2月14日。  
 
それはある者には甘い、  
 
そしてある者には苦い1日。  
 
・・・・・・・・・そう。  
 
恋する乙女と自分に女神が微笑むのを心待ちにしている男の一大イベント!!!  
 
天下の・・・・・・!!!  
 
 
「バレンタイン?」  
 
日向家リビング。  
 
ソファーに腰掛け、テレビを見ていた夏美は煎餅を食べながら声をあげた。  
 
「そうねぇ・・・。そういえばもう二月よねぇ。・・・・・・バレンタインかぁ・・・・・。」  
 
「姉ちゃんあんまり嬉しそうじゃないねー。クラスの女の子っていったら最近その話ばっかりしてるよ。」  
 
と弟の冬樹が、今日当番であった皿洗いを終え、  
 
夏美の前のソファーに腰掛けながら言う。  
 
すると夏美は、  
 
「あんた知ってるでしょう?毎年いらないって言うのに皆くれるんだもん・・・・・・。困るのよね。」  
 
と、ため息をつきながら手に持っていた煎餅を口に運ぶ。  
 
そして冬樹の方を見ると、  
 
「今年はちゃんと断ってよ?」  
 
と念を押すように訴えた。  
 
「わかってるよ(汗)でも僕達から見たら羨ましい悩みだよ。一個も貰えなかったときのあの寂しさといったら・・・・・・」  
 
冬樹は遠くをみるような陰を帯びた表情をみせる。  
 
いつかのバレンタインの時のショックは多少、心の傷として残っているようだ。  
 
「一個、二個程度ならいいわよ。私だって貰ってそりゃあ悪い気はしないけど・・・お返ししなきゃって思うじゃない・・・。でも・・・・あんだけの数に  
なっちゃうとさ。」  
 
