「夏美! いくぞ!」
「オッケーギロロ! 小雪ちゃんいっくわよぉー!」
「ドロロ、手加減無しでいくよ!」
「承知した! 小雪殿」
水着姿のギロロ、夏美、小雪、ドロロらは砂浜でのビーチバレーに夢中だ。
出場者のレベルがハイレベルなだけに、凄まじい試合が展開されている。
「皆〜。はしゃぎすぎて怪我だけはしないようにね」
ちなみに審判はサブローがしていた。
「西澤さん、最後の金具をお願い」
少し離れた場所で冬樹と桃華はテントを設営中。
「あ、はい!」
桃華は冬樹と二人きりという状況に、幸せを感じていた。
いつも邪魔するケロン人達も、いつの間にか姿を消している。
「さ、これでよしっと」
このチャンスを逃すつもりはなく、冬樹との仲をさらに深めようとする桃華。
「あのう……冬樹君……」
「フユキ、食料を狩ってきたぞ」
しかし桃華が話しかけようとしたタイミングに、食料集めに出かけていたアリサが戻ってきた。
カチューシャを変形させたカゴが二つ、一つは海産物、もう一つは果物でいっぱいになっている。
「アリサちゃんありがとう。今夜はごちそうだね」
「気にするな」
冬樹とアリサが会話する光景を見て、ケロロ達がいないので安心していたが、
よく考えればそれ以上に厄介な相手がいるのを忘れていたことに気付かされる桃華。
(……あああ……なんでいっつもこうなんだよ〜〜〜)
桃華が落ち込んでいる間に、冬樹はかまどの前にしゃがみこんで火をおこそうとする。
「アリサちゃん、西澤さん、薪をこっちに持ってきてくれる?」
「わかった」
「……はい、冬樹君!」
アリサはもちろん、桃華も気持ちを切り替えて、これまで集めた流木やヤシの枯れ枝を運んでゆく。
冬樹はポケットを探るが、火種となるマッチやライターが見つからず、今度はバックの中を調べる。
「あれえ? ライターかマッチ持ってきたはず……これってケロボール?」
普段は机の中にしまってあるケロボールが出てきたのだ。
「間違えて持ってきちゃったんだ……。まてよ? うん、これって使えるかも」
ケロボールを取り出した冬樹はそれを薪へと構え、ボタンを押した。
するとボッという音と共に炎が噴き出し、薪は燃えやすい小枝を中心に燃え始める。
「流石は万能兵器だね。じゃあ、こっちは……?」
感心した冬樹が誘惑に負けて別のボタンを押すと、ピンク色のガスが噴出した。
たちまち三人はガスに包まれてしまう。
「ゴホッ、ゴホッ、西澤さん、アリサちゃん、大丈夫?」
煙が晴れていくうちに、身体の調子がおかしいことに気付く。
気持ちが昂り、股間に熱が集まってゆく。
「身体が熱くなってくる……。これって、催淫ガス?」
まず桃華が顔を上げたが、その表情は紅潮して、今までになく甘えるように目尻が下がっている。
「冬樹君……。私って魅力ありませんか……?」
冬樹が驚きながら答えようとした口元を、アリサの唇がふさいできた。
それを押しのけるように、桃華の少し薄めの唇が重なる。
「―――んっ……くっ……ちょ、ちょっと待って……」
二人分の体重で、冬樹は仰向けに倒された。
口の中に桃華の舌が入り込み、冬樹の言葉を封じる。
アリサは冬樹の胸を撫でながら、下半身に手を這わせ、海水パンツを降ろしてしまった。
既に半立ちになった冬樹の肉棒に頬ずりし、下から上へ舌先でつつく。
そして、陰嚢の付け根から亀頭まで、肉棒に絡むように舌全体を動かしてゆく。
「ん……んむむむ……うう……」
冬樹が漏らした呻き声を唇で聞いて、桃華もまた頭を降ろしていく。
冬樹が羽織っていたパーカーも脱がせ、乳首からヘソまで舌を往復させる他、
片手でアリサの頭の脇から、彼の陰嚢を撫で回す。
一人の男を巡って二人の女は協力的になっていた。
熱いため息とともにピチャピチャと液体の絡まる音だけが、この一帯を満たしている。
アリサの舌は左から、桃華の舌は右から、冬樹の肉棒を責める。
片方の唇が亀頭を挟みつけると、もう片方の唇は陰嚢を吸いたてる。
「フユキ。舐めて……」
アリサは黒のビキニを脱ぎ、自分の指で股間の陰裂を開くようにして冬樹の顔面にまたがってきた。
その秘所は人間のそれと全く同じであり、アリサが元は人形だったと言っても信じる者は皆無だろう。
大陰唇の奥、ピンク色の小陰唇は甘い蜜液を滴らせて冬樹の舌先を誘う。
「っ……いいっ……でも―――もっと、上を、フユキ……」
お尻の後ろに回したアリサの手が、冬樹の頭を押し戻す。
舌先が細長く腫れだしたクリトニスに触れる。
そこを集中的に攻めてほしいのだろうか、冬樹は先端から根元へ円を描くように舌を動かした。
「あっ―――はぁっ、そこ……もっと強くして、いい……」
クリトニス全体を舌に含んで軽く吸いたてると、アリサがお尻を押しつけてきて、
