それは、ほぼ習慣となっているギロロの焚き火から始まった。  
枝で灰を掻き分け、火の具合を見ながら無造作にサツマイモをくべてゆく。  
黄金色に輝く焼き芋は夏美の大好物である。一緒に軍支給の缶詰を火に  
かけながら、ギロロは夏美の喜ぶ顔を思い浮かべた。  
ここまではいつもと何ら変わらない日常の風景である。  
―――違ったのは・・火にくべた芋が、芋でなかったことのみであった。  
 
BOM!  
 
閃光。  
爆発音。  
――――そして七色の光。  
ケロロとタママ、そしてクルルが駆けつけたときはすでに手遅れであった。  
 
「あちゃ〜、ギロロ先輩またやっちゃったですぅ〜・・・。」  
「ンだよッ!ダレだよ毎度エネルギー弾持ってっちゃうのはッ!!我輩が  
秘められた能力を開発しよ〜とするといつもコレでありますッ!」  
「・・・・先輩、また分裂しちまったようだねェ・・7人に。く〜っくっく」  
「――――7人だとッ?!・・・・ま、まさか・・・ッ」  
  クルルのその声にぎくりとしたギロロがあたりを見回す。  
そこには・・・できればギロロが二度と見たくなかった光景が展開していた。  
 
「えぇえ〜・・・どうしましょう・・ギロっち困っちゃいます〜」  
「はっはっはっは・・・・」  
「ボク・・・ボクこわいよ〜!くまピー!!」  
(葉書にペンを走らせつつ↓)  
『顔キズなんて 気にしないわ 赤い色だってだってだってお気に入り♪』  
 
・・・・・収拾不可能である。  
いつか見た悪夢の再現に、ギロロががくりと肩を落とした。  
ズキズキと痛むこめかみを押さえつつ脱力する自分の身体を必死で支える。  
愉快そうに忍び笑いをするクルルを、ギロロが肩越しに怒鳴りつけた。  
「おいックルル!!・・・今すぐ元にもどせ!なんとかしろッ!!」  
「オレ様としちゃこのまま見物していたいような気分だねェ・・くっくっく」  
「くだらん事を言っとる場合かッ!!」  
「仕方がねェな。貸しにしとくぜぇ・・・ギロロ先輩。」  
  クルルがごく小型のハンドガンをギロロに向けて投げつけた。  
「アレから改良したんでな。そいつで撃てば一人ずつ消せるぜぇ・・・」  
「それは助かるッ!」  
  ギロロが振り向きざまに背後のギロさまをハンドガンで撃ち抜いた。  
はっはっは・・と爽やかな笑いを残して、ギロさまの姿が消滅する。  
そのまま撃鉄を起こし、エプロンに顔をうずめたギロっちを狙撃する。  
ギロっちの姿が掻き消えた。その様子を見て他の分身が四方に逃げ惑う。  
「うわ〜ん!こわいよ〜こわいよ〜っ!くまピー助けて〜〜っ!!」  
「キャーこのハガキを大阪ラジオに出すまで消える訳にはいかないわ〜っ」  
「・・えぇいッ!貴様らも俺なら四の五の抜かすなッ!それでも軍人かッ!」  
  決死の形相で追いかけるギロロを見物していたタママとケロロが、  
のんきに口をひらいた。  
「うわ〜・・・どうみてもギロロ先輩が悪人に見えるですぅ。」  
「ヲ〜イギロロッ!弱い者イジメは、いけないんでありますよッ♪」  
「ぃやかましいッ!!見てないで貴様らも手伝わんかッ!」  
 
  クマのぬいぐるみを抱きしめて地に伏せるギロりんを取り押さえつつ  
ハガキを抱えてベランダから日向家の居間へと逃げるギロっこの背を狙撃  
する。手首を返してそのままギロりんを撃ち抜くと、派手な悲鳴をあげて  
二人が消滅した。ケロロたちの言ではないが、なにやら自分がかよわい者  
を無差別に撃滅しているような後味の悪さがあり、ギロロは舌打ちした。  
 
――糞ッ!一体なんだって俺の分身どもは、揃いもそろってこうも意気地  
のない奴ばかりなんだ・・・・・ッ!!  
 
