「どうかな? ドロロ」  
「…綺麗でござるよ」  
自分が目を離していた隙に、少女が人生で一番輝く季節を迎えていた。その事  
実を目の前に突きつけられ、どちらかといえば堅物のドロロ兵長は息を呑んでいた。  
異国の太陽と、焦燥にも似た小さなおののきがちりちり身を灼く。  
 
『ガラス鉢の中』  
 
 
 日光が燦々と降り注ぐ明るい吹き抜けのパティオ、中空から下がったスポッ  
トライトに、壁一面をまるまる使った大鏡。はたまた軟体のうねりを彷彿させ  
るくせに安心して体を預けられる前衛デザインのチェア。桃ジュースのグラス  
と同じく逆三角錐のテーブル。耐衝撃ガラスを隔てて海を臨む窓際に設えられ  
ている。ちょっとした喫茶室としても寛げそうなフロアだった。  
 ケロン星領となったポコペンに、いち早くケロンを中心とした各企業は進出  
した。田舎星の外貨を吸い取るべく、数多の奢侈品や「新概念」の商品を、絨  
毯爆撃のように星中に投下するつもりだろう。母星の通販中心だったアパレル  
メーカー「ケロリン」。今居るスペースが、かの服飾ブランドが宇宙規模のフ  
ァッション事情に疎い殖民地に高級前衛服飾ブランドを気取って作った支店だ  
ということをドロロはよく知っていたが、それでも大人になった東谷小雪をぐ  
っと垢抜けた印象にしてくれたことに感謝した。やはり観賞魚のひれ、花のが  
くのように、纏う主体の美しさを引き立てるべく自ら重力に逆らって変化する  
素材にはこの星でお目に掛かることは出来なかった。  
 
 しかも、今小雪が纏っている「服」の基調はケロン本星最新流行だという水  
流仕立てだ。ハウスマヌカンが明らかにケロン人であるドロロを見て奥から出  
してきた。実体のない光学迷彩が水流を思わせる渦となって女体の上を回り続  
けており、波打ち際のレースが涼しく光っている。もちろん下は透けない。  
ドロロは満足げに微笑み、昔のように娘か妹でも見るように目を細める。今は  
三着ほどの服を持ってにこやかに控えているハウスマヌカンも、強靭さを秘め  
た柳を思わせる上体の背中から腰を大胆に開き、裾は六つに分かれて軽く反り  
返らせておきながら、飽くまで品位を失っていない波打つワンピースを着こな  
す女性に目を奪われているように見える。白と対照をなしている腰まで伸びた  
黒髪、澄んだ黒い瞳。まるで可憐な白百合だ、と彼は心の中で陶酔していた。  
白い花弁に似た裾から伸びている雪色の伸びやかな脚線美を、もっとよく見た  
いと自然に思った。  
「そのままくるりと回ってみて」  
ほしいでござる…と言い終わる前に小雪は応じてくれ、その場でいとも容易く  
くるりと「宙返り」をする。一瞬の回転の間に、確かに見えてしまった。彼女  
は下着を着けていなかった。白すぎる脚の奥の、鼻につくにおいを僅かに漂わ  
せて開いた花弁が、くっきりと刻印を押されたばかりの生きた花弁が  
 
「うっ」  
先ほどまでのぬるついた情事が脳裏によみがえったのと思わぬ光景を目にした  
衝撃で、ドロロは絶句してしまった。ハウスマヌカンは何も見なかったように  
装っているが、顔がわずかにひきつっている。  
「…か、下腹部も」  
覆え、と光学迷彩を統括する人工知能に短く強く命じると、小雪がおやっとい  
う顔をした。  
水流がやっと股間をも覆ったのだろう。  
妙齢の女性なのだから、そこを真っ先に気にして欲しいでござる。  
ケロンのテクノロジーを駆使した服も善し悪しだと、汗をかいてドロロはすぐ  
会計を頼んだ。  
 小雪に買い与えた服は、服であって服ではない。  
昔の光学迷彩の一種で、波打つ水流の幻影が肉体の周りを覆っていることによ  
り、変わったワンピースなどに見えるという代物だ。超小型エアコンよって体  
表面では快適な温度が保たれるものの、実態は全裸とそう変わりがない。電池、  
または燃料が切れて幻影が消えれば、一糸まとわぬ姿が現れる。また、人工知  
能への命令によって体を覆う形状の調節が可能なため、体の一部分を突然露出  
させたりする悪戯が行われることもある。  
それを先ほどのブティックでの一幕で十二分に理解したドロロは、小雪にキャ  
ミソールと下着の着用を勧めた…。  
 

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