日向家で開かれたクリスマスパーティも終わり、桃華が家路につこうと、玄関で  
靴を履いていた。  
「西澤さんは、迎えが来てるのかな?」  
 もう夜も更けて、外は真っ暗である。そのことが気になった冬樹が、桃華にそう  
問い掛ける。桃華の家柄からすれば、外で黒い高級車が待ち構えているような、  
そんな気はしていた。  
「あぁ〜っ! いけません…。私、連絡するの忘れてました……」  
(…な〜んつって。これで冬樹君が「西澤さん、僕が送っていくよ」とか言ってくれて、  
クリスマスの夜を二人きりで歩くって寸法よぉ……)  
 心の中で拳を握り締める桃華に、冬樹が冷静な答えを返す。  
「うん。じゃあ、そこの電話使っていいよ。一人で帰るのは危ないしね」  
(なっ、なにぃぃぃ――っっ!!!?)  
 冬樹は何の他意もないといった感じで、明るく笑いながらそう言う。予想外の  
展開に、心の中で計画の再構築を必死に練る桃華であるが…。  
(よし。じゃあ、この手でいくとすっか……)  
 受話器を手に取り、自宅の電話番号をプッシュする。しかし、桃華はその受話器を  
すぐさま元の位置に戻した。  
「どっ、どうやら留守のようです…。困りました…。どうやって帰りましょう……」  
 桃華はチラチラと冬樹の方を見て、自らの送迎を誘う。  
「えっ、でも、あんなに早く切ったら、誰も出られないんじゃ……」  
 というか、あんなに従者などの人が居るのに、全員が留守などさすがに考えられ  
なかった。しかし、何か物言いたげな桃華の視線に、大事な理由があるのだろう、  
と冬樹も気付く。  
「わかった。じゃあ、僕が西澤さんを家まで送っていくよ」  
「ほっ、本当ですか!? ありがとうございます!!」  
(よっしゃぁぁぁ――――っっ!!!! これで夜道を歩ってるうちに、いい雰囲気に  
なった二人は…。いやぁ〜っ、私ったらはしたない♪)  
 
「西澤さ〜ん。行かないの?」  
 心中で喜怒哀楽を露わにしている隙に、準備を終えた冬樹を待たせてしまっていた。  
「すっ、すいません! 今参ります」  
 桃華は、慌てて外へ飛び出していく。冬樹が可笑しそうにクスクスと笑うと、桃華も  
釣られて笑いを漏らした。二人は和やかな雰囲気になって、夜の静かな住宅街を  
歩んでいく。  
 その時、桃華の眼前に何か白い物が舞ってきた。それを目で追おうとすると、さらに  
別の物が空から降ってくる。上空を見上げると、白い結晶がしんしんと踊るように  
舞っていた。  
「わぁっ…。冬樹君…、雪ですよ。凄く綺麗……」  
「うん。もう大分遅い時間になっちゃったけど、これでホワイトクリスマスだね」  
 二人はしばし歩みを止めて、空を白く染めながら自分たちに降り掛かってくる雪を  
楽しんでいた。  
 とても――いい雰囲気だった。桃華は自分のすぐ隣にいる冬樹の顔を覗き込む。  
白雪が舞う幻想的なシチュエーションも相まってか、普段の2割増しに凛々しく見えた。  
(そ、そうですわ。今がチャンス……)  
 桃華は自分へ勇気を与えるように、胸の辺りで両手を強く握り合わせる。下を向いて  
心の中で念を唱えると、一気に顔を上げて冬樹と目を合わせた。  
「西澤さん……?」  
 自分の名を呼んで見つめかえされると、桃華はドキンと心を動かされた。緊張で震える  
口元を何とか制御して、己の言葉を紡ぎ出す。  
「冬樹…くん? その…、私からのプレゼントがあるんですけど……」  
「へえ…。それって、何?」  
 口数少なげに返す冬樹に、桃華はこう続けた。  
「少しの間…、目を瞑っていてくださいませんか?」  
「…うん。これでいいかな?」  
 自分を驚かそうというのだろうと、冬樹は桃華のいたずら心を読みながら、ゆっくりと  
瞼を閉じた。  
「……」  
 桃華は無言で、激しく鼓動する心臓の上に手を当てながら、冬樹のもとへゆっくりと  
歩み寄っていく。  
 