  その蜂の巣をひっくり返したような騒ぎに、階上の夏美が足音高く降  
りてきた。怒りの表情もあらわにベランダの窓ガラスを全開にする。  
「うるさ〜いッ!!ちょっとカエルどもッ!しずかにしてよッ!!」  
「な、なつみっ!!」  
  逃げていた白タキシード姿のギロぽんが、夏美を見て目の色を変えた。  
そのままくるくると大回転して居間に飛び込み、夏美の手をとる。  
「えぇえッ!?待ってよ!ちょ、ちょっとこれって〜〜〜ッ?!」  
「なつみっ!・・・・逃げよう、ふたりでっ!!!」  
  キラキラと情熱的な目で夏美の顔を覗きこむギロぽんが、ガッシと  
その両手を握り締めた。混乱する夏美をよそに、その背にかばうように立  
ちはだかったギロぽんが、キッとギロロに向き直る。  
「じゃ、ジャマをするなぁ〜〜!なつみはオレが守るんだ!ジャマする奴  
は・・・くらえ!ラ〜ヴラヴッ!ギロぽ〜んッ!アターックッ!!!」  
―――――鈍い音が響いた。  
「・・・・さ、させるかッ!それだけは・・・・ッ!!!」  
  ギロぽん渾身の頭突きに腹を直撃されたギロロが、膝をつきながらも  
その頭を捕らえてハンドガンの引金を引く。ギロぽんの姿が消滅した。  
苦しげに呼吸を整えながらも、ギロロがなんとか安堵のため息をつく。  
「済んだか。こ、これで・・・全員、消した・・・・よな?」  
  その言葉にクルルが答える。  
「消すっつっても、正確には休眠させてその銃の中に入ってる状態でねぇ・・。  
6人撃ったらその銃床のナルトマークを押して、自分に向け引金を引けば  
完了、だな。残った1人がオリジナルって訳だ。」  
「・・・・・戻さなければどうなる?」  
――正直、あの連中が自分の一部だとは認めたくない。そう思ったギロロ  
がわずかな希望を込めて問いただす。だがクルルの答えは無常な物だった。  
「休眠させてるだけだからな。一人目を消してから24時間以内に自分へ  
戻さねぇと、また全員出てくるぜぇ・・・く〜っくっく。」  
「やれやれ、了解だ。―――――畜生。」  
  ギロロが身体を起こす。そのまま立ち上がろうとしたそのとき―――。  
銃声。  
ギロロの手の中のハンドガンが弾かれ、地に転がった。  
「―――6人消して、残った1人がオリジナルか。・・・そいつはいい。」  
 
  ぞくりとするような冷たい声が響いた。  
ギロロがぎくっと動きを止める。嫌な予感に後頭部の皮膚が粟立った。  
しまった・・・。という苦い思いが、ギロロの脳裏をよぎる。  
充分用心しながらそろそろと背後を振り向く。そこに6人目の人格がいた。  
 
完全武装のいでたち。ギロロに向けられたまま小揺るぎもしない銃口。  
なによりギロロの超えられない壁であり、軍人としての目標とコンプレッ  
クスをつねに刺激し続ける兄・ガルルをそのまま写し取ったような容貌。  
―――ギロロの中の、軍人の面に特化した冷酷な人格・ギロっぺであった。  
「・・煮え切らない貴様の態度には、いい加減愛想が尽き果てていたところ  
だ。このうえは俺様がオリジナルとなって一気にペコポン侵略を遂行して  
やる。――――おっと、動くなよ?」  
 
再び銃声。  
銃弾が、そろそろと指を伸ばしていたギロロの傍らからハンドガンを遠ざ  
けた。銃をかまえたギロっぺがゆっくりと廻り込み、ハンドガンに近づく。  
やがてその眼が足元のハンドガンに落とされた瞬間――――。  
その一瞬の隙にギロロのバズーカが咆哮した。  
 
轟音。  
間を切らず亜空間よりマシンガンを転送する。  
ギロっぺが跳び退く。  
その場所にマシンガンの着弾が弧をえがく。  
跳び退きつつ、グレネードランチャーを発射するギロっぺ。  
矢継ぎ早にギロロを襲う複数のミサイル。  
ギロロが瞬時に迎撃する。  
激しい爆風と煤煙が日向家を煽る。  
鏡に映したように、二人が同時にビームライフルを呼び出した。  
互いに地を蹴り跳び分かれながら、激しく相手に銃弾を浴びせ続ける。  
まったく同じケロン人同士のその銃撃戦は―――途切れる気配もなかった。  
 
