多いのに、これ以上あたしの悩みの種を増やさないで!もう……」  
応酬に痺れを切らし、夏美は肩を落としてどこかへと向かった  
冬樹も柄になく口論してしまったせいか、疲れた様子でリビングのソファーへと腰を沈めた  
「はぁ…」  
「どうした?」  
元気の無い様子の冬樹に、庭からギロロが声をかけてきた  
彼はケロロに『基地内の武器全部メンテしといてくんない?』と無理難題を押し付けられ、一日中武器の整備をしていて、今ちょうど終わったところだった  
これは前述したとおり、自分の行動を気付かれないようにケロロが仕向けたものである  
ちなみにタママには賞味期限が近い大量のお菓子を処理する事、クルルには基地設備の全点検を命じていた(ドロロは忘れていたので命令は無し)  
そんなギロロに対し、冬樹は今日あったことのあらましを話して、大きく溜息をついた  
「ふむ…夏美がそんなに取り乱すなど、変だな」  
「たまに姉ちゃんとケンカすることもあるけど、今日の姉ちゃんはどこかおかしかったんだ…」  
「…よし」  
一通り話を聞いたギロロは、夏美にも何があったのか事情を聞くため、彼女の部屋へと向かった  
 
ギロロが夏美を追って部屋へと向かった頃、当の本人はお風呂場に居た  
熱い湯に浸かり、夏美は悶々としているようである  
それもそうだ…擬人化したケロロが冬樹に近づいて親密になろうとしたり、冬樹もそれを悪くないと思っている事を知ってしまったのだから  
「…」  
許せない  
許せない  
許せない  
衝撃の事実と幾多の秘密を背負い込んで、今や夏美は疑心暗鬼な状態になりかけていた  
誰を信じ、誰を頼ればいいのか…否、我の強い夏美が、自分だけが知る秘密について、他人に相談を持ちかけるなどという考えは無いはずだ  
現に今までも秋などに切り出そうとしていたが、全部飲み込んで自分の重荷としていた  
「…」  
いくらでも吹き出てしまう、忌々しい感情  
決して気持ちの良いものではないそれを相殺するため、夏美はそっと手を素股の間へと潜り込ませた  
「…っ」  
以前ケロロがしていた自慰行為を目撃してから、夏美は気晴らしとしてこの行為をし始めていた  
性的な知識に関して無知ではなかった夏美であるが、こうまで自慰にのめりこんだのは初めての事だった  
一時の大きな快楽に身を置けば、嫌な事はその場だけでも忘れる事ができるので、自然と肉欲を欲したのだろう  
「っは…は……」  
湯の暖かさが生々しく膣口を辿る  
夏美はいったん湯船から上がると、タイル敷きの冷たい床へと身体を投げ出した  
熱されたお湯とは正反対の冷たく硬い感覚に、のぼせた身体はますます興奮していく  
外に聞こえない程度で、夏美は妖艶に身体をくねらせ、快感に自分を預けた  
「ん!んんっ…ッ……ぁ…はッ」  
肉壁を抉るたびに心地良い刺激が身体を伝い、思考をぼやかせて肉体を痺れさせる  
両手で股間を弄っていた夏美は、これだけでは物足りないのか片手を離し、自らの乳房に持って行かせた  
中学生とは思えない豊満な弾力へ、少々乱暴な勢いで愛撫していく夏美  
その秘所からは止め処も無くぬるい粘液が滴り落ち、体は甘い麻痺で程よく蕩けていた  
「ふぅっ、う…んぁあッ!!」  
勢いに任せて処女膜の寸前まで指を挿入し、思わず大きい嬌声が出てしまったので、夏美はハッとした  
自分がケロロの情事を目撃したように、自分の痴態を余人に知られたら話にならない  
誰かに気付かれやしないかと危惧した夏美だが、特に人の気配は感じられず、取り敢えずは大丈夫のようである  
…が  
「――――夏美?」  
夏美を探して彼女の部屋の前まで来ていたギロロが、この時微かな声を聞き取っていたのだ  
ギロロは声のした方を辿り、二階から降りようとしていた  
 
