ダンボールで窓が塞がれた。
窓際の電気スタンドの薄暗い光が、荒れた部屋をぼんやりと照らしている。
ギロロは先ほどからラジオのチューニングをしていた。
夏美からコードレスヘッドホンを借り(それは夏美が小遣いを貯めて買った
ごく高品質なものであった。)、耳に当てつつチャンネルを合わせる。
―――AMの723。最新式のヘッドホンがクルルの盗聴器から拾った音
をデジタル化し、風切り音や虫の声、庭先のネコの寝息までを立体的に
ギロロの耳に届ける。
――――どうやら使い物になりそうだ。ギロロはほっと胸をなでおろした。
「・・・・これから、どうなっちゃうのよ?」
ベッドの上でひざを抱えた夏美が、ちいさくつぶやいた。
その声にヘッドホンをつけたままギロロが向き直る。
「すまん夏美。お前には災難だな。・・・・だが勝負は長引かんだろう。
いずれにせよお前に手は触れさせん。俺は起きているから、少しでも休んで
おくことだ。」
「―――――あんたはどうなっちゃうのよ・・・?」
答えようとして、ギロロは言葉を失った。
どちらが勝つかはわからない。どちらも自分である以上、実力は同じだ。
しかも装備はあちらの方に分があり、その上自分は夏美を守らねばならない。
「――――どうもならない。俺が勝つさ。」
ギロロは笑ってマシンガンを手に取った。
この部屋のトラップをはずし、引金を例によって細工しておいた。
しかしこれも弾薬があとわずか。一体いつまで持つことか――――。
ふいに夏美が枕をぶつけてきた。脇にあるぬいぐるみを続けて投げてくる。
「お、おい!なにをするんだ。・・・・・おいッ!」
「バカッ!なによ!ヒソーな顔で気取っちゃってッ!!!」
夏美がベッドから下りて、なおもギロロの顔に枕を押しつけた。
「うっ・・・・こらやめろッ!ちいさい子供かお前は!」
「ちょっと人間になったからってなによ。・・・ほんとはカエルのくせに!」
夏美が枕をぶつけながら笑う。右に左に避けながらギロロも苦笑した。
「止せというのに。・・・・ガラスが散ってるから足を怪我するぞ。」
「偉そうに。――――いつものベルトなんか腕に巻いちゃって。」
夏美がギロロの腕からベルトをむしり取ろうとする。
ぎくりとしたギロロが慌てて腕を退けた。その様子は夏美のいたずら心を
いっそう刺激したらしい。
「・・・・・・なによ。見せなさいよ。」
「いや、別に。」
「そういえばそのベルトいつも着けてるわね。どうして?特別な宝物なの?」
「馴染んだ物を身に着けたいだけだ。――――別に他意はない。」
「じゃ、あたしが見たってかまわないじゃない。・・・・見せなさいよ。」
夏美があぐらをかいたギロロの膝に乗り、ベルトを引っ張った。
ベルトがはずれ・・・ギロロが慌ててその端をつかんで夏美から遠ざける。
夏美の伸ばしたゆびが空を切った。
「ダンゼン怪しいわ。・・・また物騒なシンリャクの道具かなんかが、その
バックルに入ってるんじゃないのッ?!」
「・・・・・違う。そうじゃないから構うな。」
「じゃあ、見せなさいよッ!!」
薄暗い部屋でギロロと夏美が揉みあった。
ギロロの肩にゆびをかけ、背を伸ばして夏美がなんとかベルトを取ろうと
する。その手をいなしながらギロロは、自分の身体をめぐる血がくらく
ざわめくのを止められない。
荒くなった夏美の呼吸が首筋に甘くかかり、太ももが膝をやわらかな感触
で挟みこむ。ベルトを取ろうとやっきになってゆびを伸ばし、腕のなかで
夏美が身じろぎするたび、胸や腰が思いもかけぬ温度を持って押し付けら
れる。そのたびに焼きごてを当てられたような熱い、だが甘い痛みを身体
に感じてギロロは顔をしかめた。
その隙に夏美がやっとベルトを奪い、ギロロの膝に座りながら床に置いた。
背を向けた夏美が、息を弾ませてベルトのバックルを開ける。
即座にギロロが腕を伸ばし、バックルの蓋を閉じた。
自然に後ろから抱きしめるような姿勢になる。
「往生際が悪いわよ?・・・ちらっと端だけ見えたけど、ただの写真じゃない。」
「―――――こいつに構うな。」
「ここまで来たら・・・・ッ!もう見せなさい、よ・・・ッ!!」
夏美がギロロの指に自分のゆびをからめて、引き剥がそうとする。
