―――ガルルによって記憶消去された夏美が、リビングのソファでうたた寝をはじめた頃――。  
 
「あ〜、やっと洗い物終了でありますッ!もう我輩ヘトヘトでありますよ・・。ここん家のヤツラは侵略者をなんと心得ているのやら・・・ブツブツ・・」  
「ぐんそ〜さん、オツトメお疲れさまですぅ。多分ナッチーたちは、なんとも思っちゃいないんじゃないスかね?タマッ♪」  
「mmm(ムムム)・・・なんだかやり切れないでありますな・・。ゲロ・・・」  
  軍曹ルームでは、ケロロとタママがくつろいでいた。  
マンガを見ながらお菓子をパクついているタママ。少年エースを枕に、ぐったりと四肢を投げだしているケロロ。ため息をつきながら、ケロロがぼやく。  
「あ〜あ。なんかこう、気分がスカッとすることねぇかなあ・・・。」  
  そのとき床の一部がせりあがり、く〜っくっくっくの陰湿な笑い声とともにクルルが姿を見せた。  
「それじゃ隊長・・・。スゲーレアものの映像があんだけど・・見るカイ?ただし、おカタいドロロ先輩や――まかり間違っても絶対にオッサンだけには内緒だぜ?く〜っくっく。」  
  ――――そう、その日の顛末・・・任務のために地球人化したガルル中尉をクルルが  
「うっかり不在と思って」夏美の部屋に案内したことから起きた騒動は、全て記録されていたのである。  
そもそも、陰険・陰湿・嫌な奴―――しかし頭だけは切れる男・クルル曹長が「ウッカリ」をしでかすはずがないのだ。  
「ギロロ先輩にだけは秘密って―――。それってナッチーがらみっスか?」  
「まあな。出演者は夏美とガルル中尉。ま、中尉は諸事情でポコペン人化してっけどな。ひとことでいえば盗撮・手錠プレイ調教モノだ。ガキには刺激の強すぎるシロモノだぜェ・・・。」  
「うえッ?!・・そ、それって・・・・イロイロとヤバくね?!」  
 
 
  車座になって軍曹愛用のT-Macを取り囲む3人のケロン人。画像は鮮明かつ高画質だった。  
『あ・・・ッ・・・あぁ・・は、ああッ・・・・』  
  ディスプレイのなかで、敵意にあふれていた夏美の目がしだいに快楽にかすみ溺れてゆく。  
犯したまま冷然と動かぬガルルに焦れ、夏美がせつなげに眉をひそめる。長い睫毛がふるえながら伏せられる。熱っぽい唇がかすかにひらかれ、桃色の舌がちらりと覗く。足の爪がやるせなくシーツを掻く。  
「ひえぇ〜!・・・こ、こんな色っぽいナッチー、見たことないですぅ!」  
「――――な、なんというか・・衝撃映像でありますな・・・ゲロ・・・。」  
「こりゃいわゆる『お楽しみ』のためにやってんじゃねェな。相手がどうすれば壊れ、自分の支配下に堕ちるのか・・・全て計算ずくでやってるんだ。あいかわらずヤベえ野郎だぜ。く〜っくっく。」  
  思わず身をのりだした3人は、そのため背後にせまった人影に気がつかなかった。―――すぐ後ろで、声をかけられるまで。  
「・・・・・何を見ているんだ。」  
「はわわッ!!ギッ、ギロロ先輩?!こ、これはそのぅ〜〜〜・・」  
「どっひぇえええッ!!ギロロ!いや、な、なんでもないでありますッ!!」  
  タママを押しのけ、画面を見上げたギロロが凍りついた。  
「・・・いやあの、ギロロ。これは・・そう!パソコンで、ですね。女の顔だけ夏美殿にすげかえて・・。そう捏造なんでありますよッ!ほんのかる〜いジョークで・・」  
「・・・・・男の方は、ポコペン人の姿をしているが―――これは、ガルルだな?」  
  喉の奥で苦鳴をあげるように、ギロロがつぶやく。  
「えッ?!な、なんでわかるん・・アいや、ギロロ先輩やだなァ。誤解ですぅ・・し、知らない人ッスよ。ア、ハハ・・」  
「肉親だ。姿は違っても―――目の配りや雰囲気でわかる。・・・・待てッ!どこへ行く気だクルル!!」  
  DVDをこっそり抜き出して退散しようとしたクルルの後頭部に、ギロロの銃が突きつけられる。両手を挙げてホールド・アップの姿勢をとりながら、クルルがゆっくりと振り向いた。  
「ガルル中尉だったら・・・どうするんですカイ?ギロロ先輩。」  
「―――――そのくだらん映像を、もう一度再生しろ。最初からだ。」  
  ギロロの語尾がふるえた。意外そうにクルルが顔をあげる。  
「見る気かヨ?!・・・・アンタも」  
  好きだねェ、と茶化そうとしたクルルは、決死の形相で銃の安全装置を外した相手を見てあわてて口をつぐんだ。しぶしぶDVDをパソコンにインストールする。気まずい沈黙が降りるなか、映像が再生された。  
 
