雨はなかなか止まない。  
 
壊してしまったママのマグカップと同じものが見つかったのは良いけれど、  
ツイてない時ってほんとにしょうがなくて、その帰り道、ばったりボケガエルに遭遇しちゃった。  
 
一緒に雨宿りっていうのは仕方ないけど、  
私がママのマグカップを壊したって知ったら、また  
「家事当番代わって」とか「家の中のどこでガンプラク組立てても、文句言うな」  
とか言われそうで嫌だな。  
 
え?何よ、その疑いの眼差しは!  
わ、私は私の買い物をしてきただけなんだから!  
 
そうだ!  
こういう時は、この場の雰囲気を柔らかくするような話題を出して…  
 
「ねえ、ボケガエルは、おでんのネタ、何が好き?」  
 
あ、ボケガエルのヤツ、話に食い付いたわ!  
 
へぇ…、宇宙人のクセに、おでんに詳しいんだ…  
 
え!?何よ!他の人が好きなネタに文句付けんじゃないわよ!  
 
そうなの!?「糸こん」と「しらたき」の違いってそんなもんなんだ…  
案外、物知りなのね。ちょっと見直しちゃった。  
 
でも…  
 
こうやって、何でもない話してる時って、ボケガエル、案外いいヤツだよね…  
 
雨、なかなか止まないな…  
 
「雨、止まないね…」  
 
「そうでありますな。  
でも、暖かくなっていて良かったであります。  
これが雪だったら、我輩、とても寒くてやりきれないでありますよ。  
でも、雨だけならはわれわれケロン人にとっては嬉しいものではありますが」  
 
「そうね、でも、まだやっぱり寒いわ…」  
 
そうだ、ちょっと、ボケガエルの隣に座って、びっくりさせてやろうかしら。  
 
「ねえ、隣に座っていい?」  
 
「構わないでありますよ」  
 
何よ!  
『ええー!ど、どうして夏美殿が、わざわざ我輩の隣にー!!』  
とか、びっくりしないわけ?  
 
ま、いいわ。  
よいしょ、と。  
 
でも、ボケガエルって、  
何かあると「侵略、侵略」ってとんでもないことばっかりするけど  
普段は二言目には「ガンプラ、ガンプラ」ばっかりで、  
今だって、おでんのネタであんなに熱くなっちゃって、  
ほんと、大人なのか子供なのか、よく分かんないわね…  
 
今だって、こんなちっこい身体のクセに、いっちょまえにカッタルそうに足なんか組んでるし…  
 
なんか、ちょっと、ちょっかい出してみようかな…  
 
「寒いの、嫌なんでしょ…?  
じゃあ、二人でもっとくっ付くと、温かいわよ?」  
 
「はぁ…、そうでありますな。  
確かに、この薄ら寒い中、少しばかり身体が冷えて来たであ…」  
 
ボケガエル、目をまん丸にしてる!ま、アイツの目はいつだって丸いんだけどね。  
 
「エェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」  
 
うふふ。動揺してるしてる!何だかいつものお返しをしてるみたいで面白いな。  
 
「何よ。寒いの、嫌なんでしょ?  
それとも、私のことがそんなに嫌いなの?それとも、私が怖いのかしら?」  
 
「いやいや! そういうことではなくてでありますな。  
なななな、何も、わざわざ、我輩の、と、と、隣に隣に座らなくても…。  
ほ、ほ、他にも夏美殿が腰を下ろせる場所はいくらでも…」  
 
大慌てね!このまま一気に押し捲っちゃえ!!  
 
「アンタの隣がいいのよ。風除けにもなるしね!」  
 
「え!?『風除け』でありますか…。はいはい、どうぞ!であります!!」  
 
あら、ふてちゃったわ。勿論、『風除け』なんてウソ。もっと変な事してやるんだから!  
 
「じゃ、座るわね」  
 
「どうでありますか?我輩が風除けになってるおかげで、  
夏美殿は肌寒さを凌げて、さぞかし結構なことでありましょうな!」  
 
嫌味を言ってられるのも今のうちよ。これならどう?  
 
「身体をくっ付ければ、二人とも暖かくなるわよ」  
 
「またまた、我輩をからかうのも大概にするでありま…」  
 
アイツの腰に手を回して、ぎゅっとこっち側に引っ張ってやったわ!  
これで二人の身体が密着したわね。どうよボケガエル、もっと動揺なさい!  
 
「ね?温かくなってきたでしょ?」  
 
「…た、確かに…。しかし、でありますな、夏美殿…」  
 
「ん?何よ」  
 
「もし、こんなところをギロロ伍長に見つかりでもしたら…」  
 
「大丈夫よ。ギロロがこんなとこに居るはず無いんだから。  
ははーん。アンタ、モアちゃんのこと、気になってるんでしょ?」  
 
「いや、それは、でありますな…」  
 
「いいわよ、隠さなくたって。モアちゃん、アンタ一筋だもんねぇ」  
 
「アンタさ、モアちゃんのこと、ほんとはどう思ってるのよ。  
いつまでも宙ぶらりんじゃ、モアちゃんが可愛そうよ」  
 
「…まいったでありますな…」  
 
「それとも、他に好い人が居るとか?」  
 
「プルルちゃんかなー?」  
 
「うう…」  
 
「それとも地球人?」  
 
「うむむむ…」  
 
「まさか、あたしじゃ、ないわよね…」  
 
アイツのちっちゃな身体に、そっと体重をかけて、と…  
 
「な、夏美殿っ!大人をからかうのも大概にするでありますっ!!」  
 
「あら、何よ。やる気!?」  
 
あっ!いけない!!ボケガエルがいきなり立ち上がったせいで  
せっかく買ってきたマグカップが膝の上から落ちちやう!  
 
「おおっと!!」  
 
アイツも、横に置いておいた小さな包みを地面に落としそうになってる。  
 
「あ〜!!」  
「きゃー!!」  
 
二人が同時に自分の小さな包みを拾おうとしたものだから、  
バランスを崩した身体同士がぶつかっちゃった。  
 
「痛てえ〜」  
「痛ぁーい」  
 
気が付いたら、あたしは仰向けに尻餅を付いてて、  
アイツは、ちょうどあたしに覆いかぶさるみたいになってた。  
 
「なななな、夏美殿ごめんであります」  
「ううん、あたしも悪かったわ」  
 
と、その時  
 
「…ケ、ケロロ…、これはいったい、どういうことだ…」  
 
ギロロの声だわ!  
なんか、辺りがものすごく嫌な暑さになってるんだけど…  
 
「ケロロッ!!  
貴様が書類の整理を放り出したままいなくなったから探しに来てみれば…  
さあ、この状況を説明してもらおうか。貴様が口を利ける、今のうちに…」  
 
やばい、ギロロが銃を構えて仁王立ちでこっちを凄い目で睨んでるじゃない!!  
 
「ギロロ!これはボケガが悪いんじゃないの」  
「そうであります、これは我輩と夏美殿の二人の…」  
 
「ななな、夏美と、ケロロの、二人の合意の上の事だと…」  
 
ギロロってば、説明を最後まで聞きもしないで、  
泣きながら走って帰らなくてもいいじゃない。  
 
しょうがないわ。帰ったら、ビターチョコ使ったチョコレートケーキ焼いてあげようかな…  
 
 
 
 

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