「さてと、そろそろ完了だぜぇ・・・中尉殿。」
怪しい光が満ちる―――ここは日向家地下のクルルズ・ラボ。
部屋にたちこめた白い蒸気。それがすこしずつ晴れるにしたがって、中央にうずくまった軍服の男の姿があらわれる。
「具合はどうですかい?――――ポコペン人の体は。」
「良いようだ。クルル曹長。・・・だが視界の高さに慣れるのは少々時間がかかりそうだな。」
背後から響いた声にこたえながら男はかるく頭をふり、眉間を押さえながら立ちあがった。軍服の胸ポケットからサングラスを取りだして装着する。
「く〜っくっくっく。成功、ですな。・・・どっからみてもポコペン人ですねェ、ガルル中尉殿。」
ラボの主・クルル曹長が姿をあらわす。自分の実験の成果に満足げだ。
「いったい何だって中尉殿みたいな偉いサンが、単身ポコペンなんかに?・・しかも、姿までかえて。」
男――――地球人姿のガルル中尉が答える。
「・・・・極秘任務だ。
といっても、この前線の通信参謀であるお前に言わぬ訳にもいくまいな。
――――――脱走兵の処分、だ。
わざわざこんな辺境の星にまで逃げ込んだケロン人がいる。逃げただけならまだしも、ポコペンに潜伏中の敵性種族と合流したとの
情報があった。機密上捨てておけない。―――まあ、明かせるのはこのくらいだ。
任務の性格上、アサシンのトップであるドロロ兵長にまかせても良いのだが、ケロロ小隊のポコペン侵略を極力、邪魔しないために・・私が派遣された。」
「・・・離脱して敵と合流、かヨ・・・。そりゃドロロ兵長にはまかせておけないねェ、ク〜ックックック」
クルルは、腕を組んでガルルを見上げた。
精悍な、引締まった体型。
軍人らしく短く刈りこまれた、青紫色の髪。
冷徹な意思を感じさせる顔立ち。
―――その表情は濃い黄色の遮光グラスにさえぎられて、外からはまったく
窺わせない。
「そのダテ・サングラスは言われたとおり、対レーザー防護仕様にしておいたぜぇ・・・。ポコペン人になったアンタが
なんちゃってメガネッコだったのは意外な発見でしたがねェ。く〜っくっく」
ガルルも薄く笑う。
「・・狙撃兵が目が悪くてはつとまるまい。私の任務では、視力は生命線だ。敵がレーザー兵器を用いた場合などの、最悪の状況から目を守るためだ。
―――なにしろポコペン人の体は、標的としては大きい。」
「・・・で、なんでまた?」
「姿のことかね?
その脱走兵は当然、追手を予測しているだろう。――つまりこの私を、だ。
何らかの手段でアンチバリアを無効化する対策をとっている公算が高い。・・・私が万が一、現場で元の姿をさらしてしまえばそれが引き金となって
敵性種族・ポコペン人・ケロン軍の全面戦争になりかねない。
ことが大きくなれば、宇宙警察も出てくるだろう。
―――私が奴ならばそうする。おおごとになれば、それだけ逃げる隙も生まれるからな。」
「・・つまり最悪、発見されても目立たぬようにポコペン人の格好を?