音もなく、ふたりの指先に渾身のちからがこめられた。
バックルを押さえたギロロの指に、夏美のゆびが重なっている。
そのゆびを剥がすべく、ギロロの左手指がさらに重ねられる。
腕のなかで夏美が身をよじった。
かがんだギロロの顔に、夏美の真剣な横顔がおそろしく間近にせまる。
その吐息がたじろぐほど甘くギロロの頬にかかった。
夏美の左手のゆびがギロロの左手指にさらに重ねられる。
からみついたゆびさきが―――――ついにギロロの手を引き剥がした。
「観念しなさい。・・・・・・ギロロ。」
勝利を確信して、夏美が息を切らせたまま笑みを浮かべる。
そのゆびが堅く閉じられた蓋をひらいた。
薄明かりでバックルの中身をみた夏美が、びくッとからだをふるわせた。
そのまま耳朶を真っ赤に染めているのが暗がりでもわかる。
見たはいいが、どうしてよいか解らないのだ。
そのなかに大切に仕舞いこまれた――――――夏美本人の写真を。
熱をはらんだ時間が、音もなく二人のあいだを流れる。
「・・・・・・・。」
ギロロが哀切な眼差しでゆっくりと腕を伸ばし、夏美のゆびをそっと
ふりほどいた。そのまま無言でバックルの蓋をしずかに閉じる。
「あ、あの・・・・ギロロ。――――ごめ・・・・・」
「謝るな。」
その言葉の続きを恐れるかのように、ギロロがさえぎった。
「あやまらなくていい。―――お前の言うとおり、ただの写真だ・・。」
「・・・・・・。」
「もう遅い。・・・俺が寝ずの番をするから、お前はベッドで少しでも眠れ。」
苦しげにうつむき、ギロロが身体をそむけた。
そのまま夏美に背を向ける。ややあって、ぎこちなく夏美が答えた。
「―――――う、ん・・・・・。」
しばらくしてベッドのきしむ音が響き、夏美が横たわる気配があった。
息苦しい沈黙がおちた。
夏美は眠れないらしい。何度も寝返りを重ねる気配があった。
ギロロはヘッドホンの音声に意識を集中するよう努めた。だが相変わらず
ヘッドホンは風の音や室外機の単調な作動音しか耳に伝えてこない。
夜が更けてさすがに気温が下がってくる。ギロロは襟を掻き合わせた。
その動作に背後で夏美が起き上がる気配がする。
ぎくりとギロロの身体が震えた。ややあって、ゆっくりとふり返る。
夏美が顔をうつむけたまま、毛布を開けて上体を起こしていた。
「・・・・寒いなら、こっちに入りなさいよ。―――風邪、ひくわよ?」
「―――!!」
その言葉にぐらりとめまいを起こしたように、ギロロの身体が傾いだ。
思いもよらぬことを言われて思考がまとまらない。
ただ喉がかわき息が止まり、心臓が早鐘を打つ。
前髪に隠れて、夏美がどんな表情をしているのかは見てとれなかった。
返事をしないギロロに焦れたように、夏美がちいさくひそやかに叫んだ。
「はやく。・・・おふとんが冷めちゃうじゃない!・・はやく入んなさい、よ・・」
そのまま夏美がほおを赤らめる。ふるえているのが毛布越しにも解った。
「・・・・・夏美。」
茫然とたたずむギロロのその手を・・・夏美のゆびが握り、そっと引いた。
夏美のベッドは狭かった。
シングルベッドがふたりの体重を受けて大きくたわむ。
ギロロの腕のなかで、夏美のからだが小さな鳩のようにふるえている。
――――本当はこんな事をしている余裕はないのだ。
いつ奴が乱入してくるかわからない。そのとき、この少ない装備で夏美を
守り敵を倒すことが出来るのか。もし今この瞬間背後から襲撃されたら・・・。
理性はそう叱咤する。しかし身体は麻痺したかのように動かなかった。
薄いパジャマの布地をとおして、夏美の不安が伝わってくる。
さらに鼻腔をくすぐる夏美のからだの匂いに刺激され、ギロロは狼狽した。
「―――なによ、イヤそうに。・・・あたしのこと・・す、好きなんでしょ?」
「・・・・・・・ああ。」
「あたしはッ・・・・アンタのことなんか」
夏美がギロロの胸に顔をうずめたまま口早にののしった。
「アンタなんてカエルだし、侵略者だし。おまけに軍事マニアだしすぐ暴
走するし、あたしの誕生日の時だって・・女の子にあげるプレゼントって
ものがゼンゼン解ってないしッ!―――そのくせあたしがピンチのときは
たいてい気がついてくれて、助けるために毎回大ケガしてッ・・・!
