夜の帳が下り時刻は夜半を疾うに過ぎていた。  
寒々しい月夜の中、しん…と静けさだけが辺りを支配する。  
薄い月明かりの下、皆寝静まり日頃の慌しさも、今は見られない。  
地球侵略者拠点である日向家は無論の事、その隣にある家にしてもそうであるかのように見えた。  
 
東谷小雪の住む家、見かけは普通の家、実は忍者屋敷となっている家では僅かばかりの物音が  
聞こえていた。…否、常人では気付きもしない程の、針の物音を感知する術を持たぬ常人なら  
決して聞こえぬ物音が小雪の部屋から聞こえていた。  
 
月明かりの差し込むほのかに明るい室内、部屋の一隅。  
広いとは言えないが狭くもなく寝所とするには充分な部屋である。  
本来なら暖かな布団に包まれた小雪が、安らかに眠っているはずだったが  
…この夜の小雪は少し違っていた。  
 
 
汗がにじんでいた。  
じわりじわりと粘つく汗。  
筋肉から沁み出てきたような、そんな粘つく汗。  
呼吸が僅かに早い。  
吐息が少し漏れた。  
「…ん」少しだけ、ほんの少しだけの吐息、大丈夫まだ気付かれない程度の…。  
 
指が身体を慰めていた。  
(…夏美さぁ…ん…)目を閉ざし、心の中で愛しい人の名を呼ぶ…、  
想像の中で夏美との逢瀬を楽しむ…それが今の自分に許されたただ一つのやりかた…。  
 
指が薄いショーツの上から自分の意志とは関係なく蠢いている…。  
さっきまでサラサラとした質感がいつしか…じわりとしていた。  
襞をまさぐり、ピンク色の粘膜をまさぐる、細い指を僅かに少しづつ少しづつ沈める。  
ゆっくりゆっくり…まるで夏美が愛撫しているかのように少しづつ。  
内壁をゆっくりと粘液と絡めながら、ゆるやかにこすりあげる。  
ゆっくりゆっくり…動かし、漏れる粘液を指に絡め…  
自分から溢れるヌルヌルとした感触を楽しむ。  
指が入った時の余韻を楽しみながら、甘く揺すぶりをあげる。  
指が届く可能の範囲の最奥まで指を入れる。  
奥まで到達した指を戻し、またゆっくりと最奥へと導く。  
「…ふ…ぅ…んっ」また吐息が漏れた…でも…、まだきっと気付かれないはず…。  
ヌチャリ。  
次第に音はリズミカルに、淫らになってゆく。  
指が別の意志を持ったように動きを早めてゆく。  
親指がまだ幼い柔らかい襞を押し上げ、ピタリと触れる。  
捏ねあげ、クチュリとした中を掻き乱し、リズムと鼓動が更に加速してゆく。  
(……ふわ、ふわぁぁ…ふわああああぁぁぁ、…とまらないっ)  
律動が止まらない。  
更なる快楽を追求しようと足がピンと張り、小指にまで緊張が走る。  
ふるふると震えながら、止まらない指は尚も挿入を繰り返し  
中壁をこすりあげ、陰核を刺激しつづける。指が止まらない。  
クチュクチュクチュクチュグチュクチュクチュクチュクチュ  
ズジュプクチュクチュクチュクチュジュブグチュクチュクチュ  
クチュクチュクチュクチュグチュクチュクチュクチュクチュ  
クチュクチュクチュクチュグチュクチュクチュクチュクチュ  
ズジュプクチュクチュクチュクチュジュブグチュクチュクチュ  
 
(……うあンっ…や、ダ、ダメっ…ダメぇ…)  
小雪の抑えきれない声が漏れた…。  
「……ンぅっ! ぅクっ……く、ぅぅ〜!」  
 
トントン…と遠慮がちに襖を叩く音。  
「…小雪殿、何かあったでござるか?」  
月影のもと小さな姿が障子にぼんやりと影となって浮かぶ。  
邸内で不審な物音を察知したドロロが小雪のもとへ参じたのである。  
流石はアサシントップ、深く寝入る事なく、僅かな物音を聞きつけたのである。  
空気の読めなさ加減も彼の美徳、だがしかし……この時ばかりは空気が読めなさすぎた。  
 
「なっ!なんでもない、なんでもないっ!!ちょ、ちょっこっと寝苦しかっただけだからっ!」  
動悸が治まらず、少しうわずった声、抑えた声だったが、先程までの狂態を引きずった声が  
ドロロに応じる。  
暫しの逡巡を見せた後、小さな影は呟いた…。  
「…そうでござるか…? …では拙者失礼するでござる…」  
「う、うん…、ほんとなんでもないないっ」  
ドロロの気配が襖の向こうで消える間際  
「…何かあれば相談してくだされ…小雪殿」と静かに聞こえた。  
 
