惑星ポコペン侵略を意図して偵察に赴けば、罠。日はもう三度昇った。  
毒が回って動かなくなったからだが重く地面に横たえられ、三日もの間体温を  
奪われ続けた。軍に入ってから一念発起して「アサシン」のエースにまでなっ  
たものの、こんな原始的な罠にかかって死ぬのでは情けなさ過ぎる。そんな思  
いも切れ切れになってきた。ゼロロ兵長ここまでか。死をちらりと意識した時、  
アンチバリアを突き抜けてものを見る少女に救われた。彼女の名前は小さな雪、  
小雪といった。  
 幸いなことに、穏やかな灯りの群れに僕は迎え入れられた。木々の闇に炎の  
灯りだけが灯る幻想的な光景の中で、僕は故郷に帰ったような安らぎを覚えた。  
濃密な酸素の中で、ただ呼吸するだけの自由を思い出す。  
 手当てを受け、回復する。ケロン人とポコペン人。相当近い外見なのにも  
関わらず、彼らには違いがはっきりと判ってしまうらしい。会う人に『君は  
河童だね』と言われた。言い得て妙だった。  
 
 初めてのポコペンの食事。捌かれたばかりの異星の生き物の味の広がりが  
素直に美味しくて、今回だけは密かに驚いた。塩や少しの調味料だけで味付け  
されたそれらは、この星の命の輪に僕が参入したことを教えてくれた。きちん  
と食事の型を身につけているらしい小雪の食事の仕方を真似ながら、いただいた。  
しばらくして、ぽつりと向かい合う小雪が言う。白いうなじが見えた。  
「ゼロロって、育ちがいいんだね。いいな、私たち山育ちだもん!」  
「ありがとう…」  
ポコペン人内部に潜入することは想定されておらず、ここの食事作法も何も  
知らないのに、また出てしまっていたらしい。壮絶な訓練を繰り返し、己の  
生命力を極限まで削り、限界を超えていく「アサシン」らしからぬと揶揄  
されたこともある。自分の生家はケロンでも知られた名家だった。  
小さな頃は病弱で、幼馴染のケロロ君やギロロ君と遊べたり遊べなかったり  
した。昔馴染みの同僚のことを思い出すと、ちっとも連絡が来ないことも  
思い出し、暗い気分になるところだったが、小雪との時間が暗雲の思い出を  
吹き飛ばしてくれた。雑談をすることに慣れないような雰囲気で、ぽつぽつと  
僕らは当たり障りのないことを話した。  
 川のように時間が流れていく。全員が何らかの形で自給自足をしている不思  
議な村落は、ただ僕を受け入れてくれ、小雪はただ僕の全存在を認めてくれた。  
滅多にないことで嬉しかった。一緒に寝起きし、一緒に走る。一面識もなかっ  
た少女と一緒に住んでいるのに、家族以外でこんなに心が安らいだのは初めて  
だった。ただ、僕と彼らはどこか違う。言うならば、彼らはあまりに乾いていた。  
彼らが汗ばんだ状態でようやくほっとするといった身体的なことではなく、  
人同士の在り方そのものに違和感があった。なくてはならない筈の温もり、  
騒がしい紐帯が、ぽっかりと抜け落ちている。見知らぬ男まで拾ったのに、  
どうして小雪殿は一人で暮らしていたの? と遠まわしに聞いても、小雪は  
含み笑いをして誤魔化すだけだった。可愛らしい少女なのに、とらえどころが無い。  
 
