「こらー!ボケガエル!!」
「ゲロッ!?」
もはや珍しくも何とも無い、日向家の日常のひとコマである。
「あんた、頼んでた庭の掃除はどうしたの?」
詰問する夏美に、居間で寝転がりながらガンプラ製作中のケロロが反論する。
「いっ、今やろうと思ってたところであります!今!!」
「・・・ふ〜ん。とてもそうは見えないんだけどッ」
仁王立ちでケロロを威圧する夏美。
渋々腰を上げかけたケロロであったが、ふと、満面の笑顔で夏美を見上げる。
「あのー夏美殿?」
「…なによ?」
「ガンプラ、あとちょっとで完成なんだけ・・・」
「さっさと掃除しなさーーーーい!!」
夏美のハイキックが見事にきまり、ケロロの身体は吹っ飛んでいく。
一瞬の後、ぼすっと鈍い音をたてて、ケロロが地面に激突した。
居間の窓が開いていたため、一直線に庭へ飛ばされ、そのまま落ちたのだ。
「いたたた・・・。もー。まったく夏美殿は乱暴でありますなぁ」
ケロロは、文句を言いながら立ち上がったが、背後に不穏な空気を感じ、振り返った。
「ギロロ伍長!?」
そこには、怒りで通常の三倍真っ赤になったギロロが立ちはだかっていた。
よく見ると、頭部から、刺激臭のある液体が滴り落ちている。
どうやら、夏美の蹴り&落下の際の衝撃で、
それまで使っていたプラモデル用の塗料の瓶が手から離れてしまい、
その中身が運悪く居合わせたギロロにかかってしまったようである。
「ケロロ貴様ァー!!!」
「わっ、わざとじゃないであります!!ゆるしてギロロ!!」
「許さん!!だいたい侵略もせずに遊んでばかりあqwsでfrgtyふじこlp」
「やめなさいよ、あんたたち!」
騒ぎに気づいた夏美が止めに入ろうとするが、ギロロを見て状況を察し、その表情が曇る。
それを目にしたギロロは、ケロロをしめあげながら、夏美にぼそりと言った。
「気にするな。こんなもの、拭けば取れる」
「でも・・・」
自分がボケガエルを蹴ったりしなければ…。責任を感じないわけはない。
「拭けば取れるくらいなら、そんなに怒んないでよギロロ〜」
「うるさい!貴様が言うなァ!!」
夏美は少し考え込んでいたが、意を決したように割って入り、争う二人を引き離した。
「気にするわよ。ギロロ、ちょっと来て。あ、ボケガエルは庭掃除と、罰として草取り追加ね」
「ゲロ〜〜」
夏美は、ひょいとギロロを抱えあげると、そのまま風呂場へと直行した。
ギロロを風呂場に放り込むと、すりガラスの扉越しに、夏美は脱衣所で着替え始めた。
「な、つみ、な、なにを、」
必要以上にしどろもどろのギロロの問いかけに、ガラスの向こうの夏美が答える。
「何って、あんたを洗うのよ。拭いたくらいじゃ取れないでしょ」
いや、そうだけど、そうじゃなくて何故服を・・・もしかして・・・は、はだ・・・
とギロロが暴走するより先に、扉を開けて夏美が入ってきた。
はだ・・・の露出は多いが、キャミソールに短パンという姿である。
「普段の格好じゃ、ぬれちゃうでしょ。ギロロもベルト外しなさいよ」
「・・・あ、ああ、そうだな」
少しがっかりしたギロロであるが、素直に夏美の指示に従った。
ベルトを外したギロロを椅子に座らせ、目を瞑るように言うと、
夏美はシャワーの栓を開け、しばらく水をかけ続ける。
「んー、やっぱり水だけじゃ落ちないわよねぇ。石鹸も微妙かなあ。
とはいえ、あまり強い洗剤を使うわけにもいかないし・・・。あ!ママのメイク落とし!!」
聞きなれない単語にギロロが反応する。
「何だそれは?」
「ママが、お化粧を落とすときに使うの。あれなら、きっと綺麗になるわよ」
