残暑厳しい頃、ドロロは毎年の様に思いだすトラウマがある。  
今年は小雪が調理実習でクッキーを持ち帰ったせいも手伝ってか、尚一層強烈に記憶が甦っていた。  
「ねえドロロ、私が作ったクッキー食べてみて♪」  
 小雪が屈託の無い笑顔を見せて差し出した、お世辞にも上手とは言えないクッキーを  
ドロロは一口つまみながら、あの日を思い出していた。  
 
 幼年学校時代――まだ彼が病弱な頃、ケロロやギロロと共に遊んでいた頃の「ゼロロ」は  
二人に必死になって追い付こうと努力していた。そんなある日、皆で遊んでいた筈だったが  
飛行ボードの故障で見知らぬ場所に取り残され、迷子になってしまったのだ。  
 今まで来た事の無いエリアでポツンと座り込みながら、ゼロロはいつまで経っても二人が迎えに  
来てくれない寂しさと心細さを味わい、しくしくと泣いていた。  
 そんな日暮れに、甘い焼き菓子の香りがどこからともなく漂ってきた。  
「良い匂い…。そう言えばお腹もぺこぺこ…。」  
 ゼロロはくうくうと鳴く腹を擦り、独り言を言ったつもりであった。が、どうやら香りの主に声が  
届いたらしい。  
「ボク、どうしたの?迷子?」  
と声を掛けられ振り向くと、真っ白な体色の少女が小脇にやや大きめのバッグを抱えて立っていた。  
 ケロン星でも珍しいアルビノの様な体色に、赤みがかった栗色の目の少女はかろうじて尻尾が  
残っていて、成体になりかけの『お姉さん』だと判り、ゼロロは多少落ち着きを取り戻した。  
「は…はい、迷子です。ボードが壊れちゃって、ここがどこだかわかんないです…。」  
「そうなの…。じゃあお姉さんが送っていってあげるね。っと、その前にこれ食べて落ち着こうね。」  
 『お姉さん』は作って間もない焼き菓子をバッグから取り出し、ゼロロに手渡した。  
 
 それがゼロロと『お姉さん』の出会いであった。  
 
 ゼロロは『お姉さん』から住所を教えて貰い、お友達と一緒にお菓子を食べにおいでと言われた。  
確かに『お姉さん』の作った焼き菓子は非常に美味であった。ケロロとギロロを誘って行けば  
二人共大層喜んでいただろう。だが、何故か親友である二人にも『お姉さん』を紹介する事は  
出来なかった。その感情が独占欲なのか恋愛感情なのかすら、未だ幼さを残すゼロロには  
判別が付かなかったせいでもある。  
 そんな未熟なゼロロも『お姉さん』の美しさには気付いていた。以前ペコポンの植物図鑑で見た  
百合の花に似た『お姉さん』の事が脳裏に焼き付いて離れない。眠っていても夢の中で『お姉さん』が  
自分の頭や頬を撫でてくれる。それに恍惚感を覚え、『お姉さん』の手を握ろうとする所で必ず目覚め  
現実ではないんだと思い知らされてゼロロは悲しみに暮れる毎日であった。  
 最初は、只の憧れに過ぎなかった。  
 だが日増しに会いたいという欲求が強くなり、呼吸が出来ない錯覚に陥る程『お姉さん』に支配されて、  
気付くと『お姉さん』に電話を掛けていた。自分の中にそんな積極性がある事に、ゼロロ自身驚いていた。  
だがどきどきと心臓の音が辺りに響いている感覚で、何を喋っているのか自分でも解らない。会話の  
最後の部分で  
「じゃあ、明日のおやつの時間位においで。」  
と誘われた事しか記憶出来なかった。  
 
 翌日、殆ど眠れなかったゼロロは軽い眩暈を覚えつつ『お姉さん』の家に向かった。  
 その場所はゼロロの様な幼年体の者には立ち入る事が憚られる歓楽街で、昼間から客引きが店舗の前で  
威勢の良い声を上げている。街中は酔っ払いが傍らに自分の愛妾を連れていて、時にはそれの奪い合いからか  
喧嘩沙汰も見受けられた。気弱なゼロロは、こんな時ケロロとギロロがいてくれたらと一人で来た事を  
深く後悔していた。そんな中一際賑わっている店があり、番地からするとゼロロが目指していた『お姉さん』の  
『家』である事が判った。  
 
 『お姉さん』はガラスケースの中の人形の様にショーウィンドーの中に佇んでいた。  
 恐らく特異な外見が客寄せになっているらしく、「非売品」と書かれたプラカードがガラス面に貼られている。  
生気のない表情が更に神秘性を生み出し、客を呼び込む。そんな『お姉さん』がゼロロを見つけた瞬間、  
年相応の笑顔を客の前で初めて露にした。  
 
