師走に入り1週間、街頭では歳末助け合い運動が行われている。
北西の風が吹き始め、朝には霜が降りる時期に入っている。
この時期なら朝晩は上着がないととても外には出られなくなってきている。
連日最高気温が10度を下回り、あまりの寒さに2日には早々に初雪を観測した。
12月2日は夏美と冬樹の14回めの誕生日だった。
この日も日向冬樹は市立図書館によっていた。
例のごとく彼は超常現象についての調べ物をしていた。
普段なら西澤桃華も一緒にいるはずなのだが、今日はいない。
桃華は父親とある約束のあったようで、先に帰ってしまったのだ。
夕方6時をまわったところ、冬樹は自宅に帰ろうとしていた。
入口のところでひとりの少女が冬樹に近づいてきた。
「冬樹くん…こんばんは…」
「霜月さん…どうしたの…?」
彼女の名前は霜月やよい。姉夏美の親友である。
「わたしも実は…演劇部で調べたいことがあって…
ていうか冬樹くんに渡したいものがあるの…」
やよいは演劇部の部長である。
3年生が引退し、彼女が新しい部長となって演劇部を引っ張っている。
実は冬樹もシナリオ制作や構成の手伝いをしたこともある。
「僕に渡したいものって?」
「実は、誕生日プレゼント…
ほら…冬樹くん2日が誕生日だったでしょ…遅くなっちゃった…
夏美のほうから冬樹くんに渡してもらおうとも思ったけど…
夏美は直接渡したほうがいいって言うから…なかなか渡せなくって困ってたの…」
「僕に?でも…もらっていいのかな…」
「だって…文化祭ではいろいろ手伝ってくれたし…わたしからのささやかなお礼だし…」
「あ、ありがとう…わざわざ僕のために…」
冬樹はやよいからもらった紙袋をあけた。
中にはオレンジ色の毛糸で編んだマフラーが入っていた。
「すごーい!これ霜月さんが編んだの?」
「ごめんなさい…なかなか上手く編めなくて…」
「でもうれしいよ!西澤さん以外の女の子からプレゼントがもらえるなんて。
霜月さん、本当にありがとう!大事に使うから…」
冬樹とやよいは一緒に歩いている。
日中が暑いとはいえ、さすがに12月。6時ともなれば空は真っ暗である。
気温もすでに5度前後まで下がっている。
心配になっていた冬樹はやよいを家まで送っていっていた。
「でも…よかったわ…冬樹くんが一緒で…ひとりだととても恐くて…」
「霜月さんっていつも師走さんと帰ってるの?」
「そうね…さつきとわたしって幼稚園の頃から一緒だし…
さつきも部活で忙しいときもあるから毎日じゃないけど…
…そういえば今日西澤さんは…?」
「なんかお父さんと約束があるみたいで先に帰っちゃったんだ…」
「冬樹くんのつけてる手袋って…」
「これ?西澤さんが誕生日にくれたんだ…西澤さんの手編みなんだよ…」
桃華はやよいの知らない間にプレゼントを渡していた。
その手袋は自分の作ったマフラーより上手くできている。
やよいは桃華と冬樹の関係が深まっていることに不安を感じた。
「冬樹くん…西澤さんって冬樹くんにとってどういう存在なの?」
冬樹は唐突にやよいから尋ねられ一瞬あせった。
「…霜月さん…いきなり何言い出すの?
…西澤さんは僕のクラスメイトだし、大事なオカルトクラブの部員だから…」
「そうよね…冬樹くんと西澤さん同じクラスだし、部活も一緒で…」
いかにも冬樹らしい回答にやよいはそれ以上返す言葉がなかった。
冬樹もやよいがなぜ聞いてきたのかよくわからなかった。
沈黙がしばらくつづいたが、やよいの家についていた。
「霜月さん、今日は本当にプレゼントありがとう!じゃあまた明日学校でね」
「わたしのほうこそ…ありがとう…わざわざ送ってくれて…
おやすみなさい…冬樹くん…」