・・・バカじゃないのッ?!―――し、死んだらどうすんのよッ!!」
夏美が涙をためた目を仰向けて、ギロロをにらんだ。
その桜貝のようなちいさな唇がキスをせがむ。
動転したギロロが、ためらいながらもぎこちなく夏美の額に唇をあてた。
―――ちがう、というように、夏美がじれて顔をあげる。
躊躇するギロロの表情を見て夏美の目が揺れた。悔しげに唇を噛んで顔を
そむける。その長い睫毛がせつなげにふるえ伏せられた。涙が、こぼれる。
ギロロの指が夏美の濡れたほおにかけられた。
その指先がほそい顎をとらえ、そっと仰向ける。
ギロロが無言で身体をかがめる。
やがてふたりの唇が―――しずかに重なった。
唇を重ねたことで、ギロロの眼に暗い激情のひかりが宿った。
夏美の首に指を廻しそのまま強く引寄せる。キスが深く激しいものとなった。
「――――ん!・・・・んんッ・・・・!!!」
夏美が腕のなかでびくッとふるえた。
ギロロが着ている戦闘服のシャツの胸に夏美が爪を立てる。
シャツの布地がギュウッと夏美のゆびさきで絞られ、しわを寄せた。
「ふ・・・・ッ!――――は、あッ・・・!!」
噛みつくような激しいキスから解放され、夏美が甘い吐息をもらした。
「―――――あっ・・・・・!」
そのままギロロの唇が夏美の咽喉をぬらしてゆく。
唇が動くたび、やるせなげに咽喉をそらした夏美が浅くせつない呼吸をも
らす。夏美がギロロの首を抱きしめた。ほそいゆびさきでそっと引寄せる。
夏美のパジャマの、チャイナカラーの襟が邪魔だった。
ギロロの指がいらだたしげに合わせ目にかけられる。
しばし格闘するその指先に、夏美のゆびがやさしくかけられた。
顔を赤らめながらパジャマのボタンをひとつずつ外してゆく。
パジャマの内側、むきだしの背に手を廻したギロロが強く夏美を抱き寄せた。
そのまま夏美の腰を浮かし手を滑らせて一気にパジャマのズボンを剥ぐ。
夏美をベッドのマットレスに激しく押しつけると、その腕を引き抜くよう
に上着を脱がせる。ブラのはずしかたを知らぬギロロが無理やり剥ぐよう
に生地を強く引き下げた。その性急さに夏美がたまらず悲鳴をあげる。
「ちょ、ちょっとッ・・・・!待ちなさいよッ!!」
ギロロが動きを止めた。
息を切らせて上体を起こす夏美の顎に、うつむいたギロロの髪が触れる。
ギロロの頭が崩れ落ちるようにかしいだ。そのまま夏美のやわらかな胸の
谷間に顔をうずめる。ややあって、ギロロのふるえる声が夏美の耳に届いた。
「・・・・にわかには信じられん。ここに今、こうして・・俺の腕のなかにいる
のは本当に夏美なのか?――俺はまた、夢かなにかを見ているんじゃない
のか・・・・・・・・?」
ギロロの肩がかすかに震えている。それを見て夏美が吐息をついた。
「・・・・・バカね。」
夏美がギロロの頭を小突いた。その耳のコードレスヘッドホンに触れ
ないように、夏美がそっとゆびを頭にかける。
「ほんとにバカ。・・・・だいたい背中にちゃんとホックがあるじゃないのよ。
それをはずせばカンタンに脱がせられるんだからねッ!――――女の子の
カラダはもっと大事に扱いなさいよ・・・・バカ。」
夏美のゆびがギロロの指を背中にいざない、ブラのホックを外させた。
「ホラ見なさい。―――――カンタンでしょ?」
「・・・・・さっぱりわからん。」
ギロロが途方にくれた声を出し、夏美をあきれたように微笑ませた。
「俺にとっては――――ランチャーとマシンガンとバズーカを同時に分解
して組み立てる方が、よほどラクだ。」
「はあっ・・・―――あッ!――――あ、んんッ・・・あっ」
青みを残した新鮮な果実のような夏美の乳を、ギロロの指と唇が溶か
