(……どうしたんだろ、私)  
膝を抱えしゃがみ込んだまま、虚ろな目で夏美は小さく溜息を吐いた。  
それに反応するように、隣に座ったギロロがこちらに顔を向ける。  
二人の背後で、お揃いのネコ尻尾が落胆するように揺れた。  
「すまんな、夏美。こんな事になるなんてな」  
「いいよ、別に……もう、慣れた、って言うか」  
後でクルルとボケガエルはお仕置きだけど、と呟き、夏美は再び溜息を吐く。  
クルル作の「鈴が鳴ったらスプーンサイズ装置」のトラブルで  
ギロロと夏美の身体にネコミミとネコ尻尾が生えてから、約一時間程が経っていた。  
怒りに燃えた夏美の命令により、ギロロを除くケロロ小隊(モア含む)は、  
全員トラブル解明作業に駆り出されている。  
がらんとした指令室。黙って並んで座る幸せを、ギロロはしみじみと噛み締めていた。  
「それに」  
ぽつり、夏美が呟く。どこか焦点のあっていないその瞳。  
艶っぽく濡れたそれは、熱っぽくギロロを見つめている。  
「ギロロは、助けてくれようとしたじゃない」  
「ヌ、そ、それはッ……」  
すっと伸びた夏美の指先が、ギロロの頬に触れた。  
ぎょっとして硬直するギロロに構わず、夏美はギロロを抱えて自らの腕の中へと収めた。  
「なッ、夏美ッ!? 何をッ!?」  
「……ギロロ」  
ギロロを抱いたまま、夏美は切な気に瞳を潤ませた。  
そんな自分に困惑する間も無い程に、胸がきゅーんと痛む。  
「夏美、一体どうした!? 具合でも悪いのかッ!?」  
「やっぱ変、だよね……、……でも、私っ、私……っ!」  
腕の中、じたばた暴れるギロロを封じ込めるように、抱いた腕に力を込める。  
隆起した胸の谷間に後頭部がすっぽり収まる形になり、ギロロの体温がメラッと上昇した。  
「……ギロロ、どぉしよ……、私ヘンだよ、何か……切ない……」  
 
「ナ、ナツ、ナツ、ナ、ナ、ナツ、ナツ、ミ?」  
最初は気のせいかと思っていたが、明らかに夏美はギロロに乳房を押し付けて来ている。  
夏美の様子がおかしいのは明らかだったが、追求する気にはとてもなれなかった。  
柔らかい胸の感触と熱っぽい吐息、甘い汗の匂いがギロロの理性をガクガクと揺さぶる。  
「ナ、ナツ、ミ」  
きつく締められた腕の中、ギロロは器用に身体を反転させて夏美に向き直る。  
胸の谷間から盗み見た夏美は、とても淫らな表情を浮かべていて。  
「ギロロ……」  
甘い吐息とともに名を呼ばれた瞬間に、ギロロは躊躇う事をやめた。  
目の前にある二つの膨らみに、頭突きする勢いで顔を埋める。  
「っあ、あっ、ああっ!」  
嬌声を上げて、夏美はビクビクと背を反らせた。  
そのまま、重力に抗う素振りさえ見せずに後ろへと倒れる。  
小さな手がシャツのボタンにかかった瞬間、一瞬怯えた様な表情が浮かびはしたが、  
すぐに浮かんだ、それを上回る期待に満ちた色が一瞬でそれを覆い隠した。  
「ギロロぉっ……触っ、て……お願いっ……」  
半カップのブラジャーに包まれた胸は、上気した体温のためか桜色に染まり汗が浮かんでいた。  
荒い呼吸に合わせて上下するそれを、ギロロはしばらく惚けたように眺めていたが、  
夏美の声に我にかえったらしく、またそろそろと胸元へ手を持っていった。  
胸の谷間についた小さな金具に手をかける。  
外すのが難しそうに見えたそれは、予想に反し、触れただけで弾けるように外れる。  
 
全ての戒めを解かれ、わずかに左右に広がり揺れる柔肉。  
触れてみると、両脇に行く程柔らかく、中央の屹立した乳首の周りは、  
まるで張りつめたそこに連動するように弾力があった。  
「っは、ぁっ! あ、あ……ぅんっ!」  
ギロロの手で胸を揉みしだかれ、夏美は身も世もなく喘いだ。  
赤く染まった頬に、汗が玉になって伝っていく。  
ギロロの乗った腹の下、切な気に腰が揺れはじめている。  
擦れ合わせるように動く足の間、夏美の秘所は既に愛液が滴りはじめていた。  
「な、夏美ッ……」  
「だめ、ギロロ、変になりそぉっ……」  
赤く充血した乳首を口に含み、きつく吸い上げる。  
舌で転がして軽く歯をたてると、夏美の声量が更に増した。  
夏美の痴態に煽られるようにして、ギロロの熱もどんどんと高まっていく。  
白く丸い腹の下、性器が収納されている場所がぷっくりと盛りあがってきていた。  
「夏美、ココがイイ、のか?」  
「ん……イイ、気持ちいいよ、ギロロっ……」  
柔らかな胸に溺れそうになりながら、ギロロは夏美の瞳を覗き込む。  
薄く開いた唇の隙間、チラチラ覗く赤い舌が、まるでギロロを誘っているように見えた。  
「な、夏」  
「おや……お邪魔だったみたいだねェ、ク〜ックックック……」  
ふいに聞こえた声に、ギロロはぎょっとして振り返った。  
指令室の入り口、呆れた様な顔でクルルがこちらを見ている。  
「ご盛んですねェ、センパイ……クククッ」  
「なッ、キサマッ、こ、これは!」  
クックと楽し気に笑いながら、クルルはゆっくりとこちらに近付いて来る。  
ギロロは慌てて夏美の上から飛び下りると、渋る夏美に急いで洋服を着せた。  
ブラジャーはともかく、何とかクルルがやってくる前にシャツだけは羽織らせる事に成功する。  
 