 徐々に僕もリハビリを兼ねた修行をやめ、小雪殿と山野を駆け回るように  
なっていた。たまに一人になるときは、口だけの力で竹筒を咥えて川底に寝  
転んでいる。浮かないようする修行も兼ねている。流れの緩い川底では、自  
分の髪と水草とが同化したように思えた。思わぬ民がいたこの星で、果たし  
てどう侵略作戦を進行するか、ゲリラ戦が予想されることを早く打電したい  
ものだと考えていたら、小鳥のような気配が近寄ってきた。まるで水中の僕を  
討ち取りたいかのように、大きなカワセミが降ってきたと思ったら、小雪だった。  
先を尖らせた木製の杭が二本川底に突き立てられる。もうもうと水中で砂埃が  
あがる。続いてするりするりと太陽の照る側から来る切っ先をかわしながら、  
少女の真意を量ろうとした。五度目に上空から降ってきた手裏剣が髪の一部を  
千切っていった時に、もしかすると故郷の侵略の危険を察しているのかもしれ  
ないと思い、僕は少し力を入れて重力のある世界に戻り、少女を背中から組み  
敷いた。今しがた隠れるのに使っていた、平たい岩の上に華奢な上体を押し付  
けて動きを封じる。関節の要所を捉えられていることに気づいたらしい小雪が、  
呆気なく抵抗をやめた。  
「どうしてこんなことを?」  
尋問官の声音で、艶々した黒髪に問いかける。  
「…いきなり、ごめんね」  
 友軍の宇宙戦艦に戻った時、最初に見る鉛色のパッチの色を思い出した。  
今度は僕が仰向けに組み敷かれている。頭の奥に鈍痛を感じる。顔の横には  
石、岩、苔。身体は痺れて動かず、太陽の下に僕は生まれたままの姿を晒さ  
れつつある。  
「本当に変わった服ね。身体に吸い付いてくみたい」  
まず外からは脱がせられない筈の特殊軍装を剥がれ、徐々に裸に近い姿にされ  
ていく。小雪が口から吐いた毒針などにより、また僕は体の自由を奪われてい  
た。苔生す平たい岩の上で、僕らは二人きりだった。さらさらと小川が流れて  
いるが、里全体で僕を捕らえようといったという意図はどこからも感じられな  
い。ついに皮を剥かれた果実のように無防備にされてしまい、目玉だけを動か  
して小雪を見る。すると、何故か小雪まで生まれたままの姿になりつつあった。  
僕は混乱しつつ事態の推移を見守っている。…ちょっと積極的すぎるよ…。  
ついに裸身を一望してしまった。何とも言いようのない、初めての献立をどう  
作ろうかという表情を乗せた塑像が、目の前に立っている。濡れた白磁につい  
た水滴が光っている。実家に飾ってあったなだらかな曲線の壺のことを思い出す。  
僕はとてもこんな子を…。と、思っていたが、岩の上で恋人同士のように男女  
が寝そべることになった。どうしてこんなことになってるんだろう。僕たちは  
そういう関係だったの?  
 
 気がついたら眩しいくらいに白い小雪が、僕に心を開き、身体に沿っている。  
僕の手をとり自分の方に引き寄せ、何も身につけていない乳房に触れさせる。  
本人の本人による本人のための胸。生きたゴム球。まだ男を知らないなと直感  
させる肉体がそこにある。思えばポコペン潜入以来ずっとご無沙汰で、ゆっく  
りと下腹に情欲が集まってきていた。軍事訓練では押さえ込み続ける訓練もしたが、  
今は自然に、ゆるんだ紐が解けるように、僕自身の身体が開いた。  
「本当にごめんね。もうすぐ薬の効き目は切れるから」  
「な、何を…」  
手にすくった水と小さな手ぬぐいで簡易おしぼりを作ると、小雪はそっと男の  
一番敏感な部分に触れだす。人肌に暖まった絞り布が敏感なそこここを軽く擦  
り、そこが、はっきりとした形をとりつつあった。喉が渇き、舌が余計にもつ  
れたが、体内で抗体ができたが如く、四肢が自由を取り戻し始めたようだった。  
世話になった愛しい女の子に、何もかもさせるわけにはいかないな…。  
 
