夕暮れのグラウンド…。そこからすぐの所にある体育館。体育祭も終わり、
冬樹はそこで用具の片付けを行っていた。
その途中で桃華が協力に加わり、作業も終盤を向かえる。
体育倉庫の中から、冬樹が顔を出して尋ねた。
「西澤さん…。これで最後かな?」
「はい。そうみたいですね…」
桃華の協力もあって、片付けも滞りなく終わる。仕事を終えた他の生徒達は、
すでにここから居なくなっていた。
「ふう…。体育祭も終わりかぁ…」
疲れ切った表情の冬樹…。
「運動が苦手な僕にとっては、正直イヤな行事だったんだよね……」
それが終わった安堵からか、冬樹がポロッと愚痴をこぼす。
(こっ…、ここで冬樹君を励まさねえでどうするっ!?)
そんなことを思った桃華が、冬樹にこう語る。
「そ、それは…。タマちゃん達が色々したことで競技は滅茶苦茶になっちゃい
ましたけど…、でも…」
桃華は、恥ずかしい気持ちを必死に堪えて話し続ける。そんな心境を表す
かのように、自分の両手を胸の上でギュッと握り締めていた。
「わ、私の中では…、ふ、冬樹君は、一等賞ですから……」
桃華の顔がカアッと赤くなる。
(きゃっ…!? い、言ってしまいましたわ。私ったら……)
その桃華の言葉に、冬樹は微かに笑みをこぼした。
「ありがとう、西澤さん…」
しかし、その笑みの中には、どこか暗いものが見て取れる。一言の励まし
だけでは、どうにもならないのかもしれない。
「じゃあ、行こうか……」
冬樹がどこか悲しげな表情で、体育倉庫から出ようとする。
ギュッ…
「え…」
冬樹が後ろを確かめる。すると、背後から桃華に抱き付かれていたのだ。
「冬樹君…。その…、そんな顔しないで下さい……」
「に、に、西澤さん!? そんなにくっついちゃっ……」
桃華の柔らかい身体の感触が、薄い体操服の生地越しに冬樹に伝わって
くる。
桃華は密着したまま向きを改めさせ、冬樹と向き合う形になった。
「私は、冬樹君のことをいつだって見てますから…、だから……」
冬樹は桃華と目が合った。冬樹のことを想ってか、目を潤ませて何かを
訴えている。
そうしていると、自分に身体を寄せてくる桃華の肌の感触が感じられた。
成長途上の胸の柔らかい感触…。扇情的なブルマからさらけ出された、
肉付きのいい太股…。何よりも、その鼻腔をくすぐる生々しい女の汗の匂い…。
(い、いけない! 西澤さんが僕を励ましてくれてるのに、こんなこと考えちゃ……)
冬樹は、そんな破廉恥な感情を振り払うように、首を横に振った。
「ご、ごめん…。僕もちょっと情けなかったと思う……」
冬樹は、そんな桃華を無意識に抱き締め返していた。その表情には、先程の
ような暗さはもう見られない。
「ふ、冬樹君…」
冬樹の大胆な行動に、桃華も驚く。
「西澤さん…、僕なんかを励ましてくれてありがとう……」
「そっ、そんな…。私は、冬樹君だから…その……」
「えっ、何?」
「いっ、いえっ! その…なんでも……」
桃華は冬樹と強く抱き締め合う。二人の顔は真っ赤になっていた。心臓の
鼓動が高鳴る――
「西澤さん…、そろそろ帰ろう……?」
「はっ、はい……!」
(冬樹君と寄り添って歩けるなんて……、よっしゃああああ――――っっ!!!!)
心の中でガッツポーズを決める桃華。
冬樹は、そんなメラメラと燃える桃華と身体を寄せ合いながら、この場から
去っていく。こうして、二人の体育祭は幕を閉じるのだった……。
−完−