「―――ガルルがした事は・・・軍人として、理にかなっている。・・敵地で武器もなく、任務を控え・・・  
拘束されてしかも手錠で敵と繋がれてしまった場合・・たとえ、どんな手を使ってでも相手を、排除せねば・・ならない・・・。」  
  憔悴したギロロがひとことひとこと、しぼりあげるようにつぶやいた。ケロロもタママも、かける言葉が見つからない。めずらしくとりなすようにクルルも口を開いた。  
「―――この件に関して、夏美の記憶は完全に消去してあるぜェ。ポコペン人の姿はしちゃいるが、まかりまちがっても夏美が妊娠するようなことにはならねェから安心・・・ムグッッ!!」  
  銃口を口のなかに押し込まれ、クルルがまたもや両手を挙げる。  
「そんなことはいい。―――それより、ガルルは今どこだ?ポコペン人の姿のままでは本国に帰れないはずだ。それとも時間がたてば元の姿に戻るのか?」  
  耐えがたい熱気があたりをつつんだ。熱いのに、どこかぞくりと体毛が逆立つような異様な熱気。  
―――さきほどまで色を失っていたギロロの眼が、怒り一色に染め上げられていく。  
「いや・・・。ガッチリポコペン人化させたからな。オレ様のラボで専用の機器を使って解除しないかぎり戻らねェだろうよ。」  
「―――ということは、ガルルはもう一度ここに現れるわけだな?」  
  ギロロがクルルに向けていた銃を下ろした。  
「ヒエェ〜〜!!―――修羅場の予感、ですぅ・・・。」  
「ギ、ギロロ!落ちつくでありますッ!!」  
「・・・・俺は冷静だ。」  
  冷たい怒りをたたえた眼で、ギロロが振り向く。皮肉なことにそうしているとこの弟は、ひどく兄に似ていた。  
 
 
  その日の夜遅く、日向家の上空に1機の一人乗り輸送艇が飛来した。機上に一人の男が乗っている。  
藍色の髪、精悍な体型、ゴーグル・タイプの濃い黄色の遮光グラス。その砂色のスラックスとジャケットは、砂漠の砂と黒っぽい返り血で汚れていた。―――任務を終えて、帰還したガルル中尉である。  
家の裏手に降りたち、そのまま地下基地の非常口から一気にクルルズ・ラボまで降下する。薄暗いラボに、ガルルの硬い靴音がひびいた。  
「任務完了、か。―――めでたい事だが、このまま貴様をケロン星へ帰す訳にはいかん。」  
「ギロロ。」  
  ガルルがしばしとまどったように弟を見つめ―――そして両手を頭に組んで、隅の壁にもたれているクルルに視線を移す。  
「話したのかね?・・・いや、違うな。撮影していたのか。悪趣味なことだ。」  
「撮っちゃイカンとは、言われてなかったんでねェ・・・。」  
  部屋の奥に腰掛けていたギロロが立ちあがった。その手に瞬時に、マシンガンがひらめく。  
「――――ガルル、武器を取れ。・・・その姿では次元転送できんというなら、俺のを貸してやる。」  
「一応、今は可能だ。しかし・・・よせ、ギロロ。」  
「問答無用だッ!!」  
  次の瞬間、兄と弟の体が交差した。  
ガルルが接近戦用突撃銃を呼び出す。ギロロがマシンガンを乱射する。辛くも避け、ガルルが応戦する。  
マシンガンを吊ったストラップが銃弾で弾け飛ぶ。ギロロが大きくバランスを崩す。ガルルが踏み込む。  
ギロロが一回転し反撃を避ける。手にしたマシンガンを力任せにぶん投げる。ガルルがマシンガンを銃床で叩き落す。視界が一瞬さえぎられる。その一瞬にギロロが跳躍し、一気に肉薄する。その右手にはレーザーソード。ガルルが突撃銃を瞬時に手放す。  
〈ギュイ〜ンッ!ヴォンッ!!ジ、ジジジッ・・・〉  
  二本のレーザーソードが交差し、空気の焦げるにおいがたちこめた。同時に剣をひき、ラボの左右に跳びわかれる。ここまで―――わずか数秒。  
 