冬樹の鼻先は膣口に埋まった。
陰部全体が卑猥に回転運動をする。
愛液の臭いと鼻と口への粘膜の圧迫で、冬樹は窒息しそうだった。
「冬樹君……私にもお願いします」
喉の奥までペニスを出し入れして、ディープスロートに熱中していた桃華も、
アリサの喘ぎ声を聞かされて我慢できなくなり、フリルつきセパレーツの水着を
もどかしげに脱いだ後、冬樹の下半身に腰を落としてきた。
慌てていたために一撃目は肛門に当たってしまい、その後自分の指で位置を戻して、
もう濡れそぼっている膣口へ導いた。
「んっ―――はあああああああああっ…………んあっ!」
カリ首が熱い粘膜を掻き分けていく。
吸盤を剥がすような音が聞こえ、すぐに湿った摩擦音に切り替わった。
「あっ、あっ、あっ、うんっ……あん、あん、あん、あはん、あんっ――」
自分のヘソの近くで亀頭を感じながら、桃華は前後に激しく腰を揺すり、
アリサもクリトリスを吸われるたびに下半身を痙攣させる。
しかし彼女達はこれでも満足しないのか、アリサと桃華は互いの胸に手を当てて、
女同士だからこそ熟知している乳腺や乳首のツボを、ピンポイントで刺激し合った。
「あっ――あっ、そこっ……いいですっ。もっと、引っぱって」
「―――っ、ひゃっ……フユキ……もっと、いじって。もっと、舐めて」
冬樹は再びアリサの陰裂に顔を埋め、下半身で桃華を突き上げた。
「冬樹君……いい、いいです。――あん、きゃん!」
「……っ、はっ――んんっ……フユキ、吸って、もっと、もっと……」
唇の間でアリサのクリトリスが張りつめて硬くなるのを、舌でさらにつつき回す。
冬樹のペニスは、桃華の膣内の複雑な肉壁に巻かれて弄ばれるのを楽しむ。
桃華は上下動に切り替わり、カリ首が膣壁と擦れあい、亀頭が子宮内に当たる感触を堪能した。
「あっ、冬樹君の……ああっ、凄いです……。あん、んあっ」
「ふぁっ……んっ、ひゃんっ、あっ、あっ」
冬樹の頭の上ではアリサが、腰の上では桃華が、エビ反りになって離れてゆく。
それをつなぎ止めるように、互いの両手が互いの乳首をまさぐり合う。
冬樹の肉棒はさらに強く締め付けられ、上下に激しく擦り付けられ、
下半身全体が痺れて爆発寸前になっていた。
アリサの粘膜の圧迫で窒息が強まり、頭もボーッとしてきて、これ以上我慢できない。
膣の奥で亀頭が急に膨らむのを悟って、桃華は腰の動きをさらに速くした。
「待ってください、あっ……もうちょっとで、もう少しでイク―――あっ、あっ」
「――――私も、限界が近い……フユキ――――!」
「いっちゃいます、いっちゃいますから……冬樹君も、冬樹君も来て―――あああああっ!」
冬樹の唇からクリトリスが離れ、アリサの上半身は後ろに倒れた。
小水を漏らしたかのように、大量の愛液が冬樹の前髪にふりかかる。
ほとんど同時に桃華も仰向けに倒れる。
冬樹の肉棒は下に曲がり、締め付けて痙攣する膣内をずり下がり、
ちょうどGスポット周辺でカリ首が踏みとどまりそこで射精した。
亀頭のビクつきはなかなか収まらず、桃華の小陰唇と冬樹の肉棒のわずかな隙間から、
白く濁ったドロドロの液体が漏れてくる。
膣口から一気にガスが抜けて、精液と愛液が冬樹の腹に飛び散った。
アリサ、冬樹、桃華がほぼ一直線に寝転がる中、アリサが一番先に起き上がり冬樹も起こすと、
「フユキ……今度は私に頼む」
そう言うと絶頂の快感でか未だ放心状態の桃華をどかして、アリサは再び冬樹と唇を重ねる。
そのまま冬樹はアリサの胸に手を伸ばし、その感触を確かめるように揉みしだく。
「ん―――んっ……」
やがてアリサは目を閉じたまま、冬樹の舌に舌を絡め口腔内を貪る。
冬樹の腕をつかんで、自分の方へと引き寄せていたアリサの手から、段々力が抜けていく。
その手は冬樹の胸から腹へと撫でるように降りて行き、やがて一回射精して萎れた肉棒を探り当てる。
アリサの白い指が、冬樹のペニスを軽く締め付けるように握って、上下に擦る。
テクニックが上手いのか、たちまち天を向いて怒張するほど回復する。
「……そろそろ……いいか?」
「…………うん、こんなになったし」
「――来てくれ……私の、中に……」
冬樹はアリサの背中の側に回りこみ、抱きかかえる。
アリサ自身から、既にネトネトと蜜を垂れ流している入り口に肉棒をあてがって、
腰を下ろしながら中に分け入って行く。
「あ――ああっ………!」
冬樹がアリサの白いうなじに舌を這わせると、
「んっ!」
アリサの体がぴくんと跳ねる。
冬樹は彼女の脇から手を回し、下から持ち上げるように胸を揉んだ。
手のひらを使って胸全体をもみながら、指先ですでに固くなっている先端を刺激する。
「ああっ! こんなに……すごい……!」
