「あら?洗濯物入れてくれたの?」  
昼下がり、日向家に帰宅した秋は驚きの声を上げた。  
居間にはクルルがコーヒーを飲みながらくつろいでいる。  
「クークックック。まぁアンタにはいつも世話になってるからな。」  
そう言いながら立ち上がり、台所のコーヒーポットに手を伸ばす。  
「たまにはこういうのもイイカ……なんてナ。クークックック。」  
静かにコーヒーを秋の前に差し出す。良い香りが居間を漂った。  
「まぁ、嬉しい事してくれるじゃない。ありがと。クルル。」  
秋はにこにこしながらソファに腰掛け、コーヒーカップに口をつける。  
徹夜明けにも関わらず艶めいているその唇に、クルルは分厚い眼鏡越しに視線を走らせた。  
「おいしい。ふふふ、いい香り…ほんとうに…い…い…………あれ?」  
コーヒーが喉を通ったとたんに動きが緩慢になる自分に、秋が戸惑っている。  
「クゥ〜ックックック。」  
その様子を見てクルルは満足そうに笑いだした。秋はクルルをひと睨みする。  
「クルちゃん?あなたこれに何か入れたでしょ?」  
「安心しなヨ。別に毒なんかじゃないぜぇ。イヤ、ちょっとあんたを気持ちよくさせてやろうかっていう、親切心でね。」  
「ああ、睡眠薬ね。でも大丈夫よ。そんなもの飲まなくったって、すぐ……」  
秋はクルルに覆いかぶさるようにクタリと脱力して、眠り込んだ。  
『へ?』  
枕代わりとなったクルルは、秋の頭の下できょとんとしている。  
『なんだ?なんだ?強力な催淫剤を精製した筈なんだが…俺としたことがトチっちまったか?』  
スピーと可愛らしい寝息がクルルにかかる。  
横目で見た寝顔は安心しきっていて、それが無性にクルルを腹立たせた。  
「チッ。」  
舌打ちしてソファから勢いよく飛び降りる。  
秋の頭がガクンと落ちて、その衝撃で秋が目を覚ました。  
クルルはお構い無しに居間を出て行こうとするが、背後から聞こえる秋の声に足を止めた。  
「………ん…」  
艶かしい吐息だった。クルルはニヤリとほくそえむと、ゆっくりと振り返った。  
 
そこには、上気した頬を両手で覆い、太ももをこすりつけるようにモジモジしている秋の姿があった。  
『やっぱナ。俺様天才だぜぇ。』  
ソファに引き返し、秋の隣に腰を下ろす。  
「ク〜クックックック。日向秋、どうだい?気分は。」  
覗き込むように顔を近づけると、秋は焦点の定まらない瞳をクルルに向けた。  
長い睫が小刻みに揺れ、半泣きのようなその顔は、催淫剤を盛った本人であるクルルでさえ  
ドキッとするような色気があった。  
「クル…ちゃん?……クルちゃんなの?」  
蕩けるような声がクルルの耳をくすぐる。  
「そうそう。もっと気持ちよくなりたいだろう?俺で良かっ…」  
クルルの台詞は最後まで続かなかった。  
秋はスクッと立ち上がるとつかつかと玄関に向かって歩き出した。  
「おい、日向秋!」  
思わず大声を出して呼び止める。しかし、秋はとっととガレージに行くとバイクにまたがった。  
「ちょっと出かけてくるわ。あとお願いね、クルちゃん。」  
秋はそう言いうと、呆然とたたずむクルルを残し、爆音と共に去っていった。  
『なんだってんだよ、アレは。どうなってんだよ?何処行こうっていうんだよ!』  
訳がわからないまま、に乗ってシールドを張ると、慌てて秋を追いかけた。  
 
 
マンションの一角に秋のバイクを発見し降下していく。  
バタンとドアが閉まる音がしたので、ベランダ側からその部屋を探すことにした。  
すると、その中の一室からうろたえた男の声が聞こえてきた。  
「ひ…日向さん!なにを……!!」  
声の上がった部屋のベランダに着地して、半分空いた窓から侵入する。  
玄関ホールでは、秋が、小太りの男を押し倒し、その上にまたがってTシャツを脱いでいた。  
もどかしげに二の腕が上げられると、たわわな乳房がふるんと現れた。  
下着はTシャツに絡まるように同時に巻きとられ、投げ捨てられる。  
「ごめんね…たまらないの………」  
舌を突き出し、ねじ込むように口に入れるとじゅるじゅると音を立てながら貪りはじめた。  
その間も秋の腕はせわしなく動き、男のチェックのシャツのボタンをはずしていく。  
 
「はふん…!」  
ちゅばっと勢いよく唇を離すと、こんどは唾液の糸を垂らしたまま男の腹を舐め上げた。  
「ふ、ふぁ…あ…ひ…なたさん、そんな、ぼく…編集さんと…そんな…」  
そうか、担当の漫画家か…ぼんやりと考えながらクルルは目の前の絡み合った肢体を眺めていた。  
『あの薬、バッチリ効いてたんじゃねぇかヨ…』  
見たことがない秋の淫らな横顔が、次第にクルルの鼓動を波立たせる。  
「たまにはいいじゃない……ね?…」  
するりとジーンズを脱ぎ捨てると、男の手をとり自分の秘所にあてがった。  
「ん…ンン……ねぇ…お願い……」  
下唇を噛み、はしたなく足をM字に開いて、腰をなすりつけるように男を誘う。  
男は抗いようもなく、指を差し入れる。  
初めはおずおずと、けれど類まれな美しい曲線に妖しげな甘い匂いまで漂わせたその身体に、  
徐々にその動きが激しくなっていく。  
ねちゃ、ねちゃ、と執拗に出し入れし、中を探るようにかき回す。  
2本3本と増えていくたびに、秋は愛嬌をあげ続けた。  
「きぁん!…あん!あぁ…あん!あぁん!……んぁっあっ!っ!」  
小娘のようなカン高い声と、淫らな水音が響く中、クルルはその部屋を後にした。  
『チッ!!……何が“お願い”だよ。けっ。』  
雨交じりの空を飛びながら、吐き捨てるように心の中でつぶやいた。  
 
 
嵐のような雨になった頃、クルルは日向家にたどり着いた。  
玄関の姿見にふと目をやると、そこにはびしょぬれの黄色いカエルが写っていた。  
かなりしょぼかった。  
『ペコポン人なら誰でもいいってか?』  
チェックシャツの小太りの男を苦々しく思い出しながら、ラボに向かう。  
そして、戸棚の奥の変身銃に手を伸ばした。  
 

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