「な、なんかタイヘンなことに・・・。ぐんそ〜さん止めないでいいんスか?」  
「ゲッゲロッ?!わ、我輩・・コレに割って入るのはちょっと・・・」  
「どっちもギロロ先輩だからねェ、こりゃ決着つかねェかもな。クックッ」  
「・・・・ちょ、ちょっとぉ〜〜ッ!!」  
  事の成り行きを呆然と見ていた夏美が、ふいに我にかえった。  
こぶしを振り上げながら身を乗りだし、なおも戦闘を続ける二人を怒鳴り  
つける。  
「ご近所メーワクじゃないッ!それに家が壊れたらどうすんのよッ!!」  
  そのままつかつかとギロっぺの方へと歩み寄り、平手を振りかざす。  
「もうアンタたち・・・いいかげんにしなさ〜いッ!!!」  
「バ・・・馬鹿ッ!危ないから下がってろ夏美ッ!!」  
  その手が振り下ろされる瞬間――電光の速さでギロっぺが夏美の背後  
に廻りこんだ。そのまま飛行ユニットで宙に浮きながら、夏美の頭にビー  
ムライフルを突きつける。  
「チェックメイトだ。・・・女王の駒は手に落ちたぜ、オリジナル。」  
「――――くうぅッ・・・!」  
  ギロロがやむを得ず銃を下ろす。  
それを見てギロっぺが銃口はそのまま、夏美に声をかける。  
「おい、女。――――そこのハンドガンを拾って俺に渡せ。」  
「な、なに言ってるのよ。あたしがアンタに協力するはずないでしょッ!」  
  ギロっぺは答えるかわりに無言で引金を引いた。  
閃光とともに夏美の耳の脇の髪がひとふさ、はらりと落ちる。  
夏美が蒼白になってからだを強張らせた。  
「つぎは耳を落とす。・・・俺はためらわない。この女は俺にとって不要  
どころか有害な存在だ。―――まったく、くだらんな。たかが女1人の為  
にペコポン侵略が遅々として進まんとは。・・この程度の障害も排除できん  
ようでは、やはり貴様はオリジナルでいる資格はない。」  
  冷然と宣言するギロっぺにギロロが一瞬眼を閉ざし、ちからなく夏美  
に告げた。  
「――――夏美。・・・かまわん。言われたとおりにしてやれ。」  
  夏美の目が不安げに二人の間を幾度か往復する。  
やがて悔しげに唇を噛み、夏美がそろそろとハンドガンへと歩み寄った。  
万策尽きて顔を背けるギロロに、いつの間にか忍び寄ってきたクルルが背  
中越しにそっと耳打ちする。  
(ギロロ先輩。・・・ハンドガン含め、奴の武器を封じてほしいカイ?)  
(な・・なにッ!?そんなことが出来るのかッ?!)  
 
  ギロロが振り向く。人差し指を口に当ててクルルが続けた。  
(出来るッスよ。ただし。―――それはアンタもご同様だぜぇ・・・。二人  
まとめてなら武器を封じられる。・・・どうします、ギロロ先輩?)  
(夏美さえ解放できればいい。・・・・頼むッ!!)  
(オーケー。・・・じゃ、いくら出す?)  
(な・・・・・ッ!金を取る気かこの状況でッ!!)  
 