 清水で身を清めても、朝の自分と何かが変わったのか、小雪にはよく分から  
なかった。今になって秘部がぴりぴりと痛むくらいだった。自分から貪ってし  
まったそこが、急に重たく感じられる。骸が黙って手ぬぐいを肩にかけてくれ  
た。二人の間に会話はない。少し前に頭領が「小雪もそろそろ男を知るべきだ」  
と言ったから、どうしたらいいかと思って骸に相談したら、こういうことに  
なった。質問を受けた骸が、一瞬言葉に詰まってから小雪に問い返したのは  
こんなことだった。  
「一番一緒にいて落ち着く男の名前は? 里の者だけだよ」  
「ゼロロ」  
「…わかった」  
そこから骸は小雪に房中術の口伝を始めた。骸は本当に色々なことを知っていた。  
あんな場所に唇を添えたり唾を垂らして舐めたりしゃぶってみたりいじくった  
り、あまつさえ月のものが出るところに男の膨張したものを入れることに何の  
意味があるのかと思ったが、とにかく何としてでもきれいにしてからやってみ  
ろと言われて、素直に従った。後のことは自分で考えろと突き放し、骸は消えた。  
忍の里において、頭領の命令は絶対だった。  
 
 自分がゼロロの腰をはさむようにして立膝になり、熱を帯びて一本のしなっ  
た棒のようになったそこの先がちゃんと硬さを保っていることを確かめて秘裂  
を指先で開いた時だけ、何故か心が泡立ち、血の気が引いたようだった。気を  
つけて襞の間に膨らんだ先端を当て、努めてゆっくり腰を下ろしていく。不思  
議な感覚だった。身体の中心に、太くて長い異物が割り込むように侵入してく  
る。立てばあっさり抜けてしまうとは分かっていたが、暖かな棒を飲み込んで  
いくうち、ゼロロの上に跨ってしまった。  
「ゼロロ。突然ごめんね。苦しいの? 身体が震えてるよ。歯を食いしばって  
…そんな薬じゃないのに、あっ、もう効き目が切れた。早いね。腰から動くよ  
うになるなんて。わたしが乗ってるから、ゆっくり動いてね。後から説明する  
から」  
ゼロロは、何だかものすごく驚いていたが、最後には腰を突き上げてきた。  
わたしは馬に乗るようにがくがくと揺られ、落ちないようにむしろ楽しんで  
ゼロロを受け入れていたが、そこは硬くなっていく一方のようだった。二人の  
足の間にある肉色の部分が今は充血して、赤く色づいた襞が青黒い怒張を迎え  
ては出している。繋がっている部分から白い粘泥がぐちゅぐちゅと泡立ってい  
た。後ろでまとめていた髪の毛が、馬の尾のように跳ねている。上半身も自由  
になったらしいゼロロが汗ばんだ上体を起こすと、背中からわたしの腰をしっ  
かり支え、お互いが向かい合うようにして違う角度から腰をぶつけてきた。  
目が何だか優しい。他のどの部分よりも、あの眼差しのことが印象に残っている。  
狭い膣道を何度も抉られて、変な疼きを感じる度に後ろの穴に力を入れる。  
その度にゼロロは仰け反るか息を止め、私はその疼きを広げようと色々してい  
るうちに終わってしまった。ゆっくりとゼロロの動きが鈍くなり、私を乗せた  
まま、両の腕をきついくらいに絡ませてくる。ゼロロの心臓に耳を近づけよう  
としたら、ゼロロが顔を近づけてきた。延々と唇といわず歯といわず舌といわ  
ず嬲られたけども、気持ち悪くはなかった。  
 
 するべきことが終わったので、ゼロロの身支度を手伝ってから、骸に報告し  
に行った。それから今まで骸は口を聞いてくれない。よく身体を動かしていた  
せいか、聞かされていたような痛みこそなかったが、ゼロロから離れる時には  
腿からつたい落ちる鼻をつく匂いの粘液の中に、血が混じっていた。別れる時  
に骸はもう一度、里の人の増やし方について教えてくれ、いくつかの丸薬を手  
渡すとあとは勝手にしろといって帰っていった。思えば小雪は物心ついてから、  
初めて人と住んでいた。しばらく秘所を押さえたまま、丸薬を一粒一粒確かめる。  
ともかく東谷小雪の秘所を開いたのは、夜の水面のような瞳の「河童」の男だった。  
 