「詫びるつもりはないが―――ギロロ。あの娘が、おまえがポコペンで『見つけたもの』か?」  
「やかましいッ!答える義務はないッ!!」  
「―――私は軍監ではない。たとえ今は敵であろうと、侵略した暁には相手を所有することはできる。  
また、軍を除隊して大切な女と添い遂げ、その星の土となるのも一つの生き方だ。  
・・・・だが、おまえにそれが選べるのか?軍務をとるか、あの娘をとるか、だ。  
選べねば、おまえ自身が苦しみ身を焼き滅ぼすことになるぞ。―――選べまい。おまえには。」  
「黙れッ!貴様は・・・ポコペン侵略任務からは外されたはずだッ!!俺たちが交戦中の相手と・・勝手に接触するのは重大な越権行為だッ!」  
「なるほど・・・。そういう表現もあるか。」  
  片頬に皮肉な笑みをうかべ、ガルルがつぶやく。――――戦闘が再開された。  
火花とともにレーザーソードが唸りをあげ、切り結ばれる。  
まっすぐ突っ込んでくるギロロに対し、ガルルの剣にやや迷いの色が出始める。  
何合かの斬り合いのすえ、ギロロの体がふいに前のめりに崩れ落ちた。  
「!?」  
  みると、ギロロの後頭部に注射針の矢がある。―――クルルの仕業だった。  
「すまねェな、オッサン。・・・ちょっと兄弟ゲンカじゃ治まらなくなりそうだったんでねェ。邪魔させてもらったぜ。」  
「いや・・・・助かった。感謝する。」  
  心底ほっとしたように、ガルルがつぶやいた。強力な麻酔で眠らされた弟の顔を痛ましげにのぞきこむ。  
「―――はじめから死を覚悟して相打ちを狙ったか。ケロン星にいた頃に比べて・・やはりずいぶんと痩せた、な・・・。」  
「そうとう精神負荷がかかってるだろうからねェ。ま、今日のことは記憶から消させてもらうぜ。  
次は間違いなくオレの命を狙いにくるだろうからな。・・・中尉殿、アンタの変身を解くのは明日以降だ。  
なんせ頭に血がのぼったオッサンが銃を乱射して、機器を壊しちまいやがった。  
・・・オレは記憶をちょいとイジッてから、オッサンを連れて行くぜ。上で足止めくらった隊長たちがヤキモキしてるだろうからな。・・で、アンタはどうする?」  
「私のことは構ってもらわなくて結構だ。」  
「そうかい・・・じゃあな。」  
「待ちたまえ―――クルル曹長。その前に撮った映像をすべて出してもらおう。」  
「ちっ・・・。覚えてたかい。ホントに可愛くねェぜ、アンタは。」  
 
  その後―――しんと静まりかえった夏美の部屋のドアがほそく開けられた。  
物音一つたてず素早い動作で男が侵入を果たし、手にしたハンドガンで部屋の何箇所かを狙撃する。  
標的は、ナルトマークのついたカメラと盗聴器―――クルルの盗撮グッズである。  
慣れた動作で、銃のカートリッジを交換する。―――男はむろん、ガルルであった。  
何も気づかずベッドで眠り続ける夏美のもとに歩み寄り、銃口を眉間に定める。そのまま数十秒――――。  
冷静なこの男に似合わずその額に汗がにじみ、表情がひき歪む。  
「あのとき――――。完全に壊しておくべきだったか・・・。」  
  喉の奥で噛みしめるようにつぶやき、頭をふる。  
思い直したかのようにハンドガンの安全装置をかけ、枕元に置いた。そのまま夏美の上にのしかかり、そのくちを手で塞ぐ。  
「起きたまえ。」  
  からだにかかる重みと、血と硝煙のにおいに夏美が目を覚ました。  
「んッ!!――――ムグッ!ん、ん〜〜〜ッッ!!」  
  くちを押さえられた夏美がからだを左右によじる。  
手探りで枕をひきよせ、ガルルの上体にしゃにむに叩きつける。効果がないことを悟った夏美の手が、必死でベッドの上をさぐった。手に硬い感触を覚えて夢中でひきよせる。銃口が、その持ち主の心臓に向けられた。  
「ほう。―――――逆らうかね?この、私に・・・。」  
  その声にびくッと夏美が反応する。夏美のからだの芯から、たちどころにふるえが這いのぼってくる。銃口がガクガクとぶれ、狙いが定まらない。  
「こ、こんな・・・ッ―――あたし、どうしちゃったのッ!?」  
「フ・・・・。やはり記憶は失っても、体は覚えているようだな。」  
  ガルルが銃身をつかんで、苦もなくハンドガンを奪い取った。  
「これは安全装置を外さねば使えない。―――残念だったな。いま、君は唯一反撃できるチャンスを見送った。」  
  どこか哀しそうにガルルがつぶやいた。  
「将来、必ず君は障害として立ちふさがるだろう。今ポコペン側の戦士として対峙しているのとは、また違った意味でな。  
―――あれの行く末に、わたしは期待をかけている。ここで君のために壊される訳にはいかん。  
・・今すぐ君を抹消することは容易いが・・・そうもいかない、か。―――やむをえん。」  
  ガルルのグラスごしの眼が凄みを帯び、底の方で冷たくなる。  
「可哀想だが――君には今ここで戦士としての矜持も、我々に対する反抗心もすべて失ってもらう。従順な捕虜としてなら、それなりに幸せに生き延びることができるだろう。怨みたければ私を怨むがいい。君を―――洗脳する。」  
 