  それから夏美が銃を拾い、背後のギロっぺにしぶしぶ手渡すまでの間。  
ギロロとクルルの間で指の本数のやり取りがひそかに、だがあわただしく  
交わされた。  
「・・・・ええいッ解った!貴様の言い値で了解だッ!!」  
「ク〜ックックック。商談成立だぜぇ・・・忘れんなよ先輩。」  
  満面の笑みを浮かべたクルルが、立ち上がって銃を構えた。  
形状は「地球動物兵士化銃」とほぼ同じその銃がギロロに向けて強烈な光  
線を吐き出す。その閃光と蒸気が消えたとき、ギロロの姿が変わっていた。  
「な・・・・なんだこれはッ・・・!!」  
「・・・・・なにッ?!」  
  ギロロは地球人の成人男性に姿を変じていた。  
迷彩柄の戦闘服に身を包み、あきらかに軍人といったいでたちである。  
髪の色の赤とほおに走る傷、そして腕に腕章のように巻かれた愛用のベルト  
がもとの姿の名残りをかろうじてとどめている。  
変身したのはギロっぺも同様であった。こちらは全身を黒一色に包んでいる。  
もとは同一人物とはいえ、その凶相もあいまってこちらは見る者によりいっ  
そう物騒な印象を与えた。  
「?!」  
  ギロっぺが即座にハンドガンの引金を絞ろうとして、動揺した表情を  
見せた。――――引金に指がかからない。  
ただでさえ小型のハンドガンであった。それがペコポン人化したことで指  
のサイズが変わり、引金部分が指が通せないほどの幅に成り果てていた。  
ビームライフルに持ち替えようとして、こちらも同様の状態であることを  
悟る。なにせ通常の姿は、夏美の膝小僧くらいまでしかないのである。  
それがペコポン人化することで、夏美の背をはるかに超えてしまった訳で  
―――ケロン人の身体に合わせた武器のサイズが小さすぎるのは、いわば  
当然の事態であった。  
「―――――くッ!!!」  
  狼狽したギロっぺが右腕をひらめかせた。  
しかし通常なら呼び出されるはずの武器は、何ひとつその手に現れない。  
「ペコポン人の身体だからねェ・・・。亜空間の武器庫から転送しようった  
って無駄なことだぜぇ・・・ク〜ックックック」  
  クルルが陰湿な笑い声を立てる。  
「分かれたとはいえ、もともとは同じギロロ先輩だ。オリジナルをペコポ  
ン人化すりゃ、他もそうなっちまうのさ。・・どうだい、いい手段だろ?」  
「―――やむをえん。勝負はひとまず預ける。だが・・・覚悟しておけ。」  
  ギロっぺが手榴弾のピンを二つ同時に歯で引き抜き、投擲した。  
激しい爆風と衝撃波がその場の者を襲う。もうもうたるその煙が晴れたとき  
ギロっぺの姿はもうどこにも見つけられなかった。  
 
「フィーッ!・・・なんだかモノスゲー大変な事態でありますな!」  
「どどどどうするんスかギロロ先輩ッ?!24時間ってことはアイツ明日  
の夕方までにはゼッタイ勝負をキメに来る気ですぅ〜ッ!!」  
「それはこちらも同様だ。―――糞ッ!俺のテントも爆破していったらし  
いな。弾薬があらかた誘爆してやがるッ・・・!」  
  ギロロがテントの残骸を確認しながら毒づいた。クルルが腕を組んで  
壁にもたれながらギロロの方を見やる。  
「どう迎え撃つ気ッスか?―――なんせ当の本人だ。どう攻められたら  
こたえるかは、先輩が一番よく解ってるんじゃないスかねェ・・・。」  
 
  ギロロは深刻な表情で眉を寄せ、しばし眼を閉じた。  
しかしすぐ眼をひらき、厳しい表情で夏美の方へと向き直る。  
「――――夏美。弟と、母親はどうした。」  
「え、ええッ?!・・・ママは泊まりだし、冬樹はオカルトクラブでまだ  
学校にいると思うけど・・・・。」  
「すぐに連絡を取れ。西澤邸に避難させるなりして、とにかく今日は家に  
戻すな。この家は間違いなく戦場になる。本当ならお前も避難させたいと  
ころだが・・・いや、それはかえって危険か・・。奴は夏美を人質どころか  
抹殺しかねん。今日一日は俺のそばを離れないでくれ。――お前らは地下  
基地の防御を頼む。大型の侵略兵器を奴の手に渡すわけにはいかん。」  
  ギロロが振り向いてケロロたちに告げた。  
「亜空間からの武器転送が使えない以上、俺なら次に狙うのは地下基地の  
武器庫だからな・・・・・頼む。」  
「―――ま、そんなとこだろうねェ・・・。」  
  クルルが腕組みを解いた。ケロロも毅然とした表情で胸を張る。  
「ギロロ!侵略兵器については任せるでありますッ!我輩は隊長として、  
地下基地で責任持って最後まで突っ立ってるでありますッ!!」  
  タママも負けじと声を張り上げる。  
「ギロロ先輩フッキーのことは任せてください!モモッチはきっと喜んで  
フッキーをかくまってくれると思うですぅ!!」  
「・・・・オレ様はラボでペコポン人サイズの武器でも作るか。―――ま、  
トラブルは大歓迎だが、契約金が回収できないのは業腹だからな。」  
 