 
 同質な者たちの中に、明らかに異質なものがいた。小雪がゼロロと暮らす家  
に戻ると、既に灯りがともされ、あたたかい膳が整っていて、飾られた花から  
はほのかな香りが薫っていた。きょとんとする。気配を感じた方を向くと、に  
こにこと笑ったゼロロがいた。  
 …僕も、みんなと同じだ。小雪と同じだ。でれでれしそうになるのをやっと  
堪えて、僕はきりっとした表情を作ろうとする。今着ているのは自分の体に合  
わせたオーダーメイドで、知り合った忍の一人に物々交換で作ってもらった服  
だ。特殊軍装は仕舞った。忍の里スタイルとでもいうのか、とにかく機動性に  
優れていて、吸汗性も申し分なかった。何度も二人の初めての時を思い出して  
しまう。経験が無いわけではなかったが、女性と二人きりになるとあがる方だ  
った。今は式を終えた新婚初夜のような気分で、帰ってきた小雪のおとがいに  
柔らかく指を添え、唇を重ねる。このキスの仕方が柔らかくて好きだ。  
「小雪殿、初めてだったの?」  
小雪殿は至極当然といった顔で頷く。これが少女なんだろうか。僕は圧倒され  
そうだった。  
「僕で、いいのかな」  
 
 昼間のことが、信じられなかった。月が煌々と照り、床に敷布を敷いた寝床  
に同衾している今もだ。小雪殿に重なるときは、息を呑み、爆弾を運ぶような  
気持ちだった。僕が処女を抱いたなんて。熱く反り返ったものとは裏腹に、知  
り合って間もない娘に愛している、好きだよという言葉をゼロゼロと喉を鳴ら  
しながら百回くらい言ってしまった気がする。小雪殿はその度に移り変わる表  
情で応え、僕を魅了した。ついに僕が深く繋がったときも、潤んだ目と小さな  
ものを失くしたと言いたげな口元があった。すぐに唇を重ねてしまったが、目  
に焼きついている。日夜激しく身体を動かしているからか、破瓜の痛みや震え  
は伝わってこなかった。僕の全てが、僕を救い、全存在を認めてくれた小雪殿  
の中に沈みこんでいった。僕はまさにケロンの柔肌のようなそこに、ただ丁寧  
に突き入れることしかできなかった。指一本がやっとのそこに、慎重に挿入し  
たものの、動くのもままならないのだ。それでもじわじわと腰を引き、息を整  
えながら、また剛立を進める。懐かしい感触をも再現する充血した秘部が震え  
て、僕の動きに合わせて縁肉がうねった。  
「きつくて、温かい…」  
心からそのまま出てしまった言葉に、はっとする。幼い頃病床に臥せっていて、  
起き上がろうとしたら、母に抱きしめられて出た言葉と同じだった。発射をよ  
うやく堪えながらのグラインドが精一杯だった。  
 
 また小雪の頬にキスをした。手が、唇が、吸い付くようだった。いっぱいの 
若さと素直さをはらんだ肌から唇を離すことなく、なめらかな首筋、肩口、上 
腕と散らしていく。小雪が自分に軽く触れさせているしなやかな指先が、その 
度にさざなみの動きで細かく震えた。  
「んぅっ…あっ、ここ、もっと擦って…」  
 自分の感じる部分を捉えたらしく、小雪は自分から腰を振ってゼロロにそこ  
を示した。ひねるように腰を引き、被さるようにして抽送を再開する。  
「あ、もっと身体起こしてくれた方が」  
「うんっ」  
「そう、あぁんっ」  
お互いの希望を述べ合ううち、またも二人は向かい合った。そして二人とも器  
用に手で体重を支え、お互いの臍の下と交わらせるためだけに腰を仰け反らせ  
て道具をぶつけ合った。堪えられない。足を開いてぶつかり合うことはいっそ  
開放的なのかもしれなかった。小雪はみるみるうちに宇宙人から性技を吸収し、  
自分から腰を振ることを知ってしまった。粘度こそ違うが二人からは玉の汗が  
飛び、辺りに情欲の匂いがたちこめる。ゼロロはただ小雪のためにここにいた  
が、小雪は里の秩序を守るためと、これも一種の修行のために家に戻ってきた。  
今は翻弄されてしまうけれども、いずれ上達してみせると、弾け飛ぶ意識の中  
で小雪は思った。  
 