冬樹のピストン運動に合わせて、アリサは腰をグラインドさせ、
その中は冬樹の分身に絡み付くように圧迫してくる。
すごい締め付けに、すぐに果てそうになるのを必死に我慢する。
「ア、アリサちゃん……僕、もうイキそうだ……!」
「……わ、私も……! フユキ―――な、中に……! ……あ―――んんんっ!」
「あぁ―――!」
冬樹は最後にアリサを思いっきり突き上げ、中に熱い奔流をぶちまけた。
「……はぁ……はぁ……」
冬樹を真ん中に、裸の三人は行為の後の余韻に浸っていた。
ぼんやりした頭で冬樹はふと思う。
「ところで軍曹はどこに行ったんだろう……」
ちなみにこの後、行為の後片付けと、料理の準備に大慌てになった。
その頃ケロロはキャンプではなく、サブローとクルルが乗ってきた潜水艦であり、現在島の洞窟内部
に停泊中のロードランジャーに、ドロロとギロロを除く小隊メンバーを集結させていた。
「ゲ〜ロゲロゲロゲロ……。諸君等に集まってもらったのは他でもない。
今回の侵略計画に関しての説明のためであります」
不気味な笑い声を上げつつ、ほおづえをついてニヤニヤしながら宣言するケロロ。
しかし「ホントか? 後付けじゃねえの?」という疑問がモアとタママの心を満たす。
特に新しく新調した水着を着ているモアは、侵略より愛しのケロロと遊びたいようだ。
「軍曹さん……。ここまできて今更とってつけたような……見苦しいですぅ」
「おじさま、本当は遊びたいのを無理して誤魔化さなくてもいいんですよ。てゆーか、大義名分?」
二人の言葉が胸に刺さりつつも、表面上、冷静さを保ちながらケロロは話を続ける。
その顔には無数の冷汗が流れているが。
「て、敵を欺くにはまず味方からというでありましょう? 今回の作戦は夏美殿や冬樹殿を
油断させるため、あえて現地に到着するまで、諸君にも内緒にしていたのであります。
それに下調べはもう終えているのであります。クルル曹長、例のデータを!」
「あいよ。クックックッ。ポチッと!」
クルルがボタンを押すと、海域図がモニターに映し出される。
図に表示されている赤い「×」印は、ハワイからこの付近の海域まで移動、
青白い「?」マークと接触した時点で消滅させられた事を示していた。
「これって……」
タママが思わず声を上げる。
「アリサ殿の話によると、ハワイに封印されていたキルルは覚醒後、この島近くの海域まで移動、
日本艦隊を襲おうとした際、謎の光球によって倒されたのであります。これはキルルが覚醒、
謎のエネルギーによって封印されるまでの経路を図にしたもの。今回の作戦はキルルを
倒したエネルギーの正体をつきとめ、その力をペコポン侵略に利用するというものであります!」
ここでとばかりにケロロは胸を張って宣言する。
「でもサブローもそん時一緒にいたから、そう簡単にうまくはいかないと思うぜぇ」
しかし、クルルの次なる一言でたちまち場は凍る。
「マジ……? つーかなんで部外者を同席させてんのよ?」
「トラブルアクシデントは俺の信条だからな」
ケロロのツッコミにもクルルはモットーで返す。
「なんか今回も失敗しそうっすね……」
「てゆーか、前途多難?」
タママもモアもたちまち意気消失してしまう。
どうやら今回の侵略計画も失敗する確率は高そうである。
その後ケロロの侵略計画は、サブローに情報が漏洩した事から一時保留となり、冬樹のUMA調査の
結果次第でどうするか決めることに、今はバカンスを楽しむ事に専念するという結論に達した。
それから数時間後、夕日の沈んだ浜辺。
ケロロ達は夕食のバーベキューを食べ終え、一息ついていた。
アリサの狩って来た果物や海産物のおかげで、かなり豪華な食事になったと付け加えておく。
「ふ〜っ、食った食ったであります。しかし冬樹殿がアウトドア料理もこなすとは、」
「あはは、西澤さんとアリサちゃんが手伝ってくれたおかげだよ」
こういうことを全く意識せずに本心からさらっと言ってくれるのが冬樹の特技といえよう。
言われたほうは胸キュン状態だ。
「そ、そんなこと! 私は……別に……」
ああもう、ずっとこの島で暮らしてもいい、そう思う桃華であった。
アリサも冬樹の言葉が嬉しく、にっこりと微笑んでいる。
実にリラックスした空気が漂っているが、夏美とギロロの姿だけこの場には見えない。
少し離れた茂みの向こうに湧いている泉で、二人は食器を洗っているのだ。
今夜の日向家の家事シフトは夏美であり、ギロロは彼女を手伝っていた。
たまたま家事当番が自分でない幸運に浸りつつ、ケロロはふと気にしていたことを口にする。
「ところで冬樹殿に桃華殿にアリサ殿、気のせいか腰の動きがぎこちないようでありましたが、
日中なんかあったのでありますか?」