「洗脳って・・・なによ。人の姿してるけど、声に覚えがあるわ。アンタ・・ボケガエルの一味ねッ!」  
  ふるえながらも、夏美はからだを起こした。  
「そのとおりだ。・・・・だが私が何者であるか知る必要はない。重要なのは今、君が私の捕虜であるという事実だけだ。―――捕虜にしては口の利き方がなってないな。」  
  ガルルが夏美の髪をひきつかみ、ベッドへと叩きつけた。  
「ひッ・・・!!ヤだっ!やめて・・・ッ!」  
「――――聞こえないな。いま何と言った?」  
「やめ・・・やめて、ください・・・ッ!!」  
  その言葉でやっとガルルが夏美の髪の毛を離す。息を弾ませ、涙をにじませた夏美が怯えながらたずねた。  
「あ・・あたしを・・・これから、どうする気です・・・か?」  
「なにも。―――私は何もしない。全ては君次第だ。どう思う?」  
  質問の意味が分からず、夏美は顔をあげた。ガルルが意地悪く笑みをつくる。  
「宇宙法とケロン軍法の捕虜の扱いはどうなっていたか―――どうやら失念してしまったようだ。だから君に尋ねるのだが、捕虜というのは果たして衣服を着用しているものだったかな?」  
 
  夏美はベッドサイドに立たされた。ガルルはベッドに腰掛け片膝を立てて肘をつき、軽く肩をすくめている。  
夏美のゆびがゆっくりとパジャマのボタンにかけられる。ひどくふるえているため、なかなか外れなかった。  
それでもひとつ・・・またひとつとボタンが外されてゆく。夏美の手がパジャマのホットパンツにかけられた。小さな子供がするように、すとんと床に落とす。  
夏美の目が、ガルルの様子をうかがった。だが―――ガルルは一切、眼をあわせようとはしない。  
おずおずと夏美がパジャマの上着を脱いだ。そのまま背中に両手を廻し下着の金具を外しながら、夏美のくちから嗚咽がもれる。  
「ふ・・・・ッ・・うぅッ、えっ・・・・ッ」  
  そっぽを向きながら、ガルルが思わずのように苦い笑みをもらす。  
彼本来の趣味には、いかにも合わない展開のようだった。だが、夏美に対してはことさらに冷然とした表情を装いつづける。  
夏美の手が、最後の下着にかけられた。そのちいさな布が、夏美本人の手によってやがて取り払われる。  
「――――脱ぎまし、た・・・。」  
「そうか。」  
「どうすれば・・・いいですか・・・?」  
「どうすればいいと思う?」  
  羞恥に顔を染めなみだを目に溜めた夏美が、すこしずつガルルの方ににじり寄った。  
ガルルの足の間に身を入れ、その肩に頭をあずける。ガルルの左手が、夏美のまるい肩に置かれた―――その瞬間、夏美のからだが反射的に跳ねあがった。  
「!?」  
  ・・・夏美はガルルの遮光グラスを奪い、それを武器にしようとしたのだった。  
だが、その濃黄のグラスはよほど特殊な取り付け方をされているものか、微動だにしなかったのだ。  
目的を逃した夏美の爪がガルルの頬を一閃するのと、ガルルの右手が銃を構え夏美のこめかみに固定されるのと、一体どちらが速かったであろうか。――ガルルの頬に、斜めに血がにじんだ。  
「いい狙いだったが――――残念だったな。・・・やりかたが甘すぎたか。」  
  自嘲するようにガルルが笑う。―――尖った歯が、肉食獣の牙を思わせる笑いだった。  
 