次の日  
日向家地下に設営されたケロロ小隊秘密基地では、ドロロがどんよりといつもの会議に参加していた。  
周囲にはドロドロと渦を巻き、暗雲が垂れ込めている、  
小隊のメンバーは誰かがまたこいつのトラウマスイッチを押したのかと、周囲に目配せをしていたが、  
特に構うことなく議題は進行していた。と言うか無視して会議は進行していた。  
 
ほどなくいつもの通りケロロがガンプラの話題を出した所で小隊メンバーは散会し、  
ドロドロと頭を垂れつづけるドロロの元へ、見かねたモアがおずおずと声をかける。  
「どうしたんですか?ドロロさん、元気ないみたいですけど、っていうか暗中模索?」  
「…モア殿…」はっと気付き目を上げた先には、にっこりと微笑むモアの姿。  
誰もいない室内で一人演説を繰り広げるケロロも  
「…でありますから、ガンプラと言うのはですね、ケロン人にとって最大のっつーか  
我輩にとっていっちばーーーんっ大切な心のよりどころでありっ!なおかつ侵略には欠かせぬ  
アイテムなのでありますっ! …ってゲローーー!??みんないねぇーーー!?」  
ワタワタとあわてふためきだした。  
部屋の隅っこで、ペタリと座り込んだモアとドロロの姿を認めると一目散に駆けつける。  
「チョットあーた達、我輩の熱きガンプラトークを聞いていないっとはなんばしよっとね!」  
「でも、おじさま〜、ドロロさんが変なんです、っていうか挙動不審?」  
(そんなのいつものことじゃ〜ん!)  
隊員が落ち込んでいるらしい状況において、この言葉は不適切、  
頼りになるのはやっぱりケロロ隊長だよねぇ〜、やっぱ我輩じゃなきゃだめだよねぇ〜と  
この時ばかり、やたら計算高い算段を下すケロロは、思わず口をついて出る言葉をぐっと飲み込み、  
ドロロに向かって声をかけた。  
「どうしたでありますか? 何か悩み事ならドーンっとドーンっと我輩が聞くであります!」  
「ケロロ隊長殿…」憂鬱な眼差しがケロロを直視する。  
今のドロロにはケロロが頼もしく輝いてみえた。  
「実は……かくかくドロドロ」  
小雪の寝所においての不審な物音、悩ましげな声、自分は小雪の相棒でありながら  
相談すらされず毎夜この状態なのだという…。  
駆けつけても「何でもない」と言外に拒否される有様。  
 
ドロドロと滴る愚痴の途中で、ケロロはあっけらかんと言った。  
「それはきっとドロロにナイショで、おやつでも食べていたに違いないであります!」  
「そうだったんですね、っていうか夜食摂取?」  
「えっ!?そ、そうなのーーー!??」  
「いや〜我輩のなんと冴えた推理力! も〜なんつーか天才? いやいやあまり誉めないでくれたまえ  
我輩、隊長として、《隊長》としてっ! 部下の事を気遣うのは当然でありますからな!  
ゲーロゲロゲロ!」  
「ああっ! おじさま〜流石です〜、っていうか万事解決?」  
「我輩…いつも部下の事を一番に考えているであります(ガンプラ除く)」  
「モア…そんなおじさまが一番隊長に相応しいと思っています、っていうか適材適所?」  
「…モアどのはやっぱり…いい娘でありますなぁ〜」  
手を取り合い、二人の世界を形成しつつある空間をそっとドロロは独り後にした…。  
 
どうせ口の端から漏れたものだ、この際だから皆の意見を聞くのもいいのかも知れないと  
考えた、毎夜のごとく悩むのは流石に辛い。逡巡していても埒があかぬと判断し、  
次に向かったのはギロロがいるテント。  
黙々と武器を磨く背中におずおずと声をかける、  
「…少し時間を頂けぬか、ギロロ伍長殿」  
「なんだ、珍しい」くるりと振り返ったギロロはドロロの憔悴しきった顔を認めた。  
「ふん、何かあったのか?」磨いた武器を下に置き話を聞く体制に入る。  
「実は……かくかくドロド…っ」  
話の途中でパタパタと足音がテントに近づく気配を二人は察知した。  
「ギ〜ロロ、いるぅ?」  
部活帰りの夏美がテントの前で立ち止まり、中にいるであろうギロロに声をかける。  
「すまん、話しは後だ」ギロロは即座に俊敏な動きを見せテントの外に出る。  
「あ〜いたいた、ギロロ、ちょっと頼みがあるんだけど聞いてくれる?」  
「用件なら早く言え」  
「あのさ、お風呂壊れちゃって、ちょ〜っと直してくれないかなって〜」  
「ちっ…くだらん」  
「もう、汗でベトベトなのよ〜! 後でお礼に甘くないクッキー焼いてあげるから、  
オネガイ〜あんただけなのよ〜、こんな事頼めるのぉ〜」  
「…お…おう……」  
夏美は玄関に向かい、ギロロはテントの中にいるであろうドロロを思い出した。  
パサリと開けたテントの中に、ドロロの姿はもうなかった。  
 