――よくよく用心深い男だなアンタ。ご苦労なこった。いや、失敬。中尉殿」
「と、いう訳でこの件は他言無用だ。ケロロ小隊に迷惑をかける気はない。――――協力に感謝する。・・・ところで、クルル曹長。」
去ろうとしたクルルが、すこしギクリとした様子でふりむく。
どうやら彼にとってこの本部の士官は、あまり得意な相手ではないらしかった。
「標的の潜伏場所は、ポコペンの中東地区だと伝えたはずだが・・・。私の衣装がアメリカ合衆国の軍服であることに、何か意味はあるのかね?」
「オヤ。ご存知で。――なに、タイクツな本部勤務の中尉殿に、前線のスリルとサスペンスを楽しんでいただこうと思ってヨ。く〜っくっく」
「・・・お心遣い痛み入るが、遠慮させてもらおう。目立ちたくないのでね。――――着替えをよろしく頼む。」
「アイヨ。・・・それにしても、アンタ本当に可愛げのない野郎だねェ。ガルル中尉殿。」
そしてガルルは着替えをすませ、日向家のある部屋に通された。本軍から輸送機を手配するあいだ、待機するために――だった。
―――本来ならば、前線指揮官であるケロロ隊長や弟とも会っていきたいところだが、任務の性質上そうもゆくまい。
脱走兵の処分などを知れば、ケロロ小隊の士気に影響する。・・・どこか、姿を見せずにすむ場所はないかね?
そう聞かれて、クルルが案内したのは―――夏美の部屋だった。
「ま、ここならウチの連中は絶対足を踏み入れねェな。・・・部屋の持ち主は今頃「学校」つう
ポコペン人養成所に行ってっから、あと3〜4時間はおあつらえ向きに戻ってこないぜぇ・・く〜っくっく。」
――――クルルは、本当に知らなかったのだろうか。
それとも知っていて持ち前の「トラブル&アクシデント」の信条に従ったのか。
・・・学期末には「サンシャメンダン」なる学校行事があり、当番以外の生徒は、全員午前中で帰されてしまうことを・・・。
待ち受ける災難のこともしらず、下校した夏美はご機嫌で階段を登った。
―――今日の午後いっぱいは、なんにも予定がない。小雪ちゃんを誘って、映画でも見に行こうか。それともショッピング?
623さんのラジオの投稿ネタを考える時間にあててもいいな・・。
・・・そんなうきうきした気持ちが吹っ飛んだのは、自分の部屋からするヒトの気配に気がついたからだった。自然と、階段を登る足音を忍ばせる。―――だれ?・・・ううん、こうゆうコトするヤツは、うちじゃアイツしかいない!
そっとドアノブをつかみ、イッキに扉をひらく。
「こぉら〜〜ッッ!ボケガエル!!あたしのいない間にカッテに入るなってあれほど・・・ッ!」
夏美は、自分の部屋にいた見知らぬ男と目が合ってパニックに陥る。・・・ボケガエル、じゃない?・・ていうか、だれッ!
「―――やれやれ、クルル曹長の言うこともあてにはできんな。少しのあいだ、おとなしくしていてもらいたい。ポコペンの女性戦士。
・・・すぐに立ち去る。抵抗しなければ危害は加えない。」
その男―――ガルルは、すばやく夏美の背後に回り、手で口をふさいだ。夏美の頭の中をぐるぐると言葉がかけめぐる。手に噛みついて、なんとか猿ぐつわを逃れる。
「―――クルル?ポコペン?・・・やっぱりアンタもカエル関係ねッ!」
「察しが早いな、君たち姉弟は・・・。状況認識が早いのは優れた戦士の素質だ。」
・・・あたしたちを知ってる?それに・・・。
「―――その声、もしかして・・ギロロのお兄さん?」
「記憶力もいい。適応力も充分だ。・・・あとは、冷静な対処を望む。」
「な・・にカッテなこと言ってるのよッ!ヒトの部屋に入っておいてッ!」
「無断で侵入したことは詫びる。・・・だが、さっきも言ったように、すぐに立ち去る。私にはあまり時間がないのだ。どうか騒がないでもらいたい。」