と、夏美。  
 
その姿に冬樹は「姉ちゃんモテるからねー。いろんな意味で。」と苦笑を漏らす。  
 
「そういえば姉ちゃんは誰にもあげないの?」  
 
「えぇ!?」  
 
冬樹の何気ない疑問に夏美は歯切れ悪く答える。  
 
「え・・・・・・だって好きな人とか・・・・多分・・・・いない・・・しさぁ・・・・・」  
 
「別に好きな人だけじゃなくても、お世話になってる人とか家族とか・・・そういう人にも・・・・・」  
 
そう言いかけて冬樹は突然焦りながら  
 
「あ!!べ、別に僕が欲しいって訳じゃなくて…。」  
 
と慌てて手をブンブンと降る。  
 
どうやら遠まわしにねだっているのではないかと誤解されると思ったらしい。  
 
「日ごろの感謝の気持ちを伝える機会って結構少ないからなぁ・・・・と思って;;;」  
 
「それもそうねぇ・・・・。」  
 
冬樹の言葉を聞き、少々気持ちが変わったのか、  
 
夏美は考えるように答えた。  
 
すると。  
 
「あの〜・・・・。」  
 
その時リビングのドアを開いた。  
 
「あれ。モアちゃん。」  
 
そこにはガングロ女子高生の姿をした少女、アンゴル=モアが。  
 
モアは少し開いたリビングのドアが開いた隙間から顔だけを覗かせ、  
 
二人の様子を伺っていた。  
 
「あの・・・・夏美さん、今大丈夫ですか?」  
 
「ぇ?あぁ。いいわよ。何?」  
 
「失礼します〜。」  
 
ようやくパタパタとリビングに入ってきたモアは、  
 
夏美に促され、夏美の隣に腰を下ろした。  
 
「あの〜。最近、街にいつもよりたくさんチョコレートが売ってる気がするんですけど、何かあるんですか?てゆーか暗中模索?」  
 
「ああ。バレンタインだよ。今ちょうど僕たちもその話をしてたトコなんだ。」  
 
と首をひねっているモアに冬樹は答えた。  
 
「バレンタイン?」  
 
「うん。好きな人とかに、チョコレートとかお菓子を贈るっていう地球の風習だよ。まぁ、日本では大体が『好きな男の子に女の子がチョコレートを  
 
あげる』って言うのが一般的になってるけどね。外国では女の子同士であげたりとかも普通みたいだよ。」  
 
「へぇ〜。」  
 
冬樹の説明に思わず夏美までもが感嘆の声をあげた。  
 
モアはというと、少しうっとりとしたように言う。  
 
「そうなんですか〜・・・・。地球(ポコペン)には素敵な風習があるんですね!!好きな人にチョコレートですか・・・・・・。てゆーか千載一遇・・・・?」  
 
ポヤ〜ンとしているモアのを見て、夏美の口元がニヤリとあがる。  
 
からかうような口調でモアに話しかけた。  
 
「モアちゃんはボケガエルにチョコレートあげるの?」  
 
すると図星をさされたのか、モアの頬がぽっと紅色を帯びた。  
 
ははぁ〜んと夏美はまたニヤリ。  
 
「アイツ甘いの好きみたいだしねぇ〜。モアちゃん、もうチョコは買ったの?・・・・・・・・って知らなかったのに買ってるわけ無いわよね。」  
 
「はい・・・。」  
 
とモア。少し困ったような表情を浮かべる。  
 
「どんなものがいいんでしょうか・・・・?」  
 
すると夏美が、  
 
「それじゃぁ一緒に作る?」  
 
と言い、ソファーから立ち上がった。  
 
「え?作るって・・・?」  
 
「せっかくあげるんでしょ?だったら作ってみない?出来たの買ってくるんじゃなくて。」  
 
「はい!!!!教えていただけるんですか!!?」  
 
「うん。どうせ暇だったしね。」  
 
「ありがとうございます〜!!!」  
 
突然の夏美の提案に、モアは目を輝かせて喜んでいる。  
 
「それじゃぁ、早速材料買いに行きますか。」  
 
「はい!!!」  
 
ところ変わって。  
 
ケロロ軍曹専用部屋―――――。  
 
「ふふふふ・・・vvvこりゃまたいい感じに出来たでありますなぁ〜vvv」  
 
部屋の主、ケロロ軍曹は自分の作ったガンプラを眺めてため息をついていた。  
 
そしてきょろきょろと忙しなく部屋に視線をめぐらせると、  
 
出来上がったばかりのガンプラを手に取り、  
 
部屋の端で武器を磨いているギロロの方へ駆け寄っていった。  
 
「ね〜ね〜!!!ギロロ〜!!!見てみてであります〜♪」  
 
しかし。  
 
「・・・・・・・・くだらん。そんなものにいつまでもかまけていないで地球(ポコペン)侵略の計画のひとつでも考えたらどうだ。」  
 
と、完全に興味なし。  
 
すると今度はお菓子を食べながら漫画を読んでいるタママのところへ。  
 
「タ〜ママ二〜等っ!!!どうどう?♪♪♪色がね〜・・・」  
 
「わぁ〜。すごいですぅ〜。・・・・・・・・・(感情のこもっていない相槌)」  
 
「・・・・・・・・。」  
 
・・・・・・・・・・・・第二弾玉砕。  
 
(((我輩めげないっ!!!!)))  
 
最後に残るは・・・・・・・・パソコンに向かっている彼。  
 
「クルル曹長〜〜〜〜!!!!これ・・・・・」  
 
「(シカト―――――――――――――。)」  
 
「・・・・・・・ねぇねぇ〜。見てよ見てよ〜。これさぁ、ココの色をねぇ・・・・・・・・・。」  
 
「(シカト―――――――――――――――――――――――――。)」  
 
「・・・・・・・・・。」  
 
よくよく聴くとクルルのヘッドホンから音が漏れていたのだが(つまり聞いていないのではなく、聞こえていないのだ。まぁもし聞こえていても相手に  
していなかっただろうが。)  
 
シカトされていると思い込んだケロロには聞こえるはずも無く。  
 
ぽかんとした言いようの無い孤独感がケロロを包んだ。  
 
「・・・・・・むぁぁぁぁぁぁ!!!!!何だよナンダヨ!!!!皆でさぁ!!!!!ちょっと話聞いてくれるだけでもいいじゃんかぁ!!!!!!・・・・・・・もういいであります!!!!!  
 
モア殿にみせるも〜ん!!!!!」  
 
とやけくそになったケロロは勢いよくドアを開け放つと、ドタドタと出て行ってしまった。  
 
しかし。  
 
・・・・・・・・だだだだだだだだだドバンッッ!!!  
 
すぐに再びドアが開き、ケロロが戻ってきた。  
 
「あり?そういえばモア殿は?」  
 
どうやら見つからなかったようだ。  
 
すると、  
 
いつから聞いていたのか、答えたのはクルルであった。  
 
「ああ・・・・・あいつなら夏美とさっき買い物に出かけたぜぇ・・・・・。」  
 
「ぉえ?モア殿が夏美殿と?・・・・・一体何で。」  
 
「バレンタイン・・・・とか言ってたな・・・・・く〜っくっくっくっ・・・・。」  
 
クルルの後ろに置いてあるパソコンのモニターには、  
 
日向家のあらゆる場所が映し出されていた。  
 
「ばれんたいん・・・・・?・・・・・んん〜?ココまで(手でのどの辺りを示す)出ているでありますが・・・・・;;;」  
 
「ああ・・・。」  
 
とギロロ。  
 
「あのチョコレート爆弾のイベントだろう?」  
 
どうやらまだ勘違いしている様だ。  
 
「チョコレート爆弾?」  
 
ケロロは更に首をかしげている。  
 
そこへタママが。  
 
「違いますよぉ〜。ギロロ先輩。爆弾じゃなくてチョコレートですよ〜。お菓子の!」  
 
「菓子だと?」  
 
するとケロロの頭にポンッっと『!』が。  
 
「おおぉ!!!思い出したであります!!!あの、女性が好きな男性にチョコレートを贈るというイベントでありますな!!!」  
 
「どうやらそのチョコレートを作るための材料を買いに言ったらしいぜぇ・・・・。」  
 
とクルルがパソコンのモニターを見ながら言った。  
 
すると突然ギロロが声を上げた。  
 
「何っ!!!夏美がか!!!」  
 
「どうだかねぇ・・・・でもまぁ作るみたいだったぜぇ・・・・?誰にだか知らないっすけどねぇ・・・・。話からすると、好きなヤツに渡すんスよねぇ・・・?  
く〜っくっくっく・・・・。」  
 
