「な…」
『な…』
「『なんじゃこりゃ〜〜〜〜!!?』」
早朝の西澤家に、桃華の悲鳴が響き渡った
非常事態を察知して、さっそくポールやタママ、親衛隊が彼女の寝室へと駆けつけた
「モモッチ、どうしたんですかぁ?」
「お嬢様!」
彼らは桃華の寝室のドアを開け放って、ベッドに横たわっている桃華の姿を確認した
ポールが皆を代表して近寄り、桃華の安否を確認する…
「どうなさったのでございますか、桃華お嬢様?」
「ん…んん…」
「モモッチ、起きるですぅ!」
ぽん、とタママが桃華の肩を叩いた
すると、
「どりゃぁあ!!」
「タマ-----------!!?」
桃華の裏拳が、見事にタママの鳩尾にめり込み、タママはそのまま天井に向かって吹き飛ばされた
「ハッ!?」
「も…モモッチ酷いですぅ…グヘァ」
「お嬢様、落ち着いて下さい!」
ポールが慌てて桃華の体を揺さぶった
「ぽ、ポール…俺は一体…今何をやったんだ?」
「俺?」
日向家地下・ケロン軍秘密基地
「…つまり、ある日突然、裏と表の桃華殿が入れ替わってしまった…ということでありますか」
「そうなんですぅ」
その日、ケロロはタママから相談を持ちかけられていた
今日の早朝、桃華の悲鳴が聞こえたと思ったら、気付いてみると裏桃華が表面化し、表が裏になって
しまったというのだ
非常にヘンテコな事態に、ケロロ小隊は全員集結して、策を講じてはいるのだが
「どうにか元に戻す方法はないんですかねぇ…?」
「ウウム…何かしらきっかけさえあれば解決の糸口が見つかるようなものの、これでは手の施しよう
がないであります」
「ところで、今その当の本人はどこにいるんだ?」
「ギロロ先輩…モモッチは学校があるから、今は授業中です」
「イロイロ面白い事になってんじゃねェか…ククククク」
まったくもって議論は進展する気配を見せていなかった
『I like doth』
なお、蛇足であるが、この会合の場にはドロロもいる
「ではこの問題、西澤さん」
「は、はい…(わかるかっつーの、そんなわけわかんねー記号…)」
『ここはx=120°ですわ』
「わ、わかってるから黙ってろよ!」
「に、西澤さん??」
一方、こちらは学校
裏と表が入れ替われど、中学生である桃華は登校しなければならない
いつもと違うと騒ぎになると思い、裏・桃華は表の桃華のフリを続けている
しかし、妙なところが鋭い冬樹は、既に異変に気がつき始めていた
「西澤さん…今日、何か変だよ?」
「そ、そんなことねぇぜ…じゃなかった、ないでございますですわ、冬樹…くん」
「…そう?」
裏・桃華の性格が強いせいか、表の桃華が表面に出にくく裏・桃華も困っていた
そういうわけで、裏・桃華は文字通りの自問自答を繰り返している
「(遠慮しないで出てこいよ…じゃなきゃコッチが大変なんだよ!いろいろと!)」
『…』
「(どうしたんだよ?)」
『…もしかしたら、これはチャンスかも知れません』
「(え?)」
『思えばいつも、表の私は引っ込み思案で、冬樹君に告白しようとしてもできない事が何度もありま
した…』
「(な、なんだよ急に…)」
『以前、私とあなたが分裂してしまった事がありましたけど…今はあなたが主導権を握ってますわ』
「(まあな…)」
『だからこそお願いしたいんです…私のかわりに、冬樹君に告白してくれませんか…』
「(お、おいおい!)」
『わかっています!こんなコトじゃいけないってわかっています!』
「(い…言いたい事は大体ワカるけどな、俺もお前も本質は同じだし、どっちにしろ俺もお前と同じ
ように…告白できねぇかもしれないんだぜ?)」
『…』
「(…ちっ、まぁ何とかしてみるからよ、今日はずっと頭んなかで寝ていろ…わかったな?)」
『…ありがとうございます』
その日はオカルトクラブがある日だった
誰もいない理科室で二人っきり…眉唾もののシチュエーションである
放課後なら先生が来る事も滅多にないので、立地条件は完璧だった