「あんたたちカエルの言うことはッ、ぜんぜん信用ッ、できないの、よッ!」
夏美は羽交い絞めにされたまま、相手のみぞおちに強力な肘鉄をくらわせた。
不意をつかれたガルルの体が沈み、その腕の拘束がゆるむ。その期を逃さず夏美は脱け出して
逆にガルルの右腕をとり、背中に絞り上げると、ベッドの下からすばやく「ある物」をとりだしてその手首にかけた。
――それは、手錠だった。片側の輪を、自分の右手首にかける。 息を弾ませながら、夏美は勝ち誇った
「・・・どう?―――これ、以前にあわてんぼのポヨンちゃんが忘れていった手錠よ!―――ボケガエルにいつか使ってやろうと取っといたのが役に立ったわ。
観念しなさい!・・・外してほしければ、侵略なんてバカなこと考えてないで、あたしのいうことを聞きなさい!」
「―――宇宙警察の手錠か。・・・やっかいなことをしてくれたな、ポコペン人。・・だが、感謝しなければなるまい。
ポコペン人の体については事前に充分な調査をしておいたのだが、実際に操縦するとなると話は違うようだ。
ミッション前に、貴重な肩慣らしをさせてくれた。――これで、形勢逆転だ。」
ガルルが夏美ごと、背後にまわした腕を振りまわした。夏美の体がかるがると飛び、手錠に引っ張られてベッドへ
うつぶせに叩きつけられる。両の太ももを膝で押さえられ、右腕を瞬く間に極められた。
「さあ、手錠の鍵を出したまえ。」
ガルルは呼吸も乱していない。
「痛ッ・・・ヤッ!・・・いやよッ!」
「強情だな。―――素直に渡してくれれば、痛い目にはあわせない。」
「も・・・うッ!充分にイタイわよッ!」
夏美は左手に握りこんだ手錠の鍵を、ガルルに奪われる前に口に含んだ。そして涙まじりに叫ぶ。
「いまッ、このカギはあたしのベロの下にいれちゃったんだからねッ!これ以上ムチャするんなら、あたし飲み込んで、舌噛み切ってやるんだから!
そしたら、取りだすのにすご〜く時間がかかるわよッ!!」
ガルルはため息をついた。そして夏美の耳に口を近づける。
「私は軍人だ。目的のためならなんでもする。――――その脅しに効果があると思うかね?」
その声音の、ぞくりとするような非情な響きに夏美が身をすくませる。それでも夏美は、
必死に首を突き出した。飲み込むぞ、の意思表示である。
「負けん気が強いのと、あきらめが悪いのも貴重な素質だが――。悪いが、私には通用しない。
―――あくまでも逆らう者を『屈服させる』ということが、どういうものか知っているかね?
・・・その心を、折ってしまうことだよ。ポコペンの女性戦士。」
ガルルが夏美ののどに手をかけて、顔を上向かせる。
そのまま制服のブラウスの後ろ襟をつかみ、一気に引きおろす。
―――布地の裂ける音が、部屋に響いた。
ブラウスの生地の下から、夏美のしろい背中があらわれた。夏美が這うようにして前へ逃げる。
ガルルが拘束された右腕を強く引く。びしッと張りつめた音がして夏美の腕が伸ばされ、そのまま体ごと引きずられる。
夏美を組み伏せたガルルの左手が、ほそい首にゆるく巻きついた。そして耳元で低くささやく。
「渡さねば、この後どう扱われるのか―――わからん訳でもあるまい?・・・さあ、鍵を渡したまえ。」
「・・・・ゼッタイ・・ッ・・い、やぁ・・っ!」
「・・・・・ふむ。やはり、言葉ではわからんか。―――残念だ。」
ガルルの左腕が背後に廻される。背中のホックが外される感触があって、夏見は愕然とした。むきだしの背中から前へ、ガルルの堅い指がすべりこんでくる。
乳房が、つかまれた。ブラウスの布地の下で、夏美の胸がゆるやかにそのかたちを変える。
「う、あッ・・・ッ・・・い、いやぁッ・・・」