「・・・・・・・・・・・っっ!!!?」  
 
クルルの含んだような言い方に言葉に詰まるギロロ。  
 
クルルは面白そうにさらに畳み掛けるように続ける。  
 
「夏美の好きなヤツか・・・・・・誰なんスかねぇ・・・・・。ま。俺たちには関係ないことッスけどねぇ・・・・・。くっくっ・・・・。」  
 
そこにタママも加わる。  
 
「そうですねぇ〜。誰なんでしょうねぇ・・・・・。あ。もしかしたら623(睦実)さんですかねぇ?」  
 
「何っっ!!!!!?;;;」  
 
さらにケロロまでもが。  
 
「そうでありますなぁ〜。めぼしい相手といえば623殿が妥当でありますか。」  
 
「なななな・・・・・・・・・・・っっっ!!!!!;;;」  
 
三人に思う存分不安を煽られたギロロの脳内では、  
 
非常事態シミュレーション(簡単に言うと妄想)が始まっていた。  
 
とある公園。  
 
夏美がベンチに座っている。  
 
すると、向こうから623が。  
 
「ごめんごめん。待ったかな?」  
 
その言葉に夏美は頬を赤らめて慌てて手を振る。  
 
「いえいえっ!!!大丈夫です!!!今来たところです!!!」  
 
「・・・・で何?俺に話って。」  
 
「ぇ!!?・・・・・・あ・・・・あの・・・・・こここコレ・・・・・・!!!!!」  
 
バッと夏美がチョコレートを623に差し出す。  
 
「コレ、俺に?」  
 
「はい!!!あの・・・・一生懸命作ったんです!!!よよよよかったら貰ってください・・・!!!」  
 
もう、夏美の顔は真っ赤だ。  
 
その瞳は恥ずかしくて623を直視できていない。  
 
その様子を見て623はフッと微笑み、  
 
目の前に突き出された夏美の手をふわっと自分の手のひらで包むと、  
 
グイッと自分の方へ夏美を引き寄せた。  
 
「わわっ!!!;;;」  
 
「ありがとう。嬉しいよ。」  
 
「む・・・・・623さ・・・・・。」  
 
(注意※あくまでもギロロの脳内シミュレーションです。事実とは大幅に異なります。)  
 
ギロロの何かが切れた。  
 
「のぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!  
 
夏美ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」  
 
今まで手入れをしていた火器を担ぐと、すごい速さで部屋から出て行った。  
 
「・・・・・・・・・おおお。毎回だが凄まじいでありますなぁ・・・・・。」  
 
その姿を見送ったケロロは感心したように漏らした。  
 
クルルは心底面白そうに  
 
「く〜っくっくっく・・・・くぅ〜っくっくっく・・・・。」  
 
とひたすら笑っている。  
 
タママも。  
 
「そうですねぇ〜・・・・。」  
 
と眺めていたが、はっと突然何かを思い出したように。  
 
(((・・・・・ナッチーとあの女(モア)がバレンタインのために買い物・・・・・?  
・・・・・ということは、あの女もしや!!!!僕の軍曹さんにチョコで近づこうっていう魂胆ですぅ!!!!  
・・・・ま・・・まずいですぅ・・・・。こ・・・・こんなことしてる場合じゃないですぅ・・・・・!!!!!)))  
 
