人生には、岐路というものがいくつか訪れる。  
 それは後戻りの出来ない迷路の分岐にも似て、選ばなかった方の道の行き先は分からない。  
いや、選んでいるつもりで、違うかも知れない。アミダクジのように絶対にそちらに行かなくては  
いけないようになっているのか。  
 どちらにせよ、「選ばなかった方になにがあるのか」が分からないという点では、似たようなもの  
なのかも、だ。  
 ケロロ小隊のアサシンとして地球に派遣されなければ。  
 あの日忍野村で罠にかからなければ。  
 今のゼロロ改めドロロは誕生しなかった訳だ。  
 人生は何が起こるか分からない。  
 ドロロにとっていくつ目かの岐路は、まさに目の前にあった。  
 
 
 日向家地下に広がるケロロ小隊地球侵略最前線基地。   
「ク、クルル殿、落ち着くでござるよ!」  
 焦りに焦ったドロロの声が、クルルズラボに響き渡る。  
 仲間だから油断で一服盛られているのにも気付かずクルルの出したお茶を飲んでしまった  
 
ドロロは、硬いベッドの上に身動き一つ取れないように両手両足を縛り付けられた姿で目を  
 
覚ました。それが今から3分程前のことだ。  
 まず自分の置かれている状況を把握するのに30秒。ここがどこであるかを確認するのに  
 
さらに30秒。のらりくらりとドロロの質問をかわすクルルを問い詰めるのに、残りの2分を  
費やしていたが、成果は何一つなかった。  
 
 ぎゅっと目を閉じてイヤイヤをするように首を振るドロロに、クルルは口元に手を左手当  
 
てクックッと笑い声を漏らす。  
 クルルの右手には注射器が握られていた。手術室のような眩しい照明に、透明な液が伝う  
 
注射針がきらりと光る。その中には、クルルの最新発明品である薬が入っているのだ。いっそ  
禍々しい色をしていればこれから起こるのが惨事だとわかり易いのだが、性質の悪いことに  
注射器の中の薬は蒸留水のように無色透明だ。それが逆に、これを打たれるとどうなるのかと  
想像出来なくて悪い妄想ばかりが膨らんでしまう。普段冷静なドロロが叫ぶのも無理はない。  
 余裕たっぷりのクルルはわざとゆっくりベッドに近付く。  
「俺はいつでも落ち着いてるぜぇ〜。まぁ、悪いようにはしねぇからよ、クークックックッ  
 
クッ」  
「嘘でござるよ! 助けてっ、ケロロ君、小雪殿ぉ!」  
 クルルの言葉は信用出来ないにも程がある。  
 悲痛な悲鳴は今頃学校で授業を受けている小雪どころか、ケロン人スーツ着用でいつもの  
 
オモチャ屋に向かっているケロロにも、テントの中で日課の銃磨きをしているギロロにも、  
 
西澤邸でお菓子を口いっぱいに頬張っているタタマにも、活断層の観察に出かけてしまった  
 
モアにも、誰の耳にも届きはせず、無常にもぷすりと腕に注射針が刺さるのを止めてくれる  
 
救世主は現れなかった。続いて液が注入される、筋肉注射独特の痛み。得体の知れない薬品を  
うたれたショックで、貧血を起こしそうになる。それはドロロのトラウマ手帳に新たなる1ページが  
追加された瞬間でもあった。  
 針が抜かれて、クルルは手際よく止血にと脱脂綿を貼り付ける。  
 こうなってはどうしようもないと、やっと諦めの境地に至ったドロロは大声の上げすぎで掠れた声で  
問いかけた。  
「クルル殿、一体この薬はどのような効能なのでござるか?」  
「説明してなかったっけな。この薬の名前は、強制恋愛発動(オマエハスデニホレテイル)薬。  
この薬は死環白を刺激するように出来ていて、注射後十五分もすれば一旦気を失い、次に目を  
覚ました時に見た相手を好きになってしまうって効能がある訳だ」  
「そんな薬を拙者にうったのでござるかっ。しかも筈って」  
「臨床実験がまだだったんでな。協力してもらうぜぇ〜」  
 
