「あ、っ、ぅん! ギロ……ギロ、ロ、ぉっ……!!」
甘い、甘い吐息とハニーヴォイス。苦しげに名を呼ばれ、体温が上昇する。
ドクドクと体内で脈打つ熱は、苛つく程緩慢なスピードで腰へと纏わり付いてくる。
……遅い。焦らされる感覚に気が狂いそうだ。
早く。もっと早く。
「はや、く、してよぉっ……ヘンに、なっちゃう、って、ばぁ……!!」
まるで心を読んだかのようなタイミングで、夏美が情けなく声を上げた。
途端、決壊したダムの水のような勢いで衝動が襲ってくる。
ほんのりと赤みを帯びた肌、柔らかに膨らんだ胸元につつっと汗が滑り落ちる。
舌で刺激を与えていたその先端から口を離すと、喉が勝手にゴクリと音を立てた。
「……夏、美」
そろそろと、夏美の身体の上を移動する。目の届く範囲がどんどん変わっていく。
視界の中心が、潤んだ瞳から白く丸い乳房へ、乳房から形良く窪んだ臍へ。
そして。
「はやく、シテって、ば、あ………!!」
思わず息を止めて見入っていると、夏美が痺れを切らせて身を捩った。
まるで果物だ。まだ熟しきってもいないくせに、熱っぽい色を浮かべて、ぽたぽたと汁を滴らせて。
薫ってくるような色香に、また勝手に喉が音を立てる。ぞくりとした快感が背筋を駆け抜ける。
「しっ、し、しかし、だなッ!?」
興奮が隠し切れない。落ち着こうとしても、声は正直に裏返る。
体内の熱が、言葉と一緒に漏れて零れたように。
「スマン、情けない話だが……満足させられる自信が、無い」
軽く身体を起こした夏美と目が合った。不思議そうな視線すら、情欲を煽る要因になる。
「俺は、もう限界だ。このまま、その、オマエと交わったとしたら……」
失望されてしまうかもしれない。俺はそれが怖い。
不思議なほどすらすらと、素直に言葉が出てくる。
どうして、こんなに簡単に言えるんだろう。嫌われたくないのに。嫌われたら困るのに。
「……いい、よ。……ナカで、出しちゃっても……」
ささやくような声が、やけに大きく聞こえる。見上げれば、頬を染めて俯いた夏美と目が合った。
その奥に、自分と同じ色が見える。解放を望む、燻った肉欲の色。見間違うはずがない。
「し、しかしッ……」
「一回で終わりじゃない、でしょ?」
ゆっくりと身体を起こした夏美が近づいてきて。
耳元に寄せられた唇が、甘い言葉を紡いで。
「そのまんま、私も楽しませてよ。私のナカで、最初っから最後まで……」
言葉が、引鉄を引いた。濁流のような衝動のまま、夏美の身体に飛び掛る。
柔らかい身体に己を埋めると、強い刺激が脳髄へダイレクトに快感を伝えた。
「なっ、夏、夏美、ナツミ、ナ、夏、ナ、ナツ、夏美ッ!!」
予想に反し、微妙にざらついた絶妙の体内。
ってゆーか無我夢中、ほぼ無意識のまま腰を突き上げ快楽を追いかける。
早く。早く。もっと早く。
「な、夏……………………!!」
裏返った声で名を呼ぶと同時に、一瞬意識が遠くなった。
軽い喪失感と共に身体が浮いたような感覚に陥る。目の前が真っ白になって……
「……夢、か」
身を起こし、ギロロはガリガリと頭を掻いた。
道理でご都合主義で支離滅裂、リアリティに欠けているわけだ。
事故で幸運にも目にする機会のあった胸や水着などで見た事のある臍はそのままの形で再現されていたが。
「……フン、くだらん」
小さく息を吐いて、幸せな夢を反芻する。
ほんの少しだけ寂しくなって薄い毛布を被り直し、そこでようやく滑る下肢に気付いた。
「……ッ、俺って奴はッ……」
情けない表情を浮かべて、慌てて薄布を跳ね除ける。
にー、と声がして、猫が顔中を白濁した体液で汚したまま抜け出してきた。
ざらついたあの感覚を思い出し、ギロロはがっくりと肩を落とす。……お前かよ。
「さすがに、そのままにはしておけんな……来い」
素直に従う猫を抱き上げ、テントを抜け出す。
この分だと乾く前に洗い流せるな。考えながら歩いていたせいで、注意力が散漫になっていた。
「ギロロじゃん。こんな時間にどうしたの?」
「ななななななっ、夏美ィッ!!?」
脱衣所兼洗面所で、トイレに起きたらしい夏美と鉢合わせた。
手を拭いながらこちらを見下ろす夏美の視線から、どうにか逃げようと身を捩る。
しかし、その必死な思いは夏美にも、ついでに猫にも届かなかった。
猫はギロロの腕から飛び出すと、夏美に向かって低く唸る。自然、夏美の視線は猫へと向いて……。
「あれ、猫ちゃ……、……っ、ソレ、まさかっ……!?」
「ち、違うんだ、夏美ッ!! それは、そいつが、そいつのせいで俺はッ!!」
「や、やっぱり!?」
「し、しまったァ――――――――!!」
パン、と乾いた音がして、ギロロの頬に夏美の手形が残る。
翌朝真っ白に燃え尽きたギロロへ、ニヤニヤと笑いながら
「人、いや猫に罪を擦り付けるのは感心しないでありますなぁ」
などとからかったケロロが、八つ当たり一斉掃射で死線を彷徨ったとか。おら知らね。