タママの脳内でも非常事態シミュレーションが始まっていた。  
 
まぁ、此方はあながち間違ってはいないのだが。  
 
「軍曹さん!!!!!」  
 
「はいぃ!!!!!?」  
 
突然隣から聞こえてきた声にケロロがビクリッと飛び上がった。  
 
「と・・・・突然何でありますか・・・・?」  
 
「僕!!!!!!!ちょっと用事を思い出したんで帰るですぅ!!!!!!!!!!!!!!!」  
 
「え・・・あ・・・・わ・・・・・は・・・・はい・・・・?;;;」  
 
タママのもの凄い気迫に、ケロロはじりじりと押されている。  
 
訳もわからずもごもごしていると、  
 
あっという間にタママの姿は超空間に吸い込まれ消えていった。  
 
「・・・・・・・・・・・・な・・・・なんでありますか・・・・?;;;」  
 
状況の飲み込めないケロロはただただ驚くばかり。  
 
すると今度はクルルがパソコンの電源を切り、  
 
「それじゃ・・・・俺も・・・・・・・・・。」  
 
と立ち上がり、出口へ向かう。  
 
「えええ!!!;;;クルル曹長も行っちゃうでありますか!!?;;;」  
 
「・・・・・・・俺もいろいろ忙しいんでね・・・・・・・・・・・・・・。く〜っくっくっく・・・・・。」  
 
「あ・・・・・・・・・・;;;」  
 
・・・・・・・・・ぱたん。  
 
静かな部屋にドアの閉まる音がやけに大きく響いた・・・・・・・・・・・気がした。  
 
そして―――――――――――。  
 
2月14日(日)。  
 
バレンタイン当日。  
 
晴天・・・・・。  
 
日向家・庭。  
 
いつものように、テントの前で火器の手入れをしているケロン人が一人。  
 
ギロロである。  
 
しかし、様子が少し違っていた。  
 
「・・・・・今日がバ・・・・バレンタインとやらの本番か・・・・・・・。」  
 
ダンダンダンダン・・・・・知らずの内に貧乏ゆすりが。  
 
そして火器を磨く手にも熱が入る。  
 
「・・・・・・・・夏美は・・・・・・・夏美は・・・・・・・っっ!!!!」  
 
夏美は朝から「バスケ部の助っ人」で学校へ行っている。  
 
つまり、ギロロの目の届かない所に居るのだ。  
 
募る不安、不安、不安。  
 
すでにもうテントの中にある火器は一通りぴかぴかに磨き終わっていた。  
 
今持っている銃も摩擦で今にも煙が立ちそうな勢いで磨いている。  
 
「むむむむ・・・・・・・・・!!!!!!!!」  
 
そして例のごとくもの凄い湯気がシュウシュウと音を立てて、当たり一面に立ち込めていた。  
 
何も知らずに誰かが通ったら、何処かに巨大な加湿器でもあるのかと思うだろう。  
 
ココ一体の湿度はきっと異常である。  
 
見かねた同居人(猫?)の子猫がそっぽを向きながら「にゃあ・・・!!」と一喝。  
 
「はっ!!!!;;;」  
 
我に返るギロロ。  
 
少々気まずそうに謝る。  
 
「す・・・・・すまん・・・・・;;;俺としたことが少し動揺してしまっていたようだ;;;」  
 
「あにゃぁ。」  
 
それに子猫が「わかればよろしい」とでも言うかのように一声。  
 
しかし、恋する男の不安が消えるわけも無く。  
 
(((まさか夏美は今頃623にチョコを・・・・・?)))  
 
ただただ再び火器を磨く手に力が入る。  
 
色々と考えていたうちに、ギロロの頭の中ではもう夏美は623にチョコレートをあげるものと思い込んでしまっていた。  
 
当然、「夏美を623がたぶらかした。」と親のような見方に片寄ってはいるが。  
 
(((朝、見つけたアレは・・・・・・。)))  
 
実は。  
 
今日の朝、ケロロの部屋に行った帰りにリビングを通り過ぎた時。  
 
つながっているキッチンの台の上に置いてある小さな袋を見たのだった。  
 
赤色のリボンで可愛らしく口を止めてあるらしいその袋は、  
 
バレンタインをよく知らない(勘違いしていた)ギロロでも何かはなんとなく解った。  
 
「あ・・・・・・あれは・・・・・・もしや夏美が作った『チョコレート』という菓子か・・・・?」  
 
すると、いつかの非常事態シミュレーションが脳裏をよぎる。  
 
「・・・・・・・・っ!!!!!!!!」  
 
そのとき、ギロロの頭の中では天使と悪魔の壮絶な論議が始まっていた。  
 
脳内悪魔ギロロが  
 
「今がチャンスだ!!ここであのチョコとやらを壊せば、夏美は623には渡せない!!」  
 
とささやく。  
 
するとそれに大慌てで天使ギロロが止めに入る。  
 
「ばかもん!!!何を言っとるんだ!!アレを作ったのは夏美だぞ?壊して悲しむのは誰であろう夏美なんだぞ!!」  
 
「そうだとしても、あの623にチョコを渡して・・・・そう考えたら今壊しておいた方が良いに決まっている!!」  
 
「違う!!!コレを壊したら泣くのは夏美だけだ。壊すべきではない!!!!絶対に壊してはならん!!!!!!!」  
 
「いいや!!!こんなヤツの言うことなんか気にするな!!!壊せ!!!壊せ!!!!俺は貴様と夏美のことを思って言ってやってるんだ。」  
 
「そっちの話こそ気にするな!!!!!!絶対に駄目だ!!!!!  
 
貴様は好きな女を泣かせるようなことをしようとしているんだぞ!!!?とどまれ!!!!やめるんだ!!!!!!」  
 
「駄目だ!!!壊せ!!!」  
「壊すな!!!!」  
「壊せっっ!!!!」  
「壊すなっっ!!!!」  
 
・・・・・・・・・・・・・・っだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!  
 
・・・・・と。  
 
結局とどまったのだが、あれから気になって気になって仕方がないのだ。  
 
「夏美・・・。」  
 
モヤモヤと考えていると、知らないうちに彼女の名前が口をついて出ていた。  
 
すると。  
 
「呼んだ?」  
 
「!!!!??」  
 
思いがけず背中の方向から聞こえた声に、ギロロは飛び上がった。  
 
あやうく持っていた銃を取り落としそうになる。  
 
「ただいま。ギロロ。」  
 
振り返ると、後ろには赤毛のツインテールの少女。  
 
夏美である。  
 
「な・・・・・ぁ・・・・い、いつ帰ってきたんだ?;;;」  
 
「今さっきだけど?ボケガエル見かけなかった?」  
 
狼狽するギロロを気づく様子もなく夏美は居候の行方を問うた。  
 
「あ・・・ああ、ケロロなら、またあのくだらないおもちゃ(=ガンプラ)でも作っとるんだろう。」  
 
ギロロはそう言うとフイと夏美に背を向け、再び火器を磨き始めた。  
 
なんとか冷静を装っているが、内心は心臓が壊れそうなくらいのギロロである。  
 
事実、いつも赤いギロロの顔がさらに少し赤く火照っている。  
 
しかし、夏美はその様子にも気がつかないようだ。  
 
まったく天晴れな鈍感少女である。  
 
「まったく・・・・・アイツ今日トイレ掃除の当番なのに・・・・・!!!!さては、また忘れてるわねぇ・・・・!!!!!」  
 
独り言を言う夏美をよそに、ギロロの心の中ではまた葛藤が始まっていた。  
 
(((・・・・・・・渡したのか・・・・・?623に・・・・・・。)))  
 