ケロロの質問対象にされた三人は慌てたり、妄想に耽ったり、頬を赤くしたりと様々な反応を見せる。
「な、なんにもないよ。ぐ…軍曹の気のせいじゃない? あははは……」
「冬樹君の……冬樹君の……デヘヘヘヘ」
「……フユキと……(ここで日中の行為を思い出して赤くなる)……フッ……」
まさか三人でセックスしてました、なんて言えるわけがない。
その後冬樹の機転によるスターフルーツのごまかしで、ケロロが真相に至る事は避けられたが。
「楽しそうだな……」
「そうだね。早く終わらせて皆のところにいこっか」
茂みの向こうから「肝試し」や「スターフルーツ」といった単語が楽しそうな声と共に聞こえてくる。
夏美はギロロに懐中電灯で照らしてもらいながら、最後の仕上げとして食器を拭いていた。
当番だからだけでなく、かたづけものが終わらないとどうにも落ち着かないからだ。
作業も一段落着いて、フウッとため息をつく。
「夏美、ここ最近ため息が多いが、どうしたんだ? まさか、俺が知らないうちに何かしたのか?」
「違うよ。なんか、南の島に来ても、いつもとやってることと変わんない感じで……」
恋人の気遣いに感謝しながらも、どうしてこんな心境になったのか考えてみる。
(なんだか急に、おいてかれたようなさみしい気持ち。いつもの自分じゃとても考えられない。
みんなも、ギロロも、すぐそばにいるのに、どうして? そういえばニュースの時に赤い風船の
出るCMを見た時も。ママに電話した時も。こんなふうに……。ううん、違う。もっとずっと前に、
同じ気持ちになったような……)
「夏美―――何か来る」
「……えっ?」
ギロロの言葉で現実に戻されるのと同時に、ガサガサという音が聞こえてくる。
音がした方向はキャンプの方とは逆のジャングルの奥。
暗闇の中に光る小さな光――――。
忍び寄ってくるそれは、ギロロと夏美にとっては、見慣れたもののような感じがした。
「夏美! 避けろ」
ギロロは咄嗟に夏美を抱きしめ後方にジャンプした。
シャキンという鋭い音とともに、夏見の立っていた場所に何かが刺さる。
密林から突き出されたのは、巨大なカニのハサミ―――?。
続いて、赤く光るモノアイを持った本体が現れる。
「こいつは……!」
「ボケガエルのガンプラ!?」
ギロロと夏美が見たもの、それは足の無いカニに似たロボット。
ジオン公国軍の宇宙用試作型モビルアーマー、ガンプラにもなったその名はヴァル・ヴァロ。
この場にケロロがいればすぐに正体を見破っただろう。
何らかの方法で浮遊しているらしく、その巨体は地面に接していない。
ヴァル・ヴァロは両手のハサミ改め、クローアームで夏美を狙ってきた。
「夏美ー! 下がってろ!」
ギロロは亜空間内の武器庫からバズーカを手元に転送、ヴァル・ヴァロに撃ち込んだ。
だが……爆煙に包まれた場所から、無傷のヴァル・ヴァロがその巨体を滑空させつつ追ってきたのだ。
ギロロは夏美の手を引いて全速力で走りだす。
ヴァル・ヴァロは進路上の木やテントを薙ぎ倒しつつ、確実に二人との距離を縮めてゆく。
焚き火を囲んでくつろいでいるケロロ達に聞こえるように、夏美は大きな声で叫んだ。
「みんな、逃げて!」
「夏美殿、さっきの爆発は……って後ろのヴァル・ヴァロはなんでありますか!?」
「軍曹さん、下がっていろですぅ」
いち早く状況を察知したタママの目の色が変わったのを見て、ギロロと夏美は咄嗟に伏せる。
「タママインパクトォーーー!!!!!」
口から放たれた必殺のエネルギー弾は、二人の頭部を通過して敵の巨体に直撃する――かに見えたが、
ヴァル・ヴァロはタママインパクトをクローで弾き、まだ伏せた状態の夏美とギロロに接近していく。
そしてクローを伸ばして夏美を捕獲、ギロロはもう片方のクローで弾き飛ばされてしまう。
「ぐぁっ、夏美〜〜!!」
「ギロロ! ちょ、ちょっとなんなの!? 放してっ!」
捕まりながらもギロロの心配をする夏美。
「僕のタママインパクトが効かないなんて……」
「姉ちゃん! 伍長!」
冬樹も駆け寄ろうとしたが、ギロロと同じくクローで弾き飛ばされる。
ヴァル・ヴァロは戦うつもりは無いのか、跳躍してケロロ達の頭上を飛び越えると、
そのまま海へと滑空してゆく―――夏美を捕まえたまま。
「夏美さん!」
「小雪殿、丸腰でなど自殺行為でござる!」
小雪に続いてドロロが猛スピードで波打ち際の敵に接近、あと一息で追いつこうとしたとき―――。
水面が盛り上がり、海中から次々と新手の敵が飛び出してきた。
「ゲロォ〜! どゆこと!?」
それを見たケロロが驚くのも無理はない。
目の前を阻む敵はいずれもケロロとなじみの深いものばかりだからだ。
ズゴックE! ハイゴッグ! ゾック!