ただ、桃華は告白する度胸が無くて、むしろ冬樹と2人きりの空間にいられるというだけで至福を
堪能していた
だけど、今の桃華は裏・桃華
かつて何度も告白しようとした時、自分は裏であるため桃華を急かすような言動をとってはいたが、
今は逆だ
…しかし冬樹は今、自分が裏・桃華だという事を知らない
裏・桃華はできるだけその粗暴な態度を潜め、なるだけ表のふりをして振る舞わなければならない
もし変な事をして冬樹に幻滅されてしまったら、元も子もないからだ
----だが、それでは何かおかしい
確かに私は桃華だ…裏の人格だとしてもそれは紛れのない事実だ
表の幸せは即ち裏の幸せに繋がるが、私たち裏と表の関係は少々複雑でもある
絶対に生じてはならない独占欲が芽生えた時、私たち二つの人格はどうなってしまうのか
私たちは…
「西澤さん?」
「ふぇッ!?」
「こんなところで寝てちゃ風邪をひいちゃうよ」
桃華は辺りを見回す
冷たいリノリウムの床、隅に置かれたビーカーや試験管、黒板には冬樹が書いたUMAの考察論が
ビッシリと書かれている
「(理科室だ…俺は居眠りをしていたのか?)」
「ごめんね、ちょっと自分の世界に入り過ぎちゃって…僕の話、難しかったでしょ?」
「そ、そんなことねぇよ…じゃなかった、ないでありませんことよ!」
「それならよかった。じゃあもうそろそろ時間だから、今日はこの辺りで終わろうか」
「えっ!」
桃華は焦った
今しかいいタイミングはないというのに、ここで告白しなければ表に申し訳が立たない
「ふっ、冬樹!……くん」
「なぁに?」
「あぅっ…」
咄嗟に呼び止めたが、すぐに言葉が詰まって続かなかった
「その…あのな……」
「?」
今までずっと表が体験してきた告白直前の緊張感を、桃華は実感していた
動悸が速くなり、体は震え、思わず逃げ出したくなる衝動
心のどこかで、こんなものは屁でもないと思っていた桃華だが、今はその重圧に押しつぶされそうだ
「(やっぱり…俺なんかじゃダメだ……)」
「西澤さん、大丈夫?」
冬樹が気遣いの言葉をかけた
その時だった
「フ〜ユ〜キ〜ド〜ノ〜!」
「軍曹!」
「な゛ッ!!?」
桃華にとって、最も邪魔な合いの手が介入した
「いやぁ、帰りが遅いから心配して見に来たであります!」
「丁度いいや!西澤さん、軍曹と一緒に帰ろう!」
「あ……あぁ……」
こちらも表が何度と無く体験してきた王道パターンだった
怒りを通り越して真っ白になって固まる桃華…哀れと言えば哀れである
ケロロは円盤に乗って踵を返そうとUターンした
「軍曹さん!ダメですよぉ!」
「アレ?タママどったの?」
するとケロロの眼前に、手には妙な袋を携えてタママが次元ワープで姿を現した
「今度はタママまで…なにかあったの?」
「あ、フッキーこれあげるですぅ」
「これは?」
タママは袋からあるものを冬樹に手渡した
包み紙を解くと、中からハート形のキャンディーが出てきた
「ケロン星から今日届いた、おいし〜キャンディーですぅ!」
「ね、タママ…ワガハイのは?」
「もちろん持ってきたですぅ」
タママが唐突に持ってきた飴玉で、場は賑やかになった
しかし、桃華だけは別だった
「(俺も…弱いな……惚れた弱みっちゃあ言うけどよぉ…)」
「西澤さんの分は?」
「え?」
自分の名前を呼ばれ、桃華は復活した
タママは冬樹に聞かれ、このキャンディーの食べ方を教えた
「1人で食べるには大きいから、このハートの中心に力を入れると、パキっと折れてはんぶんこに
なるんですぅ」
「あ、ほんとだ」
「それじゃあ軍曹さん、僕たちは帰ってから食べましょうね」
「ちょ…タママ待つでありまーす!!」
そう言ってタママは飴玉を餌に、軍曹と共に2人だけで帰路についていった
その去り際に、タママは桃華にこっそりウィンクをしていった
(モモッチもこれで大丈夫ですぅ。なぜならこのキャンディーは…)
桃華は冬樹からキャンディーの片割れを受け取った
「はい、西澤さん」