ただそれだけが、気になる。気になる。  
 
悶々と堂々巡りの不安悪循環に流されながら、  
 
無意識に、一心不乱に武器を磨いているギロロ。  
 
すると、突然目の前に。  
 
「はい。」  
 
という声と共に後ろから視界を遮る物体が上から差し出された。  
 
その瞬間はっと我に返ったギロロは、それが何なのか理解する為に時間がかかった。  
 
しかし、見覚えのあるそれは。  
 
どう見ても見覚えのある、赤いリボンで口の縛られた可愛らしい小袋。  
 
中には茶色く、光沢のある一口大の粒がいくつか入っていた。  
 
「・・・・・・・・・これは・・・・・・・・。」  
 
ギロロは、突然の出来事に理解が追いつかないようだ。  
 
すると夏美がギロロの隣を抜け、彼の目の前へ。  
 
そしてしゃがむと。  
 
「チョコレート。今日バレンタインだから。ギロロに。」  
 
「!!!!!!!!???」  
 
一瞬視界が真っ白になった。  
 
言葉の意味を理解できなかった。  
 
「・・・・・・・・・・・俺・・・・にか・・・・・?」  
 
「他に誰が居るのよ。」  
 
「!!!!!!???」  
 
もう、ギロロの顔は真っ赤だ。(いつもの3割増くらい)  
 
「な・・・何故・・・・・・・。」  
 
まさか自分に来るとは思っていなかった。  
 
そうあればいいと思ったことは無かったとはいえないけれど。  
 
あまりに予想外だったのでギロロの声は心なしか震えが見える。  
 
その短い問いかけに、夏美は笑顔で答えた。  
 
「お芋。」  
 
「・・・・・・・・・何?」  
 
「いつものお芋のお礼。」  
 
「・・・・・・・・いも?」  
 
以外にも回答は間の抜けたようなその単語の響きだった。  
 
これもまたある意味、予想外の回答だったため、  
 
ギロロの思考回路はまた理解が遅れた。  
 
「芋とは、あの・・・・・・俺がいつも焼いているアレか?」  
 
「うん。いつも何かどうか言って貰ってるだけだったから。お礼に。」  
 
「・・・・・・・・・・・・そうか。」  
 
見事なフェイント。  
 
流石は天才運動少女、日向夏美である。  
 
ギロロといえば、そう答えるのが精一杯である。(いろいろな意味で。)  
 
しかし嬉しいのも事実。  
 
今、ギロロの中では期待が外れた落胆よりも、  
 
目の前に居る夏美と、彼女から貰ったチョコレートの嬉しさの方が勝っていた。  
 
「ちっ・・・・・。」  
 
ギロロの口から小さく舌打ちが。  
 
「チ・・・チョコレートとは、あの甘ったるい軟弱な菓子だろう。」  
 
照れていることを隠そうと、悪態をついてしまうギロロ。  
 
すると夏美が  
 
「今度はちゃんとお砂糖控えめにして作ったのよ?」  
 
と少し不服そうに顔をしかめる。  
 
「・・・・・ふん。どちらにしても菓子には変わりなかろう。」  
 
「何よぉ〜。折角作ったのよ?いらないんならかえしなさいよ。」  
 
夏美がしゅっとギロロの持っているチョコレートに手を伸ばす。  
 
するとすかさずギロロはそれを回避。  
 
「・・・・・あっ!」  
 
「・・・・・・・・・別に、貰っておいてやってもいいがな。食料があるに越したことは無い。」  
 
「何よそれぇ。」  
 
まるで小学生の男の子のようなギロロである。  
 
その態度にむくれた声を出した夏美だったが、  
 
その続きを、家の中から聞こえてきた微かな電話の呼び出し音が遮った。  
 
「あ!!電話・・・・!!!」  
 
音に気がついた夏美が慌てて立ち上がり、リビングへ続くガラス窓から中へ行こうと、  
 
靴を脱いで家に上がった。  
 
と。  
 
「・・・・・夏美!」  
 
急にギロロが後ろから名前を呼んだ。  
 
「?」  
 
夏美が振り返ると。  
 
背中を向け、武器を磨きながらギロロが。  
 
「・・・・・・・また、焼いてやる。」  
 
と一言。  
 
夏美は一瞬何のことだか解らなかったが、すぐに理解した。  
 
今のは、彼なりの「ありがとう」だと。  
 
それを聞いた夏美の顔には微かに笑みが浮かぶ。  
 
(((素直じゃないんだから・・・・・)))  
 
「うん。じゃぁ楽しみにしてるわ。」  
 
そう言うと夏美は催促するように鳴り続ける呼び出し音に、「はいはーい!!!;;;」と  
 
慌てて家の中に戻っていってしまった。  
 
しばらくして。  
 
黙って武器を磨いていたギロロだったが、  
 
チラリと武器から視線が隣の下へとそれる。  
 
そこには可愛らしい赤いリボンの付いた小袋。  
 
例のチョコレートである。  
 
「・・・・・・・・・・・・。」  
 
(((うん。じゃぁ楽しみにしてるわ。)))  
 