「桃華からのクリスマスプレゼント…、受け取ってください……」  
 そして冬樹の両肩に手を乗せ、軽く背伸びをすると、自分の唇を冬樹の唇へと  
捧げたのだ。  
「……っっ!?」  
 冬樹は激しく驚愕して、目を見開かせた。桃華の想いはすぐには昇華されず、  
唇を離さないままで冬樹と目を合わせている。好きという想いだけが一杯に  
広がった桃華の瞳は、冬樹の抵抗という意思を激しく抑制させていた。  
 桃華は、唇を少しだけ離してこう言う。  
「お気に…召しませんでしたか……?」  
 茫然とする冬樹を見て、不安が強まった桃華がそう問い掛けた。心ここにあらず  
といった感じの冬樹も、それにより現状へと意識を戻してきたようだ。  
「えっ、ちっ、違うよ、西澤さん。いやなんかじゃな――」  
 冬樹が受け入れる意思を途中まで伝えた所で、桃華が冬樹の胸にきつく抱き付く。  
「好き…。桃華は、冬樹君のこと…大好きです……」  
 桃華は身体は小さく震わせ、弱々しく潤ませた目で真っ直ぐに見つめてくる。この  
小さい少女が、どれだけ勇気を振り絞ってその想いを伝えてきているのか、それが  
ありありと伝わってきて、冬樹は圧倒されていた。  
「んっ…、冬樹…くんっ……」  
 桃華が冬樹と繋がろうと、必死に口付けを求めてくる。冬樹は初めのうち、ただ  
茫然とそれを受け入れるだけであった。だが、目の前の少女は必死に自分を求めて、  
抱き付いてきては脚を伸ばして唇を合わせようとしてくる。  
 
(西澤さんっ……)  
 冬樹はそんな桃華を抱き締め返し、顔を少し下向かせた。そして唇と唇を、今まで  
以上に強く触れさせ合う。桃華だけの意思ではない、二人の力と想いを一体にした――  
これが本当のキスといったところだろうか。  
「僕も、西澤さんのこと…好きだよ……」  
「……っ!? 本当…ですか……?」  
 震える声でそう聞き返す桃華に、冬樹は安心させるように笑いながら、再びその  
想いを告げる。  
「僕は、健気で…可愛くて…そして僕のことをこんなに想ってくれる桃華ちゃんが、  
本当に大好き……」  
「ぁ……冬樹君…。私っ…、とって…も…、うれし…ぃ……です」  
 雪は街を真っ白に覆っていき、二人の熱い口付けを彩った。そんな中で、冬樹の  
口から自分への好意を告げられ、熱い想いがジワッと湧き上がる。その想いは  
至高の感激となって全身を震わせ、目からは歓喜の涙がこぼれ落ちた。  
「あれ…私…、嬉しいのに、涙が…涙が止まりません……」  
 喜びの絶頂にある明るい心とは裏腹に、桃華の涙腺は止めどなく緩んでいた。  
赤らんだ頬を伝って流れ落ちる雫を、冬樹が指でスッとすくう。そうして二人は、  
この上なく相手を想った目で見つめ合った。このあまりにも甘美な雰囲気は、  
二人を違う世界へと誘っているようで――  
 身体の温もり、柔らかい唇、そこから感じられる熱い息吹…、そんな互いを  
感じ合いながら、二人の熱い夜は更けていく……  
 
                                   −以下略−  
 
 
「あ…ぁぁっ…、冬樹君…。私っ、私ぃっ……。ハッ!?」  
 目の前には自分の枕。景色を見れば見慣れた自室。手にしたのは日付つきの  
デジタル時計…。  
「12月26日3時……」  
 途中まで読んだ所で気付いた。クリスマスはもう終わっているではないか。  
「あ、あ…、もしかして私……」  
 クリスマスの日の事を、毎晩のように考えていた。そんな生活がリズムを狂わせ、  
寝過ごしという悲劇的な形となって、今の自分に降り掛かっていたのだ。  
「そんなぁっ…。冬樹君…冬樹君っ……!」  
 抱いた枕を、冬樹の代わりにするようにしてギュッと抱き締める。そして――  
「くっ…、ちくしょう…。ちっくしょおおおおおおっっ!!!!」  
 ガッシャ――――ン!!!!!!!!  
「クリスマスのバッキャロ――――ッッ!!!!」  
 ジャイアントスイングで放たれた枕が、物凄い勢いで窓を突き破り、遠くの空へと  
飛んでいく。  
「痛っ!?」  
 それは大忙しのサンタクロースに当たるまで、どこまでも飛んでいったそうな……。  
 
                                     −完−  
 

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