ガルルがそのまま夏美のからだを引き上げて、膝立ちの姿勢にする。ひざから下はガルルの脛に押さえつけられ、動かせないままだ。
そのあいだもガルルの左手は、夏美の胸の上で繊細なうごきを続けている。その指が意思に反して、ある感覚を生みだしつつあることに夏美は恐怖した。
「・・・こ、のぉっ!」
渾身の頭突きを相手のアゴめがけて繰りだしたつもりが、むなしく宙を切る。ガルルが口の中で低く笑う。――動きはすべて読まれていた。
「アッ・・っ・・・・痛ゥッ・・・!!」
報復に、爪をぎりりと立てられる。人差し指が、夏美の胸の先端にあてられた。
痛みにより敏感になったその部分に、微細な刺激が加えられる。
「は・・・っ――――くぅうッ・・・」
耐えられずに声が漏れた。無念のあまり、夏美の目に涙が浮かぶ。
「――――鍵を出す気になったかね?」
ガルルの問いに、夏美はふるふると首を横にふった。涙がほおを流れる。
「・・・・そうか。」
何の感情もこもっていない声で、ガルルがつぶやく。制服のプリーツ・スカートが引き下げられた。
ガルルの唇が夏美の耳の後ろにあてられる。胸を弄うその手が、ゆっくりとさがってゆく。
背中に廻された手錠つきの右腕を、きつく締め上げられた。と、同時にショーツの横の、紐の結び目を解かれてしまう。
―――――下着が剥がされた。
グラス越しのガルルの眼が細められる。
剥がされた下着の布地にねばる液体を認めて、夏美は屈辱にふるえた。なんとかして抵抗しようと足をバタつかせるが、万力で締め上げたようにビクとも動かない。
ガルルがそのまま体重をかけて、夏美のからだを前に倒す。手錠で繋がった右手首を、ガルルの右手が強く押さえつけた。
――――自然に、四つん這いにからだを這わされる。
空いている左腕で背後の男を払おうとするが、絶対に腕の届かない位置に体を置かれているので効果がない。
うなじの後れ毛をかきわけて、ガルルが唇をあてる。温かい吐息をその部分に感じて、夏美がびくっとからだをすくめる。
その瞬間、太ももの内側にふれる手を感じた。
懸命に足を閉じようとするが、かなわない。
―――ガルルの左手は、すこしずつ上へと移動してゆく。せめて、責めの結果をもらすまいと、夏美は唇を噛んだ。
指が、ふれた。その鍛えられ引きしまった厳しい外見からは、想像もつかないほど繊細な動きでやさしく撫で上げられる。
矜持も消しとんで、たちまちのうちに声をあげさせられてしまう。
「んッ・・・ああッ・・・ひ、あぁあ・・ッ・・」
かるくリズムをとるように、ガルルの指がうごく。そこから生まれる快感に、夏美はふるえた。
自分のからだがそのうごきを受け入れ、勝手に待ち焦がれてしまう。しめった音が、あたりに響いた。
「あぁッ・・・う・・そ・・ッ・・・こ、こんな―――う、あッ・・」
「ポコペン人のからだは、快楽に弱いな。」
ひとごとのように、ガルルがつぶやく。
夏美の抵抗が弱まったのを見届けて、ガルルは本腰をあげた。からだを密着させ、体重をあずける。
ベッドのスプリングがギシ・・ッと音をたてた。そのほそく長い指が、夏美のなかへゆっくりと入っていく。
「は・・・ッ・・――んんッ・・・・くうぅッ・・・」
からだにつめたいゆびを埋められて、夏美は耐えきれず声をもらした。
自分の心とは逆に、からだが動く。指がスライドを始めるにしたがって背後のガルルにからだをスリつけるように腰がうごく。
「あッ・・うあっ・・・こ、んなの・・や、あぁっ・・ッ」
ひざ近くまで、夏美のももが濡れていた。乳房が、ゆれる。
「・・・・・?」
夏美を責めていたガルルが、とまどったようにおのれを見返す。すぐに合点がいったのか、苦笑をもらしてひとりごちた。