そう、ガンプラ好きのケロロなら知らないはずがない、水陸両用モビルスーツ達がいたのだ。
いずれも見上げる巨体であり、そこから発せられる威圧感は充分だ。
その後ろでは、夏美を捕まえたヴァル・ヴァロが海へと逃走しようとしている。
「ちょっと! ヴァル・ヴァロは本来宇宙用なのに何で水に入って平気なの!?」
「こんな時にまでガンプラ考察してる場合か!」
気持ちはわかるが、場違いな発言をしているケロロにギロロが鉄拳を喰らわせて黙らせる。
「このもの達は一体? ケロロ君のガンプラにそっくりでござるが?」
「クックックッ、なんだかはわからねえけどよ……キルルを封印したのと同じエネルギー反応だぜぇ」
右目にセットされたスカウターで相手を調べたクルルがドロロの疑問に答える。
「マジ!? じゃこいつらがキルルを!? そんなのに敵うわけないじゃん!」
頭にたんこぶを作ったケロロは青褪めつつ、じりじりと後退する。
ハイゴッグが長い腕を鞭のようにしならせ、ゾックはレーザーを放ってきた。
ハイゴッグの鉤爪は小雪を狙ったが彼女はジャンプで難なく回避、
ゾックのレーザーもドロロの抜いた刀にことごとく弾かれる。
と、今度はズゴックEが頭部発射管から無数のミサイルを発射してきた。
ギロロの銃捌きによってミサイルは次々と撃ち落されてゆくが、なにしろ数が多い。
撃ち漏らしたミサイルがクローにやられて動けない冬樹と、彼を助け起こした桃華にも容赦なく迫る。
「フユキ!!」
声と同時にアリサがカチューシャを盾に変形させ二人を庇う。
ミサイルは危ういところで盾に防がれ大事には至らずに済んだ。
「このままじゃ姉ちゃんが……そうだ! 軍曹、これを使って!!」
冬樹はポケットから取り出した小さな黒色の球体をケロロに投げ渡す。
「おおっ、これはケロボール! これさえあればあんなやつら――――」
ケロボールを受け取り、構えようとした矢先、モビルスーツ達を凝視してケロロは固まってしまう。
「――――ダ、ダメであります……。いくら我輩でも、愛しのガンプラを、
モビルスーツを攻撃することなんてできな〜〜い!!」
頭で理解していても、ケロロのガンプラマニアとしての本能が、攻撃するのを許さなかったのだ。
「ええい、何をしてる! 夏美の命がかかってるんだぞ!!」
「んな事言ったって〜〜〜〈ポチッ〉あ……」
ギロロと揉み合った拍子に何のボタンを押したのか、いきなりケロボールからロケットが噴射、
ケロロは空へと勢い良く飛び上がっていく。
「ゲゲゲッ、ゲ〜ロ〜? なんか押したぁ〜。助けて〜〜〜」
「軍曹!?」
「ケロロ、ふざけてる場合か!」
一筋の噴射煙を残して急速上昇したケロロ姿はたちまち見えなくなっていった。
「あいつに頼ったのがそもそもの間違いだった……。こうなったらこいつの出番だ! 装着!!」
ギロロはどこからかケロン人形態の時、肌身離さず着けているベルトを取り出し、身に着け叫んだ。
ギロロが光に包まれた次の瞬間、ケロロがよく知っているガンプラのケンプファーがそこにいた。
ただ、オリジナルケンプファーと違う点として、赤いカラーリングに人間サイズ、武装も
二挺のショットガンの代わりにビームライフル、マシンガン、この他にシールドを装備している。
これこそ地球人化したのきっかけに、ギロロが用意した専用パワードスーツ。
パワードスーツを装備した夏美をパワード夏美と呼ぶなら、ギロロの場合はケンプファーを訳すと
「闘士」という意味合いからして、ケンプファーギロロと呼ぶのが相応しいだろう。
「ケンプファーギロロ! 出る!!!」
サブローも負けじと実体化ペンを使ってモビルスーツの絵を紙に描いて実体化させてゆく。
ズゴック! ゴッグ! アッガイ! グワブロ!
「さあ、そっちと比べて性能は劣るかもしれないけど、戦力はこっちが優勢だよ。どうする?」
戦局はこう着状態に、その隙にヴァル・ヴァロは潜水を開始、夏美をつかんだままでだ。
「きゃあ〜っ!」
夏美の悲鳴をきっかけに、ズゴックE、ハイゴッグ、ゾックもヴァル・ヴァロの後に続く。
「夏美ぃぃ!! 逃がすかあーーー!」
ギロロは海に潜ろうとするヴァル・ヴァロに向かって飛行して急接近、チェーンマインを巻きつけ、
そのまま背中にしがみついて夏美を助けようとするが、
「ゲ〜〜〜〜〜〜〜ロ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
真上から叫び声、ギロロが空を見上げると、さっき空へと消えたケロロが真っさかさまに落ちてきた。
「何!? ケロロ…………って、グギャ〜〜!」
ギロロとケロロの頭がぶつかり、打ち所が悪かったのか双方気絶してしまう。
「ギロロ! ボケガエル! 水が……ゴボゴボ……ガボッ……!」
二人の心配をする夏美の声は、彼女を捕獲しているヴァル・ヴァロが海に消えると同時に途切れる。
その背中で気絶しているケロロとギロロも一緒に海に飲み込まれてしまった。
「姉ちゃん!」
冬樹は浜辺を走って海に飛び込もうとするが、
「冬樹殿! ……泳げないのでは」
「あ…………」
ドロロのツッコミで正気に戻った時には手遅れ、既に海中では足が着いておらず溺れそうになる。
「ガボガボッ、た、助けて〜〜」
すぐさまアリサが飛んで行って救出、桃華が彼の介抱を行う。
「フユキ、しっかりしろ」
「冬樹君、大丈夫ですか?」
いつもは冬樹を巡って反目している二人だが、こういう時の息はピッタリ合っている。
謎のガンプラ達は、暗い海に溶けるように見えなくなった。
「ギロロ、夏美ちゃん……。クルル、ロードランジャーで追跡しよう!」
「オッケ〜いつでもイケルぜぇ〜」
全員顔を見合わせてうなずく。
『行こう!!』
セピア色の風景。
デパートの屋上で家族とはぐれ、迷子になっているのは5歳の夏美。
心細さをごまかすため、赤い風船を繋いだ紐をギュッとつかんでいる。
でも強い風が吹いて、うっかり手を緩めた隙に風船は宙へ。
おいてかないで……ひとりに……しないで……。
夏美は泣き顔で見上げるが、それでも風船はどんどん小さくなってゆく。
しかし次の瞬間、風船目掛けて小さな影がジャンプして―――。
夏美は、ハッと目を覚ます。
さっきのは夢だったらしい。
まだぼおっとしている頭で、隣に気絶しているケンプファー姿のギロロを起こそうとする。
「ギロロ、ギロロ、しっかりして」
「――ん……夏美、無事だったか。ところでここは?」
「わかんない。気がついたらここに」
二人とも周囲を見回してみるが、わかったことは今いる場所は深海であり、ここだけ
透明な泡のようものに包まれドーム状の空間になっており、呼吸が可能という二点だった。
普通に考えればとても逃げられないと思うが、それを可能とする手段が二人にはあった。
「夏美、パワードスーツは装着可能か?」
「ちょっと待ってね……。あった」
ギロロに聞かれた夏美は、思い出したかのように水着の上に羽織っているパーカーの
胸ポケットから変身チョーカーを取り出した。
今回キルルが封印された海域を調べるにあたり、万が一に備え、肌身離さず持っていたのだ。
まさか自分がさらわれるとは予測していなかったので、使う機会は遅れてしまったが。
パワード夏美になれば深海の水圧も平気になり、既に変身しているギロロと一緒に脱出できる。
夏美が早速チョーカーを首に着け、変身しようとした矢先、青白い光球が近づいてきた。
「「……!?」」
敵かと二人とも身構えていると、光球から女の子の声が発せられた。
「お目覚めですか、プリンセス」
「誰っ?」
「怪しいものではありません。迎えのナイトメア達が手荒なことを、申し訳ありませんでした」
声の主が迎えと断言しているナイトメアというのは、あのガンプラ達を指しているらしい。
「ふざけるな! あれは迎えじゃなくて誘拐……って夏美がプリンセスだと〜っ!?」
(夏美がお姫様? なんか、いいかも……って誰のプリンセスだ!? 俺か? 俺なのか?)