「(ふ、冬樹君と同じ飴を半分づつ…タママあんにゃろぉ、小粋なマネしてくれるじゃねえか…)」
タママの厚意に感謝しつつ、裏・桃華は飴を口に含んだ
一方、こちらはケロロの部屋でケロタマ両人
「軍曹さん、あ〜ん♪」
「なんだかハズいでありますなぁ…では、あ〜ん♪」
ケロロはタママの、タママはケロロの口へキャンディーをぽいっと放り込んだ
「甘ぁーい!!」
「スピー●ワゴンみたいですね、軍曹さん」
「つーかマジでこれ甘いんだケド?」
ふふ、とタママの目が鈍く光った
「…ゴメンなさい軍曹さん、じつはそれは宇宙イチゴ味で味付けされてますけど、ホントはキャン
ディーじゃないんですぅ」
「へ…何?」
「うふふふ…それはえっちな気分になるお薬なんですよぉ…」
「ふーん
…
えええええええええええええええええええええええええええッッッッッ!!!!!」
タママはむくりと立ち上がると、ケロロに一歩一歩近づく
逃げようと四つんばいになって脱出しようとするケロロだが、すでに足腰の自由がきかず、タママに
捕まってしまった
「僕の愛を受け取って下さい…ぐんそぉさぁぁぁん♪♪♪」
「キィーーーーヤァーーーーーー!!!!」
そして桃華の方でも、異変は起きていた
「西澤さん、どうしたの?!」
「ふゆ…き…」
この媚薬は元々ケロン人用のものであり、人間が服用するとどうなるものか、解らない代物である
裏・桃華の強靱な精神力を持ってしても、体の奥から火照ってくる奇妙な快感には勝てなかった
どうやら冬樹にはまだ自覚症状は現れてはいないようだ
「(タママあんにゃろぉ、生意気なマネしてくれるじゃねえか…)」
「まってて!今先生連れてくるから…」
「ダメだ!!」
「で、でも…」
「俺は…大丈夫だッ……うくっ!」
まるで熱湯を貯えているかのように熱く疼く胎内を押さえ、よろめきながら桃華は立ち上がった
「無理しちゃ駄目だよ西澤さん!それじゃあ表の人格にも影響が出ちゃうよ!」
え?
「ふ、冬樹君…今なんて?」
「今の西澤さんは裏の西澤さんなんでしょ?朝からずっと様子が変だったから気になってたんだ」
「(バレてたーーーーー!!!)」
これでは自分だけ表のフリをしていたのが馬鹿みたいだ
桃華は顔を手で覆い、冬樹に背を向ける
今、耳まで真っ赤に赤面している自分の顔を見られたくなかった
「しっ、知ってたのかよ〜!」
「ごめん、なかなか言い出せなくて…こういう事って珍しいから、どうしたのかなと思っ…」
そう言いかけて、冬樹が倒れた
「おっ…冬樹君!」
「あ…あれ…?」
体の自由がきかないらしく、桃華に助けおこされた
冬樹の症状は桃華よりも極端で、彼も息がどんどん荒くなり始めた
「にっ、西澤さん…これって一体?」
「俺もだよ…タママの奴からもらったキャンディー食べたら…食べたら体がおかしくなってよぉ…」
「どうしたんだろう…軍曹」
「とにかくまずは…俺の家に……来いよ」
「ご、ごめん…」
歩くこともままならない冬樹を起こし、桃華は歩き出そうとするが、あることに気づいて大変驚いた
「うわっ!ふ…冬樹君、それ…」
「え…?」
それは、厚手の学生ズボンの上からでも判るほどに元気になった、冬樹の雄だった
冬樹は驚いて桃華の手を振り解いた
「わぁっ!?西澤さん…これ……み、見ないで!」
「お…おう」
桃華も冬樹に背を向け、あわてて座り込んだ
これはいったいどういうことなのだろうか
考えられるのはタママがくれたあの怪しいキャンディーのみ…
そうやって考えをめぐらせる裏・桃華は、あれが媚薬であったのではないかと疑った
「く…そういうことなら話は分かる……け、けどよぉ……」
冬樹のナニを見た後とあって、自分の体も火照りに火照っている
体がわずかに震え、スカートの下の下着も濡れ切っている事だって分かった
ということは、冬樹も今は同じ状況だ…ということは……
桃華はポールを呼んで、極秘裏に学校裏口からこっそり下校した
そして、着いた先はもちろん西澤邸だ