  ガルルが、左手で夏美の頭を抱え込んだ。その指で顎をつかみ、自分の方へと無理やり振り向かせる。  
「相手を支配する場合・・・・・邪魔なのはその者の理性と自尊心だ。それを崩すのに手っ取り早い方法が二つある。いま、教えてやろう。」  
  ガルルが右手を一閃する。手からハンドガンが消え、違う武器が現れた。ケロン製の丸っこい形状のそれではなく、鉄製の黒光りする拳銃である。  
「リボルバー、といったかな。ポコペンの某所で手に入れた物だ。  
銃器としてはきわめて原始的な構造だが・・・こういう使い方もできる。」  
  ガルルが夏美に銃弾―――その、特有の縁のある薬莢をみせつけた。  
1弾だけ装填してシリンダーを回転させ、夏美の頭に突きつける。撃鉄が起こされた。  
「祈りたまえ。―――――確率は6分の1だ。」  
「やッ・・・やめてッ・・・・・ひッ!!!」  
  カシィッッ!!・・・と硬い音がして、撃鉄が落ちる。  
安堵のため、夏美のからだがくたくたと崩れ落ちた。その頬をなみだが滂沱と流れる。  
そのからだを支え、ガルルが無感動に続けた。  
「次は5分の1。」  
  引き続き、硬い金属音。  
「ひッ!!嫌ぁ!!!」  
「――――4分の1、だ。」  
   撃鉄が、三たび落とされた。  
たてつづけに三度の緊張に耐え切れず夏美がしゃくりあげ始めた。足はがたがたとふるえ、もはやガルルが支えていなければ、立っていることさえままならない。  
「ひとつは、恐怖。・・・いま君が味わっている感情だな。なかなか有効な手段ではある。  
――――そしてもうひとつは。」  
  リボルバーを構えた右手はそのまま、ガルルの左手が夏美の首をまさぐった。うなじを押さえる指に力がこめられる。顔を寄せたガルルが優しげに、だがほとんど聞きとれないほど低くささやいた。  
「―――――もうひとつは・・・・快楽だ。」  
  右手指で撃鉄が起こされたとき、唇が重ねられた。  
 
「んんッ・・・ん、うっ・・・ッ」  
  夏美の唇に、ぬれた感触があった。たちまち唇を割り、しずかに押し入ってくる。  
夏美の顔がすこし斜めに固定された。その歯の付け根をくすぐるように、ガルルの舌が動く。  
夏美の舌のさきをかるく舐める。羽根がふれるように何度かの浅いキスがあり、それがしだいに深いものになってゆく。・・・夏美のからだから、力が抜けた。  
「はッ・・・・」  
  長いキスから解放されたとき、夏美はせつなげに吐息をもらした。  
しかしガルルが夏美を休ませない。そのまま唇がのどを這い、耳たぶを甘噛みする。ガルルの右手が撃鉄を解除してひらめき、リボルバーが姿を消した。その手が下ろされ、夏美の胸にふれる。  
硬い指が猛禽の爪のようなかたちで夏美の肌に食い込んだ。指の腹でやさしく撫であげられる。ガルルの五指が、それぞれに異なった微妙な力加減でリズミカルに夏美の乳を刺激する。  
「ああ・・・・・・ッ」  
  ついにからだを支えきれず、夏美がガルルの胸にくずれおちた。  
ガルルのスラックスをはいた膝にキュッとちいさな指の爪を立てる。うすい皮膚が、羞恥と官能のために薔薇色に染まった。  
「立つんだ。―――自分で、しっかりと。」  
  ガルルが夏美のからだをひきおこした。夏美があやういバランスでなんとかからだを保つ。  
ガルルの唇が夏美の鎖骨をかすめて、しだいにさがってゆく。乳の先の敏感な部分を爪で弾かれるたび、夏美があまく浅い呼吸をもらす。やがてそこにあたたかく濡れた感触を覚えて、夏美がせつない声をあげ始めた。  
 