「―――なるほど、こうなっている訳か。ポコペン人の仕組みは。」
ズボンのジッパーを引きおろす音がひびいて、夏美はそれだけは、と祈った。
しかしからだの方は、全身でつぎの展開を焦がれている。それを見透かしたかのように、ガルルが耳元でささやいた。
「――――どうするね?」
「・・あたし、が・・負けちゃっ・・た、ら・・チキュウ・・の・・未来、が・・。」
「たいしたものだ。ケロロ小隊の苦労がしのばれるな。」
感嘆の笑みを浮かべたガルルが、夏美のからだに腕をまわした。
そのまま夏美を巻きこむように抱きすくめる。そしてからだを易々とひきずりあげ、自分と腰の位置を合わせる。
―――ガルルの五指が夏美の肩をつかみ、からだごと下へと引きおろした。
そのまま一気に、貫かれる。
「ひ・・ッ・・・・やあぁ、ああああぁァッ!!!」
根元まで埋められて、夏美はあらんかぎりの声をあげた。
逃れようと必死で前へ、ひざを使ってにじりよる。しかし成功しなかった。
ツインテールの片方の房をつかまれてひきずられる。涙がとめどなく流れ、汗と混じって、髪がほおにからみつく。
このあと、自分はいったいどのような目に遭わされるのか―――。
だがガルルは、いったん貫いたまま微動だにしようとはしなかった。遮光グラスからかすかにのぞく目が、しずかに夏美を観察している。
―――――夏美が自分から陥落するのを待っているのだ。
夏美は恐怖した。からだを引き裂く衝撃が、自分のなかでわずかずつではあるが熱に変わるのを感じたからだ。乳をもとめる赤子の唇のように、自分のからだの一部がうごくのを感じて絶望する。
「――――あっ・・・・」
全身にぬるい湯が広がるような感覚を覚える。からだが、無意識にうごいてしまう。
「・・・・あぁっ・・・・ッ」
一度うごいたら、止まらなかった。
「うあ・・ッ・・あぁ・・・は、ああッ・・・」
どうすることもできない。夏美のからだがすこしずつ―――徐々におおきくうごいて、ガルルを迎えいれる。無力感に、なみだがあふれた。
「あッ・・・んんんッ・・・あっ、ああぁっ・・」
声がわれしらず甘くなる。それを受けて、ガルルも抽迭を開始した。
――部屋に夏美の嬌声と、ベッドのきしむ音、それからからだのぶつかる濡れた音だけが響く。ガルルが手近にあったぬいぐるみを、つかんで投げた。ぬいぐるみは絶妙のコントロールで、脇に置かれた姿見のカバーを叩き落す。
そしてガルルは貫いたまま、夏美のからだを引き起こした。それから夏美をひざ抱きにかかえて、姿見の方へ向き直る。
「――――見たまえ。これが今のきみの現実だ。」
・・・夏美が見たのは、鏡に映った自分の姿だった。あぐらをかいた膝のあいだで足をひらかされ、男を受けいれている。肌は上気し、桜色に染まっていた。おもわず目をそむけると、ガルルが首をつかんで無理やり鏡の方へ向き直らせる。
―――夏美のなかで、なにかが壊れた。
「・・・お、ねが・・い。もう、ゆるして・・。なんでも・・いうこと、ききます・・。」
ガルルが用心深く、厳しい声で問いかける。
「きみの上官、いや・・・あるじは、だれだ。」
「あなた・・・・・です・・。」
「私の命令に従うか。」
なみだが、ほおをつたう。
「――――ハイ・・・。おねがい、鏡を・・・。」
「わかった。」
ガルルが位置を変え、夏美の視界から鏡をさえぎった。しかし、一度見てしまったものは容易に脳裏から消えない。夏美は頭をふった。何度ふっても焼きついたように消えない。・・・このままでは気が狂ってしまう。――そう思った。
「さて、手間をかけさせられたが・・・。」
「・・・おねがい・・。そのまえに――――。」
なめらかなほおを、ぽろぽろと涙がこぼれおちる。