とりあえずマトモに歩けない冬樹を自室のベッドに寝かせ、桃華は離れた自分の椅子に腰かけた
「ふぅ…大丈夫か?」
「う、うん…ありがと、西澤さん」
「…」
桃華はここで表が出てこないのを良い機会だと判断し、冬樹に質問をしてみた
それは、自分と表裏一体である表には絶対に話せない事であり、そして冬樹にしか聞けない質問だ
「あのな…ちょっと聞きたいことがあるんだけどよぉ…」
「えっ?」
「…今の、裏の俺と表の俺…どっちが好きなんだ?」
「に、西澤さん?」
突然の突拍子も無い話に、冬樹はきょとんとしている
裏・桃華は悩んでいた
このまま自分だけの気持ちで冬樹に想いを打ち明けていいのだろうか、と
裏と表…二つが一緒であって、初めて"西澤桃華"という人物は成り立たない
だけど、この粗暴な裏の自分がもし嫌われていたら…引っ込み思案で一人じゃ何も出来ない表がうざ
がられていたら
本当はこんな事は聞きたくなかったが、どうせ告白するのだったら相手が自分をどう思っているか
知ろうとしてもいいではないか
こんな事は、気弱な表の人格は決して冬樹に聞けないだろう
「ど、どーなんだよ?」
「…僕は」
当の冬樹は、少し考えたようで意外にあっさりと結論を導き出した
一瞬だけ、桃華は耳を両手で塞ぎそうになったが、ギリギリのところで止めた
ここで逃げてもどうしようもないと判断したのだ
「どっちだよ…俺か、アイツか」
「僕は、西澤さんが…西澤さんっていう、一人の人間が好きなんだ。だから、どっちがどっちだって
…決められないよ」
それは、いかにも冬樹らしい博愛的かつ平等な意見だった
どちらか一方が選択されたらと危惧していた桃華は、ちょっとだけ腰砕けな気分だ
「そ、そっか…」
「それで、西澤さんは?」
「え゛ッ!!?」
だが、まさかそこから話を振られるとは思ってもみなかったので、今度は面食らってしまった
だけど、今こそ冬樹に好きだといえる絶好のチャンスだ
桃華は自身を奮い立たせるように、ぎゅっとその掌を硬く握った
「お、俺は…」
「くぁっ!」
「!?」
ところが、いきなりベッドの上の冬樹が悶えはじめたのだ
どうしたのかと桃華は駆け寄り、苦しんでいる冬樹を起こした
「だ、大丈夫か!?」
「う…うぅ…西澤さんっ…苦しいんだ……体中が…!」
冬樹は視線も朦朧とし、酸素を求めて激しく喘いでいる
だが、よく見ると冬樹の雄はさっきよりもさらに猛り切っている
まさしくはちきれんばかりの緊張っぷりだ
桃華は異常を感じて思わず後ずさった
「(こ…このままじゃあ、冬樹君が!)」
『方法は、一つしかありません…』
「(表?今のは表か!?)」
そんな彼女の頭の中に、久しぶりに表の人格の声が聞こえた
まさしく渡りに船というわけで、裏は表にすがりついた
「(どーすんだ!?これじゃあ冬樹君がヤバいぜ!?)」
『…ほんとうは、私がしたかった』
「(え?)」
『ううん、なんでも…』
「(そ、それで、どうすりゃいいんだ?)」
『じゃあ、単刀直入に言いますわね?その方法とは、私と…冬樹君が…体を重ねるのです』
「(ええええっ!!?)」
表の言葉に、思わず裏は口に出そうなほど驚いた
「(ちょっ…理屈はわからんでもないけどよ、あ、安全なんだろな!?)」
『私はもう、覚悟は出来ています』
「(…)」
確かに、この状態を継続していては冬樹が危険だ
ならば気を落ち着かせるためにも、ここはそうした方がいいのだろう
しかし、この状況でここまで判断できた表に、裏・桃華は感嘆した
「(俺に主導権渡すとき…言ってたよな?)」
『え?』
「(自分は引っ込み思案だとかよ…でもさ、お前は強いじゃんかよ。俺のやってた事は出てこなくて
も見えただろ?俺もお前と同じ…いや、俺はお前より弱かったんだなって、思い知ったんだ)」
『そんな…』
「(けどよ、今度は俺が勇気を出す番だから…見ててくれよ)」
『…はい』
そう言って、表は消えていった