「あっ―――あッ――・・・」  
  乳を甘く噛まれて、夏美がからだをふるわせた。  
両手でガルルの頭を抱きしめ、そのほそいゆびを藍色の髪にうずめる。ガルルが夏美の背に腕を廻した。  
その掌が背骨に沿って撫でるように下げられる。掌は、背では止まらなかった。まるみのある尻を掬うように滑ってゆく。やがて指が・・・尻と腿の間、夏美のからだのもっとも奥の部分にふれた。  
「・・・ひあぁあっ、あ、あ・・・ッ」  
  ビクビクッと夏美のからだが跳ねた。ガルルの指は、執拗に夏美のからだをひらかせようと動き続ける。  
指と。唇と。―――二箇所を同時に責められて、夏美は狂おしく乱れた。ガルルの指と、夏美の腿がしとどに濡れ始める。夏美の自意識はもはやからだの芯とともに溶けたバターのごとく流れ去り、ただガルルがもたらす刺激に反応し、あえぐだけの動物的なものと化している。  
その意識が高みにむかって昇りつめようとしたとき―――。ガルルが一切の動きを止めた。  
「―――というのが、相手を支配する二つの手段・・・という訳だ。理解したかね?  
ところで、忘れていないか?いまの君の立場を。・・君は私の捕虜だ。捕虜なら、捕虜らしくしたまえ。」  
 
  すんでのところで止められて、夏美がやるせなく身をよじった。  
ガルルが相当に意地の悪い笑みをうかべる。夏美からからだを離してベッドに改めて腰掛け、  
夏美に向かって肩をすくめてみせる。  
「そ、そんな・・・ッ・・どうすれば・・・」  
「さて・・・どうすればいいと思うかね?」  
  冷たく突き放したガルルの言葉に夏美はしばし逡巡し、やがてあやうく歩を進めた。おずおずとガルルの胸に頭をうずめ、そのゆびをジャケットの合わせ目から内側へとすべらせる。  
シャツをたくしあげ、夏美の唇がつたなくガルルの腹をつたった。夏美がガルルの足の間に身を寄せる。そのきゃしゃなゆびがスラックスにかかり、苦労した挙句にボタンをはずす。  
「―――手を使っていい、と許可した覚えはないな。」  
  残忍な声音でガルルがつぶやく。夏美の両手がこわばり、ちからなく下げられた。  
「ッ・・・・・はい・・。」  
  夏美の顔が腰のファスナーに寄せられる。前歯で金具を噛んで固定し、唇を使ってファスナーをなんとかおろす。布地をくわえて、前をくつろげた。鼻先で下着の内側に顔をうずめる。  
――――ガルルの右手に、いつのまにかあのリボルバーがあった。  
みずからの足の間にうずくまった夏美の背から、まっすぐ心臓に向かって狙いを定めている。  
・・・びりびりと帯電した声で、ガルルがつぶやいた。  
「・・・いっておくが、莫迦な真似はせんことだ。私も手元が狂うことはある。」  
「・・・・・はい・・・。」  
  夏美のくちがちいさくひらかれ、その舌がガルルにふれる。  
そのかたちを確かめるように、舌のさきがつたう。ガルルの左手が夏美の頭にかけられた。その抗えない力で、夏美の顔がふかくうずめられる。  
「ん・・・グッ―――ッ!」  
  夏美ののどの奥で、ちからなく苦鳴がもれた。  
 
くちのなか一杯に熱い塊が、ある。  
ベッドに腰掛けたガルルの足の間にひざまずき、さきほどから夏美の唇の奉仕が続いている。  
その髪にうずめられたガルルの指先に力が込められるたび、喉の奥まで貫かれて夏美が苦しげに痙攣した。それでも決して歯を立てることのないよう、よわよわしく吸い、舌を絡めつづける。  
ガルルの指がすこし下がり、夏美の耳の後ろからうなじにかけて優しくくすぐるように動いた。つつつ・・ッと爪先で何度も何度も夏美の首筋を逆立てる。耳たぶをなぞり、小指の爪でかるく弾かれる。  
―――さきほどさんざん火をつけられた体であった。わずかな刺激にも過敏に反応してしまう。夏美のあしがふるえ、腰が無意識に跳ねる。  
「ん、ん・・・・・ッ!」  
「―――――どうした。続けたまえ。」  
  感情を完全に制御した冷酷な声で、ガルルが言う。  
夏美があわてて唇の方に神経を集中させる。とはいえ、ガルルの指の動きはますます執拗さを増してゆく。  
意識を保ちつづけるのは、至難の業だった。  
いままで首筋など、触れられてもくすぐったいだけのものだと思っていたのである。  
それがこれほどからだを蕩かすものだということを、夏美は今回はじめて知った。  
えりあしの後れ毛を梳かれ、肌に触れるぎりぎりのところを通る指の腹の感触を感じるたび、からだの全感覚が目覚め、どうしようもなく燃えてゆくのを感じる。  
――――首や耳などではなく、もっと別のところに触れてほしい。  
めまいのするような焦燥感に、夏美があえいだ。  
 