 さらりと非道な台詞を吐きながら、クルルはドロロの手足の戒めを解いてやる。  
 ふらふらとする身体を起こしたドロロに、クルルは追い討ちにように告げた。  
「早く出てかないと、俺かモアに情愛を捧げる羽目になっちまうぜ」  
 クルルの言葉に慌てたドロロはベッドを蹴って姿を消す。一瞬にして見えなくなった姿が  
どこにあるのか見当をつけて、クルルは天井に呼びかけた。  
「薬の効果は24時間。そこまで誰の顔も見ずに済めばアンタの勝ちだ。見た場合は……  
その時のお楽しみだな。健闘を祈ってるぜぇ、クックックッ」  
 最初に盛った薬で気を失っているドロロに取り付けた発信機は、今のパニックぶりを見れば  
発見される確立は極めて低いだろう。万一発見されてしまったとしても、ドロロの行き先くらいは  
予想はつくので先手を打ってある。小雪宅以外にあの状態のドロロが逃げる場所はない。  
小雪を巻き込むのは不本意だろうが、うっかり道端で行き倒れた場合、洒落にならない  
事態に発展する可能性が高いのだ。その位の判断力はドロロに残っている。ドロロの性格上、  
小雪の家の何処かに姿を隠すに違いなかった。後は小雪がそれを見つけるかどうかだ。  
 首尾は上々だと呟きながら、クルルは臨床の経過を見守るべく、上機嫌で己のパソコンの  
 
スイッチを入れた。  
 
 
 壁に仕掛けられたどんでん返しの出入り口を通り、ドロロはふらつく足取りで  
家の中へと辿り着いていた。  
ぐるぐると回る視界に、クルルの言っていた気絶までのタイムリミットがすぐそこまで  
きているのをドロロは悟る。  
 しかしここで倒れる訳にはいかなかった。二人が食事を取る居間で寝込んでしまえば、  
小雪に見つかるのは必然。インド象が墓場を探すように、ドロロは隠れる場所を探そうと  
した。  
 が、しかし。  
 次の瞬間ドロロの目の前にあったのは、木目だった。それで自分が倒れたのだと知る。  
不思議と痛みはない。神経が麻痺してきているのだろう。   
「ここで倒れる訳には……」  
 両手を着き身体を起こそうとする。だが萎えた腕には力が入らず、ドロロは無常にも  
再び床に崩れた。  
「小雪殿、ごめんなさい、で……ござ…………」  
 気を失う寸前に瞼の裏に浮かんだのは、無邪気に笑う小雪の顔であった。  
 
 
 短い夢を見た。  
 今はもうない、あの森の中の小さな村。濃厚なマイナスイオンの漂う、雨上がりの  
木々の濡れた匂い。晴れた日の空。降り注ぐ木漏れ日の美しさ。初めて見た蛍火。  
 どう見ても怪しい自分を、河童だとからかいながら受け入れてくれた優しい人々。  
 初めて読む書物。伝授された技。  
 ――――僕はずっと誰といた?  
 妹のような、姉のような。  
 ――――僕は誰に助けられた?  
 天使のような、子猫のような。  
 やんちゃな笑顔。修行の辛さにめげない笑顔。  
 真っ直ぐに空を見上げる厳しい顔。凛伸びた背筋。  
 ――――あれは誰だった?  
 
 自然と調和したあの世界で、僕は地球の素晴らしさとそこに生きる全ての生き物への  
愛しさを知った。目に映るもののすべてが愛しいなんて、故郷にいた時に感じたことの  
ない感覚だった。  
 ――――その中心には誰がいた?  
 この星に来る為に僕は生まれたのかも知れない。出会う為に、僕は生まれたのかも  
知れない。そう告げられたなら、僕は喜んでその運命を享受する。  
 ここには彼女がいる。彼女の笑顔がある。  
 僕の一番大切な――――  
 
 
「ドロロ、ドーローロ!」  
 耳元で呼びかけられる声と、頬をぺちぺちと叩かれる感触に、ドロロはゆっくりと  
重たい瞼を開いた。薬の効果は絶大で、気を失うまで心の中にあった「小雪殿を巻き  
込んではいけない」という思いも、ドロロの頭の中にはなかった。  
 それを思い出したのは、瞼が開ききる寸前。あっと思ったけれど、間に合う筈もない。  
ドロロは自分を覗き込んでくる少女の心配そうな表情が、ぱぁっと明るくなるのを間近で  
見てしまう。  
「良かったぁ、目を覚ましてくれて」  
「小雪殿」  
「こんな所で倒れてるんだもん。どうしたの、ドロロ?」  
「い、いや、ちょっと」  
 まさかクルルに怪しい薬を打たれて気を失っていたとは言い難い。  
 まだまだケロロ小隊の黒い部分に触れていない小雪に、ドロロのお友達って……と  
思われるのは何となく抵抗があった。人体実験を強要するお友達。有り得ない。  
「ふぅん、まぁいっか」  
「それより小雪殿、学校から帰られて間なしでござるか?」  
「うん。帰ってきたらドロロが倒れてるんだもん。心配したよ」  
「かたじけないでござる……」  
 拙者が悪い訳ではないのでござるが、と思いつつも、律儀なドロロは頭を下げた。  
「いいよー、ドロロが大丈夫ならそれでいいんだし」  
 気にしていないと明るい声にドロロが顔を上げると、小雪は制服のスカートに  
手を掛けている所だった。  
 