冬樹は、もはや痛みさえ伴うようになっていた快楽に、どうしたらいいのか分からなかった
もはや言葉を搾り出す事さえ難しい…いつ失神してもおかしくなかった
だが、急に体から衣服の感触が消えていった
焦点の定まっていない目を一生懸命に開けたとき、そこには…
「に、西澤さん…?!」
「…冬樹君」
桃華だ
いや、髪はまだ尖っているから、裏のままなのだろう
しかしそれより問題なのは、桃華が下着を残してほとんど裸になっているということだろう
冬樹もこれには戸惑ったものの、体の自由が利かず、僅かにもがいたのみだった
「だっ…そんな西澤さん、ダメだよ!」
「…」
拒否反応を示す冬樹をものともせず、桃華は寝転がっている彼に覆いかぶさった
こんな状況になってしまえば、いくら鈍感な冬樹でもパニックになってしまう
「わぁっ!!」
「…」
「お、お願いだよ西澤さん…僕たちまだ中学生なんだよ?いけないよ、こんなことは…」
「…ぉ…だよ」
「?」
桃華が何か言っている
まるで呟くような小さい声だったので、冬樹は聞き耳を立てた
「俺は、不器用だよ…」
「にしざわ…さん?」
「こんな強引なやり方でしか、相手に想いが伝えられないんだからよ…」
「…」
「俺は…ずっと言いたかったんだよ。冬樹君に…ただ一言だけ」
「西澤さん」
「冬樹君……………好き」
その言葉を受けて、冬樹は深く動揺した
だが、妙なところで懐の深い冬樹は、すぐに気を取り直した
落ち着く事ができないのか、さっきからずっと震えっぱなしの桃華
冬樹はどうにか落ち着かせるために、ぎゅっと抱きしめた
桃華は顔を上げた
その顔は、粗暴で大雑把で暴れん坊ないつもの表情からは想像できないような、とても怯えた顔をし
ていた
「桃華さん」
「冬樹君…」
桃華に対する呼び名がさりげなく変わったが、彼女は気が付いていない
冬樹はその腕に少しだけ力を入れて、桃華の暖かさを感じた
そうしてじっとしているうちに、少しだけ彼女の顔は綻んでいった
安心した冬樹は、そっと自分の気持ちを告げた
「僕でよかったら…裏の桃華さんも表の桃華さんも幸せにする…約束するよ」
「ふ、ふ、冬樹…くん……!」
大きく開かれた可愛いツリ目から、ぱたりと雫が垂れた
その雫が冬樹の体に落ちる前に、桃華は瞬間的に彼の唇に接触していた
好き
好き
好き
好き
好き
何度言っても、この心の中の燃え盛る衝動を抑えることなんて、桃華には出来なかった
冬樹も媚薬のせいで体が勝手に彼女を求めたが、半分は自我での行動だ
今やっているキスでさえ、性的快感につながっていくほどに二人の体は敏感になっていた
相手の唇をむしゃぶりつきながら、裏・桃華も冬樹も、急いで残りの下着を取り払った
そして、今度はキスを続けつつ裸で強く抱き合った
冬樹の胸板に、少しだけ柔らかな感触が広がる
その感触の中心に2つだけ…しこりのようなものが当たっている
「ふゆ…んっ、んん…ぐ……はふぅ…!」
「…っう、ももかさ……っぷ!」
「ふ…きくん、好き!はぷ…う……す…好き!」
「ぼく…も、うっ…ん…すき……ぅ」
いつしか冬樹が上となり、押さえつけられた裏・桃華は貪り続けられ、濃厚なファーストキスは彼女
を快楽と高揚感で完全に蕩けさせていた
「すご…冬樹君……キスだけで…限界かも…」
「桃華さんとのキス…すごく甘かったよ」
「よ、よせよ!そんな…ハズかしい…」
冬樹の視線から逃れるように、裏・桃華は身をよじった
すると、股間から淫らな水音が聞こえた
クチュクチュとかではなくグチャグチャといった感じで、見てみると桃華の秘所は膝のあたりまで水
をかけられたかのように濡れきっている。まるでお漏らししたかのようだ
「桃華さん、もしかしてさっきのキスだけで…?」
「いや…俺が発情したのは理科室の時だったから、たぶん気が付かないうちに濡れてたみたいだな」
自分でもこんなにびしょ濡れになっていたとは思わず、膝まで達した愛液を拭った
「こんなに濡れてたら、こうしても平気かな…?」