  結局ガルルが夏美を解放したのは、夏美のくちがほとんど感覚をうしなうほど疲労した後であった。  
足腰の立たぬ夏美の両手首を片手でまとめてつかみ、そのまま吊り上げる。  
ガルルが片眉を上げ、唇の端をゆがめて笑みをつくった。  
「・・・・・行儀が悪いことだ。」  
  その言葉が、ひざ近くまで腿を濡らしている自分を揶揄しているのだと悟って夏美が羞恥に顔を染める。  
夏美を下ろしたガルルが右手のリボルバーをその眼前にかざし、シリンダーを開けてみせて微笑んだ。  
「―――じつは銃弾は次に装填されていた。お利巧にしていて、良かったな。」  
  夏美が目を閉じて大きくふるえる。ガルルが用済みの拳銃を次元転送して武器庫へ送る。  
たびかさなる過度の緊張に、夏美のこころが臨界を突破した。  
「抱いて。―――はやく、あたしを・・抱いて、ください。すこしでもはやく・・・ッ」  
「さて、どうしたものかな。」  
「おねがい・・・ッ―――なんでも、なんでもします・・・からッ!」  
  夏美がガルルの腹にキスの雨を降らせた。もう一度ひざまずこうとした夏美のからだをガルルが苦笑してひきおこし、本棚のあるせまい壁を背にして立たせる。  
「え・・・?―――ここで・・・です、か・・・・・・ッ?!」  
「選択する権利は私にある。――――君には無い。」  
「―――――そんな・・・・ッ!!!」  
 
  夏美がためらうのも当然といえば当然。  
その薄い壁の向こうには、何も知らない弟の冬樹が眠っているのだ。――実際には部屋に侵入する前、  
ガルルが特殊な防音シールドを作動させていたため、音や振動が外部に漏れる心配はなかったのだが・・・。そんなことは夏美は知らない。かまわずガルルが夏美のひざをつかんで片足を持ち上げ、そのうすい肩を壁に押しつける。  
「・・・・ゆるし・・て。――――ふゆき、が・・・おきちゃうッ!」  
「―――あの少年か。私は別に構わない。姉の状況を見てもらうんだな。」  
「ひ・・・・・・あッ!!」  
  貫かれて夏美がほそい声をもらした。必死で指を噛み、声を殺そうとする  
ガルルが動く。壁に押しつけられた夏美のからだが大きくずり上がった。  
「!!!―――――・・はあッ、あぁあああッッ!!」  
  ずっと満たされることのなかったからだの欲求が、急激に埋められる。その強烈な快感に、夏美は叫び声を上げた。  
ガルルが夏美の右腿を胸の高さまで持ち上げ、鋭く突きあげるようにして犯す。不安定な足場と、この異常な  
状況までもが快感にすりかわる。もはや夏美には隣室の弟に配慮する心のゆとりはなかった。高い声を放ちながら、夢中でからだをよじらせる。本棚の本が数冊、からだが打ちつけられる衝撃で床に落ちた。夏美の  
からだが、余すところなく蹂躙されてゆく。その容赦ない責めに夏美の精神が徐々に崩壊をはじめる。  
夏美はガルルにしがみつき、その首を抱きしめるようにしてゆびをからめた。枷を失ったこころが、急激に傾斜してゆく。もはやみずからを保つには眼前のこの男に全てをゆだねる以外、ほかに方法はなかった。  
「そんなに声をあげていていいのかね?―――少年が目を覚ますぞ。」  
  夏美が切れぎれの声をあげながら、首をふる。なみだが頬を濡らしていることにも気づかなかった。  
「はッ・・っ・・・いいッ・・・ですッ・・かまいま、せ・・ん・・・・ッ」  
「――――ほう? 見られてしまうぞ?」  
「あなたが・・・そうしたい、なら・・・―――ん、んんんッ!! 好きにして――くだ、さいッ!!」  
「―――――成程。」  
  ガルルの眼の色が、複雑な翳りを帯びた。  
むろん防音シールドを解除するようなことはせず、夏美の腰を手で支える。  
床に残されていた夏美の左足が宙に浮き、ガルルの腰にからみついた。  
ガルルがすこし体を沈め―――その反発力と夏美の全体重をかけて、一気に貫く。  
信じられないほど深くまで届いた。夏美が絶叫する。からだをのけぞらせ、ガルルの首に爪を立てた。その凄まじいまでの快感に、一気に絶頂まで押し上げられる。  
――――夏美の声が完全に枯れ、指先にちからがまったく入らなくなるまで、その行為は続けられた。  
 