 里に緑が下りていく。山河と格闘する一日の修行と、忍としての義務を果た  
し、二人の顔は開放感に溢れていた。  
「ゼロロ、また、しない?」  
突然そんなことを言い出す。恐れを知らないのか無邪気なのか。おそらくその  
両方だろう。  
「今度は私からいくね。どうしたらいいか調べておいたし、きっと気持ちいいと思うよ」  
誰から聞いたのか、空中の筒を吸うような卑猥なジェスチャーをした小雪に、  
一瞬赤面するほど照れたが、僕は破顔一笑していた。そうか、気持ちよかった  
んだ。良かった。潤んだ瞳の小雪殿が、吸っていた人差し指から唇を離す。  
微笑んで手を取れば、汗ばんできらきら光っていた。手の甲に口付け、僕は足  
先まで裸になった。小ぶりな双丘が、ピンク色の突起を持ち上げて目の前に  
ある。ここだけは乾いた体でも瑞々しかった。僕も大分その気で、手の甲から  
足の指先まで存分に口付け、長く粘つく舌でねぶって、先日肉棒を突き入れた  
小さな泉に、まさにケロンの女性の顔にするディープキスを試みる。長い舌が  
喉の奥まで入り込み、浅いところに戻して口蓋を舐めるようなことを、綺麗な  
そこに向ってしたのだと言ったら想像してもらえるだろうか。ぷっくりと立ち  
上がってしまった肉芽を指先でこねれば奥から露が溢れてきて、止まらない。  
実のところケロンの美人が大味に思えた。それに、小雪殿の秘部は驚くほどき  
つくて、良い―。思わぬポコペン人データまで手にしてしまった。僕が触れた  
ところを痙攣させ、ひっきりなしに忍らしからぬ可愛らしい声を放っている。  
可愛い。がくがくと体術を駆使してでも甘い拷問から逃れようとする身体を全  
力で捕まえ、僕は熱烈なキスを続けた。小雪殿は何度も僕を呼び、やがて、一  
切の抵抗が無くなった。僕はやっとべたべたの口を離し、荒い息を整えようと  
する小雪に呼びかけた。  
 
「小雪殿、いくよ…」  
僕はやや腰を浮かせ、粘液を帯びた先端を小さく口を開けた小雪の入り口に  
宛がう。小雪も協力してくれて、やがて弾道弾が隙間ない重砲の中を進むよう  
に、僕自身が入っていく。根元までつながり、子宮の入り口に当たったならば、  
引く。ただ受け止めてくれているだけなのか、気持ちいいところに当たって  
二人とも楽しめているのか、気になる。  
「んっ…やんっ…」  
やがて、喉を撫でられて鳴く猫のように、擦れあう粘膜の感触に小雪が喘ぎ始  
める。僕はただ、どこがいいのかと思いながら、徐々に抜き差しを早くしてい  
った。僕自身も急激に追い詰められつつある。頭の中が真っ白になり、ひたす  
ら小雪殿の足の間に腰をぶつける。濡れた肌同士の、ペタッペタッという音が  
脳髄を痺れさせた。  
「あっ…やだっ、ゼロロ、離して、お願い離して!」  
何か言いたいらしいので、アサシンに上り詰める訓練で培った忍耐力で動きを  
止め、自らをずるりと抜き出そうとする。  
「あっ、そのままでいいから。もっと奥まで当たるように…」  
そのまま、いつかのように上下関係が逆転してしまった。自由になった小雪殿  
の青い腰が上下に跳ね、今度は僕が嬲られている。淫らで熱くてぬるぬると年  
上の男をもてあそぶそこが、今度は八の字を描くように僕を深々と咥え込んだ  
ままうねった。どこで覚えてくるんだろう。充血したピンク色の襞が僕自身を  
収めて動いている場面がばっちり見え、これも悪くなかった。抜けないように  
見ながら、タイミングを合わせて突き上げる。もう止まりそうに無かった。  
結合部からくちゅくちゅという水音が聞こえ、僕の意識を霞ませていく。  
「小雪、殿」  
「んっ、ああぁっ、硬い…何っ?」  
「そろそろ、いいかな」  
「んっ」  
 