ギロロは夏美がプリンセス、というキーワードが引き金になり、妄想状態に入ってしまう。
「プリンセスって……あたし?」
「はい、プリンセス・ナツミ、私はマールと申します。」
光球はドームの中へ、膜を通り抜けるように入ってくると、その正体を現した。
幼い感じのするその子は、青く小さな身体で、優しそうな大きな目でこちらを見ている。
海底人、半漁人、宇宙人、とにかく人間でないことは確かであり、大きな頭に小さな身体はケロン人に
似ているが、手足に小さなヒレがついてついている違いから、カエルというより魚やイルカのようだ。
「ちょ、ちょっと待って、なに言ってるの? 迎えとかプリンセスとかどういうこと?」
「メール王子が、あなたをお見初めになったのです」
「へっ?」
マールは、それで必要な説明は終えたという顔つきだが、夏美にはなんのことか意味不明だった。
ちなみにギロロはまだ妄想の世界にいる。
「こらっ、マール! 王子の僕より先にプリンセスと話すなんてずるいぞ! お前は下がってろ!」
突然暗闇から別の、男の子の声が聞こえてきた。
「はっ。もうしわけありません、王子――」
まるでわがままいっぱいの幼稚園児のような命令に、マールはかしこまって引き下がる。
と、ドームの床に波紋が広がり、うずが巻き上がったと思うと、すぐに竜巻に変わった。
その中から現れたのは、イルカやサメの背びれを連想させる頭部のでっぱりが、マールよりも
長く突き出しているのが特徴の、不思議な男の子だった。
マールと同じ種族の男の子、王子と呼ばれている彼は、おごそかな雰囲気を出したいらしく、
夏美に対して優雅におじぎをしてみせる。
「ようこそプリンセス。僕の名前はメール。夏美、君は今日から僕のプリンセスになるんだ」
まるで幼稚園児の"王子様ごっこ"をしているような、気取った口調に仕草で手を差し出しているメール
の口調に、夏美はあっけにとられていた。
「…………ナツミガ、オマエノ、プリンセス? ……フザケルナアァーーーーーー!!!!!」
「ちょ、ギロロ! 相手はまだ子供みたいだし、落ち着いて!」
一方、やっと脳内妄想劇場から戻ってきた途端、今度はメールの爆弾発言に暴走状態になるギロロ。
そして夏美は今にもメールに襲い掛かりそうなギロロの暴走を止めるのに必死だ。
「へ〜〜〜ギロロっていうのか。こいつなかなか面白いな」
メールにはギロロは過保護な夏美のボディガードに見えるらしく、楽しそうにその光景を眺めている。
やっとギロロが冷静になったところで、控えていたマールが進み出る。
「メール王子は、あなたのような強くて優しいプリンセスを探していらしたのです。
ずっと、ずーっと、気の遠くなるような時の中……」
「そして、やっとナツミを見つけたってわけ。こいつが知らせてくれたんだ」
メールの手中に、カプセルの中にいた、尻尾の生えた青い胎児が表れる。
「こいつは……! こいつを通じて俺達を、夏美を監視していたのか……!」
ギロロは全ての元凶とばかりにメールとマールを睨みつけた。
メールとマールはギロロの視線を受け流しながらも、この生物はプリンセスを探すため、
世界中の海に放った探査用ナイトメアだと夏美に説明する。
他にも役割に応じて色々な種類の、形も大きさも全然違うナイトメアがおり、
あのガンプラにそっくりなのも、ナイトメアの一種らしい。
しかし夏美とギロロが聞きたいのはそんなことではなく、
「だからって、どうしてあたしがプリンセスになるのよ」
「それはもちろん、あの"ボケガエル"を一撃で倒し、二人の争いを見事に収拾した勇姿を王子は――」
「ゲロ〜」
声の方向から、長身の人間に似た体形のナイトメアが三体、ケロロを引きずって現れる。
先頭にいるクジラのような顔をしたナイトメアの手には、ケロロが海で落としたカタログがある。
「メール王子、マール様、お二人の他にこのような者を捕らえました」
背後のサメとシャチのような顔をしたナイトメアは、ケロロの両腕を左右から挟む形で拘束している。
「あ、ボケガエル……とりあえず放してあげなさい」
夏美がそう言おうとするより先に、マールが護衛用のナイトメア達に命令する。
拘束状態から解放されたケロロは、そのままバタリと倒れこんだ。
ギロロも夏美もここに来た時、ケロロの姿だけ見当たらなかったこともあり、少しホッとする。
しかし起き上がったケロロはとんでもない行動に移った。
「こ、これはこれは王子様! お初にお目にかかるであります!」
揉み手しつつ、猛スピードでペコペコとおじぎを始めたのだ。
「お二人がキルルを封印した凄いパワーの持ち主でありますか?」
キルルを倒した力を手にするため、ケロロは腰の低い姿勢で、メールとマールに接する。
「……どうする夏美? このまま強行突破して逃げるか?」
メール達の相手をケロロがしている内に、ギロロと夏美は小声でこの状況をどうするか話し合う。
「でもそうしたら、ボケガエルだけ置き去りになっちゃうし、ここは様子を見ましょ」
その間もケロロはペラペラと早口でまくし立て、なんとか彼等と手を組もうと必死だ。
「……というわけで友好の証としまして、是非とも砂浜で見かけたようなモビルスーツ、
もといガンプラを我々に提供してもらえんでありますか? もちろんそれなりの対価を……」
話題が個人的な趣味に移っているのは気のせいだろうか……?