不覚にも、夏美の言葉を思い出して頬が緩みそうになる。  
 
「・・・・・はっ;;;」  
 
そんな自分に気付き、  
 
「・・・・・・・・・フン。」  
 
慌ててギロロはチョコレートから視線を手の中にある武器に戻した。  
 
いつの間にか沈みかけている太陽が、ギロロの頬を夕焼けで赤く染めていた。  
 
またまたところ変わって。  
 
もうひとつのバレンタインが。  
 
日向家の一角。  
 
ケロロ軍曹専用部屋――――――――――――――――――――――――。  
 
今日も今日とてケロロ軍曹は隊長として、地球(ポコペン)侵略の作戦の1つや2つ・・・・・。  
 
「ケロォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!でけた!!!!!でけたよぉ!!!!!!!我輩すげぇ!!!!!!!」  
 
考えている訳も無く。  
 
ついさっきガンプラ作りを我慢してまで3日3晩戦った知恵の輪を2つに分裂させることに成功し、  
 
興奮しながら部屋をドタドタと部屋を走り回っていた。  
 
「はははは!!!!見たかっ!!!!コレがガンプラを我慢した我輩の実力であります!!!!ゲ〜ロゲロゲロゲロ!!!」  
 
まったくその集中力を少しは仕事に向けたほうがいいんじゃないかと思うが、  
 
それとこれとはまぁ、話が別なようだ。  
 
と。急にケロロがそわそわし始めた。  
 
離した知恵の輪に指を通し、くるくると回しながら、きょろきょろと忙しなく周りを見回している。  
 
どうやらこの勝利を自慢する相手を探しているらしい。  
 
すると。  
 
ケロロの願いが通じたのか、ガチャリ。と部屋のドアが鳴り、  
 
誰かが入ってきた。  
 
「おじ様ぁ〜・・・。失礼します〜。」  
 
「おおお!!!モア殿!!!!」  
 
そこに入ってきたのはケロロを慕う純情少女、アンゴル=モアだった。  
 
自慢するには持って来いの相手が来たのである。  
 
ケロロは一目散にモアに駆け寄り、  
 
両手の人差し指(?)にかかっている2個の複雑な形をした金属の輪を  
 
めいっぱい上へ持ち上げ、モアに見せる。  
 
「見て見て!!!!やっと勝利したでありますよぉ〜vvv」  
 
「わぁぁ!!!すご〜い!!!!流石おじ様vvv」  
 
「いやいや〜vvv」  
 
「頑張ったかいがありましたね!!」  
 
素直にケロロの知恵の輪に対する勝利を喜ぶモア。  
 
他の人間(特にギロロとか)は相手にしてくれないが、  
 
彼女だけは素直に喜んでくれるのだ。  
 
ケロロは自分の功績を認めてもらい、上機嫌だ。  
 
「さて・・・・・今度はコイツを戻さねばでありますな。真の勝利は戻した後にやってくるのであります!!!!」  
 
と、意気揚々と部屋の中へ戻っていく。  
 
するとその後にてこてこと続いていくモア。  
 
ケロロは部屋の中心まで来ると、そこに腰を下ろした。  
 
モアはその様子を横に立ったまま、何か落ち着かない様子で見下ろしている。  
 
それに当然ケロロは気がつかない。  
 
「おっしゃぁぁぁ!!!ここから本当の戦いがスタートするであります!!!!」  
 
ケロロが知恵の輪との後半戦を始めようと意気込んだ、  
 
その時。  
 
「あの・・・・!!!」  
 
ケロロの上から声が。  
 
「んん?」  
 
すると、モアはケロロの隣に座ってから、  
 
「あの・・・・あの・・・・・これ・・・・・!!!」  
 
と背中に隠していた、緑色のリボンのかかった小さな透明な箱をケロロに差し出した。  
 
「これは?」  
 
「バレンタインの、チョ・・・チョコレートです。」  
 
「おお〜!我輩にでありますか!?」  
 
チョコレートだと知り、ケロロは嬉しそうに受け取る。  
 
「開けていいでありますか?」  
 
ケロロの問いに、モアが照れながら答える。  
 
「はい・・・!!・・・・・・初めて作ったんで、うまく出来ているかどうか・・・。てゆーか前代未聞?」  
 
「お!モア殿の手作りでありますか!!」  
 
パカ。  
 
ぽわん・・・・・。  
 
ほのかにチョコレートの甘い匂いが漂う。  
 
そこには黄緑色の細く切られた紙がふわふわに敷き詰められ、  
 
可愛らしい一口サイズの星型チョコレートがころころと入っていた。  
 
色は茶色と白が二種類。  
 
「ほほ〜♪モア殿らしい可愛いチョコレートでありますなぁ〜♪星型だし!!」  
 
「えへへ・・・。ど・・・どうでしょうか・・・・。」  
 
「食べていいでありますか?」  
 
「はい!どうぞ!」  
 
「頂きますであります〜!」  
 
甘いもの好きなケロロは嬉しそうに小さな星を口に放り込んだ。  
 
もむもむ・・・・・・。  
 