小雪は僕を見下ろし、上体を前傾して僕の唇に舞い降りてきた。僕は腰で支え  
るようにして結合が抜けないようにしながら、応える。まるで僕の腰ではない  
かのように小雪殿を突き上げ続け、ずっ、ずっ、と小雪殿が僕の上で揺れた。  
ただでさえ本当にきつい小雪殿のそこの、小雪自身が振り回されている狂乱の  
歓待が最高潮になった時――僕は濃い交わりの対価を胎内にみんな放っていた―。  
骸がどこかで、溜息をついた気がした。  
小雪殿。  
君が好きだ。  
ずっと…ここにいたいな…。  
はっきりと自覚する。叶わなかった思春期の初恋以来の感情だった。  
 中途半端に文明化した星とその上の民たちが営々と築き上げた、古めかしく  
て微笑ましい工業群については調査資料が上がってきていたが、何かに惹かれ  
るように来てしまったここは、ポコペン人にすら存在を知られていそうになか  
った。自然の中、自然と生き、端然とした在り方を身につけるポコペンの「忍」。  
また、気配を消し、どんな任務も遂行する驚異的な戦闘員としてのポコペンの  
「忍」。もし地球にいるのが「忍」ばかりなら、報告書を相当曲げて書いても  
侵略の再考を促す文を書けるだろうに。もっとも、もしそうだったとしてもケ  
ロンの上層部によって決定され、具体的に星策として進められるこの侵略作戦  
は、よほどのことがない限り中止などされないだろうが。その時、このポコペ  
ンこと地球はケロンの意のままになる。僕にまさかポコペンは救えない。でも、  
小雪と忍の里くらいだったら、訓練用か休養用地ということにして救えるかも  
しれない。早く出世しよう。そうだ。小雪と忍の里だけは、守り通すことにし  
よう。僕は一つだけ決めた。征服された星の女性でも、有力者や名家の奥方に  
なって堂々と生きていくような話はごまんとある。ケロンに連れて帰って、  
実家で一緒に暮らそうか。でも、むしろ小雪殿に必要なのはそれではなく…。  
僕の願望は明瞭な形を見せた。清らかな小雪とこの場所には、一生自由でいて欲しい。  
 
 その夜、思いを込め、小雪の右手を取り、手の甲のふちにそっと口付ける。  
目の前に鉄色の苦無があった。僕は、ここに来るために生まれてきたのかも  
しれない。小雪の額の髪をかき上げ、額にもキスをする。小雪からはキスして  
くれない。しかし機は熟した。  
「小雪殿、僕と結婚してください」  
屈託なく、おかしそうに小雪は笑った。まだよく意味が分かっていないのだろ  
うか。そんな筈はないと思い、僕はしばしじっと小雪殿の目を見て返事を待つ。  
「わたし、忍だもん」  
答えになっていない。遠まわしのイエスかな? 情を交わした愛しさそのまま  
に肩を抱こうとすると、小雪が始めて見せる表情で、僕を避けた。  
「…触らないで」  
えっ…?!  
プロポーズが受け入れられなかったのかという絶望、いきなり蘇った幼少時代  
の嫌な記憶、もしかして身体が目当てだっただけ!? でもでもっ…とパニッ  
クに陥りそうになる。  
「勘違いしないで。私たち、一緒に寝ただけだよ?」  
叫びだしそうになる。実際は擦れた声が出ただけだったが、僕の目はまん丸で  
瞳孔が開いていたに違いない。  
「ね、寝ただけって」  
保護地となった忍の里と、楽しいケロンの空の下の想像が、音を立てて崩れて  
いく。  
「頭領の命令だったから」  
いじめられた記憶どころじゃなく、色々な意味でショックを受け、僕はくらい  
鬱の気分で放心していたらしい。意識が戻れば、侵略作戦再開はなくなったと  
いう報せが天に現れていた。  
「ゼロロだったらいいかな、と思って…。どうせいつかはすることだし、ゼロ  
ロは紳士で河童だし」  
そんな命令で、こんな少女が愛もなくあんなことをしていたのか。いや、最初  
はそうだったとしても、後は…。諜報活動にはよくあることだが、空恐ろしい気がした。  
 