  陽が落ちた。  
ギロロは夏美の傍らを離れない。  
夏美が作った夕食もやわらかく断る。唇を湿す程度の水しか口にしない。  
地下基地へ行くことは、もはや出来なかった。  
クルルがギロロの認証コードをすべて拒否するよう設定したためだ。  
同一人物であるため、ギロロのコードでギロっぺも侵入できてしまうから  
であった。クルルが作るといっていた武器が届くのを待つしかない。  
それまで丸腰という訳にも行かないので、ギロロは手近に武器になりそう  
なものをかき集め始めた。  
居間に出しっぱなしになっていたケロロのガンプラグッズ一式のうち、  
ニッパーとジオラマ用に用意された針金とテグスの束を拝借する。  
そのテグスと、サイズの合わない銃器を使って玄関から窓という窓にブー  
ビートラップを仕掛けてゆく。引金にテグスを絡めニッパーを使って針金  
で固定する。外部から侵入しようとすれば、たちどころに標的を薙射する  
よう設定しておく。愛用のビームライフルの引金にも針金を通し、銃把を  
強く握れば引金を絞れるように改造して傍らに引寄せた。  
ただ、この状態でうまく当てられるかは自信がない。それにおそらく敵も  
似たような対策をしてくるに違いなかった。  
 
暗闇に眼を慣らすため出来れば消灯しておきたかったが、夏美の手前それ  
はできなかった。逆にギロロはすべての部屋の照明をつけ、締め切った  
カーテンのすぐ近くに照明を当てるようにした。こうしておけば内部の様  
子を探りにくい。外から夏美か自分を直接狙撃されることを、ギロロは  
極力防ぎたかった。相手は兄ではなく自分自身なのだから、性格的に狙撃  
よりは突入を選ぶだろうとは思うが・・・もし遠距離から狙い撃たれた場合  
は手の打ちようがない。―――とにかく接近戦に持ち込めば勝機はある。  
 ギロロは自分にそう言い聞かせつつ、どうにも苦手意識に流れているらし  
いおのれを胸のうちでののしった。  
 
―――糞ッ・・!顔が似ているというのは本当に嫌なものだ。防衛戦における  
お定まりの心理状態とはいえ、どうしても敵を過大に評価しちまう・・・ッ!!  
 
  パジャマに着替えて所在無げにしている夏美に、内心無理だろうなと  
思いつつ、普段どおり楽にしていろと声をかける。するとやはり、出来る  
訳ないでしょ!と憤然とした声が返ってきた。ベッドに腰掛けて落ち着か  
なく足をぶらつかせている夏美に背を向け、ギロロは床に座って手持ちの  
武器を点検し始めた。  
 
もともと装備していた手榴弾3つ、ビームライフルが1丁。  
テントに残っていたビームサーベル、1本。  
夏美の部屋で見つけた火気厳禁の整髪スプレー、数種。  
キッチンで手に入れた果物ナイフ2本と包丁1本。  
基地へ戻る前にクルルが、良かったら使いなと手渡してくれた麻酔薬1つ。  
(ただしこれは注射器であるので、よほど接近しないかぎり敵に使用する  
のは至難のわざと言えた。)  
そして・・・万が一に備え、パワード723の変身チョーカーが1つ。  
―――――あとはクルルの武器の完成を待つしかない。  
そのとき地下からこもった爆音が響き、家全体が振動した。  
 