だがその努力も次の一言で切り捨てられてしまう。
「……お前、下品だな。それにつまんない」
「ゲロ? 下品? つまんない〜?」
メールとマールとナイトメア達の冷たい視線の中、ガクッと膝を折るケロロ。
それでもあきらめず必死に食い下がろうとする。
「そりゃないっしょ? こっちは苦労してこんな海底まで来たのに、そのカタログも我輩のもの――」
「マスターナイトメア。こいつ、捨てちゃって」
最後まで聞くつもりはなく、メールは護衛ナイトメア筆頭に命令する。
「かしこまりました。というわけですので緑の頭髪のお客人、ご退場を願います」
マスターと呼ばれたクジラ型ナイトメアは部下のシャチ、サメ型ナイトメアに指示を出す。
「ケロロ、貴様らやめんか!」
ギロロが止めようとするが、メールは首を横にふり、やけに気取った態度で言った。
「だめだ! 僕が必要なのはプリンセス・ナツミ、君だけなんだ。お前達なんてお呼びじゃない」
視線をギロロから夏美に変えるメールに対して、ケロロ、ギロロ、夏美は驚きを隠せない。
「ゲロ? 夏美殿がプリンセス?」
「ち、ちがうわよ、あたしだってなにがなんだか……じゃなくてボケガエル! この事を皆に――」
夏美が言い切る前にケロロは再び拘束され、クジラ型ナイトメアによりシャボン玉に包まれる。
「ヘルプ、ヘルプミー! ギロロ〜! 夏美殿〜!」
ドームの外へ、思いっきり投げ飛ばされたケロロの姿は、すぐに見えなくなった。
「次はこいつだ」
今度はギロロにその矛先は向くが、ギロロ自身、黙ってやられるつもりはなく、
右手にビームライフル、左手にシールドを装備し、万全の戦闘態勢で身構える。
「やめて! ギロロにまで手を出したら、ただじゃ済まさないからね!」
夏美もギロロに危害が及ぶのなら黙っていない、とばかりに強く睨みつける。
夏美の剣幕にメールはしょんぼりとうつむきかけたが、すぐに何か思いついたらしく、
ごそごそとケロボールにそっくりな赤い球体を取り出す。
「わかった……。そいつは君のお気に入りみたいだし、特別に一緒にいることを許すよ。
面白そうだしね。でも大丈夫、いずれそんな男より、僕のほうをもっと好きになるから」
(あれはケロボールに似てるな。んにしてもあのガキィ〜夏美に馴れ馴れしくしやがってぇ〜〜)
未だギロロはパワードスーツで全身を覆っているから表面上は何も変わらないように見えるが、
その内面ではメールの言葉にハラワタが煮えくり返る思いでいっぱいだった。
まあ目の前で恋人を口説かれたのだからその心境は理解できなくもない。
しかし夏美の言葉を思い出して、メールをギッタギタにしたい気持ちを抑える。
「君の為に、素敵なプレゼントである町を用意してあるんだ。きっと気に入るはずだよ」
ケロボールに似た赤いボールが軽いうなりを上げると、ドームの空間がふくらみはじめ、
ものすごい勢いで海水を押しのけてゆき、波の引いた地面にはごく普通の日本の町の姿があった。
「海の底に……町?」
「な、なによ、これ!?」
「どう? このメアボールでナツミの記憶から作った町。夏美の大好きだった町さ」
ギロロと夏美があまりの出来事に呆然としている中、メールが得意そうに声を上げる。
町の中心、頂上が平たくなった小高い丘の上に夏美達は立っており、ここを中心に町は広がっていた。
「私の……大好きだった町?」
夏美は町を見回すが、奥東京市とは違うことに気付く。
でもこの町を見ると、どこか懐かしい気がして、気分がなごんでくるのだ。
(大好きじゃなくて、大好きだった町、この町は夏美の心中から創り出されたものなのか?)