「冬樹く…ちょ、待てよそこは!!」
桃華が慌てたのも無理は無い
冬樹は彼女の花弁に指を挿入し、ゆっくりこねくりまわしはじめたのだ
その指は秘裂の内部…肉壁を刺激し、処女膜に突き当たるまで差し込んだ
「はぐっ…!そ、そんな……奥までッ、指…を!!」
「こうなってるんだ…女の人って…」
「おいってば……ハズかしいからやめて…くれよぉ…!」
「で、でも、桃華さんのここ…どんどん濡れてきてるよ…?」
いまだに羞恥心が影を落しているせいか、桃華は好んで投じた状況を拒否している
しかし、否応なしに指で感じる桃華は更なる快楽を感じたいとも思っていた
冬樹の指は今度は突き入れるように2本も入れて、それぞれを大きく蠢かせた
そうするたびに桃華は嬌声を上げ、ベッドは愛液によって水溜りができるほどに濡れていった
舌を使われ、クリトリスを刺激され、桃華は絶頂に辿り着くまでにそう余暇は無かった
秘部を愛玩されつつ、彼女自身も自分の胸の桃色の点をこね、快感を増長させた
すると、だんだん体が自分の言う事を利かなくなってきたのだ
これは絶頂に達する寸前において、例の媚薬が想像以上に加速させた快楽による暴走であった
暴走と言っても危険なものではなく、むしろ達した時の快感が通常の3倍ほど上昇しているぐらいだ
だが、これは幼い身体の裏・桃華にとってはかなりの衝撃だった
何もかもが消えてしまうのではないかという錯覚に苛まれつつ、ついに限界の時は来た
「あはぁぁぁぁぁッ!!!」
ギュッとベッドの布を掴み、歯を食いしばって桃華はこの断続的に続く快楽の波を受けた
ひくひくと震え、はりつめた体は、しばらくして力なくベッドへと落ちた
「桃華さん、僕の…どうだった?」
自分が相手を満足させる事が出来たのか、冬樹は心配そうに桃華に聞いた
一方の桃華は、まだ絶頂の余波から脱し切れていない
気だるさが残る体を起こし、裏・桃華はどうにか冬樹の言葉に答えた
「冬樹君のだったら…俺は何でもサイコーだよ」
「よかった…」
安心した冬樹は、次に桃華の後方へと移動した
冬樹は曲がりなりにも男であるため、性的知識が皆無というわけではない
"次"になにをすればいいくらい、わかっていた
「あ…」
「桃華さん…」
桃華の花弁に、冬樹のはちきれそうな雄が押し当てられた
ちょっとだけ先端が触れただけなのに、その脈動する雄々しさが伝わってくるようだ
まだ朦々とした視界の中で、裏・桃華は冬樹の雄を間近で見た
媚薬のせいもあるのだろうか、それは大きく肥大し、ふるふると震えている
男のアレがどうなっているかは一応知識としては知っていたものの、さすがに実際見ていると違った
率直に桃華は疑問をぶつけた
「つーか…ホントに俺の中に、これが…入るのか?」
「…大丈夫だよ桃華さん」
「ふゆ…き」
いつになく頼もしい冬樹に桃華は耳まで赤くなって言葉を詰まらせた
痛みこそ感じはしないものの、膜に圧迫感が迫ってくるのが分かった
冬樹の背中に手を回し、しがみつくように身を委ねた
「も、桃華さん…」
「俺は大丈夫だよ…今だったら気持ちいいだけだし、冬樹君もガンガン動いていいからよ…」
「ホント?でも…もしかしたら、今の僕だと危ないと思うんだけど…」
確かに、今の媚薬が効いている冬樹だと初めての性交の味に我慢できなくなって、止まらなくなって
しまう危険性がある
しかし、桃華は続行する事を訴えた
「安心しろよ。この裏はちっとやそっとじゃ堪えないからな…」
「桃華さん…」
「俺も、冬樹君の全てを感じたいんだ。だから」
そう言って、桃華は冬樹の腰を抑えて、強引に自分から受け入れた
何かが破れて、ズンと冬樹の雄は膣内へと沈んだ
痛みはそれほど無かった…が、挿入した衝撃は快感として襲いかかって来る
「あ゛ぁあぁぁッッ!!」
「はうっ?!」
媚薬効果で通常の性交よりも3倍増しの快感を感じる二人は、あまりの気持ちよさに動けなくなって
しまった。繋ぎ目からは赤い破瓜の証が垂れている