 
 ガルルは身支度をすませ、立ちあがった。  
防音シールドを解除して身の回りのものを点検する。  
ベッドに横たわった夏美には目もくれようとしない。見なくても、わかっていた。  
――いま彼女は力尽き、臥せってはいるが・・・目は始終私の姿を追い求め、熱っぽく見守っているはずだ。  
私の表情や動作から、私の意志を汲み・・・どんな命令でも従おうとするだろう。  
―――すべて、そうなるように仕向けた。  
  ガルルが苦い表情で夏美に近づいた。左手で、夏美のほおに触れる。  
びくッとからだをすくませた夏美が、嬉しげに身を寄せた。その手にゆびをからめて唇を押しあてる。蕩けたような、生気のない瞳であった。  
その姿から目をそらせ、ガルルが上着の隠しからケロン軍士官に支給される端末を取り出す。退星時、  
記憶消去するときに用いられる機器である。自分に関する夏美の記憶をすべて抜くつもりであった。  
―――たとえ記憶を失っても、これほど強烈に支配し暗示を与えた後では、もはや人格は元通りのものでは  
ありえない。大きな支配を失ってしまった精神は、それ自身を支えるためにやがて別の支配をもとめ、  
すすんで受け入れようとするだろう。まして自分が捕虜であるという暗示を、再三に渡って与え続けたのだ。  
もはやこの娘がケロロ小隊に対して強い立場に出ることはありえない―――。  
 
  ガルルは自分の行為に吐き気を覚えた。  
さっさとこの場を立ち去るつもりで、端末の記憶消去ONのスイッチに指をかける。眼が端末のはしの、透明なケースに囲われた赤いボタンに吸い寄せられた。―――そのボタンは、尉官以上の者に与えられる端末に  
のみ装備されていた。戦闘中に部下に重大な精神汚染がかけられ、その者の精神が危機に陥った場合、  
尉官権限において記憶消去だけでなく、精神洗浄が行われる。船団に戻れば本式の装置があるが、前線では帰還もままならないことがあるため、このように簡易型が装備されているのだ。・・・ガルルの指が震えた。  
――――――莫迦な。何を迷う。  
  この娘は部下ではなく、明らかに敵だ・・・・しかも危険な。  
一時の憐憫や感傷に流されるな。以前ポコペンに降下したとき、この娘はケロンの強化服をまとい、  
しかもその戦闘をギロロが明らかにサポートしていた。即刻武装解除して事なきを得たが―――非常に危険な兆候だ。破局の結末を迎えるまえに、問題の芽を摘みとってしまわなければ。私が今成すべきことは、  
この娘の記憶を消去して早々にこの星を立ち去り――あとはケロロ小隊にすべてを委ねてしまうことだ・・。  
早く、早くスイッチを――押せ。  
  うつむき歯を食いしばるガルルの靴先に、数葉の写真が触れていた。  
さきほど本棚から落ちたアルバムに挟んであったものであった。空いている方の手で拾い上げる。  
写真は、吉祥学園の運動会を写したものであった。疲れたような、情けないような表情で冬樹が笑っている。ガルルが悲痛な声で語りかけた。  
「――少年。君の言葉は美しいが・・・。侵略者とその標的となった星の人々が対等な友情を結べることなど―――本来、ありえないのだ・・・。」  
  写真をめくってゆく。なごやかな、平和な世界がそこにあった。  
全身緑のポコペン人スーツを装着したケロロが、必死の形相で冬樹を追いかけている。  
弾かれたように逃げている冬樹の姿。二人三脚で1位のテープを切っている晴れやかな夏美の笑顔もあった。  
その横に怒ったような照れたような表情で、それでも夏美の足に負担をかけぬようさりげなく体を支えているギロロの姿もある。  
――――それはケロン人も地球人もない、日常のひとコマであった。  
ひょっとして明日には戦火のなかで消えてしまうかもしれない、だがひどくしあわせな日常―――。  
   
  ガルルの頬が震えた。  
壊れた人形のように動かぬ夏美に、腕をまっすぐ伸ばして端末を向ける。  
その指が透明なケースを押し割って、精神洗浄の赤いボタンを押した。  
 
 
 
 
 
―――――それから修理されたクルルの装置によって本来の姿を取り戻し、本部の輸送船に乗って地球を離れるまで―――ガルルが口を開くことはなかった。  
 
        〈END〉  
 
 

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