少しの間味わうように口を動かずと、目を輝かせて  
 
「んまぁぁぁぁいvvv美味しいであります!!!モア殿!!!!」  
 
「本当ですか!?」  
 
「我輩嘘はつかないであります!!」  
 
「わぁぁvvvありがとうございます〜!!」  
 
モアはケロロの言葉に、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑顔を見せた。  
 
ほわわんとした温かい時間が部屋に流れていた。  
 
が。  
 
その時。  
 
空間がシュンッと音を立てて割れ目を生じ、その中から自分の身体ほどの大きさの箱を抱えた黒い物体が部屋に飛び込んできた。  
 
超空間移動でケロロに会いに来た、タママだ。  
 
持っている箱にはぴっちりと可愛いラッピングが施されている。  
 
「軍曹さ〜ん!!!・・・・・・・はっ!!!!!;;;」  
 
てっきり軍曹一人だと思い込んで飛び込んできたタママは  
 
このまったりとしたほのかに温かい雰囲気にビクリとなった。  
 
そして先客を見つけ、  
 
(((あああああ!!!!あの女ぁぁぁぁ!!!!(←モアの事)まさか・・・・まさかこの僕が先を越されるなんてぇ!!!!!!!!!!)))  
 
と愕然となっている。  
 
チョコレートに夢中になっているケロロと、そのケロロに夢中になっているモアは、  
 
まだタママに気付いていなかった。  
 
(((しかもあの女、あんなに僕の軍曹さんにくっついてるですぅ!!!!!・・・・・悔しい・・・・悔しいぃぃ・・・・・!!!!!!!)))  
 
モアとケロロの仲むつまじい姿を目の当たりにし(ついでに気づいてもらえない事も災いし。)、タママの身体が黒い炎のようなオーラで  
 
包まれていく。  
 
(((軍曹さんの隣は僕だけのものなんですぅ!!!!!!!!!!)))  
 
暖かな空間の方では今まさに、モアがケロロに「あ〜ん?」をしようとしているところであった。  
 
その時。  
 
バシンッッ!!!!!  
 
「あっ!!」  
 
モアの持っていたチョコレートが突然何かに弾かれ、飛び上がった。  
 
「・・・ええ?」  
 
突然の出来事に驚いているモアとケロロの間にグイグイと割り込んでくるものが居た。  
 
「そんな事この僕が許さないですぅ!!!!」  
 
タママであった。  
 
ちゃっかりとモアとケロロの間に立ち、モアにガンを飛ばしている。  
 
(((ふぅ・・・・。なんとか阻止したですぅ・・・・。)))  
 
「???」  
 
一通りガンを飛ばすと、ケロロの方に向き直り、  
 
めいっぱい可愛いらしく例の大きな箱を目の前へ突き出した。  
 
「軍曹さん!!!そんなものより僕のスペシャル軍曹さんチョコレートを食べてみてくださいですぅ!!!!!」  
 
「おおお!!タママ二等も我輩にくれるでありますか!!」  
 
「勿の論ですぅ〜!!!一所懸命つくったですぅ!!!」  
 
「我輩・・・・いい部下を持って幸せであります!!」  
 
感動するケロロ。  
 
「ささ!!空けてみて下さいですぅ〜vvv」  
 
しゅるしゅる・・・・・パコン。  
 
「わぁ・・・・・。」  
 
「おお〜・・・・・。」  
 
思わずモアまでもがそのチョコレートに声を漏らした。  
 
その視線の先には。  
 
「コレがスペシャル軍曹さんチョコレートですぅ!!!」  
 
自信満々に紹介するタママと、  
 
ケロロの等身大と思われるチョコレートが。  
 
「今度はもっともっと頑張ったですぅ!!・・・・・どう!!?軍曹さん!!!vvv」  
 
なるほど。いつか見たのよりは上達しているように見える。  
 
「素晴らしいでありますなぁ!!!前よりもっともっと我輩のかっこよさが出てるであります!!」  
 
「でしょでしょぉ〜vvv」  
 
何気に自分を褒めながら、愛する(いや。そういう意味じゃなくて。)部下からのプレゼントを嬉しそうに眺めていた。  
 
するとタママはキョトンと見ているモアのほうへとてとてと歩いていくと、  
 
胸を張りながら嫌味たっぷりにこう言った。  
 
「どーだですぅ!!!僕のチョコレート!!!」  
 
(((ふふふ・・・・・。思う存分に悔しがるがいい・・・・・!!!!)))  
 
しかし。  
 
モアはパァァァと笑顔で、  
 
「はい!とってもよくおじ様に似てますね!!すごいです!!」  
 
と素直にタママを褒めた。  
 
その毒の無い輝いた笑顔に、  
 
(((わぁぁぁ!!!な・・・・なんですぅ!!この女!!!だんだん僕が惨めになってくるですぅ!!!!)))  
 
タママは自分の器の小ささを思い知っていた。  
 
そして更に悔しさ倍増。  
 
(((くぅぅ・・・・悔しい・・・・悔しいですぅ・・・・・!!!)))  
 
