「ボケガエル」
春は名のみの肌寒い午後。
ソファでごろごろしつつワイドショーを見ていたケロロは、テレビと反対側に慣れた気配を感じた。
「あ、おかえりでありまちゅ、夏美殿〜!」
すっかりだらけた様子を取り繕うともせず、くるんと体を回して帰宅したばかりの夏美の方を見た。
「まだまだ寒い日が続きますな〜。今、お湯を沸かしてるでありますからチョットマッテネ」
警戒心の欠片もなく腹を出したままのカエルを見降ろして、夏美はしかし口を開かない。
いつもならば聞かれるであろう「ワイドショーなんか見てないで、掃除は済んだの!?」的な小言も出てこない。
ケロロはわずかな違和感を覚えた。
ここは常ならば「こらー!」「わーん!勘弁でありまーす!」というレクリエーションが発生する時間帯なのだが…
なのに今日に限って夏美は、ケロロの眼下にさらされた腹をじっと見入るだけだ。言葉はない。
「あ、あの…夏美殿?お茶でしたらもう少しお待ちを」
「…………」
正確には夏美が黙って注視しているのは腹ではない。その下だった。脚の付け根、とでも言えばいいのか。
「ねぇ、ボケガエル…」
ようやく夏美が声を発した。
だがそれは、常の厳しくも優しい、怒りながらもからかいや愛情を絶妙に
そして無意識に滲ませるケロロの知る夏美の声ではなかった。感情の起伏がないのである。
もちろん声紋を照合すれば明らかにそれは夏美の声なのだが、それでもしかし……
「ねえボケガエル、アンタたちってどっからオシッコするの?」
ケロロの知る夏美は、こういう質問はしない人物だったはずだ。
夏美の視線は、ケロロの脚の付け根に釘付けのままであった。
つづく