「小雪殿! 一体なにをっ」  
「えっ?着替えるだけだよ。学校から帰ったら、制服から着替えないと」  
「はう、そ、その通りでござるな」  
「変なドロロぉ〜」  
 小首を傾げてドロロを眺めながら、小雪はあっさりとスカートを落としてしまう。  
元よりドロロに対して肌を晒すのに抵抗のない小雪は、今までも目の前で着替え  
始めることはあった。紳士なドロロは常々見ないように心掛けてはいたのだが。  
 すらりと健康的に伸びた美脚を直視出来なくて、ドロロは床に頭を打ち付けん  
ばかりの勢いで俯いた。  
 どくん、と全身を血が駆け巡る。激しく脈打つ心臓。物凄い勢いで頬が熱くなる。  
 身体がおかしい。いや、比喩でもなんでもなくて。  
 ドロロは自分の手の甲を見た。念の為に、裏返して手の平も。そして我が目を疑った。  
「……ナンジャコリャー!」  
 叫び声に、上着も脱いで下着姿も眩しい小雪が振り返った。  
「ド、ロロ?」  
 小雪の大きな目がさらに見開かれる。  
 確認するように呟かれた声に、ドロロは見間違いではなかったのだと愕然とした。  
 床にへたり込んでいるドロロは、どこからどう見ても人間の男性であった。  
 気弱に見える青年の縋るような視線に、小雪はドロロの前に駆け寄った。膝を  
ついて、その頬にそっと触れてみる。  
「すごい、ドロロ!いつの間にこんな変化の術を覚えたの?」  
「違うでござる。これはクルル殿の発明で」  
「うわー、ドロロのお友達はすごいねぇ。ちゃんと人の姿だよ。そっかぁ、ドロロが  
人間だったらこんな風なんだ」  
 瞳をキラキラと輝かせてクルルを賞賛する小雪に、ドロロはひきつる頬を宥めて  
笑顔を作った。小雪はペタペタとドロロのあちこちを触って、すごいすごいを  
連発している。ドロロだって、事情が事情でなければクルルに喝采を送りたい所では  
あった。  
 人間になる。それは侵略をする上では、非常に有効な場合もあるだろう。  
 だが、この状況ではどうだろう。全身を駆け巡る血が、一ヶ所に余分に集まって  
しまいそうな、今のドロロには。  
 ドロロの膝に手を突き、伸び上がるように顔を覗きこむ小雪から、ふわりと  
いい匂いが漂う。  
 ――――小雪殿は、女性なんだ……。  
 今更ながらにドロロは再確認をした。  
 