ギロロはメールの言葉から、この町が意味するのがなんなのか突き止めようとする。
「あとは、プリンセスが暮らすお城が必要だ。ナツミのお城、ナツミ城が」
「ナツミ城ねえ……」
自分の望むがままにお城が作れる、ちょっと面白そう――。
そんなふうに思ってしまった夏美は、ついつい言われるがままに想像してしまう。
そうしているうちに、メールの持つメアボールが光りだす。
次に地面から水の柱が飛び出し、城の姿を形作ってゆく。
「……うそっ!?」
「城が一瞬に!?」
目の前にあっという間に城が現れたのには、夏美もギロロもあっけにとられた。
何もない丘の上に、誰も見たことのないような、巨大でファンタジーなナツミ城が。
一方そのころ―――。
クルル曹長の操る潜水艦ロードランジャーは、一行を乗せて海底目指して潜行していた。
護衛としてズゴック、ゴッグ、アッガイ、グワブロが周囲を警戒している。
「確かなのアリサちゃん? 姉ちゃんをさらったのは、キルルを倒したのと……」
「間違いない、同じ力の気配を感じた」
「クーックックックッ、浜辺で戦ったガンプラもどきとカプセルの生物の分析が完了したぜ。
こいつらは生体メカ、生物みたいなつくりをしているが、人工的に創り出されたもの、当然ながら
ペコポンのものじゃなさそうだな。ちなみにキルルが封印された時と同じエネルギー反応だったぜぇ」
冬樹の問い掛けに、アリサとクルルは共通の答えを返した。
敵の正体がキルルを倒したのと同じという確証が成り立つにつれ、艦内は重苦しい空気に包まれる。
かつてキルルと戦った時も、あれだけ苦戦させられたのに、今度はそれ以上の敵が相手なのだ。
「安心しな、エネルギー反応はしっかり追跡してるぜぇ。まあ、オッサンもいるから大丈夫だろ」
「おじ様も一緒だから大丈夫ですよ。てゆーか、一蓮托生?」
クルルに続いて、モアがにっこり笑って言い切るが、ケロロに関しては余計心配な気がする。
「しかし、一体何が目的でござろうか?」
「きっと、夏美さんがかわいいからだよ」
ドロロと小雪は夏美がさらわれた理由を考えていた。
「あ、きれいなクラゲ。おじ様、待っていてください。モアが必ず助け出しますから……」
窓の外のクラゲ達を見ていたモアは、その中にシャボン玉に包まれた人影を見つけて慌てて言い直す。
「クラゲじゃないです! てゆーか、おじ様発見!?」
この後すぐケロロは回収されたが、艦内に入る時にびしょ濡れになってしまった。
「ブェックション!!! ……死ぬかと思ったであります」
「でも、おじ様が見つかってよかったです。はい、どうぞ」
モアが深海を漂って疲れ切ったケロロのために、スターフルーツを切って差し出す。
スターフルーツを食べながらケロロは皆に愚痴と共に海底の様子を話して聞かせた。
「軍曹、姉ちゃんと伍長は一緒じゃないの!?」
冬樹は残った夏美とギロロの安否が気になって仕方がない。
「あ〜。夏美殿ね。あいつらにプリンセスなんて呼ばれていいご身分でありましたよ。
ギロロもこっちに回収されてないってことは、恐らく夏美殿とまだ一緒なんでしょ。
まったく夏美殿ばっかり下にもおかない歓待ぶりでさあ……」
ヴィー! ヴィー! ヴィー! ヴィー!
ケロロの話は突然の警報に遮られる。
「レーダー、ソナー、各種センサーに反応、敵さんこっちの接近に気づいて刺客を
送り込んできやがった。隊長、あんた尾行されてたな。ク〜ックックッ……モニターに出すぜ」
クルルの手によってモニターに映し出されたのは、ユーコン級潜水艦からザク・マリンタイプ達が
が次々と発艦して、こちらに攻撃しようとしている光景だった。
「サブロー、実体化ペンで描いたガンプラ達の出番だぜ。お前は敵機、俺は母艦をやる」
「オッケー、クルル。相手はザク・マリンタイプ、負ける気がしないよ」
今、夏美達のいる海底の真上の深海で、死闘が展開されようとしていた。
そしてこれから起こる戦いを暗闇の中、監視している影達がいた。
場所は薄暗くてよくわからないが、ケロロ達の日向家地下秘密基地の司令室のような感じだ。
巨大モニターには、ザク・マリンタイプ部隊がケロロ達に迫らんとするシーンが映し出されている。
映像を見ている影は複数、リーダー格らしい人影だけ立派な椅子に座っている。
その手元にはケロロのガンプラカタログと、メアボールよりシンプルでボタンの数が少ない、
まるでメアボールのレプリカのようなボールの存在が確認できた。
「ザク・マリンタイプ。目標ト戦闘状態ニ入リマス。シカシ……」
「ヨロシイノデスカ? ワザワザコチラノ居場所ヲ教エルヨウナモノデスガ」
椅子の背後左右に控えている影は疑問を口にするが、これに対して座っている者は、
「構わない。奴らの技術力なら何もしなくても遅かれ早かれこの場所はばれる。それに、
丁度実戦データが欲しかったところだ。カタログスペックだけでは見えない性能もあるからな」
ガンプラカタログを眺めながら、まるで全て予想済みのように返答した。
「ところで、メールとマールはどうしている?」
「"プリンセス・ナツミ"ト"ギロロ"ニ城ノ内部ヲ案内シテイマス」
「ドウシマスカ? 今ノ内ニ計画ノ邪魔ニナリソウナ"ギロロ"ダケデモ排除シテオキマスカ?」
「まだだ、まだプリンセスは我々の目的を果たしていない。……今は好きなようにせておけ。」
ケロロ達はともかく、メールやマールでさえ知らないところで、巨大な何かが動き出そうとしていた。
to be continued……