 小雪は少し困惑していた。また忍同士のからりとした毎日が再開されるもの  
だとばかり思っていたら、ゼロロは何だか小雪に「まとわりつく」ようになり、  
寝床を一緒にしたり、世話を焼いてくれるようになったり、朝どこに行くのか  
聞いたりし始めた。ゼロロは彼の育った環境での愛情の表し方を実践しただけ  
だったのだが、小雪には何だか「常識知らず」で奇妙なことに思えていた。  
そこで、ある日小雪は言ってみた。  
「郷に入れば郷に従え、だよ」  
 ゼロロはある日、察した。何だか忍の里の雰囲気がおかしい。身の危険を感  
じた。小雪を連れて行く最後のチャンスだと思い、ゼロロは最後の説得を試み  
ることにした。逃亡者が出た時は里全体で抹殺するというここでも、一緒に死  
に物狂いで逃げれば希望はあるのではないかと思った。  
「小雪殿、聞いて。人と人との関係って、とても素晴らしいものなんだ!」  
「わたし、忍だから」  
「家族、兄弟、友だち、恋人、夫婦、親子、孫子、ペンフレンドにメールフレ  
ンド! 里の外には素晴らしい関係がたくさんあるんだよ」  
「忍にはできないよ…それに、裏切りや別れが絶対にあるんでしょ」  
「…う、裏切らないことだって、たくさんあるよ。そっちの方が多いさ!  
沢山の人と居るのは楽しいよ」  
「でも、ゼロロの河童の仲間って見たことないんだけど」  
「うわぁあっ! …別れは、それがあるからこそ、人は関係を大事にするんだ  
よ!」  
トラウマの記憶と正気の間を彷徨いつつも続けた僕の説得に、ついに小雪は  
質問をやめる。そして、再び口を開いてくれた。  
「わたしにも…いつか友だちできるかな?」  
「うん、勿論さ!」  
「…しよっか」  
 
 何か人間関係に自分なりのイメージを掴みかけたという顔をした時、すかさ  
ず小雪殿は僕の唇を奪う。目を背けてきたものを直視するのを恐れるのか、  
何かを隠すためなのか、逡巡の色をちらりと見せたが、接吻の軌道は見えなか  
った。ケロン正規軍精鋭部隊アサシンのトップに上り詰め、この少女に体格で  
も殺人術でも勝っている僕が、避けられなかった。やや信じられない思いで、  
しっかりと唇を受け止める。小雪が口を開き、小さな袋を取り出して言った。  
「ゼロロ。これ飲んで。あたしもここに…」  
何やらきつい野草の匂いがする丸薬が出てきた。小雪は既に、秘部に薬草を  
調合して作ったその媚薬を溶かしいれていたらしい。まるで失禁したように、  
秘部を覆う布が湿っていた。男女ともに効くという。そのまま交互にお互いの  
足の間に触れ、僕は心にまで手を伸ばすように、舌を伸ばして小雪の掌から一  
粒丸薬をすくった。口腔が自然の味に包まれ、気が遠くなる。小雪がそっと下  
に降りていき、手で僕の股間を探り出す。やがて膨張を探り当てられ、それを  
握られ扱きたて、外気に晒す。その口が僕の剛直を彩り、いつもの熱い肉びら  
で意のままに硬度を操っている。小雪が下に居る。ねぶったり吸い上げたり…  
僕もかつて小雪にしたことだった。随分昔のことのように思えた。スムーズに  
進入した小雪の中はいつもと違う、ちくちくした痛痒い刺激を感じると思った  
ら、剛直に棘のような触角がびっしり生えたような感じがした。あとはその触  
角が勝手に身体に命令して、小雪の手を、頬を、口腔を、胸を、秘裂を求めて  
いく。形のいい胸がほんのり色づき、突起を充血させて、僕の掌の中で形を変  
えた。擦り合い、抱きしめあい、愛していると叫ぶだけ。生きているだけ、  
求め合っているだけだ。これは、効く…。巷で売られている怪しげな強精剤の  
効能を十ばかり並べたようなものだった。小雪の中の僕自身が萎え知らずにな  
ったようで、小雪自身もずっと達し続けているような、甘く連続的な叫びを続  
けている。  
抱きしめていても、届かないのかな。生き物にはそれぞれものを覚えるのに  
最適な時期があって、それを逃すともう一生身につけられないようなものも  
あるという。小雪殿、物心ついてから一人だったの? その前の抱擁のことは  
覚えてないの? 僕の腕、僕の鼓動はどう感じられているの?  
本当はみんな分かっていて、言っているの?  
 