 艶やかな黒髪も、柔らかそうな頬も。多彩な表情を見せる瞳は小雪の裏表ない  
性格をよく表していて、ドロロは思わず見惚れてしまう。今まで微笑ましく  
愛情を抱かせていた小雪の全てが、今はドロロの本能を刺激する。  
 触れたいと、思う気持ちが何処から来るのか。  
 腕の中に閉じ込め、全てを奪ってしまいたい。小雪の真っ黒な宝石のような瞳に、  
自分の姿だけを写させたい。  
 ドロロは己を戒めるように首を激しく左右に振った。  
 これがクルルから投与された薬の効果なら、尚更小雪に触れてしまう訳には  
いかなかった。  
 自分の持つ愛情の根底にあるのは、小雪が大切だと思う気持ちだけだ。  
 誰よりもいとおしい少女が幸せになっていくのを側で見ていたい。お互いに慈しみ、  
支えあってきた関係なのだから。  
 逡巡は陰陽の模様みたいで、二つの想いが交じり合うことはない。  
 ドロロの葛藤は伝わらず、小雪はふふっと笑うと立ち上がった。  
「なんだか良いモノ見ちゃったな。ドロロのお友達に感謝だね」  
「そ、そうでござるか」  
 鼻歌混じりに着替えを再開した小雪は、手早く忍び装束を身に着ける。欲情を  
煽る下着姿が隠されて、ドロロは僅かにほっとした。しかしまだ下半身の昂ぶりは  
収まっては折らず、必死にドロロは気を落ち着ける。  
 欲望に負けてしまえば、翌日後悔の渦に巻き込まれるだけだ。いや、自分が  
後悔するだけならば構わない。小雪を傷つけるような真似だけはしたくなかった。  
 昔ながらの忍者屋敷を再現している、質素な台所へと向かおうとした小雪は  
手つかずのお膳を見つけて問うた。  
「あれ〜、ドロロ、お昼食べてなかったの?」  
「う、その、気を失っていて……」  
「そんな長い時間倒れてたんだ。風邪ひいてない?」  
「大丈夫でござるよ。拙者、子供の頃とは違い、もう身体はかなり丈夫になって  
いるので」  
「ふふっ、その姿で『ござる』って言うと違和感あるね」  
「そうでござるか?」  
「そうだよー。でも、それがドロロだもんね。じゃぁ、今日は私がご飯作って  
あげるよ」  
「かたじけない」  
 混乱しつつも習性で軽く頭を下げたドロロに、小雪は微笑む。  
 
 そうだ、小雪殿はいつも拙者を気遣ってくれる。小雪殿を裏切る訳にはいかぬ。  
 何と言ってもまだ小雪殿は少女。そう、夏美殿と同じではござらんか。……そういえば  
ギロロ君は夏美殿が好きなんだっけ。そうだよね、ギロロ君も年下の女の子を  
好きになっちゃったんだもんね。僕たち友達だよね!ここはひとつギロロ君と話をして  
頭を冷やしたらどうかな。でもギロロ君に相談してたらケロロ君にもバレそうだし。  
ケロロ君にばれたら……想像したくない。あ、脱線してるでござる。   
 えーっと、そうそう。やはり拙者、この場合節度をもって大人の対応をするが  
吉でござるよ。何故ならば小雪殿を守ることは、地球の自然を守るも同然。道に咲く花を  
手折るのは無粋な行いでござ……って、拙者以前高い所に咲いている百合を欲しがっている  
女の子の為に「許せ花よ一本を切らば二本を植えよう」って花を切ったっけなぁ……。  
じゃぁ小雪殿を手折ったらその分……ってダメダメ、とにかく僕が24時間我慢出来れば  
勝ちなんだ!  
 
 耐久レースの覚悟を固め、決意も新たに拳を握ろうとしたのだけれど。   
 ふにっ。  
 ――――『ふにっ』?  
 すぼめた拳の中に、柔らかい感触。ドロロは飛び上がりそうになる。  
 無意識の恐ろしさなのか、身体は正直なのか。ドロロは後ろから木の台で作られた  
台所で、夕餉の支度をしようとした小雪を抱きしめていた。しかも右手は小雪の胸の  
ふくらみを包み込んでいる。左腕は逃がさないぞとばかりに腰に回されていた。  
柔らかさの正体はこれかと、ドロロの頭の中の残り僅かな冷静な部分が判断をする。  
「ド、ドロ……っ」  
 驚いたのは勿論小雪も同じで、素早い動きで振り返ろうとする。しかしそれよりも  
早く、ドロロは半分振り返った小雪の唇を塞いでいた。  
 