「…いるのか、夏美」  
軍人として鍛え抜かれたギロロの聴覚が夏美の居場所を特定したが、そこはバスルームだった  
流石に風呂を覗くわけにもいなかいので、ギロロはドア越しに夏美の存在を確認しようとする  
一応、微かにだが夏美のいる気配と、シャワーが流れる音が聞こえる  
「お……俺はただ、夏美に今日何があったかと聞くだけだ!断じてやましい想いなど無い!!」  
1人で言い訳を吐き、緊張と興奮で顔を真っ赤にしながら、ギロロはドアにそっと手をかける  
ドア越しから話し掛けても浴槽までは聞こえないので、足を踏み入れるのは仕方の無い事だ…と、さらにもう一度ギロロは1人で言い訳を吐いてドアを開いた  
香るシャンプーの良い匂い、その場に脱ぎ捨てられた夏美の衣類…ギロロにとってはそれだけで倒錯しそうなほどのシチュエーションがそこにあった  
「なっ、夏美……そ、そ、そこにいるんだろう??」  
もはや心配だから話を聞くという当初の目的を見失っているような取り乱し気味のギロロ  
ここで本来なら「なんでこんなとこまで来るのよ!」と怒鳴られて放り出されるのがパターンだ  
だが、どういうわけか返事は返ってこない  
疲れて湯船で寝てしまっているのかと思ったが、中に入るわけには…  
どうすればいいか困り果てたギロロは、もう一度耳を澄ましてみることにした  
「…ん……う、ぅ…」  
「…夏美?」  
「はぁ…はぁ……っ」  
「夏美!?」  
ハードボイルド夏美ラヴなギロロは、彼女の苦しそうな喘ぎを聞き、四の五の言わずに浴槽の扉を開いた  
まさか本当に溺れて…?  
「夏美!大丈夫か!?」  
…そこでギロロが見たのは、床に倒れて息を荒げている夏美の姿だった  
一瞬、夏美の裸体が眩し過ぎて失神しそうになりながらも、ギロロは洗面台からバスタオルを持って夏美の側へ向かった  
「んん…」  
「夏美、しっかりしろ!」  
とろんとした夏美の眼…案の定、額に手を当ててみるとホカホカに暖まっている  
どうやら、長湯がたたってのぼせてしまったらしい  
いったん夏美を外に出すため、ギロロは夏美にもう一度呼びかけた  
「まったく…俺がいなかったら風邪をひくぐらいじゃすまないぞ!」  
「…ぎろ、ろ?」  
「すまん…お前の苦しそうな声を聞いたら………ッ!?」  
ギロロは手を添え、夏美を助け起こそうとした  
しかし次の瞬間、夏美は突然ギロロを取り押さえ、床へと押し付けてしまったのだ  
あまりの急展開に目を白黒させているギロロを尻目に、のぼせた夏美が迫る  
「なッ…??え…?」  
「ねぇギロロ………あんた、オトコでしょ?」  
「は…夏美??」  
「もしかしたらボケガエルだけじゃないかもしんないし…あんたもちょっと見せなさいよ…」  
「うわっ!?」  
 
「ふ〜ん…ココみたいね、アンタの」  
夏美がギロロの股間付近を探ると、薄いスリットがあるのを見つけた  
そこはケロン人の生殖器がある部位で、雄の場合は陰茎が収納され、雌の場合は更に奥に膣が存在している  
割目へと指を強引にねじ込み、夏美はギロロの性器を探った  
「ぐッ…………ぁ……あぁっ!!」  
状況が飲み込めぬまま夏美を受け入れ、ギロロは思わず弓なりに仰け反った  
「ふぅん…ギロロにこれがあるってコトは……ふふ、ギロロはオトコなんだ♪」  
「よせ!夏美、やめ…ぐあぁッ!!」  
無理矢理体外に性器を引きずり出され、苦悶の表情をギロロは浮かべた  
顔を出した陰茎はもう限界まで張り詰めていて、今にも暴発しそうなほど猛っている  
ちょうど人間の指より一回りぐらい大きいそれを見て、夏美は自分も自慰行為を再開していた  
「んひゃあっ!!ぎ、ギロロもしようよぉ…これ、いいの…ぅあぁッ!!!」  
「ハァ…ハァ………っ…夏美……のぼせて、己を見失っているのか…?」  
ギロロが察した通り、今の夏美は自分でも何をしているのかも分からない、前後不覚の状態だった  
ケロロに対する不安や猜疑心、それを紛らわせようとして行った自慰による快感、加えて長湯による湯当たり…  
これらの要員が重なり、夏美は理性をことごとく削ぎ落とされていたのだ  
「んッ!んんッ!!くっ、ああああっ!!」  
その一方で、夏美はギロロに見られている事も忘れ、必死に己を貪っていた  
赤い髪を振り乱して嬌声を発し、腿を濡らす愛液はタイル目に沿って流れていく  
充血し勃起した乳首をぐにぐにと抓り、全身は電流が流れたかのようにがくがくと震える  
もうすぐ絶頂が近いようで、涎や涙を垂れ流しても意に介さず、夏美は黙々と行為を続けていた  
「ナツ…ミ」  
ギロロもまた、今まで一度も見たことの無い夏美の乱れた姿を前に、ただ呆然としているしかない  
触れずとも達しそうな雄を抱え、ギロロはひとまずここから抜け出そうと思案していた  
さっき夏美が言っていた「ケロロだけじゃない」「あんたも男?」という言葉から、夏美の様子がおかしいのはケロロに原因があると睨んだのだ  
これは一体どういう事なのか、行って事情を問いただそうと、ギロロは笑う膝を抱えて立ち上がった  
「ひぁ…あ、あぁッ!!」  
その側で、相変わらず夏美は甘露なる刺激に没頭していた  
身体に付いていた湯は全て乾き、代わって彼女の肉体には玉の様な汗が伝っている  
肉豆を震える手で弄い、痺れが限界を越え、頭の中で何かが弾け跳んだ感覚と同時に、夏美は全身を強張らせた  
「ひッ!い…い゛ぎぃいぃぃぃいいいいいいいいッッッ!!!!!」  
呼吸さえ忘れそうになる絶頂の刹那…肉襞からは勢いよく潮が噴き出し、バスルームは一時の静寂に包まれた  
糸が切れた人形のようにかくりと力が抜けた夏美は、時間の経過と共に次第に冷静さを取り戻しつつあった  
 
ギロロは、あのペコポン人有数のソルジャーであり、それ以上に自分の恋焦がれる存在である夏美の、あの痴情が信じられずにいた  
あそこまで夏美が倒錯してしまうとは、余程の事があったに違いない  
怒りにも似た感情を湛えつつ、ギロロはケロロの部屋へと向かっている  
確か、さっきタママが遊びに来ていたようだが…  
「ケロロ…貴様、夏美に何を……何を……」  
ケロロの部屋の前まで辿り着いたギロロは、ぎろりとその扉を仰々しい形相で睨むと、そのノブに手を掛けるのだった  
 
 
 
 
【to be Continued】  
(薬の数…残り5錠)  
 

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