「桃華…さん、痛くなかった…?」
「…い、いや、むしろ気持ちよくて…ち、力が入らねぇんだ…よ」
「うん…ぼ、僕も、腰が…動かないんだ…」
かと言っても、動いたりするとすぐにでも限界を迎えてしまいそうなほど、接合部は滾っていた
冬樹の雄は膨張し、内部にあるだけで蹂躙しているほど猛りきっている
桃華の膣内もその巨根を包み込み、きりきりとキツく締め付けている
お互い一進一退の状態で、奇妙な密着状態が続いた
…しかし、このままではらちが明かないのも事実
どうにかすべく、桃華は決断した
「冬樹…君……腰が動かないんだよな?」
「う、うん」
「…俺は動ける」
そう言って、桃華は繋がったまま自分と冬樹の体勢を入れ替えた
どさっとベッドに冬樹の体が埋まり、桃華の肢体が騎乗位で空を仰いだ
「うあっ…!」
「ぐぅ…ふ、冬樹君が落ち着くまで、俺がやるよ……だから」
「桃華さん…」
冬樹の腹に両手を置き、どうにか動く体に鞭打ち動き始めた
引き抜く度…挿入する度…全身をのたうちまわる快感に、もはや嬌声ではなく悲鳴とも取れる声を上
げて、注挿を続行する
雄は幾度も子宮口にぶつかり、それがさらなる快感を生んだ
「あひぃっ!あ…はあぁぁぁあッ!!!」
「うぐっ…も、桃華さんッ!!」
「我慢しなくても…いいんだからな!…う、動けたら動いて…俺を…俺を…もっと貫いて!!」
桃色に染まった視線で懇願する桃華
その期待に答えたい冬樹だったが、いまだに体の自由は解けていない
それどころか桃華の腰遣いで快感はさらに加速し、ますます動けなくなっていた
「はぐっ…!!」
「うくッ!ん…!!ふゆ…きくん…もう、出る?」
「う…ん、もう…そろそろ…ダメかもしれない…!」
「じゃあ俺…もっともっと気持ちよくしてあげるから…冬樹君、俺の中で…出して」
「そっ、それは…!」
「お願いだ…はじめては…膣内で果てたいんだ…」
桃華の想いを悟った冬樹は、断るわけにはいかなかった
冬樹も桃華も、最後のスパートに入った
ここまで凄まじい快楽を感じている二人は、既に精神的にもかなり参っていた
しかし、二人はそれでも愛を貪る為に動いた
汗が飛び、愛液が体を淫らに濡らしていく
「ふゆ…く…あぁッ!あ、ひもち…いいっ!!」
「も…かさん、スゴいよ…もぅ……うっ、うぐっ!」
「おれ…おれ…おかしくなっちまうよ…もぉ…あぐぅぅぅっ!!」
「うわぁぁぁッ!!」
快感に押しつぶさせそうになりながらも、二人は互いの存在を確かめるかのように、その名を呼んだ
もう、自分が何をやっているのかという自覚も不明瞭になりつつあったが、身体は勝手に動いていた
冬樹は無意識のうちに起き上がり、桃華を抱きしめていた
そして桃華も、無意識に冬樹の唇を求めた
まるで本当に蕩けてしまいそうな錯覚を感じつつ、二人はさらに高みへと登りつめていく
「ひゃっ…あぁっ!あぁーッ!!!」
「うあぁっ!う、くうぅっ!!」
「はッ、はぁッ、あぁッ!ぐ…きゃあッ!!」
「あ…あうっ!はぁ、ああああぁッ!!」
「んぷっ…ちゅ……ん…っぷ…んくっ」
「むぐ…ぐ…ぷぅ、う………ん…」
「ちゅ…う、ぷはっ!あぎぃぃぃッ!!!」
「ぷふッ…はあぁッ!!!」
言葉こそ紡ぎ出せなくなっても、なおも二人は求める
もう限界なんて視野にない…愛せればそれでよかった
ようやく冬樹も動けるようになってきて、彼は桃華を目一杯に突き上げた
雄が抜ける寸前まで下げ、根元まで沈むほど突っ込んだ
もう…あとは達するだけだ
「あ゛ぁーーーッ!!!も、イぐッ!!イッぢゃうよぉーー!!!」
「桃華さん…もう、もうッ………!!!」
冬樹が一段と深く突いた…と、同時に、桃華の胎内へと、ついに白濁が放たれた
脈動し、膣内を暴れまわり、止め処も無く放たれ続けられた
「ひッ…ひあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ギリッと歯を噛み締め、桃華は仰け反った