してゆく。敏感な乳の先端が、濡れて硬く尖った。
ギロロの指のあいだでやわらかなその肉がかたちを変えるたび、夏美の唇
がかすかにふるえ甘いうめきを漏らし続ける。
夏美の鎖骨に唇を這わせたギロロの指が、乳をすぎへそを越えて下腹部に
すべりおりた。白いちいさな下着の内側に、その硬い指が潜りこむ。
すでにその布地はぐっしょりと濡れそぼっていた。
ギロロに触れられて夏美が高い声を放った。
「ひゃうッ!!・・・・・・ひ、あぁああッ!!!」
ギロロが夏美の腰を浮かせてその最後の布地を剥がしにかかった。
夏美の秘所を弄う動きはそのまま、片手で太ももの内側を押し上げて下着
を脱がせる。快感に涙をにじませて狂おしく乱れる、一糸まとわぬ夏美の
裸身をギロロがしずかに見おろした。
その視線に気づいた夏美が、羞恥に身をよじらせる。
「あッ―――やぁッ!・・・明かり・・をッ――――消してッ・・・・・・」
「――――駄目だ。・・・・・消さない。」
どこか哀しそうにギロロが首を振った。
「や・・・んんッ!―――おねが・・ッ・・・・・は、恥ずかしい、よぉ・・・っ!」
なみだを浮かべて夏美が懇願した。しかしギロロは聞き入れない。
「駄目だ・・・・―――――。」
ギロロの声にくるしい、切実な響きがにじんだ。夏美が太ももを閉じる
こともいっさい許さない。
「んんんッ・・・や、あぁ―――・・ッ!・・あ、あぁあッ・・ひぃっ・・くぅッ・・!」
夏美の全身が桜色に染まる。
ギロロの静かすぎる視線を意識すればするほど、夏美は乱れた。
拒む言葉とは裏腹に、秘所がヒクヒクと小刻みに呑みこんだ指を締めつける。
その収縮のたびに内側からこぽりと蜜が溢れだして、ギロロの指をさらに
濡らしてゆく。―――快楽はとろけるように甘美であった。
羞恥にふるえ顔を覆う夏美のゆびを引き剥がし、ギロロが唇を重ねる。
そのまま夏美の体内から指を抜き、太ももを押しあげるとズボンを弛めた
ギロロが深く夏美に押し入った。
夏美がその未経験の衝撃に息を呑み、身を弓なりにそらせる。
「ひッ!!ひ、あぁあああッ!!あ、あ―――――あぁあッ!!!」
その声に痛みを聞きとったギロロが、なおも身体をめぐる暗く激しい
破壊衝動に耐えて動きを止める。
汗ばんだ夏美の髪を撫でつけ、ギロロがその額に唇を押しあてた。
夏美の唇が唇を求める。
そこから漏れる切れ切れの声を、ギロロの唇が吸い取った。
ゆるやかに舌がからむ。しばらくして夏美が甘い吐息をもらした。
「はぅ・・・・・あっ・・・・・ぅあっ・・・・あッ・・――――やッ・・・!」
びくびくッと夏美のからだが跳ねた。
「―――や・・・んッ、ギロロ―――。そんな・・うごいちゃ、ダメだってば・・ッ!」
「俺は動いていない。・・・・動いているのはお前だ、夏美。」
「・・・・・・・え?――――ウソぉ・・・・?」
ギロロが抽迭を開始した。
からだを貫くその動きに、おおきくずり上がった夏美が高い声を放つ。
「――――やはり、辛いか?」
ギロロが抽迭を止めて、夏美の顔を覗きこんだ。
夏美がその首に両手を廻す。声をあげながら、ようよう夏美が答えた。
「ぅあッ・・・!――こ、こんなこと、していいの・・・今だけなんだからねッ!」
「―――――?」
「あッ・・・!あたし、は――地球ボーエーのためにッ・・・シンリャク、者に
気をゆるすつもりは―――いっさいないんだから・・・・っ!!」
夏美の紅く染まった顔がギロロの肩に伏せられた。
おさない子供が果実にかぶりつくように夏美がギロロの肩に甘く歯を立てる。
だだをこねるような夏美の声が、ごくちいさくギロロの耳に届いた。
「い、いまだけなんだからッ!だから・・・――だからッやめちゃ・・ヤだッ!