「な・・・なに?!・・・もうッ!いったいなんなのよォ〜ッ!!」  
  夏美が怯えてぬいぐるみを抱きしめた。  
その手に手榴弾をすべて握らせ、奴が来たらピンを抜いて投げつけろと言  
いきかせる。今の振動で階下に仕掛けておいたトラップが一箇所、作動し  
た音がした。罠かもしれないが―――放置してはおけない。  
ギロロはサーベルとライフルを装備して階下へ降りた。  
居間の窓のトラップが作動していた。用心深く周囲の状況を確かめる。  
どうやら侵入されたのではなく、爆発の振動が原因のようであった。  
改めて仕掛けなおし、念のため他のトラップも点検して回る。  
浴室の窓をチェックした時、ギロロは死角にナルトマークのついた小さな  
装置を発見した。着脱可能になっているらしく指で触れると簡単に外れる。  
なんとなくぴんと来るものがあり、ギロロはその装置に低い声で話しかけた。  
「おいッ!――聞こえるか。応答せよ!・・・クルル、聞いているんだろう?」  
  するとナルトマークが応えるように点滅した。その装置にモジュラー  
ジャックが付いているのを見てとると、ギロロは居間まで走って電話の線を  
引き抜き、その装置を接続して受話器を肩にはさんだ。  
「クルル!!状況を説明しろッ!!!・・・なにが起こった?!」  
「よぉ先輩。――奴はどうやら庭からすぐ基地まで直行してたみたいだな」  
  受話器からクルルの声が流れる。  
「今やっと非常出口から追い出したところだ。――危ういところだったが  
侵略兵器は無事だぜぇ・・・。ただ地上との接点を残らずやられちまったナ。  
ご丁寧にも自分が脱出した非常口まで爆破して行きやがった。システムを  
復旧させるまで、オレと隊長はこの地下基地でカゴの鳥さ。・・・わりィが  
今夜いっぱいは武器も届けられそうにねェぜ?」  
「そうか。――――解った。」  
  ギロロは数瞬眼を閉じた。手持ちの装備でなんとか戦っていかねばな  
らない。  
「奴が新たに武器を手に入れたような気配はあったか?」  
「いや。・・・どっちかってェとアンタを孤立させることが狙いだったよう  
だぜ。手足を縛ってから、ゆっくり料理する主義なんじゃねェの?  
――――ギロロ先輩。アンタ、い〜い性格を自分の中に持ってるねェ。」  
「・・・貴様にだけは言われたくない。――そうか。奴の手持ちの武器は  
これですこしは減らせたことになる訳だな。」  
  ギロロは手の中にあるクルルの装置に眼を落とし、言葉を続けた。  
「貴様のことだ。どうせこの――盗聴器とカメラは、今この瞬間も日向家  
じゅうを撮り続けているんだろう?・・その集めた映像と音声を俺によこせ!」  
 
「盗聴器とカメラ?何のことだか解らねぇな。」  
  しれっとクルルがとぼけた。ギロロがいらだたしげに低くうなる。  
「それじゃこいつを夏美に突きつけてやる。風呂場になんでこんな物があ  
るのか、夏美にうまく説明するんだなッ!!」  
「―――ちっ・・・。わかったよ。映像は中継器がオシャカだから送れねェが  
盗聴器は活きてるぜ。音声を夏美のMDコンポに送ってやる。・・・ラジオの  
チャンネル、AM723に合わせナ。ソナー代わりにゃなるだろうよ。」  
「了解した。・・・だがカメラの件は水に流さん。全部カタがついたら俺にも  
なんでこんな物がここにあるのか説明してもらうぞ!覚悟しておけッ!!」  
  そのとき階上より銃声と手榴弾の爆音が二つ、響いた。  
受話器を叩き切り、階段を一足飛びに駆け上がる。  
夏美の部屋だ。心臓を鷲掴みにされるような恐怖に、ギロロは走った。  
「ギロロッ!!」  
  扉を開け放った途端、夏美が振り向いて叫んだ。  
外からの風にカーテンが大きくめくれあがる。  
窓ガラスと天井の照明が割れていた。窓枠に指がかかっているのが見える。  
見えた瞬間、黒い野獣のような身のこなしでギロっぺが出現した。  
割れた窓から侵入しようとする。トラップが作動した。  
「ちぃッ!!!」  
至近距離での薙射を受けてさすがに避けられずギロっぺの頬に弾がかする。  
続いて左肩に命中する。ギロっぺの身体が大きくのけぞった。  
夏美が続けて最後の手榴弾を投げつける。これは避けられたため、背後で  
爆発した。ギロっぺが体勢を崩しながらビームライフルを構えた。  
服の切れ端で引金を固定したその銃口が、まっすぐ夏美に向けられる。  
「夏美ッ!伏せろッ!!!」  
  ギロロが夏美の肩を掴み、床に引き倒した。  
閃光。その頭があった高さの壁に銃痕が残る。焦げた臭いが鼻をついた。  
「勘違いするなッ!貴様の相手はこの俺だろうがッ!!!」  
  ギロロが夏美の前に廻りこみ、ライフルを乱射しながら叫んだ。  
「・・・敵の弱点を突くのが戦場のセオリーだ。ところで俺はテントにあった  
予備のマガジンを持ってきている。だが貴様はどうだオリジナル?  
・・・補充できるビームライフルのエネルギーはあったか?」  
  あざけるようにギロっぺが笑った。  
と同時にギロロのライフルの引金が、むなしく空を切った。  
「!!!」  
「――――俺の勝ちだ。あばよ、オリジナル。」  
  ギロっぺが笑って銃口をギロロに向けたそのとき――――。  
窓の外から複数、隼のように飛来してくる物があった。  
ギロっぺの身体をかすめて壁に突き刺さる。・・・ドロロの手裏剣であった。  
「なにッ?!」  
「どうやら間に合ったようでござるな。―――曲者、神妙にいたせ。」  
「ドロロッ!!」  
  窓の外の、庭の植木の枝にドロロの姿があった。  
 