ぞくぞくと身体が痙攣し、さっきの絶頂のときとは比べ物にならない衝撃が押し寄せた
熱湯のように熱いものが自分の腹を満たし、それは子宮さえも満たすほど濃ゆいものだった
口からだらしなく涎を垂らし、桃華の視界は暗転し、冬樹もまた沈黙の中に堕ちていった
その夜、ようやくケロロとタママのほうも終わっていた
汗だくの体を起こし、タママは側で布団に包まって震えているケロロを見た
「ふぅ…サイコーでしたよ、軍曹さん♪」
「シクシクシクシクシシクシクシクシク…」
「もぉー、そんなに落ち込むことはないじゃないですかぁ」
「い、いやちょっとタママ…いくら媚薬使っても痛いものは痛いでありますよぉ…」
どうやらタママは満足したようだが、ケロロはやっぱり嫌だったみたいだ
…というか、二人は一体何をしていたのだろう。ナニをしてたんだけど
そんな時、タママは大変な事に気がついた
「あっ!そういえばモモッチに渡してたやつ忘れてたですぅ!」
「エ!?あれを冬樹殿たちに!?」
「いやぁ〜、モモッチの手助けになればと思って、一個だけ渡しちゃったんですぅ」
「だ、大丈夫でありますかな…?あれをペコポン人には…」
「…」
「…」
心配になった二人は、すぐさま桃華がいるはずの西澤邸へと飛んだ
「モモッチー…生きてるですぅ?」
ベランダから桃華の部屋へと、タママは侵入した
媚薬を服用させてから、すでに時間は7時間は経過している
もしかしたらあらゆる意味でヤバい事になっている可能性も拭いきれない
キョロキョロと部屋を見渡し、タママは部屋の一角のベッドに動く影を見つけた
「も、モモッチ…ですぅ?」
「…ん」
恐る恐るタママがベッドを覗き込んでみると…桃華と冬樹は寝息を立てて寝ていた
まだ桃華は裏のままのようだが、とても安らかな顔で寝ている
そして、その横では同じく冬樹も静かに眼を閉じていた
ほっと安心したタママは、次に二人が裸である事に気付いた
「じゃあ、モモッチとフッキーは……」
タママは思わず顔を赤らめた
とにかく、ここで二人を無理に起こす事は無い…と思って、タママは静かに桃華の部屋から去った
「ど、どうだったでありますか…?」
ベランダで様子を見ていたケロロが、怖々とタママに聞いた
タママはぐっと、親指を突き上げて笑顔で答えた
「万事、オッケーですぅ!」
「ハヒュ〜…もし万が一の事態になっていたら大変でありました〜」
ケロロはどっと大きな溜息をつき、へたりとその場へ腰を下ろした
タママはちょこんとケロロの隣に座った
「軍曹さん」
「なんでありますか?」
「モモッチとフッキーは、これから先はあの飴も使わないで、ちゃんとやっていけますよね?」
「…ダイジョブでありますよ、きっと」
心配そうに二人が眠るベッドに視線を向けるタママを、ケロロはやさしく諭した
翌朝、眼が覚めると桃華は元通りの表の性格に治っていた
冬樹は…まだ眠っている
昨日の夜、自分は想い人と添い遂げてしまった…その事実に桃華は赤くなった
「…」
『おい…起きてるだろ?』
「(あっ、裏のわたし…)」
『どうやら、みんな元通りになったみたいだな』
「(ですわね…)」
『なぁ…』
「(えっ?)」
『…頑張れよ』
「(ええ…)」
桃華は、冬樹が眼を覚ましたときのために、自室へ朝飯を持ってくるようにポールに頼んだ
電話口に出たポールはドロドロに泣き崩れた声で「ついにやりましたな!ヌオオオオオオ!!」とか
言っていた
裏か表か
そんなのは関係なかった
私は私、"西澤桃華"という一人の人間
たとえ人格が複数あっても、自分は一つ
入れ替わっても想いは同じ
独占欲とかそんなものはあってもなくても、自分は一人だ
それならば気にする必要なんて無いじゃないか
どうしてこんな簡単なことを見失いかけていたのだろう
桃華は下着姿でベランダに出て朝日を見上げつつ、裏も表もそう思った
【THE・END】
(※…残りの媚薬キャンディーは、タママとケロロで活用させていただきまし(ry