・・や・・・やめない、でッ・・・・つづけて・・・・ぇッ!!」
「・・・・―――――了解。」
言わんとすることをやっと理解したギロロが、小さく苦笑を漏らした。
そのまま抽迭を再開する。夏美の甘い声がさらに高くなった。
ギロロが身体を起こし、夏美を抱き寄せて持ち上げた。
貫かれたまま夏美がギロロの膝の上に乗り、座るように身を沈めさせられる。
夏美がギロロの首を抱きしめその腰を足で挟みこんだ。
夏美の体重がかかり、結合がよりいっそう深くなる。
「ひあッ!!――――んっ!・・・・く、うぅ・・・・・っ!!!」
夏美のいまだ未成熟な秘所がギロロによって埋められ制圧されてゆく。
ギロロが夏美の腰に手を廻して、ゆるく動いた。
夏美がきゃしゃな咽喉をそらせて、あらんかぎりの声を放つ。
「は、ぅう―――ッ!!あッ・・・ギロロが・・・・ッ!あたしの――おなかの
なかいっぱいに・・・・はいってる、よぉ・・・・・ッ!!!」
ギロロが激しく動いた。しばし夏美の声が意味を成さないものに変わる。
「ひ、いぃ――――ッ!ひゃぅ・・・ッ!ひッ!も・・ぅ死んじゃうぅッ!――・・」
抽迭は続く。
ギロロを呑みこんだ夏美の体内が、その快感にきつく収縮を繰り返す。
そのからみつくような動きにギロロも苦しげに吐息を漏らした。
快楽に目元を染めた夏美が、ギロロの首筋に爪を立てる。
「ひぃ・・・ッ!あッ!――も、もう・・ダ、メぇっ!いっ―――ッちゃ、うぅ・・ッ!
・・・・・―――っあッ!!あぁあああぁああッ!!!」
最奥を突かれ、夏美の顎と足のゆびさきが引き攣りガクガクとおおきく
ふるえた。唇がかすかにひらき小さな舌が呼吸を求めてあえぐように覗く。
昇りつめた快感に夏美のからだが痙攣し、幾度も収縮する。
そのうごきにギロロも達した。夏美を強く抱きしめてその体内に精を放つ。
腹腔に体液がどくどくッとあふれ満ちる感触に夏美の唇がちいさく震える。
押し寄せるせつなく胸苦しい感情に、ギロロの眼がふいに翳った。
それが何に起因しているのかはギロロ本人にもわからない。
ただ、汗にぬれた夏美の頭を引寄せた。
そのままふたり崩れ落ちるようにしてベッドへ倒れこむ。
なにかに祈るように頭を垂れたまま、ギロロの意識は薄闇に沈んでいった。
そのまま時間がすぎた。
―――5分?・・・それとも10分ほどの間であったであろうか。
ふいにギロロが素早く身体を起こした。
腕をからめたまま夏美がかすむ目をひらいて、ぼんやりとギロロを見やる。
「・・・・・なに?――――どう、したのよ・・・?」
ギロロが夏美を振り返った。
その手がヘッドホンを掴み、別人のような険しい表情で耳をそばだてる。
「―――――まさか・・・・・外に?」
ギロロが人差し指を唇にあてた。眼を閉じて意識を集中させる。
―――屋根を踏む音。・・・かなりの重量・・・・。これはドロロではない。
むろん鳥や小動物ではありえない。――――そしてかすかに、硬い金属音。
例えるならミサイルを装填するときのような・・・・。一弾、続いてまた一弾。
庭先で眠っていたネコが嬉しげに鳴き、屋根に飛び移って駆け寄る小さな
気配があった。
だがそばに寄ってなにかを感じたのかその鳴き声がフゥ〜ッ!と警戒した
唸り声に変わる。・・・・・・・・・・間違いない。奴だ!!!