 初めてのキスは、とても不自然な体勢だった。  
 ドロロの手は小雪の胸を探るのをやめない。やめられない。  
 理性と本能のせめぎ合い。  
 誰よりも愛しい少女。誰にも渡したくない少女。そんな少女が手の中にいる。  
「ふぅ……、ん〜、」  
 くぐもった声が重なっている唇の隙間から漏れる。抗議なのかそれとも別の何かなのか。  
ぴったりと密着する身体。。小雪にはドロロの欲望が伝わってしまっている。  
 合わせ目から手を忍び込ませて、ドロロは目の粗い帷子越しに小雪の肌に触れた。  
熱かった。やわやわと乳房を揉みしだくと、手の平に立ち上がりかけた突起の感触がする。  
 感じているのか、ドロロの手の平が円を描くように動くと、小雪は身体を震わせる。  
思い切ったようにドロロは小雪の忍び装束の前をはだけさせた。  
 ぷっくりと立ち上がる乳首を骨ばった指が優しく捏ね回す。小雪は台所にしがみ  
付くのがやっとだ。  
 抵抗らしい抵抗が返らないのに、ドロロが気付く余裕はなかった。腰に回していた  
左手が、そっと下に下ろされる。引き締まった太腿の内側を撫で上げると、躊躇いなく  
ドロロは小雪の足の付け根へと指を這わせた。  
 薄い下着越しに触れるそこは、しっとりと湿り気を帯びていた。自分の指に小雪が  
多少なりとも感じてくれていると、ドロロは嬉しくなる。本の中の知識で得た、  
地球人の身体の仕組みを思い出しながら、ドロロは女性の身体の中で最も敏感な部分を  
刺激する。  
 小雪は何も出来ずに台所にしがみ付くだけだ。がくがくと震える膝。しかしドロロの腕が  
崩れ落ちることを許さない。身体の奥に灯る懊悩の炎。ぐっしょりと濡れ始めたそこが、  
指を滑らせる度にいやらしい音を立てた。何度も何度も丁寧に繰り返される愛撫。  
塞がれた唇から漏れるのは、いつの間にか戸惑いではなく甘い吐息に変化していた。  
 ドロロは思い切ってショーツの中に指を滑り込ませた。言い訳出来ない程濡れた  
浅い谷間を同じように愛撫する。硬くなったそれを指で摘むと。  
「んっ、んんー!」  
 一際高い声を上げた小雪は、背逸らしながら達してしまう。くたりと力が抜けた小雪は、  
ドロロの腕に支えられながらも床に膝をつく。  
 僅かに唇が離れる。しかし二人の間に距離はない。  
「小雪殿……」  
「ドロロぉ……」  
 呼び合う声はどこまでも甘く、お互いに求めるものは同じだった。  
「いいでござるか?」  
 耳元で囁かれるドロロの掠れた声に、小雪は小さく頷いた。それを合図にドロロは  
小雪の膝の裏に手を入れて抱き上げる。落とさないように慎重に、二人の褥へと足を  
向ける。  
 元から薄暗い室内。質素な茣蓙の上に小雪を寝かせると、ドロロは行為を再開させた。  
 そっと顔を近づけると、小雪はくすぐったそうに睫毛を伏せる。  
 二度目にキスは、合意だった。  
 啄ばむように触れては離れる。   
 その間も手は休まずに帯を解き、小雪の均整の取れた細身の身体を外気の中に  
晒させた。引き締まりつつも女性としての丸みを残した身体に、ドロロの目は吸い寄せ  
られる。視線に気付いた小雪はぎゅっとドロロの頬を抓りながら、恥ずかしそうに  
言った。  
「あんまり見ちゃ駄目」  
「こ、心得た。でも小雪殿」  
「ん?」  
「奇麗、で、ござるよ……」  
 言った方も言われた方も赤くなってしまう。気恥ずかしい雰囲気は今まで二人で  
過ごした日々になかったもので、それ故ドロロは心臓をきゅっと掴まれる。  
「大切にするでござる」  
「うん……」  
 プロポーズみたいだと思ったのは、再び行為が再開されてから。  
 ドロロは小雪の狭い中に、蜜の力を借りて指を埋めていく。実際、経験のない小雪の  
そこは指一本を飲み込むのさえ苦労する。しかし根気よく愛撫を続けていく内に柔らかく  
解け始め、なんとかドロロ自身を飲み込めるまで慣れてくる。  
 