「ちッ!!余計な事をッ!!!」  
  ギロっぺが窓から身を躍らせた。その姿はたちまち暗闇に溶けてゆく。  
追うべきかどうか一瞬迷った様子を見せたドロロが、思い直したように  
部屋の中を覗きこんだ。  
「夏美殿はご無事でござるか?」  
「―――とりあえず生きちゃいるわよ?・・ま、部屋はムチャクチャだけどね」  
  夏美が脱力してベッドにへたり込みながら唇をとがらせた。  
「お命に別状なくて何よりでござる。・・事情はタママ殿から聞き申した。」  
「――――タママが?」  
「超空間移動で拙者の所まで訪ねてきたのでござる。慣れぬ場所ゆえ相当  
疲労して着くなりひっくり返ってしまったのでござるが。――隊長殿より  
の伝言、確かに承った。・・・ギロロ殿になんとか加勢してやってほしいと。」  
「ケロロが。――――そうか。」  
  ギロロは眼を閉じた。どこか嬉しげに温かくドロロが微笑む。  
「ご助力いたそうか?」  
「いや。――――ありがたいがこれは俺の戦いだ。・・・俺自身の。」  
  ギロロは窓に身を乗りだし、夏美に聞こえぬよう声を低めた。  
「厳しい戦いだが、奴は俺が倒さねばならん。―――だがドロロ。お前を  
見込んでひとつだけ頼みがある。俺が倒された場合のことだ。そのときは  
夏美を・・・。俺にかまわず夏美を助けて、奴の手の届かない所にかくまって  
やってくれ。夏美は強情できかん気だから言うことを聞かないかもしれん  
が・・・。夏美がどれだけ暴れようが、そのときはそうしてくれ。  
―――これだけは絶対に頼む。」  
「――――ギロロ君・・・・・。」  
  ドロロの声が細くなった。その姿にギロロが無言でうなずく。  
しばらくの間があってドロロも顔をうつむかせ、うなずいた。  
「―――あいわかった。そのときはこの身に代えてお救いいたそう。  
ギロロ殿。敵の装備は拙者の見たところ、光線型突撃銃が一丁、その予備  
弾倉が一つ、熱剣が一振り。迫撃砲の炸裂弾が六弾・・・ただしこれは発射  
する装置が身尺に合わぬゆえ、精度の方は怪しいものでござろう。手榴弾  
のたぐいは尽きてござった。」  
「アサシンのお前が言うからには確かだろう。・・・貴重な情報だ。恩に着る」  
「では――――ご武運を。忍ッ!!」  
  ドロロの身体が風に溶けた。  
そのまま外を眺めていたギロロが気を取り直すようにふりむき夏美に言った。  
「―――割れた窓を塞がにゃならんな。・・・夏美、手伝ってくれ。」  
 

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