ギロロは飛び起きた。
ヘッドホンを外し身なりを整え、手持ちの武器を装備する。
「アンタだけに任せておけないわッ!・・・・パワードなんとかってヤツ、
そこに持っているんでしょッ?」
夏美が毛布で胸を押さえつつ、身を起こした。
「・・・・・・・・ああ。これだ。」
ギロロが微妙な表情で振り向き、夏美に変身チョーカーを手渡す。
夏美がパワードスーツを発動させるのと、ギロロが夏美の首すじに隠し持っ
ていた麻酔薬のアンプルを注射するのとがほとんど同時だった。
アンプルを注入しながら、せつない声でギロロが言う。
「――――すまんな、夏美。・・・・・・・・・・大丈夫だ。何も心配は要らない。
パワードスーツはかならずお前を守りきるだろう。
もしも目が覚めて俺の姿がないそのときは・・・・・ドロロを頼れ。朝になれば
きっとケロロたちも合流するはずだ。―――――頼む。無事でいてくれ。」
「ば・・・・かッ・・・!―――アンタって・・・ほんと、に・・・ッ」
パワードスーツに身を包んだ夏美が、意識を失ってギロロの腕に崩れ
落ちた。ギロロが夏美を抱えあげてクローゼットの中にその姿を隠す。
吊るされた冬物のコートの間で無心に眠る夏美の頭を、ギロロが一瞬つよく
かき抱いた。だがすぐさま生木を裂くようにして身体を離し、パワードスー
ツを最大防御モードに切り替える。
ギロロが扉を閉めて身構えたと同時に、ミサイルが部屋を襲った。
飛来する複数のミサイルをマシンガンで爆破させる。
弾切れで用を成さなくなったそれを、ギロロは壁に出来た穴に投げつけた。
「―――ほう?襲撃を予期したか。完全に腑抜けた訳でもないらしいな。
・・・・・だがそれも終わりだ。」
飛んできたマシンガンをライフルで受けつつ、闇の中から左肩を止血
したギロっぺが現れた。
投げナイフの要領でギロロが果物ナイフと包丁をすばやく投げる。
ギロっぺがかわすその瞬間に、ギロロが大きく踏み込んだ。
ビームサーベルでライフルを斬りつけ叩き落とす。
隣の部屋のトラップを回収している暇はない。
こちらに銃がない以上、なんとしても封じねばならなかった。
ライフルを落としたギロっぺが同じくビームサーベルを抜き、応戦する。
ビームサーベル同士がかち合う激しい音が鳴り響いた。
剣をまじえ、鍔で迫りあう。
どちらも譲らぬ緊迫した渾身の力くらべが続いた。
片腕の不利で、徐々に力押しされたギロっぺがふいに身体を倒した。
そのまま床に身を投げ、足元のビームライフルを掴み、引金を絞る。
銃声とともにギロロの腿に穴が開いた。
苦鳴をあげ、ビームサーベルを持ったままギロロが床に崩れる。
その足を踏みつけハンドガンに持ち替えたギロっぺが、にやりと笑った。
「――――これで・・・ジ・エンドだ。じゃあな、オリジナル。」
その瞬間。
後ろ手に整髪スプレーを掴んだギロロが、ビームサーベルに交差させて
スプレーを発射した。
火気厳禁のその噴射がビームサーベルの熱を受けて臨時の火炎放射器となる。
紅蓮の炎がギロっぺの顔を焼いた。
その隙にギロロが一閃、ハンドガンを蹴り上げる。
手から落ちたそれをギロロが受け取った。
「・・・・その通りだ。だがそいつは俺のセリフだな。――もう、終わりにしようぜ。」
狙いを定めて、引金を巻いた銃把の布地を強く引き絞る。
撃ち抜かれたギロっぺの姿が消滅した。
手首を返し、銃床のナルトマークを押したギロロが自らのこめかみに銃口
をあてて引金を引いた。
ピ―――――ッ!!となにかが解除されるような電子音が響き渡る。
安堵したギロロが、がくりと身体を床に任せた。
腿から痺れるような疼痛が伝わってくる。
もはや指一本たりとも動かしたくはなかった。
ちからを使い果たし、体力はひとしずくも残ってはいない。
ただからだが床に沈みこむような疲れを全身に感じた。
意識の向こうでギロロは、軽やかな複数の足音を聞いた気がした。
おそらくドロロや、基地を復旧させたケロロたちなのだろう。
――――衣装ケースのなかの夏美を、皆に告げて早く解放してやらねば・・・。
そう思いながらも、視界がぼやけかすんでゆくのを止められない。
東の空が白みはじめている。
激戦の爪あとが残る夏美の部屋の床に身体を投げ出しながら、ギロロは
やがて夢も見ぬ眠りに沈み込んでいった。
〈END〉