 痛い位に張り詰めた昂ぶりを入り口に宛がうと、小雪はぎゅっと目を閉じた。丸みの  
残る頬をそっと撫ぜてやり、ドロロは身体を進める。  
「いっ――――、くぅっ」  
「すまないでござる……」  
「いい、よ、ドロロだもん。わたし、だいじょーぶ……だよ」  
 痛ましげに顔を歪めたドロロは、破瓜の痛みに耐える小雪の気丈な笑顔に助けられて、  
最奥までようやく到達する。  
「小雪殿、拙者、果報者でござるよ……」  
 思わず零れたのは、本音だった。  
 ひとつになる、という意味をドロロは知る。  
 目じりに溜まった涙も、薄紅色に色づく肌も、全て自分のものであり、またドロロも  
小雪のものだった。  
「動いて、いいよ」  
「痛かったら、ちゃんと申告をお願いするでござる」  
「心得た」  
 目だけで微笑み合って、ドロロは抽迭を開始した。  
「はうっ、……あっ、はぁ……っ」  
 熱く溶ける小雪の秘所はドロロをきつく締め上げる。湧き上がる快感に突き動かされて  
ドロロは小雪を貪るように抱いた。小雪の声から痛みが消え始めるのに、ドロロは  
口角を上げる。さらに深く穿つと、小雪は泣き声を上げてドロロの背にしがみ付いた。  
「くぅ……んっ、ドロロ、きもち、いーよぉ」  
「拙者もでござる」  
「やぁ、も、――――ダメぇっ」  
 探り当てた一点を擦り挙げるように突くドロロに、小雪の中が痙攣したように  
収縮を繰り返す。お互いに限界が近いのを察して、ドロロはラストスパートを開始した。  
「あっ、あぁぁ――――!」  
 小雪の中が今までになくきつくドロロを締め付ける。先程よりも強い快感に、小雪は  
あっけなく上り詰める。何度も跳ねる身体を抱きすくめながら、ドロロも小雪の中に  
欲望を放った。  
 早鐘のような心臓。どれだけ早く走っても、こんなに脈打つことはなかった気が  
した。これが肌を重ねるということかと、ドロロは妙な関心をしたのだが。  
 愛しい少女をもう一度抱きしめようとした腕が上がらない。  
「…………あれ?」  
 目の前がフェードアウトするように暗くなり、ドロロは簡単に気を失った。  
 
 
次にドロロが瞼を上げたのは、昇りたての太陽が投げる眩しい日差しが差し込む  
早朝であった。  
 一瞬にして昨夜の出来事が蘇り、ドロロは跳ね起きる。  
 どくんっ、と心臓が軋む。  
 もし、あれが薬で惑わされた所為ならば。  
 あの感情が、作られたものならば。  
 ――――拙者、腹を、腹を切るでござる〜!  
 地球人からケロン人へと戻った、節々が痛む身体に渇を入れて、ドロロは辺りを  
見回した。  
 気配に気付いたのか、丁度台所から顔を出した小雪と目が合う。先に笑顔になったのは  
ドロロだった。  
「おはようでござる、小雪殿!……あ、いや、昨日はその……」  
 杞憂は一瞬で霧散した。昨日よりももっと愛おしいと、心が叫んだからだ。しかし強引な  
展開で閨に持ち込んだ経緯には代わりがなく、後半はしどろもどろになってしまう。  
 混乱の極みがドロロを襲う。  
 確かに合意ではあった。しかし糾弾されても仕方がない。  
 もし小雪に嫌われたならば、ドロロに今までにないトラウマが植えつけられるで  
あろうことは、確実であった。自覚した瞬間に破滅する恋。嫌過ぎる。  
 足音も立てずに、小雪はドロロの前へと歩み寄った。  
 裁きを待つように、半場土下座の格好で床に両手を着いたドロロの前にしゃがみこむ。  
「ねぇ、ドロロ」  
「はい……でござる」  
「お布団買いに行った方がいいかなぁ」  
「へ?」  
 まったく想像していなかった言葉に、ドロロはきょとんとして無防備に顔を上げた。  
 小雪は笑顔であった。  
「だって、ドロロの膝擦り剥けちゃいそうだよ」  
 いたずらっぽくそう言って、赤くなったままの膝を指先でつつく。  
「この先、これじゃ大変だもんね」  
「小雪殿……」  
 じわぁーっと涙が浮かびそうになる。ドロロは首を振って湿り気を追いやると、小雪の  
手を両手で握った。  
 声に、精一杯の想いを込めて。  
「小雪殿が大好きでござるよ」  
 伝え損ねた言葉を手渡すと、小雪は目を丸くして、それからもう一度蕾が綻ぶように  
笑った。  
「うん、知ってるよー。わたしもね、ドロロが大好きだよ!」  
 桜・朝顔・向日葵・桔梗・牡丹・百合・薔薇。  
 どんな花よりも鮮やかに咲いた小雪は、ドロロが地球で見つけた一番の宝物に  
なった。  
 
 
 
「と、それはそれ、これはこれでござる」  
「クッ?」  
 それから数刻後のクルルズラボに、「成敗!」の声が響いたのは、やはりお約束と  
いうものだろう。  
 
 
【君は人生の花――END】  
 

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