「で……ココに戻って来たと言う事は、原因が解ったんだな?」  
「ぷっ……くぅ〜っくっくっくっくっく……」  
「キサマッ!人の話を……!」  
「あぁ、すーっかり解ったぜ。直に隊長達が原因を連れてくるだろうさ。  
 それより……もうちょっと、二人っきりの時間が欲しかったかい? くくっ」  
「………!!」  
未だ発情の残る夏美とギロロを交互に眺め、クルルはさも楽し気に笑う。  
気分を逆撫でしまくるクルルの言葉に、ギロロの脳の血管は100本単位でブチ切れていった。  
「クルルー、見つけたでありますよー」  
「曹長さんの言う通りでしたぁ、さすがですぅー」  
ほどなくして、ケロロとタママが指令室へ飛び込んで来る。  
それに続いたモアの腕の中では、白い子猫が不機嫌顔で抱かれていた。  
「なによぅー、なによぅー! 放してよぅー!」  
モアの腕の中、子猫はいやいやをしながら人語を話している。  
子猫を宥めながら、モアは目を丸くした。  
「本当にクルルさんの言う通りだったんですねぇ……って言うか、奇々怪々?」  
「お、おい。つまりはどういう事なんだ、クルル?」  
急拵えの光線銃に充電しつつ、クルルは面倒くさそうに夏美に抱かれたままのギロロに視線を向けた。  
「鈴が鳴ったらスプーンサイズ装置は、ヒトに影響を与えるように作ったんでねェ、  
 猫には対応しきれなかったんスよ。で、副作用がでちまったってワケ」  
「と言う事は、今コイツが人語を話しているのも、人形サイズになったときの擬人化も……」  
「ついでに、そこのお嬢ちゃんの発情も、な。残念だったねェ、センパイ」  
「なッ、誰が残念などとッ……!」  
充電が終了したらしく、クルルは銃を構えると二人へ銃口を向けた。  
モアが急いで二人へ近付き、ギロロの腕の中に子猫を押し込む。  
「ギロロ! わーい、ギロロ!」  
嬉しそうに喉を鳴らす猫を抱いて、ギロロは静かに目を閉じた。  
後頭部には、未だ押し付けられたままの夏美の胸(ノーブラ)が幸せの感触を伝えている。  
いい夢だったなとしみじみ思った次の瞬間、眩しい光が全身を包んでいった。  
 
ケロロ達の目の前で、ギロロと夏美についたネコミミが解けるように消えていく。  
「さっすがクルル曹長! 大成功でありますなァ!」  
光線を止めると同時に、ケロロがてこてこと二人の元へ近寄る。  
子猫はすぐに逃げていったが、夏美はボンヤリとしたまま座り込んでいた。  
「な、夏美……大丈夫か?」  
恐る恐る、ギロロが声をかける。  
夏美はきょとんとした顔でギロロへ視線を移し、すぐにそれをケロロへ向けた。  
無防備に近寄って来たケロロの頭を鷲掴み、自分の目の高さまで持ち上げる。  
「アンタ、よくも……」  
「ヒェェェェッ!? わっ我輩、もうお仕置きは受けたでありますよッ!?」  
「問答無用っ!!」  
ケロロを蹴り上げるその表情に、先程の淫らさは微塵も感じられない。  
覚えていないのだろうかと、僅かに残念に思ってしまう自分に苦笑しつつギロロも立ち上がる。  
あれは夢だ。楽しい夢として、自分だけが覚えていればいい。  
そのためにはクルルの記憶も吹っ飛ばさないとな、と、ギロロは静かに指令室を後にした。  
(何で……)  
しかし、夏美は覚えていた。先程の行為も、クルルの言葉も、その全てを。  
先程の発情は、あの猫のせいだと。  
ギロロを見るだけで胸が痛んだのも、あの猫の思いが感染ったのだと。  
けれど。  
(何か、ヘンな感じ。元に戻ったハズなのに……)  
全て元に戻ったはずなのに、胸の奥の小さな疼きだけは消えてなくならなかった。  
熱っぽく名を呼ぶ声と、肌に触れた掌の感触は、確かに自分へと向けられていたから。  
(元に戻った……ハズ、なのに……)  
自覚してしまったから。根付いてしまったから。  
混ざり合った精神に、ほんの少しだけ取り残された恋心に。  
 

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