 丁度おやつの時間になった時刻にその店の女将が『お姉さん』を呼び、客寄せは終了した。辺りが氷の様な  
あの娘を誰が溶かしたのかとざわめいていた。それがゼロロの仕業だと発覚すればどの位の男達が嫉妬するか。  
しかも、いつもよりかなり早い店仕舞いがゼロロたった一人の為だけだと。  
 
 『お姉さん』は店の者を使いに寄越し、裏門からゼロロを招き入れた。通された部屋は極普通の少女らしい  
インテリアで統一されていて、あのガラスケースにいるよりも寛げる様になっていた。  
「あははっ、驚いた?お姉さんはこの店のオーナーの娘なんだよ。跡取りだから修行してんの♪」  
「えっ…お姉さん何だか別人みたいだったよ!あれ修行なの?」  
 ゼロロがカルチャーショックを受けながら質問すると、『お姉さん』は普通の少女の顔で  
「そうだよ。ケロン人観察して勉強してんの。でも君が表に来たのが判って、つい笑顔になっちゃった。  
まだまだ修行が足りないって事かな?」  
とお気楽に構えている。ゼロロはそれが嬉しくて堪らなかった。自分が『お姉さん』にとって特別な何かだと  
言われている幸福感に包まれた。  
「お姉さんはこんな仕事してるけど…キスもまだした事ないんだよ。…君は、した事ある?」  
「えっ…な、無いよ!僕まだ幼年学校五年生だよ!」  
 突然の質問にゼロロは慌てた。丁度、性に目覚めかける年頃である。夢の中で触れられていた事を知られたと  
勘違いしたゼロロは頬を紅潮させ、俯いてもじもじとしている。『お姉さん』はそんな少年が愛おしくなったのか  
「…してみよっか、キス。お姉さんとは嫌かな…?」  
と夢の中の様にゼロロの頬を白い手で撫でた。ゼロロは抵抗しなかった。いや、出来なかった。  
 
 『お姉さん』にベッドまで連れて行かれ、ゼロロは寝かされた体勢でマスクを外された。白い右手が頬や首筋を  
撫で、唇が徐々に近寄って来た。それはどうしても見る事の出来なかった夢の続きであった。  
 
唇が重なり合っている状態で、ゼロロは自分の中にもやもやと湧き上がって来る性欲をはっきりと自覚した。  
育ち切っていない陰茎が勃起して疼いている。どうやら『お姉さん』も似たような状態で、興奮の度合いを高めて  
ゼロロの身体中を愛撫し始めてきた。流石に年上で知識だけはあるらしく、すぐにゼロロが最も感じる性器の辺りを  
白い指先でくすぐり、そのものを抓み上げた。  
「やっ…お姉さん、やだ、やだ…!」  
「駄目だよ…逃がしてなんかあげない…!」  
 ゼロロは陰茎の包皮をつるりと剥かれ、余りの羞恥から腰を振って逃げようとした。『お姉さん』にこんな  
いやらしい自分を暴かれるとは思ってもみなかった。逃げたい気持ちと感じたい欲求のどちらが本物の自分の心か  
判らず、ゼロロは混乱していた。  
「男の子ってこんな形してるんだね…先っちょって濡れるんだ…。」  
 ゼロロの陰茎を『お姉さん』は興味深そうに白い指先で弄び、追い詰めていく。ゼロロは指が動く度に陰茎を  
ひくつかせた。夢精は経験済みであったが、自慰をした事が全くなかったゼロロにとって陰茎を嬲られる快感は  
拷問であり、甘美であった。  
 『お姉さん』は更にゼロロを弄び始めた。小振りな陰茎を味見とばかりに口に含み、舐め上げた。ぬらりとした  
感触が陰茎を包み込み、舌の熱さが絡み付いた時点でゼロロは頂点に達そうとしていた。  
「ああっ、駄目、もう止めて、もう、もう…!」  
 
 絞り上げる様に出されたのは、悲鳴なのか喘ぎなのか――。  
 
 ゼロロは『お姉さん』の口内に濃い精液をどくどくと漏らしてしまっていた。『お姉さん』は初めての精液の  
味と粘りに驚き、飲み下す事が出来ずにティッシュペーパーに吐き出した。それでも尚咽喉にへばり付く刺激に  
耐え切れず、ペットボトルのお茶を何度も飲んで誤魔化していた。  
 
 どうやら『お姉さん』はこの行為で自分の性欲を発散出来たらしく、ゼロロの身体をそれ以上求める事は  
無かった。二人はお互いが日常に戻り、この日の事は面白くて悲しい夢だったと思うようにしようと決めた。  
大人になって本当に巡り会う誰かの為に、最後の一つは残しておこうと約束をして、二人の身体は離れた。  
 
 『お姉さん』は今でも自分の事を思い出してくれるだろうか、とドロロは感傷的になる。  
 トラウマと呼ぶには甘過ぎて、刺激的過ぎた虚構の夏がまた過ぎ去ろうとしている。  
 

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