「あたしを・・こわして、ください――。メチャメチャに、なんにもかんがえられなく・・なるように・・。」
ガルルはすこし口をつぐみ、驚いたように夏美を見つめた。なにか言いかけて考え直し、そのまま夏美をもう一度抱えなおす。
「・・・・いいだろう。」
ガルルが、深く夏美のからだに突きたてる。なにかをふりはらうかのように、夏美がうごく。汗が散り、髪がみだれる。
「・・・っあッ・・・」
「・・・っあッ・・・」
「・・・っあッ・・・」
「・・・ひ、あっ・・・あ、あああッ・・あ、あッ」
最後の津波に、夏美のからだが痙攣する。うしろ手にガルルの頭をひきよせ首をのけぞらせる。それを受け、ガルルのうごきも激しくなる。
「・・・も、お・・ッ・・あ、ああッ!ああぁああ―――ッ!!!」
夏美がからだを引き攣らせる。足はがくがくとふるえ、眼はすでに焦点が合ってない。そのからだをふかく引き寄せて低くうめき、ガルルもその動きをとめる。――そのまま数秒――。完全な無音の時間がながれた。
ガルルは夏美のからだを抱き下ろして、そのままベッドに横たえた。―――太ももに、白濁した液体がつたい落ちた。
夏美は人形のように動かず、されるがままになっている。
目をうつろに見ひらいた夏美の、ちいさな唇がなにごとか動くのを見てガルルは耳を寄せる。
――――あたしをたすけて、ママ。冬樹・・・ギロロ。
さいごの聞きなれた名に、ガルルは眉をひそめた。
「・・・・なんといった?」
夏美はガルルの問いには反応せず、ただとりとめなくつぶやく。―――もう、ほとんど日常の習慣になっている
・・・危機にあったとき、夏見が助けを乞う相手の名前。
―――――たすけて、ギロロ。
ガルルは手を止めて考えこみ―――やがて苦くわらって、頭を掻いた。
「――――まいったな。」
そっと夏美の頭を抱きおこす。髪を撫でつけてそのまま左手で首を支え、唇を重ねた。無反応の夏美のくちをやさしく舌でさぐる。
――――頭を離したとき、ガルルの歯の間に手錠の鍵があった。
「姉ちゃん、なにボンヤリしてるんだよ〜〜。」
冬樹ののんきな声がリビングにこだまする。
「えッ?―――あたし、なにしてたんだっけ?」
「やだなあ、まだ寝ぼけてんの?いくら帰ってからず〜っと、自分の部屋で爆睡してたからって〜。」
「そ・・・・そうだっけ・・・。」
夏美はなんとなく自分のからだを見おろす。だとしたら制服のまま眠りこんじゃったんだろうか?
――――心なしか、制服が新品同様になっている気がしてならない。冬樹にそのまま伝えると、弟は目をキラキラさせてこたえた。
「それはッ!きっと宇宙人のしわざだよ姉ちゃん!」
「やめてよ〜。宇宙人なら我が家にクサるほどいるじゃない!」
「いやいや、それだけじゃないって。ニュースを見てごらんよッ!」
冬樹がTVのボリュームをあげる。ニュースは中東情勢のテロ事件をあつかっていた。
―――小規模の爆発が某所で起こったが、そもそもその場所にはなにもなく犠牲者も被害施設も該当ナシ。
使われた兵器も一切不明。いったい犯人はだれで、何の目的があったのか―――。
「ねっ。これもきっと宇宙人のしわざだって!姉ちゃんの制服と一体どんなつながりが・・。」
「アンタ・・・そうなんでもオカルトに結びつけるのやめなさいよ・・・。」
「いや、姉ちゃんが覚えてないのもムリないよ。宇宙人は地球人と会ったとき、記憶を消していくのがセオリーだからね。アメリカの事例では・・」
そういって熱く語りだした弟の話を、夏美は最後まで聞いていられなかった。
からだのシンにひどく疲れがたまっている。ただもう眠くて、目があけていられない。
―――ソファにふかく腰かけたまま、冬樹のオカルト話を子守唄に夏美はただ、無心の眠りにおちていった。
〜END〜