西澤邸。  
警備が厳重な邸内ではあるが、アサシンとして活動するドロロにとって侵入など造作も無い。  
室内専用トレーニングルームでドロロはタママを発見し、  
事の次第を相談しようとしたが……、ふと我にかえった。  
今…自分の相談する事はタママ二等兵に理解できるのか…と。  
「…すまぬ、少し訓練の様子を見に来ただけでござるよ」  
不可解な行動を訝しげな眼差しでタママはじっと見る。  
「変なドロロさんですねぇ〜、…もしかして…」  
ギクリと身体がこわばる、まれにタママは人の心理を読む、自分の考えが伝わったのかと思い  
じっと次の言葉を待った。  
「もしかして…ドロロさん、ももっちのお菓子目当てですね?」  
「え?」  
「あれは全部ボクのものですぅ〜、  
例えドロロ兵長さんが渡せと言ってもぜぇっったいにっあげないですからね!」  
「…いや拙者は…」  
「いいえ、隠していてもボクには分かるですっ!日頃貧しい生活に疲れ果てたドロロさんは  
豊かなボクの生活に目をつけ、ボクのお菓子を狙って忍び込んだに違いないですぅ〜  
これだから、貧乏な生活をしている人は心まで貧しく、貧富の差を恨み、  
暗い欲望が思わず顔に出てしまうものなんですぅ〜っ!!」  
タママはニヤリと黒い笑みを浮かべ冷笑を振りまく、  
「まぁ〜、恵んで欲しいって言えば…恵んであげなくもないですけどねぇ〜」  
「…あれ? ドロロさんどこ行っちゃったですかぁ〜? ほんの冗談だったのにぃ〜」  
最後の言葉を聞き終える事なく…ドロロは西澤邸を後にした…。  
 
再びケロロ小隊秘密基地内、クルルズ・ラボ。  
薄暗く照明を落とした室内、仄かに瞬くコンソールに向かうクルルは独り呟く…。  
「…待ってたぜェ…、ク〜クックックック〜」  
気配を消し、静かに近づいたはずのドロロは少し驚いたままクルルに呼びかける。  
「何故分かったでござる?」  
「お前さんの生態反応はとっくに、こちらでチェック済みさ…ククク」  
「それより…拙者がここに来る事を予測していたとは…待っていたとはどういう…?」  
「ク〜クックック…、お前さん俺を侮っちゃいねェか…?  
悩んでんだろ? あのお前さんの相棒とかと言う女の事でよ…ク〜クックック」  
「実はそ…そうなのでござる…、流石はクルル殿話しが早い!」  
今までケロロ小隊のみなに理解される事もなく、悩みが最高潮に達していたドロロは  
クルルに今までのことを打ち明けた、まさかクルルが、あのクルルが自分の悩みを聞いてくれるとは  
思いもしなかった、クルルズ・ラボに来たのもなんとなく足が向いただけだったのに…、  
クルルはちゃんと自分の話しを聞いてくれている…、  
ケロロ小隊の要、ケロロ隊長の参謀を勤めるだけの事はあると、ドロロは思いもかけない事に驚愕しながらも  
今までの鬱憤を晴らすかのようにクルルに切々と胸の内を吐露した。  
 
「…と言う訳でござるよ…」  
「ク〜クックック…なァるほどねェ〜」人の悪い笑みを浮かべながらクルルは言う。  
「おい、お前さんなァ〜んにもわかっちゃいねェ〜んだなァ〜」  
「クルル殿はわかっているんでござるかっ!?」  
「そりゃまァ〜ねェ〜…、ク〜クックック」  
「小雪殿は一体何をしているんでござるかっ!?」  
「あの女、忍びの端くれだろ?」  
「確かにそうでござるが…」  
「…ク〜クックック、だったらそれは秘密の特訓ってやつだな、くノ一にゃァ付き物だろ?」  
「!!! なるほど、そうだったのでござるかっ! 拙者には全然わからなかったでござる  
確かに秘密の修行では拙者に見られたくないのも無理は無い!  
そうか、そうっだったのかー小雪殿は毎夜秘密の修行をしていたなんて思いつかなかった!  
かたじけないクルル殿、拙者疑問が解けてすっきりしたでござる!」  
「ク〜クックック…いいって事よ…、ク〜クックック」  
では御免と言って颯爽と姿を消すドロロの気配が遠くなったのを確かめてクルルは独り笑う。  
「ク〜クックック…、いいこと聞いたぜェ…監視カメラでも仕掛けるか…、ク〜クックック」  
笑いは闇に吸い込まれ、消えていった。  
 
 
その夜、月明かりの下ドロロは…感慨深く屋根に佇む…。  
「拙者…影ながら応援させてもらうでござるよ…。存分に修行に励んでくだされ小雪殿」  
今宵も小雪の秘密の特訓は続くのであった……。  
 
 
    了  
 

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