もっとバシバシアピールしなくてはとタママが考えていると。  
 
「タマちゃん。」  
 
「なんだぁぁぁ!!!!」  
 
恋敵のモアに名前を呼ばれ、もの凄い形相で振り返ったタママだったが、  
 
「う?」  
 
目の前に出された小さな箱を見ていつもの顔に戻った。  
 
それから訝しげにモアを見る。  
 
「・・・・・・・なんですか。それ・・・・。」  
 
しかし、モアは邪気の無い笑顔で続ける。  
 
「タマちゃんに。チョコレートです。」  
 
「!!!?」  
 
思いがけない展開にタママは驚いた。  
 
「僕に?」  
 
「はい。小隊の皆さんにはいつもお世話になってるんで皆さんに作ったんです。」  
 
「・・・・・・・・。」  
 
まさか自分が貰う側になるとは・・・・。  
 
しかし相手は憎き恋敵。  
 
受け取るわけには行かない・・・・・・・・・!!!!!  
 
が。  
 
お菓子大好きなタママの手はプライドとは裏腹に、しっかりとチョコレートを受け取っていた。  
 
「・・・・・ふ・・・・ふん!!そこまで言うなら貰っといてやってもいいですぅ。」  
 
そんなに頼んでいないが、やはりまだまだ子供。  
 
照れ隠しに悪態をついた。(あれ?こういうのどこかで見た気が・・・・。まぁいいか。)  
 
モアは嬉しそうに「これからもよろしくお願いします!」と笑っている。  
 
どうやら今日はモアのチョコレートのおかげで軍曹争奪戦は一時休戦になりそうである。  
 
そのあと。  
 
トイレ掃除をさぼったと、夏美にケロロが連れ去られ、  
 
軍曹さんが居ないなら。とタママも帰ってしまった。  
 
一人残されたモアは、日向家地下のケロロ小隊基地の中を何処かへ向かって歩いていた。  
 
その手には例の透明な箱。  
 
今度は黄色のリボンがかかっている。  
 
たどり着いたのは基地の一角。  
 
モアの目の前には基地の中だというのに、大きな建物がそびえていた。  
 
訳の解らない複雑な装置がその建物の上のほうから幾つも顔を覗かせている。  
 
そして、自己顕示欲丸出しの外装。  
 
そう。ケロロ小隊に欠かせない作戦参謀クルル曹長の拠点―――――。  
 
モアがドアホンに指をかける。  
 
するとドアホンとは思えない音がし、プツンと通信がつながる音がした。  
 
ドアホンの向こうからクルルの声が聞こえてくる。  
 
「・・・・・・何だ?」  
 
「あの・・・・・。入ってもいいですか?」  
 
「・・・・・・・・・・・。」  
 
クルルの声は途切れたが、その代わりにプシュゥン・・・・と音を立てて  
 
入り口が開いた。  
 
「お邪魔します・・・・。」  
 
そ〜っとモアが入っていくと、薄暗いラボの中で背中を向け、何か大きな装置をガチャガチャといじっていた。  
 
「わぁぁ・・・・。」  
 
純真なモアは何なのだろうと目を輝かせる。  
 
すると背中を向けながらクルルが、  
 
「今・・・・・忙しいんだがな・・・・・・。」  
 
とボソリと呟いた。  
 
それを聞いてモアは慌てて  
 
「あ!す、すみません!あの・・・・・これ・・・・・・。」  
 
「・・・・・・・・。」  
 
「小隊の皆さんにはいつもお世話になってるので、お礼に・・・・。作ったんです。えと、あの・・・・・それで・・・・・ク、クルルさんの分だけ、  
 
ちょっと材料が足りなくて・・・・。他の方のと違うのになっちゃったんですけど・・・・。あの、よかったらどうぞ。」  
 
「・・・・・・・・。」  
 
聞いているのか聞いていないのかクルルは返事をしない。  
 
普通なら無視されていると思っても仕方が無い状況なのだが、  
 
そこは純真天然娘アンゴル=モア。  
 
(((お忙しいですものね・・・・。)))  
 
としか思わなかった。  
 
「あの・・・・それじゃぁ、ココに置いておきますね。」  
 
そう言って手に持っていた箱を床に置くと、  
 
仕事(?)の邪魔をしてはいけないと、モアはそろそろと出口へ歩いていく。  
 
そしてペコリとお辞儀をすると軍曹の部屋の方向に戻って行った。  
 
モアが去ってしばらくして。  
 
クルルはおもむろに作業の手を止めると、  
 
くるっと入り口の方に身体をひねった。  
 
そこにはモアが置いていった小箱がぽつんと置かれていた。  
 
「・・・・・・・・・・・・・。」  
 
それを確認すると手元にあったキーボードらしき板のあるボタンをカタカタと操作した。  
 
すると何処からともなく金属で出来たアームが下り、この箱を掴むとクルルの方へ持ってきた。  
 
コトリ。  
 
クルルの隣に箱が置かれ、そのままアームは暗い天井の上へと消えた。  
 
可愛らしい透明な小さな箱。  
 
その中には丸いトリュフチョコが5つほど入っていた。  
 
箱は黄色のリボンで飾られている。  
 
しばらくじーっと眺めていたクルルだったが、  
 
フイと視線を造りかけの装置に視線を戻すと。  
 
「・・・・・・くっくっく・・・・。」  
 
と小さく肩を揺らした。  
 
とある地球(ポコペン)でのバレンタインの日―――――――――。  
 
おしまい  
 
 

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