そういうと、夏美は、液体の洗顔料を自分の手にとり、ギロロの身体に付け始めた。
「ひ・・・なんだ、このぬるぬるしたものは・・・」
「そーゆーもんなの。ほら、じっとして」
夏美の言うがまま、されるがまま、しばらく大人しくしていたギロロであった。
が、やがて、自分の体温が上昇しているのに気づく。
ケロン人の皮膚に、この液体の適度な粘性のある感触が、大変心地良いのだ。
しかも、事情はどうあれ、夏美と二人で風呂場にいて、夏美がその手で自分の身体を触っているのである。
一度意識し出すと、もう止まらない。
夏美の手の動きを、敏感に感じ取ってしまう。鼓動が早まる。
ベルトを外したせいなのか、理性で肉体の反応を押さえつけることは難しくなっていた。
しばらくの間耐えていたギロロであったが、そろそろ我慢の限界が近づいていた。
と、急に夏美が立ち上がり、ギロロを眺めて言った。
「頭のほうの汚れは大分落ちてきたわね。」
「・・・そ、そうか」
ギロロは、自分でも、もはや息の乱れが隠せなくなっていることが分かった。
「あれ?でも、おなかにも汚れがついてる。結構被っちゃったのね」
「そ、そうだな」
不意に、会話が途切れる。
「・・・どうした夏美?」
ギロロの問いかけに、夏美はゆっくりとギロロの前にしゃがみ込む。
そのまま少し上目使いに、申し訳なさそうな面持ちで、ギロロを見つめる。
「・・・ギロロ・・・あの・・・ごめんね」
思いがけないタイミングで謝られたことより、夏美の表情に、どきりとする。
「気にするな。お前らしくも無い」
「ギロロ・・・ありがと」
満面の笑顔を浮かべる夏美に、ギロロは思わず頬が赤くなる。
強い夏美が好きだ。だが、こういう夏美も、可愛いと思う。
「さて、じゃあ、あと少し。綺麗にしてあげるからね」
そういうと、夏美は、ギロロの身体と脚に液体を塗り足し、汚れを落とすために、手でやさしくこすり始めた。
(夏美・・・)
さっきの夏美の表情、息がかかるほどの距離の夏美の身体、ギロロは自分の限界を悟る。
このままでは、声が出てしまう。夏美の前で、それだけは、避けたかった。
「な、つみ、もう、いい。止めてくれ」
とぎれとぎれに、ギロロは懇願する。
「でも、まだ汚れが・・・」
ようやく、夏美がギロロの異変に気がつく。
「ね、ギロロ、あんた顔赤くない?それにちょっとぜーぜーいってない?」
夏美に指摘され、ギロロは躍起になって否定をする。
「そんなことはない!!ただちょっと・・・」
「ちょっと?なによ?」
聞き返されて、ギロロは口ごもってしまう。
(言えない…ちょっと気持ちがいい、なんて死んでも言えるか!!)
怪訝な顔でギロロの様子を伺っていた夏美だったが、しばらく考えた後、笑顔でこう言い放った。
「わかった!ギロロ、実は・・・くすぐったいんでしょ。」
(違ーーーう!!)
「もー。そうならそうと正直に言いなさいよ。でないと・・・続けるわよ!!」
「やめろー!なつみぃいい!!」
「よし、綺麗になった!あーなんだか楽しかった。ね、ギロロ!」
ギロロの身体をシャワーで流しながら、すっきりとした笑顔で夏美が言う。
反してギロロは、ぐったりと力尽きた様子で、椅子にすわったままである。
(よく耐えたぞ、俺・・・)
夏美がくすぐり攻撃に転じたことで、幸いにも快楽の声を漏らさずに済んだが、正直疲れ果てた。
そこへ、勢いよく扉の開く音がした。ケロロである。
「夏美殿ー!庭掃除と草取り、終わったであります!!・・・あれ、どしたのギロロ?」
「うるさいッ!全部貴様のせいたケロロ!!」
「ゲロー??」
これも、もはや珍しくも何とも無い、日向家の日常のひとコマである。きっと。
(終)