 気がつくと僕は一人だった。知らない場所に居て、近くに骸殿がいた。小雪  
の気配はどこにもない。骸殿は僕と小雪の間にあったことを知っていて(今里  
中に広まりつつあるようだ)、現在の僕達が置かれた状況を手短に教えてくれ  
た。忍にとって命取りにつながる馴れ合いを避けるため、忍の里の者たちには  
「親子」「家族」「友だち」といった概念はないのだと…。全ての疑問点が一  
本の線につながった。そして、これ以上小雪の心をどうこうするつもりなら、  
忍の里全体が僕と彼女の敵に回ることをほのめかした。引き返すなら今だけだ  
からね。漆黒の樹に猛禽が目を見開くようなものだった。抗いようの無い暴力  
に仲を引き裂かれる予感に、震えが来た。そして何故か平静な気持ちになった。  
 ぬるぬると滑る男の体の上で、手足がしなやかに伸びきった少女が揺れてい  
る。胎内に咥え込んだものが容易に抜けないように、男の上でスケートリンク  
のように器用に身をくねらせている。そこも滑りが過度に良くなってしまって  
いるらしく、動くたびに思わぬ場所に当たる刺激に、身も世もなく喘いでいる。  
「あっ…あっ…ゼロロ、きもちいいっ」  
「拙者もでござるっ…これでは、どうでござるかっ…?」  
「ああぁんっ」  
今夜も拙者と小雪殿は同衾している。細いけれども強靭な体躯で、ぬめりを帯  
びた肌と熱い欲望を持った拙者を、受け止めて愛してくれる、この男の味を覚  
えてくれた小雪殿。肉襞を掻き分け、泉に絡まり、ずぶっと奥に突き行ってい  
くが、もう薄い帳のようだった心の襞を外すことはできない。少し前とは違っ  
て強烈な孤独感を感じながら、拙者は一粒だけ快楽のせいではない涙を流した。  
やがて息を弾ませて、たらふくまぐわった後に我らは身を横たえる。程なくし  
て小雪殿は浅い眠りに就いたようだった。拙者と小雪殿は、一週間おきにする  
ようになった代わり、より貪婪になった。忍の里で読んだ歴史書やら何やらの  
影響で、今「ゼロロ」の人格と口語には革命が起こっている。ケロン星生まれ  
の育ちの良いお坊っちゃんと、弱い星の民を吹き散らす殺戮機械が心の表面か  
ら消えつつあるのが分かるのだ。好きな女の子と生きられないなら、鋼鉄の侵  
略軍のアサシンよりも自然とともに生きる賢者になりたかった。傷みかけた林  
檎のような地球と、解体される忍庁と愛したかった小雪殿の行く末と、不景気  
対策と防衛上の理由を背景とした拡大政策を恒常的に続けている故郷の行く末が、  
あの悲しい日にどこかで重なったからだ。僕は、だから、地球のために拙者は  
生きていく。  
「小雪殿、これからもよろしくお願い申し上げるでござる」  
一人ごちるように、僕は丸い頭に呼びかけた。小さな頷きが帰ってきたようだった。  
 

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